数日後、冬木市……ではなく。
福岡県福岡市博多区、キャナルシティ博多。8年前に開業した九州最大級の複合施設だ。
つまり、令呪によってギルガメッシュたちから逃げ延びたアレセイアとシールダーは、この数日で完全に冬木市を抜け出していた。
まず、大前提として。
アレセイアは聖杯戦争エンジョイ勢だが、序盤から絡むには存在規模が大きすぎる。ルート固定もされていない序盤から
また、そうした理由を抜きにした「聖杯戦争の定石」としても、序盤の潰し合いを静観するのは間違いではなかった。
そしてアイアスの側も、「願いを知るために現代の娯楽をいろいろと体験する」という方針を持っていた。
歪んだ英雄願望なのだろう、というのはわかっていたので。英雄を知るためヒーローものの映画をたくさん観た。「承認される」ことが目的なのかと思い、贅沢な料理を食べ、ホストクラブにも行った。いっそ怪物になれば何かが変わるかと思い、無辜の民を殺した。
それはそれでとても楽しい時間だった。それでも、「人生の未練」というにはどうしても不安定だ。
だからこそ。こんな空虚で言語化もできない願いのために、友人を死地に連れて行くのはどうしても、「英雄的でない」気がしたのだ。
「なあ、アレセイア」
「なんだいアイア……シールダー」
「君の場合、そもそも聖杯戦争に参加する気はなかったんだろ?じゃあ、今みたいに逃げる、って選択肢はあるんじゃないか?」
アイアスという女は、歪んだ英雄だった。怪物となり果てた友人を見て、「討つ」ではなく、英雄たちから「逃げる」ことを勧めた。
自分はこの聖杯戦争で、願いを見つけて聖杯を得て、願いを叶えたい。汚染された聖杯ゆえに、アレセイアがいなければ叶わない。それでも、自分の利益のために友達を死地に置きたくはなかった。
「ないね。僕の望む『未来』を得るためには、『
「ん?でも
だが、それは見誤りだ。
アレセイアという死徒が、聖杯戦争を面白半分で観戦に来て、
「そうだよ。『
「じゃあ」
「でも、聖杯は要るんだ」
そして、それだけではない。この聖杯戦争において、アレセイアは「どうしても欲しいもの」がある。
「つまり、欲しいのは『大聖杯』。もっと言えば、『聖杯戦争』が欲しいんだ。」
願いを叶える小聖杯でなく、聖杯戦争の召喚システムを持つ大聖杯。
欲しいのは結果ではなく過程なのだ。
「2004年の
そしてそれは、ただ「多くの聖杯戦争が見たい」という理由に留まらない。『原作を知りたい』という、世界の内側の存在には全く理解不能の思考回路。
「
TYPEMOON作品はそれぞれが厳密には別の時間軸、前提条件を持つ。「望んだ未来」に到達するためには過去を弄らねばならない。そしてそのキーとなるのが「亜種聖杯戦争」の実現、劣化した聖杯戦争の大量生産だ。
「だから。大聖杯の術式を抽出して、『胡蝶幽明』で解析、亜種聖杯戦争として拡散する!!それが、この聖杯戦争における僕の目的だ」
故に、アレセイアは聖杯戦争に参加する必要はなかった。中身の入った
そして。聖杯の劣化コピーは始まりの御三家ほどの神域たちでなくとも、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアやフランチェスカ・プレラーティ、ヴォルフガング・ファウストゥスなど、只の天才個人で実現可能な程度のものだ。神代の錬金術師にできない道理はない。
「んー、つまり英雄たちが集まる
「そりゃ一応は神の曾孫だからね」
「まあ、私だって神の曾孫になるんだけどさ。あー、いや、昔から君の『眼』は神のそれに似ていたっけ」
神の視点は、通常の生物のそれとは異なる。
現在の事実のみを観測するのが人間だ。
そして神は「過去も現在も未来も」「事実も可能性も不可能すらも」等価に観測している。
それはアレセイア、ひいては『読者』の視点と近い。
「まあ、それとは別に
冬木から離れているとはいえ、吸血蝶を飛ばし、他のマスターの動向はきちんと
アレセイアは既に死徒二十七祖で、マスターだ。これが他のマスターに絡んでしまうと、即座に「ヤバい敵」扱いされてしまう。
話の流れがそう変わってしまえば、先を読むのが難しくなるし、何より本意ではない。
ここまでの
衛宮士郎という少年が学校でランサーに心臓を潰され、遠坂凛により蘇生される。
その日の夜、衛宮士郎はセイバーを召喚し、ランサーと戦う。
