ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する。

 本日天気晴朗ナレドモ波高シ。さて、試験から3日が経った。相変わらずバカンスをエンジョイしている我々。強いて言うなら施設が混んできたのがちょっと嫌だな、くらい。今までロック以外はクラスメートだけだったもんなあ……。独占できてた頃が懐かしい。

 

 あ、あとは部屋に澪が帰ってきたのが大きい変化かな。お疲れ様っす! ま、基本ひよりんが部屋で本読んでるから邪魔しないように外に出てるから、ルームメイトでも別行動が多いんだけどね。西野(にしの)さんもわりと一人でいるタイプだし。

 

 今日の予定は午後からクラスの女子たちと桔梗ちゃんと遊ぶくらい。気の強い子の多いCクラス女子とも仲良くできる桔梗ちゃんまじパないっすわ。

 

 しっかし試験もなくゆるやかな夏休み。もう試験終わりなのかね。金田君は例年の傾向から見てまだあるっぽいって眼鏡クイッとさせてたけど、私としてはこのままのんびりしたいんだよなー。

 

 さて。この豪華客船は地上5階地下4階の全9階層、あと屋上がある。1階はラウンジや宴会用のフロア、屋上にはプール、カフェなど。3階から5階が客室で、3階は男子用、4階は我ら女子のエリア。地下1階から地下3階には映画や舞台なんかの娯楽施設が、最下層の地下4階には配電盤室などがあるそうな。行ってないからよく知らんけど。24時間利用可能なラウンジとかは、深夜だろうと出入りOKだけど推奨はされてない。そりゃそうか。ま、ともかく一人でも十分楽しめるのだ、この船は。

 

 映画をゆったりと見ていると、キーンと言う高い音がそこらから響いた。マナーモードでも鳴っちゃうこれは学校からの指示とか行事の変更など重要伝達事項があった際に送られてくるメールの受信音。つっても鳴るのははじめてだ。

 

 そして映画が止まり、船内アナウンスも入る。

 

『全生徒へのお知らせです。先ほど皆さんにメールを送信いたしました。非常に重要な内容ですので、各自携帯端末を必ず確認した上で、その指示に従ってください。また、メールが届いていない等のトラブルがあれば近くの教員へ声をかけるようお願いします。繰り返します───』

 

 映画館が明るくなったし、仕方ないので端末を開いて確認する。ふむふむ。

 

【本日、特別試験説明を行います。各自指定の部屋・時刻に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。所要時間は20分ほどを予定していますので、集合前にお手洗いなどは済ませ、端末はマナーモードか電源をオフにしておくようお願いします。あなたは、本日18時までに2階206号室へお越しください。】

 

 いや映画を観る時のルールかよ。じゃなくてえっと、2階か。何があるかよくわからぬ場所だけど、こういう時に使うとこだったのね。

 

 そう思ってたら端末に新たな連絡が。えっとなになに。

 

【文面送れ】

 

 相変わらずだなあたっつーは。仕方なくスクショして送ってやる。

 

 それから少し経ち。今度は金田君がチャットで発言した。

 

【どうやらクラス全員が17:00から20:40まで20分刻みで12回に分けて、2階204、205、206、207号室に毎回ランダムで呼び出されているようです】

 

 おお。情報がはやい。いやあ、こういうとこいいよね、独裁政権て。にしても12、12ねえ。うーん、何か意味あんのかね。

 

 映画館の他の人にもメールが届いてたことからしてたぶん他クラスも一緒だろう。例えば私が18時に206に行くときは204、205、207にはABDクラスの人が入ってる感じなのかな? 

