ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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音楽とは、世界がその歌詞であるような旋律である。

「ふんふふふん、ふんふふふん、ふんふふふん、ふんふふふん」

 

 鼻歌を歌っていると、みんなから変な顔で見られた。悲しい。いいじゃん、せっかくカラオケルームにいるんだし。

 

 辰グループは以下の通りだったらしい。

 

 

 Aクラス…葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス…安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 Cクラス…小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 Dクラス…櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音

 

 

 うん、すごいメンツ。Bクラスの神崎(かんざき)君はたしかクラスでナンバー2的な立ち位置のクールでミステリアスな美男子だし、各クラス代表的な人がいると見てほぼ間違いないだろう。でも龍園(りゅうえん)(かける)、神崎隆二(りゅうじ)と来てるんだし、Dクラスは西村(にしむら)竜子(りゅうこ)ちゃんも入れてあげればよかったのに。

 

 さて、時刻は午前7時55分。カラオケルームにみな集まるも、肝心のたっつーとあと澪と数人はまだ来ていなかった。何故に。

 

 5分経ち、8時ちょうど。時報の如くピッタリと着信音が大量に響いた。とともにカラオケルームに新たな人が。たっつーと澪……以外でまだ来てなかったクラスメイトたちだ。

 

【厳正なる調整の結果、あなたは優待者として選出されませんでした。以降、本情報の取り扱いはあなたの意志に一任されます。試験開始は本日午後1時より、また、本試験は本日より3日間行われます。2階の部屋の扉にあるプレートの中から自分のグループの名前が書かれたものを見つけ、その部屋に集まってください。】

 

 厳正なる調整? 普通そこは抽選とかでしょ。ま、そんな変わんないか。自分のグループの名前ってことは、兎グループの私は兎部屋に行けばいいってことだね。何かメルヘンチックなお部屋っぽい名前だなあ。

 

 ちぇ、優待者じゃなかったか、と思っていると滑り込みでこの部屋に来た男子の1人が私の方にやって来た。

 

「龍園さんから伝言です。全員分端末の確認を行って欲しい、と」

 

「は?」

 

 仕事押し付けやがってあの野郎。誰がやるかよそんなめんどい嫌われ仕事。

 

「……実行すれば1万ポイント給付とのことです」

 

「よしやるか。頑張るぞー」

 

 そんな美味しいバイト、やるっきゃねえっすわ。

 

「じゃあみんな、ごめんだけど端末ちらっと見せてね。学校からのメールだけで大丈夫だから」

 

 不満の声は上がらない。無人島試験でうちのクラスは50しかクラスポイントを増やすことはできなかったけど、船に帰ってきた時のたっつーの様子はそれはもう原始人ちっくな、服も汚れきってヒゲも伸ばしっぱなしの悲しい様子だった。あの様子を見てしまっては豪華客船でのんびりくつろいでた我々に文句を言う資格などないよね。ってなわけでCの王様の求心力は落ちていないのだ。ま、従わなければ何をされるのやらって恐怖もあるでしょうけどな。実際金田君は言った、「龍園氏より『この俺に嘘をつけば学校にいられなくしてやる』とのことです」と。

 

 Aクラス生徒全員がたっつーに毎月2万プライベートポイントを譲渡する契約結んでるぜってのも伝えとけばいいのにね。着服する気なのかな。奴の考えてることはようわからん。

 

 ささっと整列してもらい、次々にメールを見ていく。他人の端末を脅迫したりして閲覧するのは禁止だが、私たちがやってるのは自主的なものだしそもそもこの行為自体、他者に漏らしては駄目と言っておけば問題ない。クラスのリーダーが優待者を把握出来ているかというのもわりと重要な情報の一つだ。

 

 働く私の横には金田君。こちらは無償奉仕らしい。偉いね。しっかしたっつーもすっかり金田君を重用してるよな。人のことなんて駒とか下僕としか思ってなさそうなのに。あれか、人間いつしか成長するってやつかな? それとも他クラスとやり合うには自分一人では無理だと冷静に考えたんだろうか。

