ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
「セーフ、間に合った」
グラウンドではまだ騎馬を準備してる段階。急いできた甲斐あってよかった〜。ふいーと椅子に座る。
騎馬戦のルールは男女共通の時間制限方式。3分間の間に倒した敵の騎馬と残っていた仲間の騎馬の数に応じて点数が入る仕組み。点数配分は1騎馬につき50点、クラス毎1騎馬だけ存在する大将騎は100点。これは生き残っても相手のハチマキを奪っても入る点数なので、まあ要はハチマキの点数と言ったほうがわかりやすいか。
騎馬は4人1組で各クラス4つの騎馬が選出されて8対8になる。たぶんあれだね、騎馬戦は1騎でも少ないと如実に差が出るから退学者の多いクラスに配慮してるんじゃないかな。ともかく16人しか参加しないので私はお休みである。一服一服ぅ。
「お帰りなさいククリちゃん。木下さんのお加減は……」
同じくお休みメンバーなのはひよりん、矢島さん、木下さん(現在保健室)。1年男子騎馬戦はこの次なので、テントには私たち3人と男子の待機メンバー4人しかいない。ちょっと寂しい感じね。
ひよりんだけでなく矢島さんも木下さんのことは気になっていたようで、2人ともじっとこちらを見つめてきた。
「やっぱり今日の参加は無理だって。治るにはひと月程度はかかりそうって言ってた」
「そう、ですか……」
ひよりんは本が好きだ。そして争いが嫌いだ。もしかしたらこの学校に一番向いてない子なのかもしれない。クラスのためを考えたっつーがリーダーなのには賛成してるけど、ここが普通の学校だったなら2人は一言も会話しないで卒業してそうな気がする。いや、どうだろうな。たっつー今は独裁者やってるけど昔は一匹狼タイプだったしなあ。
ともかく、ひよりんは今回の作戦で木下さんに怪我させるところには難色を示していた。ただ、だからといって体育祭でひよりんが代わりにできる手立てはないからか、たっつーにちょっとチクチク言って終わりにしてた。矢島さんは、もしかしたら自分が木下さんの立ち位置をやらされていたかもしれないと考えると罪悪感が強いんだろう。かなり顔を曇らせている。
ま、問題ないでしょ。たっつーが2度同じ手を使うことはないでしょうし、失敗したとなればなおさらだ。また新たなる卑怯な手段を講じるに違いない。それがいいか悪いかはわかんないけど、どのみち民は王を捨てられない。勝ちたければ従う。従えば勝つ。とってもシンプルな話だ。だからこそ負けたら痛いんだけど……んー、今回に関してはまあ大丈夫だろう。たぶん。
「すごーく月なみな言い方かもだけど、木下さんに勝利のご報告が出来るように頑張ろう!」
2人が頷くのと同時くらいに。試合開始の合図が鳴った。
大将騎であるかないかなど関係ない、とりあえずリンリンの騎馬を潰す。それを目標に動くうちのクラスは、澪の騎馬を先頭にリンリンのほうへと勢いよく突っ込んで行った。1対4の状況となるも、Aクラスは牽制しかせず参戦はしない。Dクラスの他の騎馬は一之瀬さんたちが抑えてくれている。
正直、気合いの差もあるだろう。ADよりもBCの女子の気迫のほうが何倍も勝っている。白組有利の空気だった。
多勢に無勢。リンリンの騎馬は澪たちの騎馬にハチマキを奪われ、彼女は派手に落馬した。それを皮切りに乱戦が始まるも、あっさりと白組が鎮圧。AとDは全滅したのに対してこちらの被害はたった2騎である。まさに大勝利と言っていいね!
