狼になったけどキヴォトスでも好きに生きたい 作:ララン
ひとまずの行動方針を固め、建物の中を探索してみることにした。
ここら辺は無人地帯…というか廃墟のようで、殆どの建物の窓ガラスは割れ、商店らしき施設もシャッターが降ろされていたが、交通の要所なのか、付近に溜まり場でもあるのか、ガラの悪い少女が歩いているのをちらほらと見かけた。耳を澄ませば散発的に銃声が聴こえてくる。自然と彼女たちが持つゴツい銃に目がいった。コワ〜。近寄らんとこ。
俺は人影が見えた瞬間、廃車の影に、ごみバケツの中に飛び込み隠れてやり過ごした。この体は骨も関節も柔らかく、予想以上に縮まることができたのでどうにか隠密できた。
割れた窓から屋内に侵入し、使えそうな物がないか探す。
服やスマホはなかったが、床に適当に放り捨てられていた拳銃を見つけることができた。想像以上に治安が悪い。スラムというより世紀末か?
拾い上げ構えてみると、意外と軽く感じるのは、この体になって腕力が上がったからだろう。ちゃんと金属の感触のする、使い込まれた形跡のあるその銃の安全装置らしきトリガーを外し、引き金を引いたらしっかり銃声が轟き、壁に銃痕を刻んだ。弾入りですか。そうですか。
自分のいる場所の危険さを再認識し心が折れそうになるが、心の強さで立ち上がり他の建物にも順次突入した。
俺の体に合う服は見つからなかったので、唯一着れそうだったサイズのコートをそのまま着用した。実質裸コートで変態度がさらに上がった気がするが、見た目は大分マシになったのでヨシとする。
色褪せて埃まみれだった鞄に銃とその他、使えそうだったものを詰め込んで窓の外を見たら、空が大分暗くなっていた。
今俺のいる建物は3階程度の高さだったが、屋上への階段があったのでそこから屋上に登り、周りを見渡す。
遥か遠くにライトを放つビル群が見えた。
犬が歩いてるし、空には円環が浮かんでいるが、闇夜を照らす文明の灯りは俺に強烈に、ここは剣と魔法のファンタジー世界ではなく、銃と科学が幅を利かせた銃社会なのだと実感させた。
こんなバリバリの文明社会で自分のような人外に居場所はあるのか…とナーバスになったりしたが、それに関しては二足歩行の犬の住人がいる世界だ。少なくとも獣人に類する生物がいる。姿に関しては受け入れられる希望はある。
自分がこれからどうするか決めるためにはやはりこの世界の住人に直接話を聞くのが早いと思ったのだが、言葉が通じるかの不安もある。
……話しかけるとしたらあの犬人だな。できれば同じイヌ科のよしみでよくしてもらえると嬉しいが。
いきなり発砲されることはないと信じたいが…。この地区の銃と空薬莢のドロップ率的にもあのかわいいワンコが丸腰で歩いていると思うのは楽観的だろうか。
今の自分は撃たれても治療を受けられる保証は無いので、銃撃戦は避けたい。
身体能力なら流石にあの小さな犬人に負けないと思うので、撃たれそうになったらダッシュで逃げるつもりで話しかけに行った。
ここはブラックマーケット。キヴォトスにおいても一際治安が悪く、合法非合法問わず、あらゆる品が取引されるある種の治外法権。
学園都市であるキヴォトスにおいて、退学になった元生徒が流れつく場所でもある。
その一角、傭兵集団が縄張りにしているエリアにその犬人はいた。彼はブラックマーケットで活動する元生徒を相手に武器、弾薬、火薬類などを扱うセールスをしていた。
大通りから離れたエリアでは消耗品などの需要が存在するため、それらの販売をシノギにする者達がいた。彼もその一人である。
この一帯を仕切る者にみかじめ料を払っていれば、1つの傭兵グループ相手に自由にシノギが行えるため、少なくない金銭を払っていても採算は採れていた。
逆に言えば、それ以外の者はここに入り込めば縄張りに入り込んだ外敵として排除されることになる。
「ドーモ。ちょっとお話伺っていいですか?」
故に、その存在は彼の目に異様に映った。
「自分この辺の土地勘無くて、よければ道とか教えてもらいたいんですけど…あの、言葉通じてます?」
身長は2mに迫るほどの、キヴォトスでも珍しい高身長。ヘイローこそ無いが、頭部にはなぜかヘルメット団が着けているヘルメットを被っていた。黒色のコートから覗く手足からは鋭い鉤爪が見えている。
キヴォトスの住人である彼から見ても見ても危険人物であった。長年ブラックマーケットで売人をやっていた彼の本能と理性が警鐘を鳴らしていた。
しかし、彼もここでビビるような根性でブラックマーケットで売人をやってはいない。
内心の混乱と警戒を押し隠して返答した。
「あんた…見ない顔だな。ここはブラックマーケットの中でも武装集団が縄張りにしてる地帯だぞ?どうやって入ってきたんだ?」
数少ない同業者の顔は覚えているし、ここの傭兵集団の取引相手なら事前にアポイントを取って傭兵グループの誰かしらが付いている。
別グループの斥候か?ならばなぜ自分に話しかけた?まさか本当に迷子なのか?
「いやー迷ったというか流れ着いたというか…というか武装集団? あの、ここにいるのって危険だったりします?」
「まあ、余所者は排除されるだろうな」
既にこの不審人物に気付いた数名の生徒が物陰から銃を構え、こちらを伺っている。
「どうもありがとうございました、俺はこれで!」
その男は生徒とは反対側の方へ逃げ出した。
「おいっ待て!」
直ぐに生徒が駆け寄って来たが、不審人物は凄まじい速さで曲がり角へと消えて行った。
「はっや!?」
「もういなくなってる!」
ヘイロー持ちの生徒が追い付けないほどの速度で走り去った男が気になり、犬人も生徒達の背から恐る恐る去った方角を見渡したが、その男の姿はどこにも見えなくなっていた。
その後、不審人物の捜索と警戒がグループによって敷かれ、それなりの人員が割かれたが捜索に当たったが、ついにその男が見つかることはなかった。