 

 

 映画も見終わり。約束通り櫛田さんたちと遊んでいると、やっぱりメールの話になった。でもきちんと彼女は曖昧に濁して情報を隠していた。まあそうなるよね。他クラスだもん。それでも場の空気を悪くしないコミュ力に感服していると、やがてみんなから引っ張りだこの彼女はわざわざこちらの方にやって来てくれた。耳元でこそっと囁かれる。

 

 後で2人で話せないかな、と可愛らしく首を傾げる彼女に、私はもちろんと返した、のだけど…………いざみんな解散した後に聞いたその内容は、色々と想定外だった。

 

「ククリちゃん、龍園くんと仲良いよね? ちょっと彼と会ってお話してみたくて……難しいかな」

 

「桔梗ちゃん、ダメだよあんな人と話したら。セクハラされちゃうよ」

 

「だ、大丈夫だから。私、みんなと仲良くなるのが目標で……それで。ただ、Cクラスでも龍園くんと仲の良い人で頼れる人って、ククリちゃんくらいしか思いつかなくて。ごめんね、こんな変なことを頼んじゃって」

 

 うぐぐ……そう言われると弱い。貴方だけなの!っていい言葉よな。

 

「わかった……けど。あんま期待しないでね」

 

 ポチポチと文章を打つ。

 

【Dクラス櫛田桔梗より会いたしとのこと。受ける?】

 

【いいぜ。お前らの部屋を貸せ】

 

 返信はやかった。下心でもあるのだろうか、それともたまたまか。

 

「いいって。私の部屋で会う、だって」

 

「よかった〜。じゃあ、案内してくれるかなっ」

 

「ラジャー!」

 

 ピシッとポーズを決めた私に、桔梗ちゃんは天使のような可愛らしい笑顔を浮かべた。

 

 部屋ではひよりんがいつも通り読書している。どうやらたっつーはまだ来ていないらしい。

 

「私とひよりんはこのままいても大丈夫?」

 

「うーん、ごめんね、2人で話してみたいなーって思ってるんだ」

 

「危険じゃない……?」

 

「大丈夫だよ。私、もっと怖い人とお話したこともあるからね」

 

 どんな人と話したんだろうか、桔梗ちゃんは。でも部屋には特に盗られても困るものもないし、貴重品も金庫に入ってるから、彼女だけにしようと問題はないだろう。

 

「じゃあひよりん、たまにはお外行こっか」

 

「幼児扱いですか……?」

 

「気の所為だよ」

 

 うん、気の所為気の所為。もしくはよく本の貸し借りのために図書室へ私を言葉巧みにパシる腹いせだ。

 

 ポテポテと2人でお外に出ると、廊下でたっつーが偉っそうに歩いてた。このヤンキーボーイめ。なんて太々(ふてぶて)しいんだ。メンチを切られたので切り返す。

 

「お前ら、追い出されたのか?」

 

「うん」

 

 お前のせいでな。たぶんだけど。

 

「何をお話しするかわかっているんですか?」

 

 問うひよりんに、たっつーはあっさりと答えた。

 

「さあな……告白辺りかもしれねえな」

 

「自意識過剰すぎだろ」

 

「嫉妬か?」

 

 いや、ないわー。ないわー。私は楽しみつつ楽に生きたいのだ。たっつーを見ているのは楽しいけど一緒にいるのは楽じゃない。

 

「仕方ないからボイスレコーダー貸してあげるよ。セクハラで訴えられないように使いなよ?」

 

「……おまえ。前に持ってたのと違うな、これ」

 

「親切な人がくれたんだよ、家電をいっぱい。カメラとかこういうボイスレコーダーとかもね」

 

 親切な人だった。

 

 そう、あれは逆転裁判(裁判外で逆転された)の1日目。私は証言者の佐倉さんが事件日特別棟にいた証拠として差し出した写真を見て思った。なるほど、これはストーカーも現れる美貌だな、と。しかも(しずく)とか言ってたから調べたらグラビアアイドルだった。そこそこ有名な。

 

 実は佐倉さんを私は以前にも家電量販店で見かけてたのだ。その時の彼女はなんかちょっとテンションがキモい感じの男性店員にしつこく迫られてて、何であの子に、と疑問に思ってたんだけど。グラビアアイドルのファンだったのかと納得できたよ。

