貴方が怪しまれる番【名探偵コナン】   作:シズキ

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10話 抉られた傷

「手、見せてください」

 

 

安室さんにそう言われて、まだ自分の拳を握り締めていたことに気づいた。

 

ゆっくり拳を開くと、ピリッと痛みが走る。

 

握った際、爪を立てていたせいか、手のひらは軽く抉れていた。

爪先には血が付着している。

 

そんな手を見て、またあの男への怒りが沸々と湧いてきた。

 

 

「これ以上はダメです。使い物にならなくなりますよ」

 

 

また思いっきり握り締めようとしたが、安室さんがそれを許さなかった。

私の右手首を掴みながら、真剣な眼差しをこちらに向けている。

 

 

「手当てをしましょう」

 

「これぐらい大丈夫ですよ」

 

「ダメです」

 

 

安室さんはそう言うと、私の腕を引っ張ってどこかへと向かう。

彼の意志は固いようで、仕方なくついていった。

 

 

「あの、ちなみにどちらへ?」

 

 

私がそう尋ねると、彼はこちらを見ずに淡々と答える。

 

 

「コトンですよ」

 

「なぜ?」

 

「貴方は自炊をしていたようですが、その手の怪我では満足に料理も出来ないでしょう。コトンで手当てをして、夕食も取ったほうがいいかと思いまして」

 

「料理ぐらい出来ますよ」

 

 

そんな大きなケガじゃないのにと呟くと、やれやれと安室さんが呆れたかのようにこちらを見る。

 

 

「希実さんは思っていた以上に頑固な人ですね」

 

「安室さんほどじゃないです。それより、コトンの場所分かるんですか?」

 

「はい。一通り把握しました」

 

 

そう言った安室さんだが、自分が何を言ったか分かっているのだろうか。

私と別れてから時間もそう経っていないのに、コトンへの道を把握しているなら、迷子になることなんて無かっただろう。

 

 

「やっぱり、安室さんは変です。怪しいです」

 

 

私がそう呟くと、彼は少し間を置いて言った。

 

 

「それは僕が一番、理解しています」

 

 

それから暫く、私たちは言葉を交わす事は無かった。

 

 

###

 

 

コトンに着いた時には辺りは薄暗く、マスターが扉に掛かっているプレートを“Closed”へとひっくり返していた。

 

丁度、店仕舞いをしていた所らしい。

そんな時に来てしまって、少し申し訳なくなる。

 

 

「あれ? お二人さん、帰ったんじゃなかったの?」

 

 

そんな最中、私達に気付いたマスターは、そっと店内に入れてくれた。

 

 

「マスター、すみません。救急箱かなにかありませんか? 希実さんがケガをしてしまって」

 

「そうなの? すぐ持ってくるよ。それまで、座ってな」

 

 

安室さんにエスコートされるがまま、カウンター席に腰を下ろす。

カウンターの奥の方へと姿を消していたマスターは、救急箱を抱え、すぐに戻ってきた。

 

 

「ほら、手を出して」

 

 

そう安室さんに言われて、しぶしぶ彼の前に手を出す。

するとグイっと手首を捕まれ、思いっきり消毒液を傷口に掛けられた。

 

 

「いっ痛い! ちょっ、なにやってるの!?」

 

 

予想外のことで彼の手を振り払おうとするが、それは叶わなかった。

涼しい顔をしているくせに、なんて握力。ゴリラか!?

 

なんて思った瞬間、さらに私の腕を掴む力が強まった気がした。

恐い。

 

 

「これぐらい我慢してください」

 

「これぐらいって、消毒液をそのまま傷口にぶっかける人がいますか! さては不器用だな!!」

 

「失礼ですね。わざとですよ」

 

「ならなお悪いです!!」

 

 

ほら動かないでと、安室さんによる治療が行われる。

マスターはカウンターに肘を突いて、相変わらず楽しそうにその様子を眺めていた。

 

他人事だと思って。

 

そう思いながら、包帯で巻かれていく両手を眺める。

やっぱり大げさすぎる手当てに、呆れざる得なかった。

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