ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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船荷のない船は不安定でまっすぐ進まない。 一定量の心配や苦痛、苦労は、いつも、だれにも必要である。

 そして兎さん部屋からは真鍋さんと藪さんが、あとDクラスも全員退出した。

 

 1回目の試験が終わったことだしマナーモードを解除しようと、端末を見てみれば通知が入っていた。

 

【そう時間はとらない。今から甲板(かんぱん)へ来てくれ】

 

 時任(ときとう)君からだ。クラスメイトだけど初めて連絡される相手、男子生徒、急な呼び出し。これは、間違いない。告白イベントですな。

 

 しかし最近は校舎裏、第二体育館に続くところで告白すると上手くいくなんて噂も出ているのだけど、学校に帰るまで待つことが出来なかったのかしら。やれやれ、モテる女は困るぜ。まあ告白とか初めてなんだけどね。わくわくドキドキ。

 

「澪、ごめん。用事入ったから先に行くね」

 

 部屋にまだ残る一之瀬さんをちゃんと見張っているらしい澪に断りを入れれば、彼女はコクリと頷いてくれた。

 

「一之瀬さんたちもお疲れ様。また次の話し合いで会おうね!」

 

 Bクラスは3人ともにこやかに見送ってくれた。優しいクラスだなあ、やっぱり。

 

 そういえば時任君はBクラスにも同じ名字の男子生徒がいる。面識はあってないようなものとはいえ遠い親戚らしい。そっちの時任克己(かつみ)君はよく知らないけど、こっちの時任裕也(ひろや)君は喧嘩っパヤイいかにもCクラスという感じの不良生徒だ。たっつーを大嫌いな人の1人でもあり、反骨精神溢れる勝気で荒っぽく執念深い、たっつー2号みたいな奴である。たっつーを嫌いなのはたぶん同族嫌悪だろう。

 

 部屋を出てエレベーターに乗ろうとする私の前には大量の人がいた。むむ、どけや貴様ら。しゃーない、確か一度に10人ほどしか乗れなかったし階段にしようか。

 

 甲板にはこれまた人が多い。こんなところで告白するとは度胸のある男だ。時任君の周りには人があまりいないので居場所はすぐにわかった。いつも厳しいというか怖い感じの顔してるしなあ、時任君も。たっつーほどヤンキーくさくはないけどさ。

 

「時任君、お待たせ。よかったら船首のほうに行かない?」

 

 船首のほうには景観を眺めるための広いデッキがあるだけだから、基本人気(ひとけ)がない。了承されたので2人して船首へと回る。

 

 やはりこちらは全然人がいない。一応デッキに入らないギリギリのところ、物陰に隠れる位置に立つと、さっさと終わらせるべく私はとりあえず話を切り出した。

 

「ごめんなさい、時任君……私、今のところ誰とも付き合う気がないから……」

 

「いや、告白じゃねえから」

 

 なんだ。緊張して損した。

 

「じゃあ何かな? はっ、まさか、借金の相談とか?」

 

 私のポイント、クラス内では多いほうだからなあ。そんな私の言葉を無視して時任君は言った。

 

「…………京楽。おまえはこのクラスの現状が正しいと思っているのか。龍園に飼い慣らされたまま服従し続けるつもりか?」

 

「いや、飼い犬(ペット)じゃねえから」

 

 リードでつながれてるみたいに言うなや。って、いけないいけない。ちょっと口調が乱暴になってしまった。ふう、深呼吸深呼吸。お上品にいくザマス、おほほ。

 

「龍園君とは友達のつもりだよ、一応」

 

「友達? あいつの?」

 

「うん」

 

 時任君は「虫酸ダッシュ」とでも言いたげな顔になった。そうか……君もたっつーと同じで友達少ないんだね。可哀想に。

 

「……おまえがどう考えてるのかは知らねえが、クラスでは『京楽は龍園の女』って有名だぜ」

 

「オイ名誉毀損罪で訴えるぞテメー」

 

 私は刑法230条を振りかざした。3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金刑である。

 

 むー、また口調が荒ぶってしまった。少し落ち着こう。コホン。

 

「時任君。それ言い始めたの、誰?」

 

