ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
新旧生徒会の交代も無事に終わり。堀北生徒会長は元生徒会長となり、南雲副生徒会長は生徒会長に就任された。その際の伝統を打ち壊す公約の数々と実力主義の学校に変えていく『大革命』の宣言は2年生を熱狂させていたんだけど……うーむ、そう言われてしまうとこう、実力とは何ぞやという感じになっちゃうよねえ。何なんだろうね、本当に。そして生徒会の方も入れてーと打診したらいいよーって感じで南雲会長にOKをもらえ、めでたく私は生徒会役員となった。わーい、パチパチパチ。これで1年は私と一之瀬さんが役員、このままいくと来年度は2人で生徒会長職を争うことになるわけだ。う〜ん、普通にざっくりさらっと負けそうっすよ。
ま、それはともかく。ようやく2学期中間テストの結果発表の日が訪れた。
「それでは貼り出します。みなさん、自分の名前と点数をよく確認してください」
坂上先生がクラス全員の点数の書かれた紙を黒板に広げた。毎度おなじみプライバシー侵害のお時間である。むー、何点かな今回は。普段の試験よりちょっと易しめだったんだよね。体育祭が終わってすぐだったからかな。
点数は悪かった順という普通とは逆の順番なので、私はとりあえず下から上へと見るようにしている。すると下の方に記載されている点数では100点を取ってる人も多かった。むー、すごいな。全体的に下の方に私の名前があった。つまり成績としてはクラスでも上の下くらいだね、うん。
カリカリとシャーペンを動かす音。金田君が成績表を毎回メモしてるのだ。偉い……けど、記録として書かれてしまうのはちょっと複雑な気もち。悪用だけはしないようお願いしませう。
体育祭の影響で点の増減がある人もいたもののクラスで赤点はゼロ。よかったよかった。退学者はなし、と。
「さて。既に何度か告知があった通り、来週、2学期の期末テストに向けて8科目の問題が出される小テストを実施します」
この言葉に、少し明るくなっていたクラスの雰囲気が一気にどよーんとしたものになる。テストが終わってテスト。その後もテスト。うう、疲れるのう。
「小テストは全100問の100点満点、内容は中学3年生レベルのものになります。この小テストは1学期のものと同様、結果が成績に影響することはありません」
1学期のものと同様、ということは。また特別試験関連とかなのかな。
「しかしこの結果は次の期末試験に大きく影響を及ぼします。この小テストの結果を基にクラス内の誰かと2人1組のペアを作ってもらうことが決まっているのです」
「ペア、ですか」
二人三脚を思い出す。けどテストでペアとは何ぞや?
「はい。期末テストはペアが一蓮托生で挑むことになります。8科目各100点満点、各科目50問の合計400問。1日4科目を2日間に分けて行い、欠席する場合には正当性の確認できた場合に限って過去の試験から概算された見込み点が与えられますが、そうでない場合は全て0点扱いになってしまいます」
ペアが欠席するとヤバそうですな、それは。体調管理が今まで以上に重要か。
「普段の試験との大きな変更点として、取ってはならない赤点が2種類と増えています。一つはペアの合計点が60点未満の科目が1つでもある場合です。例えば、京楽さんと伊吹さんがペアだとすると、京楽さんが0点を取っても伊吹さんが60点を取れば問題ないということですね」
先生、私流石に0点は取らないですよ。まあともかく1人30点は取るべきなのか、ふむふむ。
「もう一つはペアの総合点が求められるボーダーを下回った場合です。まだ正確な数字は決まっていませんが、例年は必要な総合点が700点前後となっています」
えーと、2人合わせて700点、全16科目だから1科目あたり平均…………43.75点! なんだ、結局いつもの赤点と大差ないわけね。
「例年っつったな坂上。毎年同じ試験をチンタラやってんのかよ」
「……ああ。今回の特別試験は毎年同時期に行われ、1組か2組の退学者を出している。その大半がDクラスだが、注意したまえ」
あ、なるほどこれが例年行うから情報戦になる特別試験ってやつか。うん、じゃあ後で先輩に話を聞こう。
でも一応先生にも聞きたいことは聞いとくか。
「先生。ペアとボーダーラインは、いつ、どのように決まるのですか」
私の質問に、坂上先生はゆっくりと答えた。