教会には虫除けの宝具か何かが張られていたので憶測だが、おそらくはそこで言峰神父に聖杯戦争の話を聞く。
その帰り道、バーサーカーを連れた少女イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに士郎たちは襲撃される。
ここまでがだいたい全ルート共通だ。
そして翌日、士郎たちの通う穂群原学園でライダーが吸血を行い、その夜にマスター権奪取のため士郎がキャスターに連れ去られた。そして、それが起きたのがちょうど今だ。
「ん?? ちょっと待て、これ不味くないか?」
この話の流れからして、おそらくこの聖杯戦争は「
そして、「衛宮士郎がキャスターに攫われる」ルートの場合、アサシンの佐々木小次郎がキャスターに反旗を翻して助けてくれる、はずだ。
しかしこの聖杯戦争にアサシンは居ない。シールダーがアサシン枠を奪ったためだろう。蝶を柳洞寺に飛ばして確認済みだ。
(この場合、どうなる?アサシンによるセイバーの足止めがされないから士郎は生き残る?いや、「アーチャーの目的」を考えれば、おそらくはそうではない。計画的に士郎を殺す気なんだから、「アサシンの乱心」という不確定要素がなければ士郎は死ぬ!!
そして。この聖杯戦争において、
そういうのが見たいわけではないし、
「急ぐよ、シールダー」
アレセイアとシールダーは夜を跳ねる。
その速度は、アキレウスの二十分の一にも満たないだろう。
ただし、逆に言えば、マッハ3で持久走をできるギリシャ最速の大英雄の1/20、一息で50m近くを移動し、時速に直すと180㎞/h近い神速であることを意味する。
それでも。福岡市から冬木市までは、直線距離でも1時間近くかかる。
故に、一手遅い。
アレセイアは、衛宮士郎の命に間に合わなかった。
柳洞寺に辿り着くのは、衛宮士郎の命が絶たれる数秒後となったはずだ。
だが、アレセイアより上。
「
「了解しました、マスター」
箒に乗って飛行していた魔女が、天より堕ちる。魔女の膏薬によって意識を飛ばし、「トーコトラベル」によって無理やり飛んできたのだ。
「え」
青い光の数々が天より堕ち、アーチャーは跳び退く。
それはキャスターにとって想定外であり、アーチャーにとって想定外であり、アレセイアにとってすらも想定の外にいた。
「嘘だろ、
8騎目のサーヴァントだった。
アレセイア・クリキュラステラという「転生者」は、原作を識っている。
そして、自分が引き起こした行動によって、原作からズレることも承知している。
だけど、これは違う。自分が引き起こしたものではない、明確な異常。
「ほう、私の真名を」
(即座にランチャーの真名がバレた!?それだけじゃなく私の名前まで!?そういう「能力」……おそらくは魔眼か何か!?)
そして、綾香もまたその状況に動揺した。
聖杯戦争において、サーヴァントの真名は弱点に直結する。ゆえにクラスで呼び、真名は徹底的に秘匿するのが鉄則。それが、一瞬でバレた。
(でも、「アルジュナ」はバレても大丈夫なタイプの真名だから。これが「カルナ」だったら詰んでたかもしれない)
これがカルナであれば「致命的な時に戦車が脱輪する」をはじめとしたさまざまな呪いや頼みごとを断れないその人格など、逸話上の致命的な弱点を多く有していたであろう。
そうでなくとも、英霊は逸話上の「死因」「敗因」に弱く、ユディシュティラであれば賭け事、ドゥリーヨダナであれば下半身への攻撃など、真名から突き得る弱点はごまんと存在するものだ。
ただし、真名が弱点に直結しない、そもそも「弱点がない」英霊も存在する。
アルジュナはその一人だ。なんせ、「戦争において敗北した」逸話がなく、死因さえもヒマラヤ登山中の行き倒れだ。突き得る弱点がない。
そして。
「宝具を使って!人を殺さなければ建物は巻き込んで良し!」
真名がバレるかどうかなど関係ない。そもそも、ランチャーのメイン武装は宝具なのだから。
「では。
青白いレーザービーム。一発一発が低級の宝具に匹敵しながらも、驚愕すべきはこれが「出力を絞られた通常攻撃」であるということ。
その対象は、街に危害を加えたキャスター、おそらくキャスターに与しているアーチャー、そして街に危害を加えること間違いなしの死徒と、そのサーヴァント。
「「
サーヴァント、シールダーであるアイアスは、即座にその盾を展開する。
奇しくも、アーチャーもまた同じ宝具を。
だが、キャスターはどうか?