帰ってきた澪に「お疲れ様!」と声をかけると勝ったにも関わらず彼女はなぜか不満げだった。私は首を傾げる。
「堀北、全力じゃなかった」
リンリンは騎手をやっていたけど、足の怪我によって踏ん張りがきかなかったりでいつもより動きが悪かったらしい。格闘技術に長ける澪にはすぐわかったとのこと。ちなみにリンリンも武術を嗜んでるっぽいそうな。2人ともすごいなあ。武道なんて私、体育の授業でくらいしかやったことないよ。
まあ来年もあるから、とは言ったものの……よく考えるとあれか、次回はどのクラスが味方でどのクラスが敵になるかなんてわかんないよな。9月時点でのクラス順で決定されるからね、赤白の組分けは。む、もしクラスポイントが超接戦の学年があったら体育祭のある10月でクラスが入れ替わって赤白の組がすごいややこしいことになるのかな。どうなんだろ。謎い。
ピー、とホイッスルの音。1年男子騎馬戦ではスタートと同時にDクラスがAクラスの騎馬と合流してた。リンリンたちが各個撃破されたのを受けてのことだろう。
「目標はクソ龍園の首ひとォつ! 他はどけや!!」
平田君が騎手を務めるDクラス大将騎の真ん中を支えている須藤某の大声が響く。その騎馬にはカピバラ麻呂と
須藤某は強烈な体当たりでCクラスの騎馬を崩した。すごいけど、むっちゃ野蛮。というか。
「え、体当たりOKなの?」
「確かこの学校ではルール上問題ないって龍園も言ってた」
まじか。でも審判も何も言ってないし本当なんだろうな。へー、知らなかったわ。てっきり普通に反則だと思ってた。
「ただあれですとハチマキを奪っていませんから点数にはならないのではないでしょうか」
「そ。騎手が落ちただけだと自滅扱い」
「じゃあ50点は入らないのか。ちょっと損だね」
「でも、ハチマキを奪うには相応のリスクを伴います。彼の体格を考えると悪くはない作戦かと思います」
確かに。猪突猛進タイプっぽいしな。
実際、作戦がうまくいったらしく須藤某が次々と騎馬を崩していき、葛城君たちAクラスの大将騎も柴田君神崎君のいるCクラス大将騎を討ち取ってしまった。
多勢に無勢。今度はそれをこちらが味わう番。白組はうちのクラスの大将騎しか残っていない。対して赤組は葛城君(彼は騎馬の頭を務めている)たちの騎馬、平田君たちの騎馬、知らないD男子たちの騎馬の3騎が健在。
「うーん、これは流石に無理なんじゃないかな」
たっつーが騎手の大将騎は下をバーティ、小宮君、近藤君が支えているかなりのパワータイプの騎馬だ。バーティほどではないにしろバスケ部のこの2人も腕っぷしは強い。とはいえ数の力を覆すのは難しいだろう。
「いえ。龍園氏には秘策があります」
私の呟きに金田君が眼鏡をキラリと光らせながら自信ありげに反論した。ほほう。秘策とな。
なんだろうなーと思って見てるとうん、何となくわかった。平田君も、葛城君といつも一緒にいる
「ポマード!」
「? 口裂け女でも出ましたか、ククリちゃん」
そうそう、口裂け女に会った時はポマードと唱えるかべっこうあめを投げると逃げられる……ってちゃうわい!
「そうです、ワックスです」
金田君は眼鏡をクイッと上げて言った。
やっぱりか。ハチマキに油塗り込んでぬるぬるさせたんだあいつ。卑怯なやっちゃなあ。
「ポマードって何?」
「ワックスと同じで油が主成分の整髪料です。ワックスのほうが伸びがいいらしいですね」
む。さてはひよりん、わかってて私をからかったな。いいじゃん、ワックスでもポマードでも。ほぼ一緒だって。
たっつーはなんと敵の騎馬のハチマキを3つとも奪って最後まで生き残った。試合終了の合図と同時に自分のつけてたハチマキを振り回してる。さらに地面に落としたふりして砂にこすりつけてた。証拠を消すためだろう。
しかもテントに戻ってきたたっつーは汚れたそのハチマキを新しいハチマキに取り替えてた。完璧に証拠隠滅してやがる。なんて奴だ。
「おい。それよこせ」
さらにたっつーは私の双眼鏡を奪った。おまえ、椅子だけに飽き足らず……! まあ2個あるからいいけどさ。
何見てんだろう、と視線の先を探るとDクラスのテントだった。2年生の騎馬戦が始まってるのにそっちには全く興味ないらしい。