 

 そして裁判中に私は思ったのだ。この証拠写真、あの男性店員に高値で売れそうって。だって好きな子の貴重な写真(非売品)やぞ? てなわけで私は証拠写真を端末のカメラで撮ったのだ。そして印刷したそれを手にしながら、裁判の1日目が終わるなり男性店員へと言った。この写真をやる代わりになんか寄越せや、と。ポイントでも良かったけど、ポイントだと足が付きかねないんだよね……教師がポイント変動を監視してる節があるし。

 

 写真の代価には売れ残った家電いっぱいもらったわけですよ。いやまあ、生徒相手だから家電てそんな売れないし、かと言って型落ち品を売るわけにもいかないからね。意外とそういう処分品、多いらしい。横流しだぜやったね。風のうわさではあの店員はあの後スタコラサッサと辞めていったんだとか。よかったよ先に写真売っといて。佐倉さんにはちょっぴり悪いことしたけど、裁判の後にハンカチあげたし許してくれ。

 

「……前に裁判を録音したものはあるか?」

 

「うん、あるけど。どうして?」

 

「いいからそっちを寄越せ────よし、データは消してねえな」

 

 ボイスレコーダー奪われた。ひどい。

 

「これは俺がいただく。何個もあるなら問題ねえだろ」

 

 お前のものは俺のものって言う感じのジャイアニズムかよ。このヤンキーめ、か弱い女子からカツアゲしよって。ま、いっか。後で取り返せば。

 

 そのまま奴はドアを乱暴に開けて入っていった。やめろし。うちらの部屋なんやぞそこは。丁寧に扱えや。

 

 

 そのままひよりんと図書室へ行って読書してると、端末が振動した。誰からかな、と見ると金田君だった。Cクラスのグルチャへの投稿だ。あ、もう17時半か。本読んでると結構時間経ってたな。

 

【特別試験について要点を簡単にお伝えします。各自は教師による説明の際、差異がないかを確認した上で、同チームの人物の名前は確実に覚えてください】

 

 おお、17時開始の人は説明終わってたのね。つくづく仕事がはやいなあ金田君は。

 

【今回の試験では1年生全員が干支(十二支)の名がついた12のグループに分けられる。グループは各クラス3人から5人ずつを集めて作られるもの。同時刻同チームの人がクラスごと別の部屋で説明を受ける。1番最初に呼び出しを受けた17時開始組は子グループという名だったため説明の順番は十二支の通りと予想される】

 

 ふむふむ。17:00から20:40まで20分刻みで呼び出しだから、17:00が子で17:20が丑、17:40が寅で……18:00の私は卯! 兎さんかあ。

 

【特別試験の各グループにおける結果は4通り。その結果や試験のルールを書いたプリントを渡されるので要暗記、後で報告を。ただしこちらより配属されるグループのメンバーリストの暗記を優先すること】

 

 え、暗記とかやだなー。めんどっ。ま、でもこうして情報共有してるだけ楽か、うちのクラスは。

 

【試験は端的に言うと明日午前8時の一斉メールで選ばれた『優待者』を探す、あるいは隠すもの。優待者は各グループに1人だけ存在する】

 

 優待者ってネーミングが謎い。株主優待くらいでしか使わないよ、優待って言葉。

 

【よって龍園氏より明日8時、Cクラス全員端末を持って地下3階カラオケルームに全員集合との指示です】

 

 おー、しちめんどくさいのう。むむむ、それにしてもたっつーの奴はなしてカラオケがそんなに好きなのかしら。どうせ歌わないのに。監視カメラがなくて盗聴の心配も少ないから? 