「自然と広まっただけだ。龍園が力で抑えるのを緩和してクラスをまとめあげる手腕といい、反発しつつも親しげな態度といい、そう判断するには十分──」

「で、でも親しげっていうならひよりんとか澪とかだっているじゃん!」

 

 耐えきれなくなった私は友達を売った。ごめん。

 

「確かに入学当初はそうでもなかったが、今は明らかにおまえが一番あいつの近くにいるだろ」

 

「そ・れ・は、気の所為!」

 

 眼科にでも行ってくれ。単に昔の知り合いで、あとたぶんたっつーは私の裏切りを警戒してるだけだから。

 

「ならむしろ好都合だ。俺と手を組め、京楽。龍園をぶっ倒して、クラスの次のリーダーはおまえがやりゃいい」

 

「色々と言いたいことはあるけど、とりあえず。時任君がリーダーになるとかじゃないの?」

 

「俺は別に自分がリーダーになりたくて言ってんじゃねえ。大嫌いな龍園が支配者ぶってるのが気に入らない、それだけのことだ。クラスメイトが納得できるように、クラスがこれ以上苦しむことのない形が一番だろ。俺だったらおまえを推薦するって話だよ」

 

 おう。なんか高評価。ありがとうだけど、うーん……時任君、言いたいことはわかるけど詰めが甘いというか計画性に欠けるというか。現実味がないね、うん。

 

「時任君みたく龍園君に真っ向から反対意見を言えるのはすごいと思うけど、正直私は彼がリーダーなことに不満はないんだ」

 

 だってたっつーの暴力型恐怖政治とかあの強引なやり方とか、見てて楽しいもん。

 

「……おまえなら、と期待してたんだがな」

 

「うん、時任君の主張も理解できるよ。でも共感はできないんだ、ごめんね」

 

 私の言葉に時任君は一瞬、ピクリと腕を動かして……とどまった。壁ドンでもする気だったのかね。

 

「龍園君にはこのことは言わないでおくから、落ち着いて考えてみて欲しいな。私たちCクラスが他クラスと戦うには、いくら嫌でもリーダーとしては彼が適任だと思うよ。ほら、言ってたでしょ。『俺を信じてついてくるならこのクラスをAクラスに引き上げてやる、付き従う限りは守ってやる』って。そういうの私には無理かなーと思うの」

 

 面倒だし、やる気も出ない。嫌だよそんなのは。

 

「…………分かった。だが俺は意見を改めることはない。だからおまえも、今の言葉を頭の片隅くらいには留めておいてくれ」

 

 まあそのくらいなら、うん。私が小さく頷いたのを確認して時任君は立ち去った。これでまたすぐに出くわすのは気まずかろうと、気を使ってちょっと時間を置いてから船内に戻ることを決めた私は、彼の行った方とは逆、広いデッキへと足を踏み入れてみる。

 

 すると隅っこのほうで柱に隠れるようにしゃがんでいる少女の姿が映った。逆転裁判の証言者かつグラビアアイドルの佐倉さんは端末を手にしているわけでもないのにぶつぶつ何か呟いて……自分の世界に入り込んでいるようだ。よかった、こちらの話は聞こえてなかったっぽいね。

 

 何を話しているのかと好奇心のままに近づくと、そのか細い声が聞こえてきた。

 

「あ、綾小路くん……わ、私と、その……付き合って……買い物に……ううん、で、でで、デー……トを、してくだひゃいっ。う、噛んじゃった」

 

 海の潮っぽい匂いに混じって青春の甘酸っぱい香りがここまで漂ってきている気がした。そうか、彼女はカピバラ麻呂が好きなのか。おそらくここに彼を呼び出して、告白でもするのだろう。見晴らしの良いこのデッキでもなければ出歯亀したかったが、仕方ない。そーっと音を立てずに立ち去ることにしよう。

 

 通路のほうへと戻ると、やはりと言うべきか反対側の通路からはカピバラ麻呂が現れていた。彼は佐倉さんのほうへとゆっくり歩いて行く。頑張れよ、恋する乙女。私はこっそりとエールを送った。

 

 そういえば。確か佐倉さんは時任君と同じグループだった気がする。客室に帰ったら確認するか。

 

 

 

 

 部屋ではいつも通りひよりんが読書してた。なんとなくお隣に座って、端末をポチポチといじる。ええと、グループ名簿グループ名簿……あった! やはりあの2人は牛グループで一緒らしい。うんうん、ククリちゃんの記憶力はなかなかだね。

 

 そのままチャットの入力もする。

 

【時任君、裏切りそう。牽制(けんせい)しといたほうがいいかも。あと佐倉さんはカピバラ麻呂が好きらしいよ!】

 

 私は言った。『龍園君にはこのことは言わないでおく』と。しかしたっつー以外の人に言わないとは、ましてやチャットしないとは言っていない。というわけで金田君に送信と。ポチッとな! 

