ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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未だかつて、自分が幸福だと感じた人間は一人もいなかった。もしそんなのがいたとしたら、きっと酔っぱらってでもいたのだろう。

「刮目せよ!」

 

 小テスト前日。6限のHRの時間を坂上先生からいただいた私は、教壇に立って堂々と宣言した。

 

「明日の小テストについて、皆さんに話さなければならないことがあります」

 

 重々しく話す私に皆の視線が集中した。いいねいいね、この雰囲気。

 

「まず、ペア決めの法則。これはもうみんな理解してるよね?」

 

 部活の先輩とかから聞いた人々がクラスメイトには共有しているはずだ。グルリと教室を見回すと皆頷いていた。よしよし。

 

「そして、それに合わせてペアの組み方を操作したいと思います。つまり明日、小テストで何点を取るべきかっていうことだね」

 

 金田君にノートを返しに行った際、組み合わせ方法について大丈夫かどうか相談した。ひよりんにも確認を取った。抜かりはない! 

 

 2人とも問題作成を頑張ってた。お疲れ様です。たっつーは何かこそこそやってた。君、明日の小テスト大丈夫? 

 

 私は黒板に紙を貼り出した。

 

「ここに書いてある通り、成績がちょっとかなり不安なこの10人は明日の小テストでは名前だけ書いて提出して。大丈夫、坂上先生は成績に反映されないっておっしゃってたし、0点を取ってもデメリットはないから」

 

 石崎君たち成績下位組が嬉しそうに顔を輝かせる。つかの間の休息を味わえよ。明後日からは期末テストに向けて勉強漬けにさせるからな。

 

「逆にこっちに書かれた成績上位10名には満点を目指す勢いで受けてほしいです。具体的には……最低85点以上くらいかな」

 

 問題は簡単めらしいから大丈夫なはず。私は期待の眼差しで彼らを見つめた。信じてるよ、みんな! 

 

「中間層20名については2パターンに分けて、当日の問題状況によって判別します。1つ目が10人ずつで分けるパターン。こっちだと10人が50点ぶんくらいの問題を解いて、10人が2,3問程度しか解かないようにする。2つ目がもっと細かく5人ずつに分けるパターン。この紙に書かれてある通り、5人が7割を、5人が5割を、5人が3割を、5人が1割を、ってくらいに解くパターンね」

 

 10人のグループも5人のグループも成績及び得意不得意科目を考えて理想的な配置にした、つもり。まあ最悪、中間層は猛勉強すりゃどうにかなるっしょ。

 

「ただここまで細かく点数を調整できるような問題かはわからないから、そこは金田君に判断してもらいます。具体的には小テスト開始してちょっとして金田君がシャーペンを落としたら10人パターン、何も起きなければ5人パターン。だからこの20人は金田君の言葉をちゃんと聞くようにしてね」

 

 金田君が問題をざっと見て点数調整が難しいと思えばシャーペンを落として『先生、シャーペンを落としてしまいました』と言う。本当に簡単な問題ばかりだったら何もしない。

 

「もし事故で金田君が普通にシャーペンを落としちゃったとしても、その時は無言のままだから。金田君がしゃべってるかしゃべってないかで判別してください」

 

 まあ、金田君ならそんな凡ミスはしないと思うんだけどね。一応よ一応。

 

「以上が私の決めた方針なんだけど……質問、もしくは反対意見がある人はいるかな?」

 

 澪を見る。口パクでお疲れ様って言ってくれた。優しい。

 

 ひよりんを見る。にこにこ微笑まれた。かわいい。

 

 金田君を見る。眼鏡をクイッと上げた。たぶんOKのサインだろう。

 

 たっつーを見る。さっさと次に進めろって感じの目をしてるような気がした。むー、少しは(ねぎら)えや。

 

 とりあえず特に誰も何もないらしい。うむうむ、ならばよし。

 

「それじゃあ後は対戦相手についてだね。以前から言っていたようにDクラスを『攻撃』対象として指名しようと思うけど、これについて反対の人いる〜?」

 

 まあもしいたらどうやってDクラス以外に総合点で勝てるのかについて作戦を発表した上での反対意見にしてほしいけど。ぜーったい正攻法じゃ無理だからね。

 

 しかも指名が被らないように頑張ったからなわしゃあ。今更クジ引きチャレンジになるのは遠慮したい。

 

「いないね! じゃあ坂上先生にそうお伝えしておきます。みんな、小テストで上手くやっていい感じにペアを組もう!」

 

 えいえいおー!と私は左腕を上げた。

 

 

 §§§

 

 

 翌日。張り詰めた空気の中、坂上先生はプリントの束を手に話し始めた。

 

「それでは、これより小テストを行います。しかしその前に一つ、みなさんにお伝えしておきます。今回の期末試験での指名についてですが、全クラスの指名が被ることなく承認されました」