 

「どう思う、ひよりん?」

 

「暗記は得意なので、やりやすいですね」

 

 あら羨ましい……ではなく。

 

「何故カラオケに朝、おねむな私たちを集めるのかな」

 

「それは優待者かどうかメールを見て確認するためでしょう。本校のシステムからして12グループ中、優待者の割合は各クラス3名ずつに決まっていますから」

 

「なるほど、Cにも絶対3名いるってわけか」

 

 3人かける4クラスで12人の優待者。あくまでも平等な試験ってことね。

 

「何で十二支の順番でのグループごと、クラス別での説明なんだろ?」

 

「それは……わかりませんね。情報が足りません」

 

 情報が足りればわかるって辺りひよりんは強いなあ。

 

「とりま説明聞くっきゃないか」

 

「そうですね。丁度頃合いでは?」

 

 時計を見ると17時50分。集合は18時だからそのとおりですな。

 

「お、マジだ。遅刻駄目だし、さっさと行くね。ありがと、ひよりん」

 

「いえ。頑張ってください」

 

 手を振って見送られ。私はエレベーターに向かった。

 

 着いたのは18時になる5分前。2階フロアに足を踏み入れるとカピバラ麻呂がいた。やあやあ、おひさ。

 

「京楽も18時に?」

 

「うん。あとククリでいいよー」

 

 ククリ、ククリ……と確認のように呟くその姿はだいぶ愛らしいものだ。もしかして下の名前で人を呼ぶこと、あんまないのかな。カピバラ麻呂も綾小路以外で呼ばれてるとこ見てない気がする、そういえば。

 

「ククリはどの部屋なんだ?」

 

「私は206。麻呂君は?」

 

「オレは204号室だ」

 

「そっかあ……じゃ、また後でよろしくね」

 

「? ああ」

 

 およ。Dクラスは情報共有遅いな。同じ時間の呼び出しってことは同じグループなのにさ。

 

 それともカピバラ麻呂が友達少ないからとか? そういう理由もありそうね。

 

 コンコンコンとドアを優しくノックするとすぐに返事があった。

 

「入っていいですよ」

 

 部屋には澪と真鍋(まなべ)さん、(やぶ)さん、山下(やました)さんがいた。真鍋さんたちはさっき桔梗ちゃんとかと遊んだ時も一緒だったんだよね。よく会うなあ今日は。しかしこのグループ女子ばっかですね。

 

 先生は男性だけど。坂上先生、いつもお世話になっております。

 

「ごめんね、一番遅くなっちゃって」

 

 4人に一応謝ると、大丈夫って感じで返された。みんな早く来たのは遅刻するとたっつーが怖いからかな……。

 

「揃いましたね。では少し早いですが説明を始めましょう」

 

 坂上先生はそう言うと、ハガキサイズの紙を渡してきた。そこにはグループ名と合計15名の名前が記載されてる。

 

「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分けてそのグループ内での試験を行います。貴方たちの配属されるグループは『()』。グループは1つのクラスで構成されることはなく、各クラスから3人から5人ほどを集めて作られ、これがそのメンバーのリストです。退室時に返却してもらいますので、この場で覚えてください」

 

 紙には4クラス分の名前がずらり。あ、でも知ってる名前もあるしまだ覚えやすいかも。

 

「この紙は私と澪で覚えよっか」

 

「1人で覚えちゃ駄目なの?」

 

「忘れたらまずいじゃん」

 

 いいよね、と真鍋さんたちに聞くと首を勢いよく縦に振ってくれた。ありがとう。じゃ、覚えるか。澪と紙を2人で持って覗きこむ。

 

【卯(兎)

 Aクラス…竹本茂 町田浩二 森重卓郎

 Bクラス…一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太

 Cクラス…伊吹澪 京楽菊理  

     真鍋志保 藪菜々美 山下沙希

 Dクラス…綾小路清隆 軽井沢恵  

     外村秀雄 幸村輝彦】

 

 うーん、頭文字で行こう。た、ま、も、い、は、べ、あ、か、そ、ゆ。た、ま、も、い、は、べ、あ、か、そ、ゆ。よしよし。

 

 しっかしフルネームで覚えんのきっつ。あー、頑張ろー。

 

