ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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医者は人間を弱いもの、弁護士は人間を悪いもの、牧師は人間を愚かなものと見る。

「お邪魔しまーす」

 

 今日の私は朝からルンルンご機嫌である。なぜなら──

 

「Good morning!」

 

 バーティの部屋にお呼ばれしたのだ。えへへ、あっさごっはんー、あっさごっはんー。

 

 テーブルの近くに座ったら、すっとサンドイッチが出された。わ〜い、いただきまーす! 

 

 美味しいぜ!とありがとう!の意味を込めてパチっとウィンクすると、サムズアップを返された。意思の疎通ができてるのかわからないけど、まあ伝わってると思おう、うん。

 

 はぐはぐしているとさらなる来訪者が登場。この招かれざる客の名はたっつー。卑怯にも昨日、私を騙して情報を得た奴である。むー、あれだな。たぶん真鍋さんたちの様子が最近ちょっとおかしかったのに気づいてカマをかけてきたんだろうな。

 

「法則は正しい。上級生どもから確証を得た」

 

 サンドイッチを食べながらお行儀悪くしゃべるたっつーの言葉に、お上品な私は口を開かずに頷いた。よかろう、続きを話せ。

 

「忘れてたぜ。ほら、端末を寄越せ」

 

 私の信用度ゼロだな。まあいいや、暗証番号は変えてるからどうせロック解除はできないし問題ないだろう。

 

 渡したらボディーチェックっぽいことされた。そこまでするか貴様。ボイスレコーダーなんて持ってないよ今は、だから安心しろよ。

 

 …………たっつー、もし私がペン型とかUSB型のボイスレコーダー持ってたら気づくかなあ。うーむ、気づきそうだよなあ。ちっ、他の手段を考えるか。

 

「よし」

 

 調べ終わって満足したらしく話が再開される。ねえこれ毎回やるの? いちいち面倒くさいんだけど。

 

「ペア決めの法則はシンプルだ。クラス全体で見た時、最高得点と最低得点の所持者がペアを組む。次が2番目に成績が良い奴と悪い奴、ってな感じの繰り返しだ。例えば100点と0点の奴、99点と1点の奴がペアになる」

 

 お、バーティがコーヒー()れてくれた。ありがたい。

 

 うーん、砂糖はいいや。ミルクだけもらうよ。

 

「普通にやってもある程度問題はねえだろうが、中3レベルのテストだとバカが点を取っちまう事故が起きる可能性もある。金田が今までのテスト成績を全てメモったノートを借りた、ここから分析してクラス全員を振り分けとけ」

 

 美味しいね。これどこで買ったやつ? 

 

 ……あー、あそこのお店かあ。いいね、私も今度行ってみるわ。このマグカップも同じ店で買ったの? そかそか、私も新しいの買おっかなあ。

 

「聞く気ねえだろテメエ」

 

「大丈夫、聞いてるって。あれでしょ、成績上位者と下位者の振り分け。あとは中間層も得意科目とかで多少の調整をして理想のペアを考えて、小テストの点の取り方を決めてく。それでいいんでしょ?」

 

「……正解だ。ほら、受け取れ」

 

 金田君のノートをもらった。パラパラめくるとみんなの点数が赤裸々に書かれている。色んな意味で取り扱いに気をつけないとな、これ。

 

「真鍋たちからおまえの話の裏付けは取った。そこからおまえに下す罰を決めた」

 

「うん、何?」

 

「40万」

 

 40万? プライベートポイントかな。

 

「俺が体育祭で木下の代理を立てるため学校へ払ったのが40万、木下へ払った報酬が50万。計90万を失ったわけだ」

 

 そうっすね。コクリと頷く。

 

「まあ見抜けなかった俺の失態でもある。だから40万、これがおまえの借金だ」

 

「借りてもいないのに!?」

 

「うるせぇ。何もポイントで支払えっつってるわけじゃない。その分の働きはしろってことだ」

 

 あー、はいはい。今回の木下さんにあげた報酬みたいなのの前借り的な感じで扱われるってことね。うー、面倒くさいなあ。

 

「真鍋さんたちには何かあるの?」

 