「ペアの決定方法は小テストの結果が出た後に通達されます。ボーダーについてはこの特別試験、通称『ペーパーシャッフル』の特殊性から告知が遅くなってしまいます」
「ペーパーシャッフル?」
疑問の声が上がる。うん、紙を混ぜる? 私もわからん。
「そうです。今回の期末テストでは出題される問題をあなたたち生徒に考え作成してもらいます。そしてそれを他クラスの生徒に出題するのです」
ふむふむ。お互いにテスト問題を作ってそれを解き合う、と。なるほど難しそうな特別試験ね。
「あなたがたが作り上げた問題は私たち教師が厳正かつ公平にチェックします。今みなさんが学習している領域を超えていたり、設問を見ても答えが導き出せないような問題がある場合は都度修正していただくことになりますね」
習ってないところを出しちゃ駄目だし、あとは「たっつーの好きな数字は何でしょう」みたいな答えのない変な問題は駄目ってことね。フェルマーの最終定理を解けとか超難度の問題も駄目なんでしょう。
「問題作成時に誰かに相談するのも、インターネットを活用するのも自由です。特に制限は有りませんし、学校側の容認できる範囲でなら問題の内容は問いません。もちろん問題に関して私に相談しに来ていただいても結構です。数学についてでしたらいくらでもお答えしますよ」
いやじゃ……数学はやりとうない。理系の人が何であんな難しい数式を理解できるのか、文系の私にはさっぱりだよ。ん、そういや文理選択とかってどうするんだろこの高校は。謎い。
「期限終了までに万が一問題と解答が完成できなかった場合、学校側が予め作っている問題に全て差し替えられます。しかしあくまで救済手段ですので、その問題は難易度が低めだと思っていてください」
……なんか先生たち今回ちょっと楽じゃない? いつもの特別試験に比べてやることも少な……くないか。簡単なのとはいえ予備のテストを作るし、テスト問題のチェックもいっぱい持ち込まれそうだし。前言撤回、お疲れです、いつもお世話になっております。
「クラスの組み合わせはどうなるのですか?」
「みなさんが作成した問題をどのクラスに割り当てるか、つまりどのクラスに『攻撃』を仕掛けるかは希望するクラスを指名できることになっています。もし他クラスと希望が被ってしまった場合は代表者を呼び出しクジ引きを行います。来週行う小テストの前日に指名するクラスをお聞きするので、それまでに決めておくようお願いしますね」
確か4月の小テストの平均点ではキャロルのAクラスと一之瀬さんのBクラス(現在Cクラス)はそこまで点差がなく、Cクラス(現在Bクラス)の我々は彼らよりそこそこ低く、Dクラスはもっとだった。うん、Dクラスに攻撃したいところかな。学力の差はどうしようもない。
「他クラスから『攻撃』を受けた場合、迎え撃つクラスは『防衛』する形になります。『攻撃』側のクラスと『防衛』側のクラスで総合点を比べ、勝ったクラスは負けたクラスより50クラスポイントを得ることになるのです。もし『攻撃』と『防衛』が同じクラス、すなわち直接対決になった場合には100クラスポイントが変動します。また、総合点が同値だった場合は引き分けとしてポイント変動がありません」
勝ったらその相手からクラスポイントを奪って自クラスのポイントにできるのか。これは結構大きいな。
「以上で小テスト、期末テストの事前説明を終了します。何か質問があれば挙手を」
教室はしんと静まりかえっている。
「いないようですね。忙しくてたいへんだとは思いますが、みなさんの活躍を心より期待しています」
はーい、頑張ります……できる限り。
先生が去っていく。チャイムが鳴り、今日の授業は終了──と、いうところで。たっつーが前に出てきた。何ぞや。
「部活に行く奴らに言っておく。今回の試験について上級生から聞き出せ。ペアの法則性程度ならペラペラ喋るだろうが……そうだな。俺の予想ではペアは小テストで高い点を取った奴と低い奴が組むとみた。点差が大きい奴と組んでいくってわけだ。それを確認するだけ。簡単な仕事だろ?」
偉っそう。でもまあ、本当に簡単な仕事だ。部活行く人、頑張れ。
「何でそうわかるの?」
「少しは頭を使え。例年、1か2の退学者しか出してねえわけだ。毎年毎年ペアの法則を見抜ける奴ばかりじゃねえ上にこのクソめんどくせえ試験なのに、だぞ? ある程度学力的に問題ない組み合わせになるよう自動的にペアが組まれるんだろ。ま、聞きゃあ済む話だ。行け」
その言葉にいつも移動の速い運動部の人々は普段以上の高速で動きあっという間に教室を出て行った。は、速い……!