 

 どうやら予定通りにいったみたいですな。よかったよかった。

 

「つまりみなさんはDクラスと直接対決という形になります」

 

 理想的な組み合わせ。文句が出るはずもない。安堵のため息を漏らす私たちへと坂上先生は厳かに告げた。

 

「どうやらみなさん、いつもとは顔つきが異なるようですが……くれぐれもあとで後悔することのないよう、真剣にテストと向き合ってくださいね」

 

 こちらが不安に思うような言い方。おそらく生徒に揺さぶりをかけるよう学校側から指示を受けているのだろう。うーん、意地悪だなあこの高校は。

 

 少し慌てた感じの人もいるような雰囲気の中、ふてぶてしい声が聞こえた。

 

「坂上。さっさと始めろ」

 

 普段はアレだけど、こういう時は頼りになる態度だ。何も変わらないたっつーの姿にみな平常心を取り戻したらしい。

 

 先生は軽く頷くとプリントを配り始めた。渡されたそれを後ろへ回し、自分のぶんをすぐに裏にする。

 

「小テストといえどカンニング行為にはペナルティが科されます。注意してください」

 

 この学校では中間、期末試験でカンニングをすれば退学処分が下される。まあ赤点取ったら即退学だもんな。今回の小テストも成績には反映されないもののだからといってカンニングを認めるわけにもいかないんだろうね。ペナルティと言っている以上、退学ほど重い処分じゃあないでしょうけど。

 

 チク、タク。チク、タクと静まり返った教室に時計の音がよく響く。

 

「始めなさい」

 

 プリントをひっくり返した私はすごく驚いてしまった。ものめっそ簡単な問題ばかりだったのだ。たぶん高学年なら小学生でも解ける。どんなに成績の悪い人でも60点はかたい。これはあらかじめ取るべき点数を決めてなきゃ大惨事になってたかもな。

 

 もちろん点数調整も容易いこの小テストの間中、金田君がシャーペンを落とすこともなく。私たちは迷いなく個々の目標値を達成すべく取り組んだ。

 

 

 

 §§§

 

 

 小テストはつつがなく終了して次の日、10月19日。4限を迎えると早くもその返却が行われた。私もだいたい思い通りの点数を獲得。よきかなよきかな。

 

「それではこれより、期末テストに向けたペアの発表を行います」

 

 坂上先生によって返ってきた小テストの結果、並びにペアの組み合わせの書かれた紙が貼り出される。

 

 うんうん、成績上位者と下位者のペアになってるし、中間層もほぼ予定通り。私の采配は正しかった! ククリちゃん偉い。みんなもお疲れ様。

 

 私のペアは、というとあんま話したことない男子だな。振り返って笑顔で手をふると軽くペコっと頭を下げた後に顔を青くした。え、何どうしたの君。なんかバンジージャンプの前に怖気づく人みたいな震え方してんだけど。

 

 彼の視線の先にはたっつーが。しかしたっつーは普通に前を見ていて、特に彼に対してアクションを取ったわけでもなさそう。んー? ま、いっか。

 

「この結果を見るに、みなさん小テストの意図に気付いていたようですね。もはや説明は不要でしょうが、ペアは点数の最大点と最低点の差が広い生徒から順に組まれ、点数が等しく同じである場合にはランダムで選ばれることになっています」

 

 感心した様子で言う先生にえっへんと私は胸を張った。でもよく考えたら最初に法則に気づいたのたっつーだったわ。私ほぼ何もしてないや。一応南雲会長にも法則聞いて確かめたくらいしかしてないね。

 

 改めてこの特別試験についての説明がなされ、余った時間はクラスの話し合いに使っていいと言われる。私は再び教壇に立った。

 

「特にペアに問題はなさそうだね! みんな、ご協力ありがとう」

 

 とりあえず一礼しておく。お辞儀は大切。古事記にもそう書いてある。

 

「今回の特別試験、ペーパーシャッフルにおいてはとにかく勉強が大事! まあ龍園君にも作戦があるみたいだけど……でもここで学力をつけておいて損はないと思うの」

 

 私はみんなにやる気を出させるべく手持ちのカードを切ることにした。生徒会役員には情報が入ってくるのだ。

 

「ちゃんと聞けたわけではないんだけどね。南雲会長ってほら、実力主義の学校にするって言ってたでしょ。あれ、勿論学力とかも含んでるみたいなんだよ」

 

 個人の力を重視するやり方。そこには当然個人の学力も入ってくる。今勉強しておかないと、この先に困るのは自明の理だ。

 

「つまり?」

 

 誰かが声を上げる。

 

「これからの特別試験とかでも学力は問われるの確実ってこと! ううん、学生の本分である以上はもっともっと比重が大きくなるかもしれない。だから勉強、一緒に頑張ろう!」

 