「今はなしだ。あいつらの様子が変わればXに勘付かれる可能性があるからな。今まで通り過ごさせる」

 

 後で何かやるのね。南無南無。

 

「わかった。それで、クラスの指名の方はどうするの? やっぱりDクラス狙い?」

 

「おまえはどう考える」

 

「そうだね、まずは他クラスがどうするか考えるかな。Dクラスはまず間違いなくうちを指名してくるよね」

 

 Dクラスは学力的に考えるとこれから猛勉強したところでキャロルのいるAクラス、一之瀬さんのいるCクラスには勝てないだろう。普通に点数勝負するならDクラスはうちのクラス相手にしか勝利の目はない。学習意欲の低さ、勉強できる人の少なさという欠点を我々とDクラスとは抱えている。

 

「一之瀬さんたちのクラスは希望的観測も含めるとAクラスを指名してくれると思うな。あそこはDクラスとは仲良くやってるみたいだし、うちのクラスは敵に回すと嫌がらせとか妨害行為をしてきそうで怖い。それにAクラスに学力で勝てる可能性があるのはあそこだけだからね。Aクラスを落とそうと思うなら自分たちが戦うしかないってわかってるはずだよ」

 

 たっつーは無言のままだ。特に反対意見はないらしい。

 

「ただなあ、Aクラスは読めない。確実にクラスポイントをむしり取るためにDクラスを指名するかもしれないけど、うちのクラスを指名しても一之瀬さんたちのクラスを指名してもおかしくない。体育祭でのポイント減少のおかげでうちと一之瀬さんとこはクラスポイントが肉薄してるからね。どっちを潰しても利益にはなるし」

 

 クラスポイントは特別試験だけでなく毎月の遅刻欠席などにも左右される。うちのクラスの生活態度は……うん、お察しの通りなんだよねえ。たっつーとかたっつーとかたっつーとかのせいで。

 

 そういった日頃の行いによる微々たるポイントの積み重ねというものは、もしかしたら今やAクラスよりも一之瀬さんたちの方が得意なのかもしれない。ともかく、Aクラスとしては自分たちを追いかけているクラスのどちらかを潰せればいいと思っているだろう。Dクラスはクラスポイントとして下にいすぎるけど、確実な勝利を望むなら相手として悪くはない。

 

「ああ。坂柳次第だな」

 

 体育祭でも3位という不甲斐ない結果に終わり、葛城君はAクラスでのリーダー争いに敗れたと言っていいだろう。このペーパーシャッフルでは間違いなくキャロルがクラスの指揮を執る。

 

 キャロルの考えで行くならば。カピバラ麻呂と遊びたければDクラス、たっつーと遊びたければうちのクラス、単に学力勝負をしたいのならば一之瀬さんたちのクラス、といったところかな。できれば一之瀬さんとこに攻撃してほしいところだけど……うん、わかんないなあ。

 

「そう考えるとAクラス対一之瀬さんクラス、うちのクラス対Dクラスの直接対決同士が一番組み合わせ的に理想なのかな。んー、やっぱあれだね、Dクラスにスパイがいるってのは強いしね。他クラスにスパイを作るのは無理ゲーだし、そうなるとDクラスになるのかなあ」

 

 私の言葉に、たっつーはちょっと考えるポーズを取ってから口を開いた。

 

「俺としても鈴音との勝負を、そしてXを引きずり出すのを楽しみてぇしな。Dクラスへの指名が1番だろうな」

 

「じゃ、決まりだね。ん、あ、でも、桔梗ちゃんをどう使うの? スパイってことはリンリンにバレてるわけだからテスト問題を見せないようにするよね当然。桔梗ちゃんは頭良いけどテスト問題作りに絶対必要ってほどじゃあないし……Dクラスの人の情報をもらうくらいしかできなくない?」

 

「まず考えたのは俺たちが作った問題を桔梗に提出させるって作戦だ。これならいくら鈴音が自分たちの作った問題を隠そうとしようが意味ねえだろ」

 

 な、なるほど! 金田君とひよりんにはDクラスがうちのクラスに出す問題をも作らせて、Dクラスである桔梗ちゃんにクラスで作った問題と偽らせて提出させるんだね。そうすれば私たちはその答えを共有するだけで試験を楽々乗り切れる。なんたって出る問題が何なのか、丸々わかってんだもんね。