 

 グループチャットではCクラスの方針について盛んに議論がなされていた。どうやらどこのAクラス生徒もだんまりを決め込んでいた模様。うーん、葛城君の影響力はまだまだ強しなのね。

 

「ひよりんはAクラスに従うべきだと思う?」

 

「どのみち優待者の法則を解き明かすべきでしょうから、そう考えると沈黙を選ぶのもメリットではあります。とはいえ結果1への道が閉ざされることになりかねないので、難しいところでしょう」

 

「そっかあ……で、法則わかった?」

 

「12人中3人しか判明してませんからまだ何とも。せめてあと一人二人わかるとどうにかなると思うのですが……」

 

 他クラスの優待者を、ねえ。それは難しそうだなあ。

 

「何で干支なのかもよくわかんないよね。みんな同い年だから、干支は2種類しかないし」

 

「先生もお答えくださいませんから、何かしらの意味があるとは思うのですけれど……分かりませんね」

 

 Cクラスが優待者の3グループの名簿を眺めるも、特に法則なんて出てこない。あー、やめやめ。こういうのは金田君かひよりんのお仕事だよ。

 

「ひよりんは試験のルール全部覚えてるの?」

 

「はい、一応は」

 

「うわ、すごいな。私なんてちゃんと覚えたのは名簿だけだよ。それも頭文字ブツブツ唱えてだいぶ頑張ってだし。た、ま、も、い、は、べ、あ、か、そ、ゆって」

 

 それはもう心の中でめっちゃ唱えてた。

 

「あ、あとあと。自己紹介で判明したけど、名前間違って覚えちゃってた人もいたしね。(めぐ)みって書いて『けい』って読むんだよ。女の子で『けい』って結構珍しくない?」

 

「そういう読み方のミスで誤認させるミステリーも多いですよね」

 

「あー、性別とかミスリードしたりね。小説ならではの手法ですな」

 

「映像作品も嫌いではないのですが、そういった文章の奥行きを表すのは難しいと思います」

 

 うんうん、小説とか本の映像化には賛否両論あるよね。私が昨日見たのも小説の映像化だったけど、正直あの作品に関しては原作の方がよかったなあ。改変とか多くて。

 

「ひよりんのグループはどんな感じだった? うちはゲームとかしてたけど」

 

「話し合おうとして平行線、という感じでした。やはりAクラスの作戦によってどうにも足並みを揃えるのが困難ですから」

 

「そうよな。うちも話し合い諦めてのゲームだったし……そうだ、ひよりんもグループディスカッションの時にウサ耳つけない? みんなやってくれなくてせっかく借りたのに余ってるんだよね。なんとゲームの時に役立ったんだよこれが!」

 

「いえ、お気持ちだけで十分です。でも役立った、とはどんな風に?」

 

 みんな……ウサ耳そんな嫌か。嫌なのか、そうか。しょんぼり。

 

「罰ゲーム的なのでね。参加者の背の順で決めるやつがあってさ。みんなで身長順で並んだ時、ウサ耳を身長に含めるべきって主張してなんとか回避したんだよー」

 

 160cmに届かない私の身長がなんと180cm近くにまで上昇したからね。ウサ耳さまさまだよ、本当に。

 

「兎グループは仲が良いんですね。羨ましいです」

 

「ありがとう。でもクラスごっちゃになってやったとはいえ参加してない人も多かったよ」

 

「そうですか。クラスを混ぜて、一緒に────ん、ククリちゃん」

 

「はい?」

 

「その開いている名簿、少し見せてください」

 

「はい……」

 

 端末を差し出すと、熱心にひよりんはそれを見つめる。何度かスクロールして考え込んだ後、彼女はいつもより興奮した口調で言い放った。

 