「ふざけないで!!」
キャスター、真名を裏切りの魔女メディア。彼女もまた、魔術により背後に魔法陣を展開、短距離転移によって回避を行いながら、正面に魔力防壁を展開しながら、大量のビームを放つ。
恐るべきは神代の魔女。ひとつひとつが現代の魔術では遠く及ばず、もはや魔法一歩手前の至宝。それを攻撃・防御・回避の3つも同時に展開する。
だが、それでも敵わない。そもそもキャスターは戦闘の逸話のないお姫様だ。それが、一つの叙事詩の頂点、射撃で鳴らした英霊に、射撃で敵うはずがない。
単純なビームの火力であれば、神代の工房で強化されたメディアの魔術も、威力を絞られた
だが、精度が違う。戦闘経験が違う。
「私だって、幸せになりたかっただけなのに!!」
彼女にとってはたまったものではない。キャスターという非常に不利なクラスで、生き延びるために霊脈を通じて町の人々の生命力を奪っていただけ。
邪悪なクズであった元のマスターを殺し、這う這うの体で逃げ延び出会った葛木宗一郎という純朴な教師と添い遂げるため受肉をしたいだけ。
それが、これほどまで力の差がある英雄に、完膚なきまでに叩き潰される。
……それは、単にメディアとアルジュナの英霊としての差だけではない。現在のマスターである葛木が魔術師でないがゆえに、メディアというキャスターは想像以上に衰えていた。
「ふざけないではこっちの台詞!!私の街を壊さないでほしい!!」
そして逆に、アルジュナは生前以上に絶好調であった。良きマスターに恵まれ、善き行動として街を守る。
綾香の凡庸な魔術回路では魔力供給こそある程度の制限があるものの、心は全力で戦えていた。
なによりも、覚悟が違ったのだ。
サーヴァント、キャスター:メディア。敗退。
原作のあらゆるルートを超えるほどの、あまりにも呆気ない最期であった。
柳洞寺の長い階段を。衛宮士郎を救うため。
セイバーは、雨のように降る青い光を縫って走る。
衛宮士郎は、正義の味方だ。
そして、言峰綺礼と遠坂凛より、この男が人類の敵であると聞いていた。警鐘を鳴らす肌感覚も、その話が嘘や奸計でないことを知らせる。
無謀であっても、衛宮士郎は正義の敵に立ち向かう。
キャスターに与し衛宮士郎を殺す機会を窺っていたアーチャーは、その標的を衛宮士郎から
そしてランチャーとそのマスターは。
「で、この段階でキャスターが敗退すると……あれ?致命的にルートを外れてないか?このルートだと結構後までボスをやるはずだったわけだし……いや、アルジュナの存在時点でズレてるのはそうなんだけど……」
「ズレてるのはあなたの方。この街には私の友達がたくさん住んでるんだ。出て行ってもらうよ、この世から!!」
本来のUBWルートだとキャスターが後々までボスを張ります。大河を人質に取ってセイバーのマスター権を奪取したり……
が、この時点であっさり敗北(戦闘に不向きなうえマスターなしで弱体化していたところに戦闘向きのやる気満々大英雄がやってきたらそらあ死ぬ)。この時点で「UBWルート」を大きく逸脱します。
……保ってくれ俺のプロット!!!!