 

 後は────

 

「いいよー、みんなOK。朝からありがとう、お疲れ様ー」

 

「解散の前に一言だけ。自身が優待者であろうとなかろうとそれを他者に察せられること、そして僕たちが自クラスの優待者を把握したことを悟られるのはNGです。クラスメイトに対してであっても優待者であることは隠しておくように。もし、今確認した我々2人以外に知られるなどという事態に陥れば……龍園氏はどう思うか。承知しているでしょうけれども、念を押しておきます」

 

 金田君こわっ。丁寧口調なのに言うことは言うのね。優待者3人、頑張れよ。応援してるぞー。

 

「あれ、金田君。作戦とかはいいの?」

 

「一応昨夜から考えてはいましたが……このメールを含め改めて検討しますので。13時の話し合いの前にはまた告知します」

 

「そっか、ありがとう。じゃあみんなあんま気負わず頑張ろっか! 大丈夫、こうして情報のはやいうちのクラスが他よりもリードしてるからね。今回の試験もなんとか龍園君がやってくれるよきっと!」

 

 今あいつ、いないけどね。どこで何やってんだろ。まさかまた桔梗ちゃんと密会でも……? いや、流石にそれは。いや、あるのかな? わからぬ。

 

 皆あっさりと消えていき、カラオケルームにはひよりんと金田君と山田君と私だけになる。広い部屋が閑散としたなあ。

 

 やがてたっつーと澪が入ってくる。お帰り? それはちょっとおかしいか。

 

 たっつーに優待者が誰だったか聞かれたので報告する。金田君に合ってるか問うたっつーは私を信用してるんだかしてないんだかわからん。一応、今のところ裏切る気はないぞよ。なぜなら豪華客船生活がとっても楽しいから。ぶっちゃけ試験より船でゴロゴロしてたい。

 

「クク、いい顔だろ」

 

 そう言ってたっつーは端末を見せてくる。リンリンの仏頂面な写真。無断撮影だろう。待ち受け画面にでもするのかしら。うん、控えめに言ってキモい。

 

「リンリンとこ行ってたの?」

 

「ああ。おい、金田。これを聞いておけ」

 

 そう言ってたっつーは彼にボイスレコーダーを差し出す。すごく偉そうに。おい、私のなんだぞそれは。ひでえや。

 

 たぶん会話をずっと録音してたんだろうな。嫌なやっちゃなあ。そんなんだから友達が出来ないんだよ。

 

「堀北鈴音のマークは継続。新たに綾小路も見張る。どうもあいつはきなくせえ。ただの金魚の(ふん)と見ていたが……」

 

 人を汚物扱いするなや。カピバラ麻呂が可哀想だろ。

 

「綾小路くん、ですか……?」

 

「ああ。この試験のメールが来た時に鈴音が真っ先に情報共有する相手。裁判の録音を聞く限りでは鈴音の言動はあいつに誘導されていた。加えて石崎たちの前に一之瀬と共に現れ脅しをかけて訴えを取り下げにさせ。極めつけは京楽の見たあいつの運動神経。実力を偽っているだけで鈴音と組んでるヤツの可能性がある」

 

「カピバラ麻呂がねえ」

 

「その頓痴気(とんちき)な呼び方はやめろ、京楽。誰を指すのかわかりづれえ……まあいい。ともかく同じグループである以上、綾小路とついでに一之瀬も見張っとけ」

 

 たっつーがまともなこと言った……驚愕。雪でも降りそう。

 

「りょーかい。でもそういえばキャロルからの接触とかはないの、今回は」

 

「…………坂柳派からの接触はない。無人島ではAのリーダー情報を渡してきたが、今回の優待者はどうなるかは不明だ。葛城派の人間だけが優待者という可能性、坂柳派でも坂柳不在をいいことに優待者であることを隠す奴がいる可能性もなくはねえ」

 