「そして今この時間……まあ少し早いですが、別の部屋でも同じように『貴方たちと同じグループとなる』メンバーに対して同時に説明が行われているわけですね。さて、試験の目的は考え抜く力、シンキング能力を問うものとなっています。考え抜く力とは即ち現状を分析し、課題を明らかにする力。問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。創像力を働かせ、新しい価値を生み出す力。そういったものが問われる形になります」

 

 私にはないものだね。よーし、たっつー頑張れ。応援してる。私は暗記で手一杯。

 

「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視してみてください。そうすることが試験をクリアするための近道です。いいですね、AからDのクラスの垣根を無視してください」

 

 強調された。重要らしいなこれ。仲良くしろってことかな。

 

「今から貴方たちはCクラスとしてではなく、兎グループとして行動をすることになり、そして試験の合否の結果はグループごとに設定されています」

 

 ……ならば。ウサ耳をつけるべきでは? いや、つけよう! 確か貸出の衣装にあったはずだし。全員女子だからね。やるっきゃねえ。

 

「特別試験の各グループにおける結果は4通りのみ。例外は存在しません。その結果を記したプリントも用意してありますが、これに関しても申し訳ないことに持ち出しや撮影などは禁止です」

 

 ひどいだなも。暗記したくないっすよ。んー、しゃーない。

 

「真鍋さん、藪さん、山下さん。こっちはできる限りでいいらしいから、頑張って覚えて欲しいな」

 

「う、うん……」

 

 面倒事は他人に押し付けよう。ま、この紙自体、端がヨレて少しくしゃくしゃになっているから恐らく前に呼ばれた生徒たちと同じ紙。となるとルールはどこも共通だから大丈夫っしょ。

 

 えっとなになに。

 

【夏季グループ別特別試験説明】

 本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。

 

 ✦試験開始当日午前8時に一斉メールを送り、『優待者』に選ばれた者にはこの際その事実を伝える。

 ✦ 試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

 ✦1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

 ✦ 話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

 ✦試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。

 ✦ 解答は自分の端末を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

 ✦『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。

 ✦ 自身が配属されたグループ以外への解答は全て無効とする。

 ✦最終日の午後11時、試験結果の詳細を全生徒へメールにて伝える。

 

 

 なるほど。これが基本ルールね。そしてさらに細かくルールの説明や禁止事項などについても記載がある。

 

 なんと『退学』となってしまうのは「他人の端末を盗んだり、脅すなどの脅迫行為で優待者に関する情報を確認すること」、「勝手に他人の端末を使って答えをメールするなどの行為」、「学校から送られてくるメールの複製、削除、転送、改変などの行為」とか。もちろん脅されたとウソをついたケースも同様に退学の可能性が明示されてるし。さらに怪しい行為が発覚した場合、徹底した調査が行われると明言されている。怖い。

 

 で、次、試験の結果。

 

 ● 結果1:グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解であった場合、当該グループ全員にプライベートポイントを50万支給する。このとき、優待者の所属するクラスの生徒もそれぞれ同様のポイントを得る。また、優待者へのみさらに追加でプライベートポイントを50万付与する。

 

 ● 結果2:優待者及びその所属するクラスの生徒を除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

 

 グループには必ず1人だけ優待者がいることを先生は強調する。しかしこれだけだとその優待者が得になりすぎるな。そう思ってたらやっぱそこは考慮されてるらしく、人狼ゲームの説明をした後に坂上先生は紙を裏返すようおっしゃった。

 

 

 以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また試験終了後30分間も同じく解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えた際にはペナルティが発生する。

 

 ● 結果3:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスがクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者には50万プライベートポイントを支給する。また、優待者を見抜かれたクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。この時点で当該グループの試験は終了となる。なお、優待者と同じクラスの生徒が正解した場合に限り答えを無効とし試験は続行となる。

 

 ● 結果4:優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者が50万プライベートポイントを得ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた者が出た時点で当該グループの試験は終了となる。なお、優待者と同じクラスの生徒が不正解した場合に限り答えを無効とし受け付けない。

 

 

 んー、要はこうね。試験終了日つまり4日後の午後9時30分までは優待者以外の者が優待者の名前をメールで送れる。早いもの勝ちだけど、間違えればペナルティが発生。それで試験が終わってなければ、その後30分間、午後9時30分~午後10時までの間に同じく優待者が誰かメールで送れる。こっちは早いもの勝ちじゃないし不正解ペナルティなし。ただし優待者が絶対に最低でも50万プライベートポイントをゲットする。以上!