 

 うちのクラスがDクラスに出す問題の方も作らなきゃいけないから金田君とひよりんは他クラスの2倍たいへんになっちゃうけど……あ、だからたっつーは昨日の時点ではやくテスト問題作成に取り掛かるよう命令してたわけだ。

 

「やっぱ頭いいねえ、たっつーは。うん、それなら後は他クラスとDクラス指名が被らないことを祈るしかないかな」

 

「その件だが、今回のペーパーシャッフルについてはクラスの統制をおまえにやらせる。俺はX探しに注力したいからな」

 

「いや、特別試験にちゃんと取り組めや」

 

 なんだよこのやる気ない奴。容疑者Xよりテスト頑張ろうよ、テスト。学生の本分は勉強だよ? 

 

「10万ポイントの借金減額を設定する。報酬をやる以上、大前提として裏切りはなしだ。いいな?」

 

 ……んー、もし誰かが10万以上で私を雇おうとしても裏切っちゃ駄目かなあ。

 

「万が一別の奴から接触を受けたら俺に言え。それ以上の額にしてやるからよ」

 

 ちっ、考えが読まれていたか。

 

 まあ、うん、今回の特別試験は下手するとクラスメイトから退学者も出してしまうだろう。それは可哀想だし、真面目にやるとするか。

 

「わかった! 私の名にかけて今回の特別試験では変なこと絶対しないって誓うよ」

 

「今回も、にしろ」

 

「前向きに検討するね。でもさ、X探しの方は私、手伝わなくていいの?」

 

 てっきりそっちをやらせようとしてくるかと思ってたのに。

 

「俺の手で探すからこそ楽しいんだろうが。おまえが必要になればその時は連絡する」

 

 なんか屈折してるなあ。まるで恋い焦がれる人を見つけ出そうとしてるみたい。カピバラ麻呂とたっつーの恋愛か…………う、うーん、まあ、いいんじゃあないかな? 応援するよ、うん。

 

「了解!」

 

 私がにっこりと笑うのをたっつーは胡散臭そうに見つめた後、ようやく端末を返してくれた。んー、ま、クラスのために頑張りますかね! 

 

 

 

 

 ポチポチと端末上で将棋を指してると、普通に詰まされた。うぐ、負けた。これで何連敗だろ……。すかさずチャットが入ってくる。

 

 

【なかなか面白い対局でしたよ】

 

【嫌味かな?】

 

【いえ、ククリさんの考えは奇想天外ですから。読めない、というのは興味深いものです】

 

 

 褒められてる気がしない。むー、まあいいや。

 

 

【今回の特別試験、どこ攻撃するか決めてる?】

 

【ふふ、そうですね。ククリさんがこの試験について何を思っているか、それを教えてくれたらこちらもお話ししましょう】

 

 

 んー、ペーパーシャッフルについて、ねえ。

 

 

【最初に思ったのはこれはクラス間のポイント変動のみであって、学校側からポイントを与えられることも減らされることもない試験は初めてってことかな】

 

【はい。これからはこのタイプの特別試験が増えるかもしれませんね】

 

 

 うん。ポイントを与える特別試験が多いと学校側の財政を圧迫してしまう。学年で総合してのクラスポイント数すらも変わることのない、今回のような形の方がやりやすいだろう。

 

 

【退学者を絶対出さない単純な攻略法としては、互いのクラスが出す問題を見せ合って全員が満点を取れるようにする。後は1たす1は?みたいな誰でも解ける問題ばっかのテストにするのもいいね。問題の難易度の上限はあれど下限はないから。全クラス全員満点で引き分け、むっちゃ平和的!】

 

【特別試験を完膚なきまでに無視するやり方ですね。面白いですが、賛同者は少ないでしょう】

 

【だよねー。みんなクラスポイント欲しいよねぇ】

 

【ええ。元々学力のあるクラスにとっては旨味の少ない、むしろマイナスになってしまう話ですから】

 

 

 Aクラスとか他クラスと普通に戦って勝てるからな。勉強なくて済むというメリットはあれど、クラスポイントを手にできる機会をみすみす逃したりはしないか。

 

