「家に戻ったら冷蔵庫が空っぽだったので、この辺りを探索しながら買い物に」
まさか事件に巻き込まれるなんて思ってみませんでしたと、安室さんはさも普通に、爽やかに言う。
だけど、今彼の腕には犯人がいる中でこうも冷静で居られるか。
犯人の持っていたナイフはすでに床に転がって、安室さんが彼からナイフを落としたのだとすぐに理解できた。
「いやぁ、犯人確保のご協力感謝する」
そんな中、私と安室さんを切り離すが如く現れた小太りのおじさん。
姿からして、部署は違えど私と同職。
そして警察が突入してきた時と同じ声からして、今回の指揮はこの人が執ったようだ。
私はそんな彼を見て、眉をひそめる。
「任務中にこんな大事件が起きるなんてこうう、んんっ。あなた方のおかげで、早期解決! 私の出世も間違いなし! いやぁ、ほんとありがとう!」
警察の癖になんて目をしているんだ。
隠しきれていない、深い欲望。
今回の事件は下手をすれば死人も出ていた。
こんな奴が、日本の表舞台を守っているのか?
今すぐこいつの胸ぐらを掴んで、その腐った根性を叩き直してやりたい。
もう一度、警察学校いや、母親の腹の中からやり直してこいっと言ってやりたい。
だけどそれは、私の身分を明かすようなもの。
これ以上目立った行動は出来ず、ただ黙ってあの男の汚い言葉を聞き流す。
その言葉の数々は、私達が命がけで守っている日本が、汚されてくように思えた。
突然強く握り絞めた拳に、優しく誰かの手が添えられた。
思わず、その相手を睨みつけてしまったが、その相手————安室さんの顔を見て、上がっていた熱が一気に冷める。
小太りの男に向ける安室さんの目が、怒りに満ちていた。
こちらには一切感情を向けられていないが、あの男に向けられた殺意がビシビシと伝わってくる。
安室さんと出会ってまだ一日足らずだが、焦りや戸惑った顔、張り付けられた笑み、探るような組織の奴らと似た目、そんな様々な安室さんを見た。
だけど、今の安室さんは今日出会った表情のどれでも無い。
「おい、聞いてい————ひぃっ」
男は自分の自慢話に花を咲かせていたが、なかなか反応が貰えなかったからか、それを訝しんでこちらを見る。
さっきまでずっと向けられていた殺気にすら気づかず、油を差したかの如くよく回った舌。
あまりいい油ではないようだけど。
流石に今の安室さんを見て、彼の怒りに気付いたようだ。
男の顔は一瞬で真っ青になって震えだした。
未だに安室さんの腕の中にいた犯人を連れ、ペコペコ頭を下げながら、すぐさまその場を離れる。
まるで、壊れたロボットのような動きを見せる男。
やはり犯人はチャンスだと思ったのか、彼の手から逃れて脱出を図った。
犯人が自分の手から離れてしまったことに男は、しまったといった顔をする。
「最後まで世話が焼ける!」
そんな安室さんの声が聞こえたと思ったら、犯人目掛けて、物凄い勢いで飛ぶ缶詰。
それは見事に犯人の頭を捉え、気絶へと誘った。
その瞬間、犯人は大勢の警察官に取り押さえられ、そのまま連行されていく。
あの殺人級缶詰を投げた当の本人を見ると、何事も無かったように涼しい顔をしていた。
もうそこには先ほどの安室さんは居なくなっている。