 

「今回学校側は匿名性についても考慮しており、試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表します。つまり優待者や解答者の名前は公表せず、さらに望めばポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行することや分割して受け取ることも可能ですので、本人が黙っていれば試験後に発覚する恐れもありません。もちろん普通に受け取っても構いませんよ」

 

 ほほう。いいな、仮ID。なんかかっこいい。

 

「諸君は明日から、午後1時と午後8時に指示された部屋に向かってください。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートがかけられているのですぐにわかるでしょう。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行わなければいけません。部屋に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていないので、トイレ等は済ませていってくださいね。万が一我慢できなかったり体調不良の場合にはすぐに担任、つまり私に連絡して申し出るようお願いします」

 

 自己紹介かあ。よし、語尾にピョン☆ってつけるキャラ付けで行こうかしら。そのほうが楽しそうだもんね!

 

「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整しています。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに(かかわ)らず変更の要望などは一切受け付けません。ご了承ください」

 

 つまりグダグダ文句いうなってことっすか。うん、わかりました〜。

 

「質問などはありますか?」

 

 はい、と手を挙げる。どうぞと指されたので起立してみた。

 

「何で干支(えと)なんですか?」

 

「それはお答えしかねます」

 

 なんでじゃい! ひどいよ。んーと、じゃあ。

 

「確認ですけどこの、最終試験終了後は他クラスとの話し合いは禁止、破れば退学ってのは4日後の午後9時から1時間だけですよね?」

 

「ええ。最終回以外ではグループで集まった後に1時間が経過したら部屋に残って話を続けるのも退室するのも自由です」

 

「わかりました! ありがとうございます」

 

 これが禁止されてるのは、あくまでも試験時間中に他クラスとの話し合いは終わらせろってことかな。うーん、厳しっ。

 

 ……いや、待てよ。このルールだと皆が裏切りを警戒せずに協力して結果1に持ち込める可能性を下げられるのか。

 

 最終日の午後9時半~10時の30分間で、優待者たちのクラスを除く3クラスのメンバー全員が正しい名前を送信できればクリア、そのグループは結果1になる。簡単な話、この午後9時半まで生徒たちの端末を金庫に入れるなりすれば当然メールもできない。そして時間になったら端末を返却すればいいだけだ。

 

 しかし、最終日の午後9時から1時間、他クラスとの接触が禁じられるとなると話は変わってくる。結果1にするにも午後9時半以降に正確な優待者の名前を書いたメールを送る必要がある以上、この午後9時までには端末を各クラスが自分たちの手元に置いておかなければならないし、優待者名も共有しておかないと駄目だ。後から渡したり、教えたりすると退学になってしまうのだから。

 

 でも午後9時~9時半の間は誰でも裏切りが可能。さて、端末も優待者名も各クラスが握っている状態で果たしてお互いを信じられるだろうか、と。そうなっちゃうんだね。見事な協力封じだ。たっつー曰く仲良しクラブを作ってる一之瀬さんや葛城君も、流石にこの状況では他クラスと共闘しようとは考えなさそう。

 

 えー、むずいなこの試験。みんな平和に結果1って出来たら楽なのになあ。でもそれだとつまんないか。

 

 あ、あと他にも気になった文言があるんだよね。

 

「その、『学校から送られてくるメールの複製、削除、転送、改変などの行為』を禁じているのはこの試験の間のみってことですけど、具体的にいつからいつまでですか?」

 