 

【後ははじめから負ける前提で取引を行う、とかも考えたけど。たっつーが無人島でやったのと同じ感じのやつだね】

 

【クラスポイントを差し出す代わりにプライベートポイントを、ということですか】

 

 

 直接対決したとして、100クラスポイントが移動する。その代わりのプライベートポイントを寄越せと交渉するのだ。負けるやり方は自分たちのクラスが全てのテスト問題を見せるのに対し、相手側は70点程度のぶんまでしか開示しないとかなら退学を防ぎつつも綺麗に敗北を迎えることができるだろう。

 

 

【でもこれもどのクラスも取引してくれなさそうだよね】

 

【以前のDクラスでしたら可能性はあったかもしれませんが、今のDクラスでしたらはねのけるでしょう。私のクラスは条件が上乗せでもされなければその取引には応じられません。一之瀬さんも同じでしょうね】

 

 

 でしょうなあ。

 

 

【そうなると正面衝突しかないから、うちのクラスはDクラス指名しか選択肢がない。あっちもこっちを指名するだろうね】

 

【分かりました。ありがとうございます】

 

【こんくらいわかってて聞いてるでしょうに】

 

【ふふふ。それでは私もお答えしますね。Aクラスは現在攻撃対象については意見が分かれています】

 

【クラスの意見じゃなくて、あなた様の意見を聞きたいんだけどな】

 

 

 クラスの総意なんて彼女がいくらでも塗り替えられるに違いない。

 

 

【ククリさんたちのクラスを指名すると決めた、と言ったらどうしますか?】

 

【やめてほしいって必死になってお願いするよ】

 

 

 少しメッセージが途切れる。提示する条件でも考えてるんだろうなあ。怖いから先手を打とう。

 

 

【ショーを特等席で見るチケット、とかじゃ駄目かな】

 

【なるほど。それは魅力的ですね。そこまで連れていってくださるのですか?】

 

【うん。だから今回は一之瀬さんとこを指名してほしいですお願いします】

 

 

 土下座する白うさぎのスタンプを送る。返事はすぐに来た。

 

 

【いいでしょう。ただ、あちらがククリさんたちを指名するかもしれませんけれども、大丈夫なのですか】

 

【一之瀬さんとは生徒会で一緒だからね。南雲会長がいる時にそれとなく会話を振って、Aクラスへ挑むよう誘導してもらうよ。あの人は一之瀬さんが負けて傷つくのがお好みのようだしね】

 

 

 よかった。これでDクラスとの直接対決にできることがほぼ確定した。

 

 

【それを聞いて安心しました。ところで】

 

【うん?】

 

【雑談になりますが、ククリさんは完全なる善というものをどう思いますか】

 

 

 何だ何だ。道徳の授業みたいな話題が来たぞ。前のたっつーの話といい、流行ってるのかしら。

 

 

【そうだなあ。そもそも善悪とは何かって問題になっちゃうけどさ】

 

 

 うーむ、と考える。難しいのう。

 

 

【例えばバスでお年寄りに席を譲った。美談だね。でももしその後交通事故で偶然その席に座ったお年寄りだけ死亡したら? たまたまその席に爆弾が仕掛けてあって爆発したら? バスジャックが起きて席に座ってる人が人質に選ばれたら? 結果から見るとあの時席を譲らなければ、という話になってくる。つまり完全なる善とは言えないわけだ】

 

 

 ここまで極端な話じゃなくとも、足腰を鍛えるためにわざと立っているお年寄りもいるだろうし、あるいは座ってから立つほうが辛いから立ったままのほうが楽という人もいるだろう。何が正解なんてのはわからないものだ。

 

 そういえばカピバラ麻呂が桔梗ちゃんとリンリンとロックと同じバスに乗ってこの学校に来てて、その時も一悶着あったって言ってたっけ。確かロックが優先席にドカリと座ってるもんだから「お年寄りに譲れ」ってOLのお姉さんに声をかけられそれに反論してたとかなんとか。見物してみたかったな。

 

 

【面白い喩えですね】

 

 

