「ウールギア姉さん、起きてください。姉さんったら」
「んん……まだ真っ暗じゃない」
「エフノールの傍に居させておいた妖精から、ブロンティが反乱を起こしたと連絡がありました。早く出発しないと時間切れになります」
「それを最初に言ってちょうだいよ」
名前を呼ばれながら揺り起こされた私は、へカーティの言葉を聞いて一気に意識を覚醒させた。
それから、私は枕元に置いていたランタンに火花を生み出す魔法で火を点けると、ベッドから這い出て着替えを始める。
外はまだ真っ暗で、周囲を照らすランタンの光は少しばかり頼りなかった。
「イストスとデメテルは?」
「まだ寝ていると思いますよ」
「そう……なら私はデメテルを起こしてくるわ。へカーティはイストスを起こしてきて」
「分かりました。でもその前に、この子を連れて行ってください」
そう言って、へカーティは私の傍に魔物を召喚する。
それは、宙に浮かぶ青白い火の玉のような魔物だった。
「この子はウィルオウィスプという魔物で、見ての通り辺りを照らしてくれます。ウールギア姉さんについていくように指示しましたから、ランタンを持ち歩かなくても大丈夫ですよ」
「こんな魔物もいるのね……ありがとう、助かるわ」
ランタンよりも明るいウィルオウィスプの明かりに照らされながら、私はへカーティと分かれてデメテルの部屋に向かう。
部屋に入ると、いつも通りデメテルはぐっすり眠っていた。
まぁ、今回は時間が早すぎるので仕方のないことだ。
「デメテル、悪いけれど起きてちょうだい。……う~ん、やっぱり起きないわよね」
「起きたよ」
「……あら?」
私の予想に反して、デメテルはあっさりとベッドから起き上がった。
しかも、いつもと違って全く寝ぼけていない。
「何かあったんでしょ? 急ぎ?」
「え、ええ。ブロンティが反乱を起こしたみたいなの」
「ああ~なるほどね。分かった、すぐ着替える」
「その、なんだかいつもと様子が違うわね」
「ん~? お姉ちゃんに声かけられたらいつもすぐ起きてるよ? 甘えたいから寝ぼけたフリしてるだけ」
「ちょっと、初耳なのだけれど?」
「秘密にしてたもん。緊急事態だからもう話しちゃったけど」
そんなことを話しているうちに、デメテルは私の目の前でパッパと身支度を始めてしまう。
私が毎朝起こしに行っていたときの姿とはまるで別人だ。
ここ最近、妹たちの知らない面に驚かされ続けているような気がする。
イストスは思ったよりも抜けてるところがあるし、へカーティは想像以上にしたたかだし、デメテルは見ての通りだ。
「でも、お姉ちゃんに声をかけられないと起きないのはホント。だから、これからも起こしに来てくれる?」
「……私の声が鳴る目覚ましでも作れば起こしに行かなくても大丈夫かしら」
「ひどいっ!」
「冗談よ、そんなに好きなら付き合ってあげるわ。ほら、準備ができたのなら行きましょう」
そう言って、私は身支度を終えたデメテルと共に一階の玄関に向かう。
それから少し待っていると、私と同じくウィルオウィスプを連れたへカーティとイストスが準備を終えてやってきた。
「お待たせ、遅かったか?」
「大丈夫よイストス。私たちもさっき準備を終えたばかりだから」
「特に問題はなさそうですね。それでは、全員揃いましたし反乱が起きている場所に向かいましょうか。反乱発生地の名前は貿易都市エンポリオ、ここから南東に向かったところにある都市です」
そう話しながら、へカーティは玄関の扉を開けて外へと出る。
それに続いて私も部屋を出ると、我が家の前に四体のペガサスが鎮座していた。
その背には、以前私が作成した専用の鞍が装着されている。
「この子たちに乗って行きます。進路は私が指示を出すので、落ちないようにするだけで大丈夫です。乗り方は……覚えていますか?」
「ええ、乗って落ちないようにするぐらいはできると思うわ」
二年ほど前、戯れでペガサスに乗って空を飛ぶという遊びを、姉妹全員でしていたことがある。
その経験が生きることになるとは、予想していなかったわけではないがこんな場面だとは思わなかった。
それから、全員がペガサスに無事乗り終わったところで、へカーティが再び口を開く。
「それじゃあ出発しましょう。今は星空しか見えませんが、エンポリオに着く頃には景色を楽しめるほど明るくなっていると思います。ともかく、振り落とされないようにだけは気をつけてくださいね」
へカーティがそう言い終えると同時に、ペガサスが羽ばたき私たちは夜空へと飛び立つ。
健気なことに、ウィルオウィスプもついてきてくれたので、周囲の明かりには困らなさそうだ。
電灯に遮られていない星空を眺めながら、私たちは反乱の発生地へ急行した。