 まあクラスに3人だけだもんなあ。厳正なる調整済らしいけど、どんな基準かわからんし。一応Aでは坂柳派のが優勢っぽくなったみたいけど、確かにリーダー不在なら自身の利益を優先してポイントをゲットすべく隠しちゃう人もいるかもね。

 

「あのさ、なんで坂柳がキャロル?」

 

「おやおや澪さんやい。不思議の国のアリスの作者をご存知でない? ルイス・キャロルさんなのじゃよ。あと、『旧支配者のキャロル』とか似合うじゃあないの、あの子」

 

 とっても冒涜的なワンダーランドにいそうなラスボスちっくな子だよね、キャロル。理事長の娘だそうだし。って、あ、そうか。SシステムのSって坂柳のSだったのかも。今度聞いてみようかな。

 

 たっつーがため息を吐く。どうした、そんな顔して。

 

「ん、忘れてた。ポイントちょうだいな」

 

「誰がやるか、あんな単調な仕事で」

 

 おのれ……騙したな……! 

 

「わかったわかった。ほらよ」

 

 そう言ってたっつーは【1万ポイント】と書いた紙を渡してくる。お前、今日び小学生でもこんなのやらないだろ。ぜんっぜん面白くないぞ。山田君、座布団一枚持っていってーって英語で何と言うんだろうか。わからぬ。それに座布団ないもんな、ここ。ソファだし。まあいいか日本語で。

 

「山田君、たっつーへ制裁パンチをお願いします。私に代わって」

 

「Sorry……」

 

 断られた。くすん。しゃーねー、まあ今回たっつーはバカンスを楽しませてくれてるから許してやろう。ただし次はない。

 

「その山田クンってのも違和感あるんだけど」

 

 え? そうかな。逆になんでみんなアルベルト呼びなのさ。いくら彼がアフリカ系の血が濃さそうな外見だからって山田君って呼んじゃだめなことはないでしょ。

 

「そいつこそお得意の変なニックネームでもつけたらどうだ」

 

 変じゃないですー。心のままに呼んでるだけですー。

 

 んー、アルベルト。確かニックネームはアルかバーティあたりだったよね。

 

「じゃあ、バーティって呼んでもいいかな?」

 

「Of course!」

 

 笑顔でサムズアップされる。澪は「そこはまともなんだ……」とぼそっと言った。そこはってなんぞ。いつもまともぞ。

 

 なのにみんなウンウンって感じですごく頷いてた。何故に。

 

「今回の試験……どういった方針をとるご予定なのですか?」

 

「お前はこの試験をどう考える?」

 

 ひよりんの質問に質問で返すなや。

 

「……嘘つきを見抜き優待者を推測するか。優待者の割り振りの法則を見抜くか。その2つでしょう」

 

「クラスの連中に期待なんざしてねぇ。法則を暴く、その一択だ」

 

「でも法則なんてあるの?」

 

「ないわけがねえだろ。忘れたか? これはシンキング能力を問う試験。心理戦じゃねえんだよ」

 

 ほほう。なるほど。考え抜く力とは〜って何か先生もたくさん喋ってたもんね。

 

 だとすると試験ではクラスの優待者情報を分析して、彼らが厳正なる調整を受けた理由を明らかにし、頑張って考えて優待者の法則という新しい価値を生み出す、のかな。頑張れ、応援してるぞ! 

 

 いやあ、気が楽になったわ。腹の探り合いしなくていいとか。あ、でもうちのクラスの優待者が誰か知っちゃったからそこは黙っておこう。めんどくさい。私はただ船でくつろいで目一杯バカンスを堪能して、時間になったらみんなとおしゃべりするだけ。うん、いいね! 