ニヤニヤしてるから何か面白いことでもやってるのかと私も双眼鏡を覗くと須藤某が平田君をぶん殴ってた。わあ、バイオレンスぅ。後ろに吹き飛んで地面に倒れ込んだ平田君の頬はちょっと赤くなっている。それでも全く怒る気配のない平田君はすごいなあ。騒ぎを見てやって来た担任の茶柱先生と何やら話した後、須藤某はパイプ椅子を蹴飛ばして寮のほうへ向かって歩き出した。おおっと、Dクラスはロックに引き続き須藤某も欠場か。これは辛いぞ(他人事)。
「クク……計画通りだ」
あのなたっつー。それ、フラグな。
騎馬戦は堀北生徒会長の華々しい活躍で締めくくられ、次の種目は最後の全員参加競技、200メートル走。2レース目のたっつーは出走前に平田君にだる絡みしてから、きっちり1位を取った。むー、奴め、個人競技は全部1位取りやがった。たぶん点数的に今の段階ではトップだね。
須藤某はあのまま帰ってこなかったっぽくて不参加だったし、柴田君は須藤某に負けて1回だけ2位を取ってるもん。でもまあ、このあとの推薦競技ではたっつーは借り物競争にしか出ないから学年別最優秀生徒報酬をもらうのは無理だろう。つかむしろ何で借り物競争だけ出場するんだか。私はというと3位。うん、ちょっと露骨な気がしないでもない。しかしあれだな、怪我しちゃってるのにちゃんと出場して頑張って走ってるリンリンは偉いなあ。でもDクラス、全然須藤某を連れ戻そうとしてる人がいない感じだけどいいのかな? 一応体育祭では彼がクラスのリーダーではなかったのだろうか。よほど慕われてなかったのかな。
2,3年の200メートル走も終わると午前の部が終了、50分の昼休憩になる。
食堂に行ってもグラウンドの所定の場所で食べたりしても、自由にしていいんだけど、私は先輩にお呼ばれしたのでお弁当をもらって上級生の輪へと加わる。他のブルーシートにも上級生と食べてる下級生の姿がちょくちょく見受けられるから、そう珍しいことでもないんだろう。体育祭ならではの交流って感じかな。
B、Cクラスの先輩と話しててもやっぱり堀北生徒会長、南雲副生徒会長の話題が出てくる。それだけ突出した生徒なんだろうな、2人とも。確かに全員参加競技でもかなり目立ってた。1年生では須藤某、柴田君、たっつーあたりがやっぱり先輩たちの目に留まったらしい。そんで運動部の先輩がたっつーを入れたいなあって言ってたので私は慌ててやめたほうがいいと説得した。駄目っすよあいつ、チームプレイとか絶対無理なタイプっす。
休憩時間も残り半分ほどになってきたので、友達の様子が心配なため保健室へ行きたいと伝えると、先輩たちは快く送り出してくれた。どうも足を捻ったとかでリタイアせざるを得なかった人は上級生にも一定数いるらしい。悔しそうに語ってくれた。1年にとっては欠場はプライベートポイントもらえないなあ、くらいだけど先輩たちはクラスポイント争いをわりと意識してるみたいだ。思ってたほど体育祭を諦めてはないっぽい。Aクラスには勝てなくともせめて2位にはなりたいというところか。どちらかというと2年より3年の先輩のほうが熱意に溢れていることから察するに3年はAクラスが一強なもののすごく差がある、というほどでもないみたいね。
グラウンドを離れて校舎へと向かう。玄関口に差し掛かるくらいで堀北生徒会長と遭遇した。これが噂をすれば影というやつか。何か書記の橘先輩とセットのイメージがあるから一人でいるのは珍しいような気もする。
「こんにちは生徒会長。ご活躍、拝見しておりました」
「……京楽か」
生徒会の仕事か何かなのか。それとも保健室にいるであろうリンリンの様子を見に来たのか。それ以外で校内に用事があるのか。どれも有り得そうですな。
「Bクラスの働きぶりは俺の目にも入っている」
一瞬皮肉かな、と思ったけどそんな悪意は感じられない。素直な評価みたいだ。妹が陥れられようが気にしないのかな。それとも大丈夫だと信頼してるのか。どちらにせよ複雑な家庭環境がうかがえる。
「龍園君みたいな問題児タイプは、生徒会長のお気に召さないと考えていましたが」
「一個人としては問題児の認識はない。確かに生徒会向きではないが、他の生徒と同様、一定の評価はしているつもりだ」
よかったね、たっつー。何か生徒会長に認められてるというか、ちょっと褒められたっぽいよ。
「京楽、おまえも生徒会向きではない。何より背後に何者かがいるとみた」
その言葉に私は後ろを振り返った。しかし誰もいない。やめて、ビビらせないでくださいよ。ストーキングでもされてるのかと思ったじゃあないですか。