「法則、わかったかもしれません」

 

「え、ホント? ひよりんすごい! どんなどんな?」

 

「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥。辰だけ例外でしたが、昨日は私たちは概ねこの順番で呼び出されました」

 

 うん、そうだったね。私たち兎さんグループは4番目だった。

 

「そして説明の際に真嶋先生は『今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関連性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道であると言っておく』と、そうおっしゃいました」

 

 坂上先生もそんな感じのことを言っていた。再び私は頷く。

 

「ククリちゃんの言葉からもヒントをいただきました」

 

「え? まったく心当たりがないんだけど……」

 

「いえ。まずひとつはた、ま、も、い、は、べ、あ、か、そ、ゆ、です。この名簿はクラス別できちんと名前順になっています」

 

 ですな。でもわりとそれは普通じゃ? 首を傾げる私に、ひよりんは続ける。

 

「自己紹介。これが何故必要なのか疑問に思いましたが、ククリちゃんの言葉で説明がつきます。名前の誤読。それを防ぐためのものだったのです」

 

 確かに自己紹介では自分で自分の名前は最低限言うから、名前の正しい読み方は絶対にわかるね。

 

「最後に、クラスを混ぜて一緒に遊んだという発言。これで全てが繋がりました。名前順でも、クラスを混ぜて並べ替えるのです。例えばそうですね。ククリちゃんの兎グループで考えてみましょう」

 

 名簿をすっと見せられる。

 

【兎

 Aクラス…竹本茂 町田浩二 森重卓郎

 Bクラス…一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太

 Cクラス…伊吹澪 京楽菊理 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希

 Dクラス…綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦】

 

「これを、こうします」

 

【①綾小路清隆

 ②一之瀬帆波

 ③伊吹澪

 ④軽井沢恵

 ⑤京楽菊理

 ⑥外村秀雄

 ⑦竹本茂

 ⑧浜口哲也

 ⑨別府良太

 ⑩町田浩二

 ⑪真鍋志保

 ⑫森重卓郎

 ⑬藪菜々美

 ⑭山下沙希

 ⑮幸村輝彦】

 

 書き換えられたそれは、なるほど名前順になっている。…………うん。そんで? 

 

「十二支では、子丑寅卯ですから兎は4番目。つまり4番目の軽井沢さんが優待者、ということになります」

 

「ほえっ、でもそんな素振りはなかったよ!?」

 

「辰を5番目として本来の十二支の順番で考えて、Cクラスが優待者のグループにこの法則を当てはめましたが全て合致していました。さらにこれで各クラスきちんと3名ずつの優待者となりました。可能性としては高いかと」

 

「え、えーっと、じゃあじゃあ、牛さんグループで考えると────」

 

【牛

 Aクラス…沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太

 Bクラス…小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁

 Cクラス…時任裕也 野村雄二 矢島麻里子

 Dクラス…池寛治 佐倉愛里 須藤健 松下千秋】

 

 だから、牛グループは池寛治 小橋(こばし)(ゆめ) 佐倉愛里──となり、牛さんは2番目だからBクラスの小橋さんが優待者!? 

 

 それでそれで、たっつーのグループは。

 

【竜

 Aクラス…葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス…安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美

 Cクラス…小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔

 Dクラス…櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音】

 

 だから、安藤(あんどう)紗代(さよ) 小田(おだ)拓海(たくみ) 葛城康平 神崎隆二 櫛田桔梗──ってなって、5番目の桔梗ちゃんが優待者なのか。うお~、すごいすごい。

 

 Cグループの人も名前合ってるし、全グループで確かにAもBもDも3人ずつになってる! 

 

「ひよりんすごい! 天才! 流石読書家! 暗号解読もお手の物だね!」

 

「ありがとうございます。でもククリちゃんのおかげですよ」

 

「そんなことないよ。私がいなくたってひよりんなら絶対に解けてたって」

 

 いやほんとに。

 

「じゃ、たっつーに報告だね。行ってらっしゃい!」

 

 笑顔で話す私に、ひよりんは首を傾げた。

 

「ククリちゃんがどうぞ、行ってきてください。私が解いたということも伝えなくて結構ですよ」

 

 そう言うとひよりんはまた手元の本に視線を落とした。ええ〜? 

