キヴォトスで生徒とイチャイチャするだけの先生アーカイブ 作:微糖珈琲 -砂糖増増-
先生、入るぞ。
数回ノックが鳴った後に、この部屋唯一の扉が開く。
誰が入って来たのかは声を聞いただけ分かる。
「……何しに来たの」
「助けに来た、とでも言っておこうか」
外の光は遮光カーテンで完全に遮断されていて、視界からの情報はなるべく遮断している。
目を閉じる勇気は最後まで出なかった、臆病な私。
めちゃくちゃになったベッドの上で体育座りをしている私の側に、彼女は無遠慮に立った。
「……頼んでない」
「先生、いつまでそうしているつもりだ」
「ずっと」
「一緒に出るぞ」
赤い瞳と、緑色のヘイローが暗闇の中でも光っていた。どうして山海経の生徒がこんな所に来ているのか、ここは学区からは大分離れた場所にあるのだが。
いや、そんな事どうでもいいか。
もう、私は動けない。
腕を掴まれる。
キヴォトスに住む人々の力は説明も要らないだろう。
抵抗しようと腕を振り解こうとする。
が、そもそも腕に力が入らなかった。
「やめてよ……」
「やめないぞ」
ベッドから下ろされ、床を這いつくばる。
ズルズルと部屋の外へ連れ出されそうになる。
「ミナ……私の気持ちも分かってよ……」
「っ……」
消え入りそうな声で、初めて彼女の名前を口にする。
一瞬だけ狼狽えた様子を見せた、が、効果はそれまでだった。
「なら、私の気持ちを分かってくれ。先生、皆が待っている」
開いた扉が私に近付いてくる。
あぁ……嫌だ、やめて、嫌だ……
助けて、誰か、嫌、嫌嫌嫌嫌嫌……!!
目尻、目頭から大粒の涙が溢れる。
弱々しくフローリングを引っかき、情けない声を出すが、誰も助けてなんかくれない。
成すすべも無く、私は外の光に包まれた。
***
「うあーん!!ミナがイジメたー!!」
「なっ?!わ、私は部屋に引きこもって仕事をしない先生をだな……!!」
「へんっ!何が『助けに来た』だよぅ!王子様か君は!!」
うぅ…床引き摺られたからブラジャーズレちゃった。
半べそを掻きながら、私は立ち上がってワイシャツの上から下着の位置を直す。
黒いスラックスに付いたゴミをパンパンと落とした後、ミナをキッと睨む。
彼女は相変わらずタジタジだった。
「あっ、あれはだな……この前見た映画で、かっこいいと思ったシーンで……!!」
終わりに連れてモゴモゴと声が小さくなっている。
あはは……流石に虐め過ぎちゃったか。
ふにゃ、と顔を破顔させミナの頭にポンポンと手を乗せる。
「ごめんごめん、ミナ。呼びに来てくれてありがとね」
「全く……心臓に悪いからやめてくれ先生」
ニシシ、と笑ってみせると、彼女も「ふっ……」と肩の力を抜くように笑ってくれた。
「それじゃ、今日も働いちゃいますか!」
「あぁ。今日はどんな世界が我々を待っているのだろうな」
学園都市『キヴォトス』
それが、私の今居る場所の名前だ。
深い説明なんて要らない、ここには数多の奇跡と神秘。そして青春がある。
それら全てを守っていく。
……なんて、スーパーヒーローみたいな業は不可能だが、『先生』として私はこの学園都市に住む生徒達を……。
「……?どうした、先生」
「……むむ」
「ん、なんだそ……その視線は、先生、その照れる……」
生徒達を……。
「うーん!ミナ、やっぱり今日もカッコいい!」
「はふぁ?!?!」
うん、守る守るー。
そりゃもう守っちゃうよ。
生徒達の為なら先生スーパーヒーローにもなれそう。
あ、でも私女だからスーパーヒロイン?
なんか語呂悪いしスーパー先生にしておこうか。