「金田、ひより。お前らはさっさと試験問題作成に取り掛かれ。教員側のハードルも見極める必要がある、ギリギリのラインを突け。いいな?」
おお、珍しく正攻法。卑怯じゃない! いや、それが普通なんだけどね。
「わかりました。それでは金田君、ちょうど8科目ですし半分ずつにしますか?」
「はい、それがいいかと」
「では、内容については────」
頭の良い組は問題作成について話し合うようだ。私にお役に立てることはないなあ。だってさ、問題を解くのも一苦労なのに作るのとか無理だって。応援してますよ2人とも……! あ、でも英語の問題ならバーティもお手伝いするのかな。うむうむ、適任だね。
じゃ、帰るかーと思ったら目の前にいるたっつーが私の鞄を掴んできた。おいてめ放せよコラ。
「話がある。こい」
私にはない。やだ。
抵抗
監視カメラがない区画があるため密会御用達スポットとなりつつある特別棟にて、たっつーは唐突に口を開いた。
「振り返れば、幾つも不自然な点があったんだよなぁ」
「何がじゃ」
思い返すように言うたっつーに私はたまらずツッコミを入れる。奴は無視して端末を操作し始めた。音声ファイルが再生されたらしく、聞き覚えのある声が流れる。
「体育祭の作戦会議の声だね。録音してたの?」
「ああ。おまえだろ」
むー、決めつけよくない。
「違うよ……って言ってもお互い証拠もないし、どうしようもないと思うんだけどなあ」
私が体育祭関連で録音したファイルは、木下さんへの50万ポイントをたっつーが作戦失敗しても没収しなかったことを確認した時点で全て消去してある。うん、何も問題はない。
「俺がおまえと決めた。それで十分だろうが」
「いや、暴論すぎるわ」
どないせーっつうねん。反論くらいさせろや。
「鈴音を追い込んであと一歩のところでこれが送られてきた。お陰でポイントを得るどころか土下座を見ることも出来なかったぜ。おまえのことだ、それを読んであの時来なかったんだろ。違うか?」
「あの時は別に用事があったんだよ。それに、その録音が来たタイミングによっては土下座を見れた可能性もあるじゃん。理由にはならないって」
あと一歩のところだった、ってことはリンリンが土下座をしてから録音が届いていた可能性もあるわけだ。うん、だから行こうかちょっと迷ったんだしね。
「真鍋がおまえの名前を吐いた」
「え、ま?」
「…………今のは自供ととっていいよなぁ」
本気で驚いちゃった。まじか、わりときつく言っておいたつもりなんだけど。たっつーめ、何をして話させたんだか。
「バレたなら仕方ない。様式美として犯行の全てを語ってあげよう!」
追い詰められた犯人は犯行についてとか動機とか話してあげなきゃいけないからね。願わくば
たっつーはこめかみに手を当ててため息を吐いた。幸せが逃げちゃうぞ?