 

「いやいや。ひよりんがどうぞどうぞ」

 

「でも、龍園くんとはククリちゃんの方が親しいでしょう?」

 

 ブルータス(ひよりん)、お前もか……。

 

 言葉の応酬の末、負けた私は仕方なく連絡を入れた。

 

【重大報告。会って話したい】

 

 悲しいことに返信は瞬時に来た。

 

【俺の部屋に来い】

 

 Oh……行きたくねえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

(Aクラス:葛城と戸塚(とつか)

 

 ──Bクラス一之瀬からの接触は無し、か。

 

 1回目のディスカッションを終え、そこで明らかになった籠城作戦に対して何らかのアクションがあると思っていただけに、葛城の心中には驚きと違和感が残る。

 

 もちろん同じ竜グループの神崎からは抗議されたし、彼との打ち合わせを優先したのかも知れないが。警戒している人物の動きが読めないというのは不気味だ。そもそも彼女が竜グループに配属されていないことも不自然で、どうにもスッキリしない。

 

 たいていの物事には理由がある。何故、一之瀬が兎グループにいるのか。何故、葛城へ作戦を取り止めるようさっさと言ってこないのか。そこには何か狙いや思惑があるのではと勘ぐってしまう。

 

 だが、一之瀬ばかりに頭を悩ませていてはいけない。

 

 Dクラス堀北鈴音、Cクラス龍園翔。この2人こそが無人島試験における勝者だろう。

 

 彼らに対抗するための策がAクラス全員の沈黙……というより、葛城には他にとれる手段も無かった。自クラスの優待者の把握が出来ないのだ。この匿名性の高い試験では携帯を無理やり見ることも禁じられている以上、優待者が隠そうと思えばそれを暴くことは不可能。優待者でない生徒を知ることが出来れば消去法で判明するが、それも出来ないのだからどうしようも無かった。

 

 葛城派と坂柳派の溝は大きい。メールを見せろとでも言えば反発は必至、しかし口頭での確認にしてしまえば確実に虚実入り乱れる。ディスカッション中の沈黙という指示に従ってくれたことでひとまずよしとするべきだろう。

 

「いやー、他のクラスはめちゃくちゃうろたえてましたよ。やっぱ葛城さんの作戦はすごいです」

 

 真っ直ぐに、純粋に慕ってくれる言葉に、葛城は重々しく頷く。

 

「ああ。しかし油断は禁物だ、弥彦(やひこ)

 

 能力的に少々不足している部分があることは否めないが、この戸塚弥彦という男の打算の無さや屈託の無さを葛城は気に入っている。厳しい学校の規則により今は会うことの出来ない、病弱な妹とどこか重ねて見ているのかもしれない。

 

 病気、と言えば坂柳もそうであるのだが。彼女を妹のようには思えない(妹よりも一回り小さい、年下にしか見えないサイズ感なこともある)し、あちらもそんなのは御免だろう。しかし。先天性疾患による苦しみを、葛城はよく知っている。故に彼女の身体能力を理由として攻撃することは避けてきたし、これからもそのつもりは全くない。

 

 だが端末を没収された無人島試験とは異なり、今回の試験では坂柳を警戒せねばならないこともまた事実だった。

 

「坂柳から橋本たちに対して何らかの指示が出ている可能性もある。頭の痛い問題だ」

 

 頭脳明晰なあの少女は葛城にとって他クラス以上に厄介な存在と言える。何も手出ししないとの宣言は耳にしたが、果たしてどこまで信じていいものか。

 

「いたらいたで嫌ですけど、いなくても嫌な奴ですね坂柳は」

 

 単純に、他クラスより敵が多い状態。それでも葛城は努力を惜しまない。Aクラスのために、何よりクラスメイトたちのために。

 

「……ところで」

 

「はい、なんですか葛城さん」

 

「俺の下着が一枚足りないんだが、そっちに交ざってたりはしないか?」

 

 勿論、枚数的な支障はないのだが、葛城にはあるマイルールがあった。それは月曜から日曜日まではく下着をローテーションで決めるというもの。ちょうど明日の分が無いというのは非常に困る事態だった。

 

「それはたいへんですね! 分かりました、部屋中を探してみます!!」

 

「すまない、助かる」

 

 

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