「おまえが生徒会に入りたいと主張する、真の目的は何だ」
むー。生徒会専用制服を作りたいというのは志望動機としてペケだったらしい。たっつーからも聞いた南雲副生徒会長周りのドロドロの昼ドラ展開を間近で見たいってのも駄目なんだろうなー。サイバンチョっぽい格好をして生徒同士の揉め事で「静粛に!」とか木槌をカンカンしながら判決を下したいってのもわかってもらえなさそう。じゃあこれかな。
「特別試験は情報戦となることを想定した上で毎年行われるものもあるものの、在校生から試験の情報が漏れないよう基本的に3年以上……6年以内程度のローテーションが組まれている」
生徒会長は何も言わない。でも当たってるっぽいな。やっぱりキャロルの推測はことごとく的中している。
「生徒会には特別試験の一部を考え決定する権利が与えられているのでしょう? 生徒の案を取り入れての特別試験が実施できるというのはとても魅力的に聞こえまして」
頑張ればデスゲームだってできるかもしれない。そう言われてしまうと生徒会に入るっきゃないってなるよね! ものめっそ楽しそうやんけ。
「発言からおまえを
「それはないと思います」
「根拠はあるのか」
「つまらないでしょう、そんなことをしても」
押しも押されもせぬ2年のトップ、生徒会長になるのも確実な男の味方になるより、戦うほうが断然楽しいに違いない。
「なるほどな。おまえに対する評価を少し修正しよう」
上方修正なのか下方修正なのか。それが問題だ。え、どっちなんだろ本当に。じーっと見つめていると、堀北生徒会長は一歩、ゆっくりと私に近づいた。
「ある程度、自分自身の感性や直感で相手の技量は感じ取れるつもりだ」
何それいいな、格好良くて羨ましい。私もそんな便利な感覚がほしいなあ。
「では、その評価で私は落とされたというわけですね」
「いや……」
堀北生徒会長は考え込むような仕草を見せた。肯定なのか否定なのか、どっちなんじゃい。
「おまえと出会った際にまず感じたのは近づかれたくはない相手だ、ということだった」
「はあ」
ひと目見て嫌われたか、私。なるほど。そりゃ嫌いな人間はそばに置きたくないわな。
「言語化に困るな。言っておくが別に
微妙な表情になった私に堀北生徒会長はフォローっぽいことを口にする。えー、ほんとー?
「次に感じたのは南雲の影響下に入るだろうということだった」
これに関しては葛城君と一之瀬さんに対しても同じことを思ってたらしい。あー、だから葛城君、生徒会に入れてもらえなかったのか。普通に可哀想なんだが。本人の資質に問題ないなら入れてあげればいいのに。
一之瀬さんに関しては堀北生徒会長は落としたもののその後に南雲副生徒会長のゴリ押しで入ったんだと。おお、昼ドラの予感。
「だが、おまえが諦めない以上、ゆくゆくは生徒会に入ることになるのだろう。入学直後の小テストで満点を取った話はこちらも耳にしている」
小テストの点数は自クラスと教員くらいにしか公開されてないはずなのにどっから聞いたんだろ。生徒会の権力やっぱすごいな。
「はい。南雲先輩は生徒会への
堀北生徒会長が私を入れたくないと思っていても10月以降は止めようがないだろう。南雲副生徒会長が会長になった後、役員を誰にするかはその新たな生徒会長が判断することになるのだから。
「この学校の規律を守るため、いずれ起こるであろう望ましくない変化への対抗勢力を作ることが必要だと俺は考えている。おまえにこれが出来るか?」
「えーっと、他に目星をつけている人がいるとなると、私がどう答えても大差ないと思いますが」
堀北生徒会長はちょっと微笑んだ。むー。
「いいだろう。俺のほうから南雲に推薦の話をしておく。ああ、先ほどの話は忘れろ。おまえはおまえで好きに動くといい」
「え、本当ですか! ありがとうございます、会長!!」
わーい、ようわからんけど生徒会に入れることになった。ククリちゃん大勝利! コロンビアのポーズがしたくなるレベルですよこれは。
とりあえず小さくガッツポーズしていると、とてもお優しく成績抜群、スポーツ万能、容姿端麗、謹厳実直、とにかくパーフェクトボーイな堀北生徒会長は少し間があった後に右手を伸ばしてきた。
「右手で構わないか」
「はい」
差し出されたその手を握り返す。冷静沈着な見た目に反して、温かく、力強い手だった。
「綾小路は、おまえの目にはどう見える」
カピバラ麻呂かあ。うーん、そうだなあ。