 

「ねーねー、結果1と3ってどっちがお得なの?」

 

「一概には言えませんな。全グループ結果1とするとプライベートポイントが50万を37人、100万を3人。合計で2150万ポイントをCクラスは得られます。一方、結果3ではCクラスが優待者である3グループを除いて考えるとクラスポイントが50を9グループなので450クラスポイント。正解者は50万ポイントを9人なので450万ポイント。ひと月のみのプライベートポイントに換算して合計しますとCクラスが得るのは630万ポイントですね」

 

「え、千万以上差があるじゃん」

 

 結果3はCが優待者の3グループの結果がどうなるかにも左右されるけど、どのみちプライベートポイントにかなりの差があるのは変わりない。

 

「それでも結果1では他クラスも同額のポイントを得ることになり、結果3では他クラスはマイナス150クラスポイントということになります。それにクラスポイントは毎月のプライベートポイントとなりますから、クラス間の差をつけるという意味では結果3の方が優れていると言っていいでしょう」

 

 あ、そっか。クラスポイントは毎月の私たちのポイントになるんだよね。忘れてた。えっと、じゃあ450クラスポイントだと4万5千ポイント毎月もらえるのか。え、すごい。まあクラスポイントが減らなければだけど。

 

「ありがとう金田君。それだとどっちでもなんかいい感じだねー」

 

 うん、どっちがいいかなんぞわからぬ。

 

 たっつーをちらっと見るも奴も考えているようだった。おう、頑張れよ。

 

 

 

 12時30分。はやいが兎さん部屋に向かう。端末を見ると通知が入っていた。

 

【自身が優待者あるいは優待者でないと分かるような言動は慎め、ただしある程度グループ内での交流はすること。初回の自己紹介の内容は記憶しておけ、とのことです】

 

 あー、自己紹介ね。確かに今更だしちょっと不自然っちゃあ不自然だよね。だからかな? 

 

 グループで交流するってことは結果1も視野に入れてるのね。結果1では他クラスもみんな優待者を正解する、つまり私たちが優待者情報を教えたとして信用してもらわにゃならんからのう。

 

「一番乗りだと静かだねえ」

 

 室内にはフルーツバスケットする時みたいにぐるりと丸く椅子が並んでいる。中央にはデデンと大きなテーブル。部屋の端のほうにはコーナーソファもあった。とりあえず奥側の椅子に座ると、隣りにはもちろん澪が着席してくれる。ふ、上座(かみざ)だぜ。

 

「なんでそんな変なカチューシャつけてんの?」

 

「え、そりゃあ。兎さんだからだよ」

 

 白いウサ耳。うん、わかりやすいね。黒髪に映えるし。他グループにも犬耳とか提案したけど却下された。確かにドラゴンとかイノシシとか耳に困るのはあるけどさ……。

 

 次に来たのは一之瀬さんたち。ちょっとびっくりした感じのリアクション。しかし気を取り直してニコニコと声をかけてくれた。

 

「ククリちゃん……それ、可愛いね!」

 

 せやろせやろ。一之瀬さんもつけます? 色違いもあるぜ。澪もつける? 嫌か、そうか。

 

 一之瀬さんにも遠慮された。絶対に似合いそうなのに。Bクラス男子2人だってそう思うやろ? ……駄目だ、顔をそらされた。うぶな奴らめ。

 

 そんで真鍋さんたちが入って来て、澪を挟んで横側に座った。すまんな、私の隣りには一之瀬さんが座ってくれたのじゃ。一応という感じでウサ耳を褒められる。つけるのは固辞された。ふーんだ、いいもんね。

 

 その次はAクラス男子3人。黙って入ってちょっと驚いてでも無言で着席した。リアクションがないと滑ったようで悲しい。坂柳派の森重(もりしげ)君は少しだけ何か言いたそうに口を開きかけたけど、キュッと唇を堅く結んだ。お世辞でも言ってくれればいいのに。照れ屋さんめ。

 

 そして明るく長めの髪をシュシュでポニテにしてる少女、Dクラスの軽井沢さんは一人でのご入室。まあDクラスは他が男子だしな。こちらもウサ耳にはノーコメント。というか私より澪のことを気にしてたような。あれ、無人島でなんかあったのかな? 

