木を隠すならなんとやら
大人しく人混みに紛れていたのに、顔面にエコバッグのような袋をぶん投げられた。
「おい、女! 携帯を集めて、こっちに寄こせ!」
「わっ私ですか?」
「そうだよ! んなことも分かんねーのかよ、ババア!!」
……よし、後で絞めとこ。まだ、私27だし。
今は怯えたふりをしながら、取り合えず犯人の言う通りにスマホや携帯の類を袋に入れる。
全員のを入れ終わったら、ずっしりと重くなった袋を彼に渡しておいた。
それで満足したのか、あっさり私は人混みの中に返される。
すると今まで大きな動きを見せなかった犯人が、突然どこかに電話を掛けた。
仲間を呼ぶのかと少し警戒していたが、そんな心配もすぐに消える。
「警察か? よく聞け、イモン**店の食品売り場で人質を捕っている。人質を解放してもらいたかったら、刑務所に収監されている仲間を解放しろ! いいな!!」
犯人の目的は仲間の解放か。
こんなことをしたって、解放されるはずがないのに。
電話を切った後の彼はどこか苛立っているようにも見えた。
あまり犯人を刺激せず、無事にことが済めばいいんだが。
平日の微妙な時間のおかげで、子どもは片手で数えれる位しかおらず、とりあえずそこは良かったなと思う。
犯人の近くに、親子連れがいるのがちょっと心配だが。
もしものために彼女らの後ろにゆっくりと近づき、待機。
そんなもしもが無ければいいのだかな。
「突撃ぃ!」
立て篭もり事件が起きて数十分。
建物内に響き渡った怒鳴り声には耳を疑った。
まだ犯人はナイフを所持しているし、こっちには人質が大勢いる。
もう少し慎重に動かなければならない状況で、現場に来た警察がやらかした。
突然の警察の乱入は、ただでさえ苛立ちを見せる犯人を逆上させるには十分すぎる。
彼は自分の身を守ろうと近くにいる女の子に手を伸ばした。
「ちっ」
恐れていたもしもが現に今、目の前で起きようとしている。
恐怖で固まった彼女の肩を掴み、私の後ろに下がらせた。
犯人も犯人で、私の突然の行動に気が動転したのか、一瞬の隙を見せる。
その隙を狙って、男性にとっての急所にめがけて思いっきり足を振り上げた。
そう、振り上げたつもりだった。
「それだけは流石に、彼に同情せざる得なくなるので勘弁してください」
「安室さん!?」
突然乱入してきたのは、警察だけではなく見覚えのある金髪。
私の蹴りが、犯人の急所を捉える前に、彼によって犯人は拘束された。
「希実さん、無事でよかったです」
安堵の笑みを浮かべている彼の突然の登場に、思わず惚ける。
「なぜ?」
さっき別れたはずの男がどうしてこの場にいるのか、どうしても理解が出来なかった。