「まずね、始まりは船でのことだったんだよ。DクラスのKちゃん──軽井沢恵ちゃんにムカついた真鍋さんが非常階段で揉めててね。たまたま駆けつけた時に彼女たちと幸村君と麻呂君がいたんだけど。ちょっと引っかかることがあったの」
「引っかかること?」
「そ。麻呂君がね、端末を手に持ってて、私が来るとさり気なくしまってたんだよ。まあその時はそこまで気にしてなかったんだけど……寮に帰ってからアルバム作りのために真鍋さんたちに写真をもらおうとしたら、態度がかなり不自然でさ。ビビッと来ちゃったんだよね」
「『船』『写真』のワードに反応し怯えてたってわけか」
私は頷く。うん、目撃者の一人だったわけだしね私は。そりゃあ真鍋さんたちも「こいつ、わかってて写真の話題を出したのか?」と気が気じゃなかっただろう。勘違いだったんだけどなその時は。アルバム作りたかっただけやでワイ。正直Kちゃんのこととか忘却の彼方だったもん。
「それでさり気なーく聞き出してみたらいじめ現場の写真と暴力振るった時の録音を盾に脅されてるって教えてくれたんだ〜」
「何がさり気なくだ。暴力でも使ったんだろテメエは」
使ってない。ただちょっと彼女たちの前でフレッシュなりんごジュースを作りたい気持ちになったから実演してあげただけだ。平和的だなあ。たっつーとは大違いだね!
「この学校はいじめには厳しい対処をするって言われてるからね。学校にバレたらどうしようってすごく怖がってたよ」
「おまえにびびってたんだろ」
しつこいぞたっつー。
「それで、この写真及び録音を公表されたくなければ……って感じで。体育祭のお知らせがあった後にクラスのスパイをやらされてたんだよ、真鍋さんたち。だから可哀想だなって思ってちょっと手伝ってあげたの」
「具体的には何をした」
「そうだな。この脅迫者、仮に『X』としよう。Xの要望はうちのクラスの作戦を知ること。会議の録音とか、あとは参加表も一応送ってたっけな。ま、龍園君は締切後にしか教えてくんなかったから参加表を手に入れてもそんなに意味はなかったと思うけど」
体育祭前日の夕方に参加表を入手しても、うちのクラス……というかたっつーの作戦に変更がないかの確認くらいしかなってなかっただろう。
容疑者X! うん、かっこいいね。写真撮ってた張本人だし体育祭後にメール送ってたしで何となくカピバラ麻呂な気はしてるんだけど、まあ私がそう思ってることは言わないでおいてやろう。たっつーが犯人探しする楽しみを奪うのも可哀想だしね!
「その録音をしたのも真鍋さんだと思うし……私が直接したことといえばあの学校全体での顔合わせの後にたっつーがキリッと『いい機会だ。この体育祭で鈴音を徹底的に潰す』とか私とひよりんと金田君の前で語ってた時の録音を提供してあげたのくらいだよ。何回かスパイ行為についての相談は受けたけど、うん、ほんとそんくらい」
後は作戦失敗した際、足を怪我しちゃった木下さんが報酬をきっちりもらえないと可哀想なので未払いだったら彼女への暴行時の録音とかと引き換えにたっつーにポイントを支払わせようとしてたけど、大丈夫だったからね。木下さんにあげたポイントを「返せ」とかも言ってないし。たっつーもしかして意外と太っ腹? いや、私のイメージするたっつーがケチすぎただけか。
「……これで俺が退学する羽目になる可能性は考えなかったのかよ」
「そこまでたっつーが追い込まれたら、自爆覚悟で学校側にメールと通話記録の開示まで要求して意地でもXのもとまで辿り着こうとするでしょ? それがわからないXじゃあない」
でもまあ退学するところまで追い詰められた場合、たっつーが最後にどうカピバラ麻呂に一矢報いるかにも興味があるしね。正直どっちでも良かった。
「おまえの口ぶりからしてXの見当はついてるんだろ」
「彼あるいは彼女の周到さから判断してのことだよ。たっつーと考え方とか似てるし。でもそうだなあ、真鍋さんたちの写真を撮ってたのは麻呂君だから、彼か彼に近しい人ではあるだろうね」
「本命は綾小路だな。だが、俺たちのクラスの弱みとなる写真を撮った綾小路が黒幕に意見を求めたという筋書き。もしくは非常階段では隣にいた幸村が綾小路に指示を出して写真を撮らせていた可能性……絞りきれねえな」
そこは安直にカピバラ麻呂=黒幕(X)でいいと思うんだけどなあ。たっつーって頭が回るが故に考えすぎるとこあるよね。
「どうせメール等のやり取りは消してあるだろうが、真鍋たちにも話を聞く。その上でおまえの処罰は考える」
「え、これから話を聞くって……もしかしてたっつー私にカマかけた!?」
「世の中騙される方がわりいんだよ、バカが」
おまえだって迂闊にも録音されたくせに! 作戦筒抜けだったくせに!