ちょっとどう言えばいいか迷う。
「麻呂君は、私を助けてくれるかもしれない存在、ですかね」
なるほど、確かに言語化するというのは難しいな。上手い表現が見当たらない。
「そうか」
何を、とも。何故、とも。何から、とも。疑問の言葉はなかった。たとえ聞かれたとしても私は答えられない。何となくの印象、それに論理的な道筋などないのだから。
堀北生徒会長は軽く頷いてから手を放した。
「この学校はどうだ。楽しいか」
「ええ。そうでなければ
どことなく満足そうだ。会長はこの学校が好きなんだろう。それがよく伝わってくる。
「互いに連れが来たようだな」
保健室のほうからたっつーが、玄関の外から橘先輩が歩いてきた。会長を見てぱっと顔を明るくする橘先輩。かわええ。対して私を見てニヤニヤするたっつー。可愛げの欠片もない。
たっつーはスタスタと校舎の外へと出て行った。先輩に挨拶くらいしようや。私も2人に一礼してからそれを追う。
時計を見ると昼休みはあと20分ほど。愉快でたまらないといった表情からするにリンリンとのバトルは無事に終えたらしい。
「何を話してやがったんだ?」
「あのねあのね、会長から生徒会入りOKもらったの! すごくない?」
「ほう。だからってすぐ入れるわけじゃねえだろ」
「んー、まあね。今月中旬には生徒会の交代式があるから、その前後に面接かな。でも堀北生徒会長から勧められた人材を南雲先輩は断るなんて絶対しないと思うよ。きっと引退する3年生のぶんメンバー枠も空くし、だから実質生徒会役員確定!」
たっつーたちから夏休みに生徒会の話を聞かなければ私は入ることなんて考えもしなかっただろう。にっこりとお礼を言う。
南雲副生徒会長の私物扱いで入ることになるかもしれないけど、それはそれで構わない。どんな風に私を使おうとするのかむしろ楽しみに思うよ、うんうん。
「おまえ、あいつらのことは頓痴気に呼ばねえのか?」
「えっ、会長たちのこと? うーん、そうだなあ」
むむむと考える。あんま先輩をあだ名で呼ぶのはなあ、と流石の私も遠慮してるんだよね。あ、でも2年Bクラスのメープル先輩はすぐメープル先輩って呼んじゃったっけそういえば。あの美人で長身の目立つ先輩は今日全く見かけてないからロックと同じで欠席かな、うん。
「強いて言うならスタディ会長にサウスクラウド……みなみクラウド……サウススパイダー……うすらニヤけクラウド……」
うーむ、いい感じのがないなあ。ビビッと来ない。
「うっせえ。わかったから黙れ」
「理不尽! 自分から聞いてきたのに」
ひでえや。何なんだよもう。ってかあれだよ。生徒会に入った時に印象良くしたいし生徒会メンバーはたぶんあだ名で呼べないって。
とりあえず、今は生徒会よりも体育祭だよ。
「木下さんはどうだった?」
「あいつの仕事は終わった。推薦競技のメンバー変更も済ましたしな。後は寮に搬送するなり勝手にすりゃいい」
「ポイントの支払いは?」
耳元でコソコソっと言うと、同じくこそっと返答された。
「昨日の時点でひよりに預けてある。あいつのことだから既に送ってるんじゃねえか」
一応、巨額のポイント移動で足がつかないようにか。まあ木下さんにちゃんと50万ポイントの報酬が渡ってるならよかった。流石に骨折り損のくたびれ儲けにさせるのは申し訳ない。
「そかそか。ありがとう」
頷く私をたっつーはじっと見てきた。何ぞ何ぞ。
「放課後、おまえも来んのか? 木下のお友達の桔梗もいる以上部外者がもう一人増えたところで問題ないぜ」
桔梗ちゃんは木下さんと仲が良くリンリンともクラスメイトなので相談を受けたという設定らしい。それは部外者ではないのでは? まあ私も木下さんを保健室へ連れてったから微妙に関係者な気がしないでもない。
桔梗ちゃんはリンリンが兄である会長を敬愛してることとかリンリンの弱点を伝えて作戦の成功率をアップさせてくれたそうな。どうもリンリンのことを退学にさせたくてたっつーと手を組んでるらしい。何故に。女の戦いというやつかこれが。ど、ドロドロしてはりますなあ。
「今回は遠慮しとくよ。桔梗ちゃんとリンリンに嫌われたくないし」
あと放課後は用事ができてしまったのだ。リンリンの土下座を見物に行きたいのは山々だが先約が優先だ。
「……ならいいが。後から文句言うんじゃねえぞ」
「言わないよ、たぶん」
そう告げた私にたっつーはびっみょーな顔をした。