 肯定でも否定でもないただの相槌。こうした高齢者や障がい者、女子供は社会的弱者と言われることも多いが、彼女はどう考えているのだろうか。尋ねる前に、水を向けられた。

 

 

【善悪を問うならば、カルネアデスの板なども興味深いかと。如何でしょう?】

 

 

 ふむ。船が難破し、どんぶらこと海で漂っていると、舟板が流れてきたのでしがみついた。2人以上がつかまれば沈んでしまうような板だ。しかし他の人もこの板にしがみつこうとしてきたので、自らの命を守るために突き飛ばした。これで相手が溺死してしまったとして、果たして罪に問えるか。『緊急避難』の例としてもよく用いられる話だ。

 

 法律上、緊急避難が成立すれば無罪となる。ただ、殺人だと非難囂々(ごうごう)になっても仕方ないと、そう思う人が大半ではなかろうか。

 

 かといって自分から板を譲る、あるいは2人一緒に沈んでもいいなんて考えを浮かべる聖人君子は少ないだろうし、それにしたって善と言い切れるかどうか。譲ったら譲ったで譲られた側が罪の意識に苛まれるかもだし、2人とも死ぬのが正解とするのも釈然としない。

 

 

【そういう事態に陥らないよう救命具の確認やシミュレーションを、とは思うけど】

 

【何にせよ偽善か、偽悪か、その両方かで片付いてしまいそうな気がするな】

 

【フフ。そうですね、私も完全なる善など信じていません】

 

 

 じゃあ何故に聞いたし。んー、ああ、一之瀬さんのことかな。完全なる善人って感じがするもんな。

 

 

【あんまりやりすぎないであげてね】

 

【彼女とそう親しい仲でしたか?】

 

【うーん。私まだ生徒会の仕事覚えきってないから、彼女に今退学されちゃうと困るんだよ。やるならもうちょいあとにしてほしい】

 

【そうでしたか。分かりました、善処しましょう】

 

 

 ………………善処、してくれるといいなあ。

 

 私は祈った。南無三! 

 

 

【ああ、忘れていました。私の贈ったチケットについては考えてくださいましたか?】

 

【んー、あれかあ。たっつーに言われたのがあって、増やさなきゃ無理っぽいんだけど】

 

【多少でしたら融通を利かせますよ】

 

【ありがとう、ちょっと答えはまた今度にさせて】

 

【はい。いつでもお待ちしています】

 

 

 

 

 

(朝、登校中)

 

「あれ、麻呂君。おーはーよっ」

 

「おはよう。ククリはいつもこの時間なのか?」

 

「ううん、わりと適当だからまちまちだよ。今日はね、アメリカーノをゆったり味わってから部屋を出たの。まあチルドカップだけどね。んー、そうだ! 麻呂君はアメリカーノとアメリカンコーヒーの違い、知ってる?」

 

「アメリカーノはエスプレッソ(専用の器具を用いて抽出する濃い珈琲)にお湯を加えて薄めたもので、アメリカンコーヒーは浅煎り珈琲だよな」

 

「そうそう、両方ともアメリカ人の好みだからって話らしいね。急行(エスプレッソ)アメリカ人(アメリカーノ)はイタリア語で、アメリカンコーヒーは和製英語だけれども……あー」

 

「どうした?」

 

「アメリカで思い出しちゃった。なんかね、ロックは中学時代に射撃練習したんだってさ」

 

「そういう派手なのが似合うな、高円寺には」

 

「うん、同意。そういや麻呂君もちっちゃい時にニューヨークやハワイで家族旅行云々とか言ってたような気がしないでもないけど、撃ったりはしたの?」

 

「いや、銃を扱った経験はない」

 

「そかそか。結構面白いよ、銃も。たとえば映画とかだとカップ&ソーサーなんて呼ばれる支えるほうの手は下から握るやつが多いんだけど、これだと発砲する時の反動の制御(リコイルコントロール)が難しいから、今はサムスフォワードとかサムスロックダウンとか横から握る形が主流、だとか」

 

「詳しいな。ククリは射撃経験があるのか?」

 

「んっんー、秘密ってことにしておこうかな。女の子はミステリアスであるべきでしょ?」

 

「そんなことせずとも十二分にミステリアスだと思うぞ……」

 

 

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