そう思ってたらたっつーは不機嫌そうに言い放った。
「今度からおまえを入れて作戦会議する時は端末没収、あとボディーチェックするからな」
「えー、人権侵害だ! 横暴だ!」
「俺はおまえを人とは思っちゃいねえ」
じゃあ何だと思ってるんだよ。種族:ククリちゃんなのか私は。
(当たりは車、ハズレはヤギらしい)
中庭、花壇。水やりをしている坂上をククリが手伝う、というのは決して珍しいことではない。しかしそうなると途切れずに話題を提供するのはなかなか難しい。
何かないか、と思いついたのは数学に関する事柄だった。
「京楽さんはモンティ・ホール問題を知っていますか?」
「ホール……穴か広間、でしょうか」
「いえ、モンティ・ホールは人名ですね。アメリカの番組に出たクイズ、その司会者の名前です」
坂上の狙い通り、クイズという単語にククリは目を輝かせていた。
「では、3つの扉を思い浮かべてください。これらをA、B、Cと名付けましょう。このうち1つが当たりの扉、2つがハズレの扉とします」
ククリは同じドアを3つ、頭の中で並べた。
「A、B、Cから一つ選んでください」
「じゃあ、Aでお願いします」
「はい。ここで、正解を知っている私が、ククリさんの選択していない2つの扉からハズレの扉を1つ選んで開きます。ここではCにしましょうか」
「となると、AとBが残りましたね」
ふむ、とククリは考えながら言った。坂上が頷く。
「はい。さて、今でしたらBに選び直しても構いませんが、京楽さんはどうしますか?」
「ええと、AでもBでも確率は半分ずつで、変わらないのではないでしょうか?」
直感的にそう答えたくなってしまうのは坂上にも分かる。しかしながら、ここは異なるのだ。
「いいえ。この場合、Aが当たりである確率は三分の一ですが、Bに変えると2倍の三分の二になるのですよ」
「え?」
ククリの脳内が疑問符で埋め尽くされる。
「確かに、私がランダムに扉を開けたのであれば、京楽さんの考えるように、AもBも確率は変わりません」
「坂上先生がハズレの扉を選んで開けたかどうかが重要、ということですか」
「ええ。それぞれのケースを考えてみましょう」
坂上はコホンと喉の調子を整えた。
「京楽さんが選んだ扉を必ず変更するとして、Aが当たりだったとします」
「最初に決めたAは当たりだった。でもBに変更するので、結局ハズレちゃいますね」
ククリがしょんぼりとした顔になる。坂上は苦笑した。
「残念ながらそうなってしまいますね。では、次にBが当たりの扉だった場合」
「AからBに選び直すので、当たりになります!」
満面の笑みを見せるククリに、坂上も微笑み返した。
「その通り。最後に、Cが当たりであった時」
「坂上先生が開くのはハズレの扉じゃないと駄目ですから、この場合だとCでなくBを開けることになりますよね?」
「ええ。そして京楽さんはAからCを選択し直すので、当たりの扉だったということになります」
これで3通りあるうち、2回は当たりを選べている。つまり、AからBに変更すれば当たる確率は三分の二だ。逆に、Aから変更しないと1回しか当たりが出ないので三分の一となる。
「わあ、すごく面白いけどややこしいですね」
納得できるのになんかこう、とククリは複雑な表情だった。
「数学は面白く美しいものですよ。楽しんでもらえたのであれば嬉しいです」
「はい、ありがとうございます!」
ハキハキと喋るククリだったが、少し思案して「でも……」と力なく告げる。
「体重計の数字だけは、好きになれそうにありません……」
「それは……私も、あまり……」
龍園を筆頭とした荒っぽい雰囲気の生徒を受け持つ坂上はジムに行こうかと考えた時期もあったが、すぐに諦めていた。どうも向いていないように感じたのだ。
生徒に殴られそうになるなんて事態に陥れば、鍛えている真嶋はともかく自分は震えることしかできないだろう、と情けなくも冷静に坂上は思った。