 

 ま、どうでもいいか。ともかく彼女は輪から少し距離を置いていた。D女子の代表格である彼女はこういう時仕切りそうなタイプだからちょっと意外かも。

 

 Dクラスの勢力図としては、男子は平田君の一強。女子は軽井沢さんのグループ、篠原(しのはら)さんのグループ、桔梗ちゃんのグループの3つ(たぶんこれらのグループ外にリンリンと佐倉さんがいる)といった感じになっているらしい。軽井沢さんと篠原さんの仲は悪くなく、桔梗ちゃんも中立的なみんなの人気者なのでそんなにギスギスはしていないとのこと。少なくとも表面上は。発言力で考えるとちょっとわがまま気味な軽井沢さんが女王っぽく君臨しているそうだ。そんな彼女の様子としてはやや異様に思わなくもない。

 

 さて、最後に来たのはDクラス男子。まだ13時前だから遅刻ではない。金田君とちょっとキャラ被りしそうな知的眼鏡君、ヲタクっぽい人、カピバラ麻呂の3人組だ。ヲタクっぽい人は私のウサ耳にだいぶ喜んでいた。すまんが求めてたのはそんなもえ~的な反応ではないのだよ。

 

 全員座ると、程なくして試験開始の時刻を迎え。船内スピーカーの音が響いた。

 

『これより、1回目のグループディスカッションの時間となります』

 

 ────沈黙。

 

 簡潔な放送の後はみんなだんまりを決め込んでいた。そんな雰囲気の中、やはり立ち上がったのは彼女。一之瀬さんだ。

 

「はいちゅうもーく。とりあえず学校側から指示も出てたし、自己紹介を始めてみない?」

 

「今さ──」

「いいと思う! ありがとう一之瀬さん。じゃ、私から紹介させてもらってもいい?」

 

 なんかAクラスの男子が話しかけてたけどタイミング被ったな。すまん、許せ。

 

「うん、もちろん」

 

 一之瀬さんにご了承いただいたので立ち上がると。ウサ耳がピョコンと揺れた……気がする。

 

「私はCクラスの京楽菊理です。ぜひ下の名前で呼んでください。趣味はハンドグリップをゆっくり握って開くこと、部活には入ってません──短い間だけど、よろしくだピョン☆」

 

「うんうん。よろしくね、ククリちゃん!」

 

 一之瀬さんの後にみんなまばらな拍手を。ちょっぴり場を温められた気はする、うむ! 

 

 クラスごとに座ってるから自然にクラス順に話す感じになったけど、驚いたのは軽井沢さんの自己紹介。恵って書いてけいって読むらしい。まじか。昨日はめぐみって覚えてたわ。だってみんな彼女のこと軽井沢さんって呼んでるんだもん。よーし、今度から彼女はK(ケー)ちゃんと呼ぶことにしよう。イニシャルK・Kだし。まあ『精神的に向上心のない者はばかだ』って言うより言われそうな子だけどね。

 

 カピバラ麻呂はやる気のない感じの自己紹介だった。そういや一応見張っとかなきゃ駄目なんだよね、一之瀬さんともども。しゃあない。澪、2人で頑張ろうか。

 

 最後に一之瀬さんが自己紹介を終えると、全体に向けて話しかけた。

 

「よし、みんな協力してくれてありがとね。さてと、これからの話し合いはどうしよっか。良ければ私が進行役をしようと思うんだけど、反対の人がいれば今ここで言ってもらえるかな?」

 

 大丈夫だよ〜。バシバシやっちゃってください。オナシャス! 