「明朝8時配信のメールが届いてから、最終日の午後11時配信のメールが届くまでです」

 

「つまり、今日受け取ったメールは消しちゃったりしてもOKだと」

 

「……ええ。そうなりますね」

 

 ふむ。ま、重要なのは明日の優待者メールなわけだしね。別にさっきの説明会メールはどうなってもいいんだろう。それに、ないでしょうけど説明を受ける前に誤って消去しちゃってる生徒がもしいたら可哀想ってのもあるのかも。

 

 

「特に気になる点などないようでしたら、どうぞ退室してください」

 

 その言葉に私たちは一礼してから廊下へと出た。

 

 全員、端末を操作する。たっつーへの情報共有だ。ルール確認はクラスのグルチャでやるけど名簿は個チャなんだよね。両方ともグルチャでやるとメッセージが多くなって通知がうるさくなりすぎるからだろう。それと、グルチャのほうは主に金田君が確認してくれて、名簿は一応たっつーが見る感じだもんね。まあどうせ全員分の名簿は後で金田君がまとめてから皆に教えてくれるはずだ。えーっと。た、ま、も、い、は、べ、あ、か、そ、ゆ。と。

 

【兎さんグループ

 Aクラス竹本茂 町田浩二 森重卓郎

 Bクラス一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太

 Cクラス伊吹澪 京楽菊理 真鍋志保

    藪菜々美 山下沙希

 Dクラス綾小路清隆 軽井沢恵

    外村秀雄 幸村輝彦】

 

 澪と協力してなんとか覚えてた名前を打ち込む。返信は直ぐだった。

 

【ご苦労】

 

 うん、なんかムカつく。

 

 あ、で。それから新たな事実が判明した。一つ目は先生たちが204が真嶋先生、205が星之宮先生、206が坂上先生、207が茶柱先生とABCDのクラス順にいたということ。まあみんな部屋はランダムだったしこれはそんな重要なことじゃないと思う。

 

 そして二つ目。子丑寅卯の次は辰なのに、我々の次の18:20開始組は巳グループだった。その後も午未申酉戌亥と続いて、最後のたっつーたち20:40開始グループが辰だった模様。竜だけ空想上の生き物だからここだけ特別扱いなのかな? 謎じゃ。

 

 

 

 

 

(中国など他国だとイノシシではなくブタであり、また、ネコが入っている国もある)

 

干支(えと)の意味ってなんだろうな。ひよりんはどう思う?」

 

「そうですね。干支、と言うと元々は十干(じっかん)(じゅう)()()、その60の組み合わせを指す語句ですけれど。十干は省かれることも多いですし、ひとまず十二支という意味だと考えていいと思います」

 

十干(じっかん)? 聞き覚えのない単語……」

 

(こう)(おつ)(へい)(てい)()()(こう)(しん)(じん)()、ですね。かつて学校の成績で甲乙丙丁と順序をつけていたのもこれが由来です」

 

「あー。壬申の乱、戊辰戦争、辛亥革命なんかもその類いか」

 

「はい、干支は年月日時や方位なども表すのですが……流石にそれは関係ないんでしょうか」

 

「時刻だと丑三(うしみ)(どき)、あとは藁人形で呪う丑の時参りとかかな」

 

「ええ、()の刻は23時から1時、丑の刻は1時から3時までといった感じで2時間ごとに十二支を順番に当てはめたのです。さらにそれぞれの刻を4等分するので、丑三つ時だと2時から2時半ですね。真夜中です」

 

「方角だと北が()、東が()、南が(うま)、西が(とり)とかだっけ」

 

「その通りです。子午(しご)線と呼ぶのも南北の方向を結ぶからで、東西を結ぶ卯酉(ぼうゆう)線もあるのだと聞いたことがあります」

 

「うむ。明石の日本標準時子午(しご)線とかだよね。うーん、よくわかんないなあ、干支、干支で暗号……?」

 

 

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