 

「特に他にやりたい人もいないみたいだし、このまま進めるね。そうだなぁ、まず今回の試験について分からない部分とかがあったら皆で共有すべき、かな。ちっちゃなことでもいいからどんどん声に出していこう! というわけで、何かある人〜?」

 

「はーい」

 

「お、じゃあククリちゃん」

 

 私はすっくと立って皆の目を見る。

 

「優待者、名乗りあげてはくれない?」

 

 驚き。戸惑い。動揺はしててもそれが優待者故なのか。うーん、駄目だ。さっぱりわからん。

 

「何を馬鹿なことを。バカ正直に名乗るわけ無いだろ」

 

 町田(まちだ)君(私がさっき発言を遮ってしまった髪型がツーブロックの生徒)がしゃべる。どうやらAクラス男子3人の中での代表的なのはこの人らしい。ちょっと意外。

 

「うん、でもこれで私たちの行動は絞られた。優待者を探すか、探さないかの2つにね」

 

「なにそれ。人狼ゲームみたく優待者を見つけ出すのがこの試験じゃないわけ?」

 

「いや、違う。そうだな……軽井沢。この試験には4つの結果しかないと説明を受けたのはまだ記憶に新しいだろ。そこで、考えてみてほしい。この試験で絶対に避けたい結末は何だと思う」

 

「えーっと……優待者の正体を見破った人が裏切ること?」

 

「そう、その通りだ。裏切り者を生み出すことそのものが敗北と言ってもいい。そいつが正解したか失敗だったかに拘らず、クラスポイントのペナルティを受けるクラスが出てしまう。では逆に、それ以外の場合はどうだ」

 

 今度は私の方を見てきた。

 

「プライベートポイントが増えるだけ。生徒側には利点しかない、って言いたいのかな」

 

「ああ。残りの2つの結果ではクラスポイントに変化はない。しかも多額のプライベートポイントが付与される。損をするのは学校サイドのみということだ。であれば、優待者はむしろ探すべきではない。話し合ってしまえばその分、お互い疑心暗鬼になるリスクが高まる。もし誰かが過ちを犯してしまえば取り返しがつかないだろう?」

 

「要は、結果2をAクラスは推奨するというわけか」

 

「そうだ。余計な話し合いをせず試験を終えることこそが勝利への近道。それが葛城さんの提唱するやり方だ」

 

 あー、全員未回答で終わらせると。うん、堅実ね。基本にガッチガチに忠実って感じ。それでいて単純明快だ。

 

 納得の雰囲気の中、Bクラスの浜口(はまぐち)君はこれに異を唱えた。

 

「ひとつ、疑問が。優待者の配分については考慮しましたか? もし極端に(かたよ)っていて、どこかのクラスだけに優待者が固められている場合。50万プライベートポイント×優待者の人数分、数百万ものポイントをそのクラスだけが獲得することになってしまいます。たとえクラスポイントには影響がなくとも、プライベートポイントの差がつくのは望ましくないでしょう」

 

 およ。Bクラス、わかってないのか。もしや意外と一枚岩でない? ううん、自主性を重んじるが故に情報の差が生まれてんのかな。それともわかってて演技してるか。案の定、町田君が浜口君への反論を開始する。

 

「全クラスの公平性。これは前の無人島試験でも保たれていた、学校側がしきりに強調する点だ。『グループに優待者が一人だけ』いるのは事実だが、同時に『全てのクラスに均等に優待者がいる』こともまた間違いない。故にプライベートポイントの格差は生じず、どのクラスも平等に150万を得られるはず。つまり分配すれば一人当たり3万7500円を手に出来るんだ」

 

 うん、そうだね。ただ、結果2にはデメリットもある。優待者がポイントを着服する可能性。それにクラス間でポイントの差が生まれないという点も良い事ばかりではない。

 

 あと、町田君は上手く誤魔化しているが、結局のところ学校側の負担として結果2,3,4はほぼ変わらない。優待者あるいは裏切り者への50万プライベートポイントの配布だけで、クラスポイントはプラス50のクラスとマイナス50のクラスとが出るので学年の総クラスポイント数の変動はないのだ。

 

 ま、でも下手に間違えて自分たちのクラスポイントが減り敵クラスのそれを増やすリスクもないというのはメリットっちゃあメリットか。優待者を逃げ切らせれば、どのクラスもプライベートポイントを楽々ゲットできるというのもすごく魅力的に聞こえるだろう。

 

「理解はしたんだけどさ、町田君。とりあえずAクラスは試験中は何も話さない、優待者を探さない。方針転換するつもりはない。それでOK?」

 

「ああ。既にAクラスの方針は今話した方向で固まっている。如何(いか)なる理由があっても話し合いには応じない」

 

「了解。じゃあ後はさ、私たちBCDクラスがそれに従うか、それとも優待者を探すか。話し合った上でクラスに持ち帰って各クラスで方針を決める。初回だしそれでいいんじゃない?」

 

 何かめっちゃ仕切ってしまった。すまぬ。だってグダグダすんのめんどいじゃん。

 

「そうだね! となればきちんと全員の意見を聞かせてもらいたいな」

 

 一之瀬さんがそう話し出すと、Aクラスの3人は立ち上がって部屋の隅に移動した。すみっコぐらしだ。コーナーソファに座って端末をいじってる。もう話し合いには参加しないっぽいね。

 

「では。僕らは一之瀬さんの決めた方針に従います」

 

 Bクラス2名はリーダーに委任と。美しい信頼関係っすね。

 

「私たちもククリさんにお任せします」

 

 真鍋さんたち3人の従順っぷりはたっつーへの恐怖心からかな? 何故に私まで微妙に怖がってるのか。とっても不思議。

 

「……私もそれでいい」

 

 澪まで。あざっすあざっす。じゃあ私の意見言うかー。

 

「そうだな。私は今のところAクラスに賛成。優待者を探さないって部分は。ギスギスしちゃうの嫌だもん」

 

 あと楽だしね。

 

「でもせっかく集まるんだしゲームとかで交流したい! ほら、なんか仲良くしろ的なことを説明のとき先生が言ってたし」

 

 うん、そんくらい。

 

 Dクラスの4人からも反対意見は出ない。ヲタクっぽい人改め外村(そとむら)君はAに賛成、知的眼鏡2号君改め幸村(ゆきむら)君もぐぬぬ……って感じだけど何も言えないご様子。あ、村村コンビだねこの2人。メガネをかけてるとこも一緒だ。Kちゃんも多少の不満はあれど賛成。カピバラ麻呂は無難なこと言ってた。うーん、この人が本当に爪を隠している能ある鷹なんだろうか。いや、別に彼の暗躍はわりとどうでもいいんだが。だってそういうのって目に見えないじゃん。楽しくない、暗躍でもスパイ映画とかみたいに派手な感じにしてほしい。

 

「そっか、みんなありがとう! えーとね、私の意見としては、全員で結果1を目指したいかな……ちょっと難しそうだけど」

 

 ちらっとAクラスの方を見る一之瀬さん。そこへ幸村君が異論を挟んできた。

 

「つまり優待者を見つけ出すと。何故だ?」

 

「葛城くんの案は確かに良い作戦だと思う。でもね、これはAクラスにとって都合のいい作戦でもあると思うんだ。特別試験はAクラスに追いつけるかも知れない限られたチャンスなのに、獲得ポイント数が同じだったら差を縮めるなんてできっこない。卒業までに特別試験が何回あるかだって分からないよね」

 

「それは……いや、だとすると結果1でも2でも各クラスにプライベートポイントは均等に入る。一緒じゃないか」

 

「ううん、違うよ。このグループだけで言えばメンバーがABクラスは3人、Cクラスは5人でDクラスは4人でしょ? それに、全体で見るとAクラスには不参加者が1人いる。つまり結果1でも確実に50万ポイントの差はつけられるの。ね、お得じゃない?」

 

 あー、そかそか、キャロルがいないもんね。今、彼女は何しているんだろうか。

 

 結果1だと全員に50万ポイントと優待者にはプラス50万ポイントの給付。Aクラスだけ39人しかポイントを得られないのね。結果2だと優待者だけがポイントをもらうからどのクラスも変わんないけど。

 

「しかしこのAクラスが居ない場で優待者を見つけるなんてことが可能なのか?」

 

「うん、もしAクラスに優待者がいたら個人に絞るのは難しいかも。だけどAクラスに優待者がいるのかであれば消去法で分かるんじゃないかな。まずは優待者がどこにいるのか、それを突き止めた上でどうするべきかを考えるのが一番だと思う。でも、この3クラスの中に優待者がいるのなら、最悪隠し通すのもありかなとは感じてるよ」

 

「……信用しきれないな。そもそもBクラスが俺たちに協力するメリットは薄い」

 

 結果1だと一之瀬さんたちの得るものが少ないというのはその通りだ。下位クラスに甘いだけなのか、他の思惑があるのか。ともかく幸村君はAとB、どちらにつくか迷ってるらしい。うむうむ、悩め若人(わこうど)よ。

 

「ま、初回だしそれぞれの意見を聞けたってことでとりあえずはいいんじゃないの? 他グループの人とかとも相談して、夜にまた話そうピョン☆」

 

 だからゲームやろうぜゲーム! 

 

 そう思ってたら何か真鍋さんとKちゃんが昼ドラを始めた。途中でAクラスの町田君も巻き込んでて見てて面白かったは面白かったけど、今やることなのかそれは。Kちゃんの取り巻きがいないうちに、ということなのかしら。

 

 その後は私の提案でみんなゲームをする。Kちゃんが参加を表明したので真鍋さんたちは不参加だった。というかCクラスは私だけだよ参加者。悲しい。

 

 やがて1時間が経過したらしく自由にしてよいというアナウンスがされ、すぐにAクラスは3人とも部屋を後にした。

 

「それじゃ、お先に」

 

 バタバタと部屋を出て行く彼ら。葛城君のとこにでも行くのかな。忠犬町田だ。

 

 それを見届けた一之瀬さんは笑顔で宣言した。

 

「ディスカッションはあと5回。今はひとまず解散ってことにして、夜もまたよろしくね!」

 

 と、いうことで。とりあえずウサ耳を外す。兎さんグループ、お疲れ様っす!

 

 

 

 

 

 

 

(兎部屋にてみんなで遊んでる最中の会話)

 

「どうせだし負けた人にはペナルティを、みたいな感じにしてみる?」

 

 ククリの提案に、綾小路が口を開く。

 

「ポイントでも賭ける気なのか?」

 

「うーん、それはちょっとあれだから。罰ゲーム的なこととかさ」

 

「意外だな。ギャンブルが好きそうなタイプと思っていたんだが」

 

 んー、とククリは顎に手を添え考え込むような仕草を見せた。

 

「そういうのは観賞だけのほうが楽しいかも。だってさ、結局のところ胴元が儲かるような仕組みなわけだし。じゃないと商売上がったりだもんね」

 

 なかなか冷静な言葉だ。それに、と彼女は話を続ける。

 

「トランプやサイコロだったらイカサマ用のやつがいっぱいあるし、ルーレットでもルーレットコンピュータを使って荒稼ぎした人がいるなんてのを聞いたこともある。あとはついてる傷とかを全て記憶するってすごい技能で勝利するとか、とにかくギャンブルの世界は奥深いからね。少なくともひよっこが足を踏み入れるには早いよ。まあそもそも海外のカジノも年齢的にまだ入れないし」

 

「だいたい18歳以上から、と聞くな」

 

 最近はオンラインカジノなどもあるが、やはり18歳未満は参加できない。

 

「豪華客船といえばカジノなのにねえ」

 

 悲しそうに呟くククリに、幸村が呆れた感じの視線を向けた。わりと知識はあるのに、発言というか雰囲気というか、何となくバカっぽいオーラをククリは漂わせているのだ。

 

「それで、ペナルティを設けるのか?」

 

「ふっふーん、それはもう素晴らしい罰ゲームでいこうと思うよ!」

 

「あはは、お手柔らかにお願いするね」

 

 苦笑する一之瀬の言葉が、参加者の総意を示していた。

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