 これからどんな特別試験があるかはわからないけど、またペーパーシャッフルみたいなのになるかもしれない。どのみち継続した学習は必要なのだ。

 

 学力の高めな生徒や得意科目の成績が良い生徒を前に集める。1科目だけなら人に教えられるという人も少なくはない。ひよりんと金田君は問題作成で忙しいため、基本的な勉強はできる限りこちらで回しておく必要があるもんなあ。

 

 まあ、それに。人に教えることでより覚えやすくなるというもの。お互い教師役になるのは個人的には面白くて好きだ。勉強はわかると楽しくなってくる、というのの一例だと思う。

 

「んーと、じゃ、勉強会を開くとして──」

 

 話し合いの結果。

 

 部活のない人とある人とで午後4時から6時まで、午後8時から10時までの2時間ずつに分けて勉強会を開く、ということで決着がついた。各回成績上位者が1人はいるようにローテーションを組む。ここにひよりんと金田君も時間があれば加わってくれる、と。私もまあ生徒会で行けない時以外は全部参加することにしませう。

 

 自由参加ではあるものの成績下位者は義務付けだ。うん、少しでも点数を上げれるようにしようね。

 

 場所についてはカフェや図書室、教室なんかが候補に挙がり。とりあえず今日は前半組が教室、後半組が図書室でということに。勉強しやすい場所といえばまずここいらだしね。妥当っしょ。

 

 うむうむと満足していると、授業終了のチャイムが鳴った。

 

 昼休みに入ったので、私は朝買ったお惣菜を持って食堂へと向かう。いつも通り山菜定食山菜抜きを食べませう。

 

 

 

 

 

 放課後。生徒会会議も終わり────生徒会はテスト期間や一部の特別試験等を除き、週に1度集まっては様々な議題を持ち寄って(とはいっても生徒会主導で行うものは基本的に南雲会長の思いつきでのスタートである)話し合っているのだ────部屋を出ると、端末に連絡が入っていたことに気づいた。

 

 

【ケーキが、無理っした!】

 

 

 石崎君からだ。私も理解が無理なんすけど。ちょっと考える。

 

 んー、はいはいあれか。たっつーの誕生日ケーキか。明日だもんな誕生日。10月20日。

 

 

【ケーキ無しでもいいんじゃない?】

 

 

 素晴らしい解決方法だ。うん、私もね、プレゼントはちゃんと用意してやったからね。買ったけどやっぱ使わねーなこれっていう感じの小物なんかをたくさん押し付け……じゃない、再利用……じゃない、まあプレゼントしてあげるからね。たっつーの殺風景な部屋にはね、ドリームキャッチャーとかさ、何か色々と置くのがいいと思うんだよ。善意善意。ククリちゃんは優しいなあ。

 

 石崎君からの返信は早かった。暇なのかおまえ。だったら勉強しろ。たぶん成績、学年でも最下位争いするくらいな自覚、あるよね……? ちょっと不安になる。

 

 

【でも……俺たち、龍園さんにドラゴンケーキをどうしても渡したくて……!】

 

 

 ぶふっ、と吹き出してしまった。え、ちょ、何ドラゴンケーキって。ドラゴンが描いてあるの? 君の注文したかったものがどんなものか気になって仕方ないんだけど。

 

 うーん、ケーキかあ。よくわかんないけど石崎君の求めるものは特注しなきゃいけなかったんだろう。そりゃあせめて1週間前くらいには注文してなきゃ無理だよ。まあ最近忙しかったし仕方ないかもしんないけどさ。

 

 

【普通にケーキ買うのは駄目なの? それか自分で作るとか】

 

 

 石崎君はともかく、バーティとかなら作れるかもしれない。そう思って提案してみると、泣き顔のスタンプが送られてきた。あーもう面倒くさいなあ。

 

 

【俺たちは、龍園さんに立派なドラゴンを……差し上げたいんだ!】

 

 

 そういうのありがた迷惑って言うと思う。いや、ありがたくもない気がする。というか立派なドラゴンとはなんぞや。

 

 うーむ、と時計を見る。まだ6時過ぎ、勉強会開始まで時間はある。

 

 

【とりあえずパレット集合ね。直接話そう】

 

 

 チャットのやり取りだとまどろっこしいわ。

 

 校舎の1階にあるカフェ『パレット』では当日のレシートを持っていくとコーヒー2杯目半額という素敵なサービスを行っており、ケーキなんかも色々と置いてある。人気のカフェだし勿論私も好きだ。

 

 階段を下り、廊下を歩いてたどり着いたパレットにはカピバラ麻呂がいた。今は敵同士なので軽く手を振るにとどめておく。

 

 ……カピバラ麻呂。カピバラ麻呂。何かが引っかかる。Xの話、とかではなく。うーん、何だっけか。

 

 カピバラ麻呂のテーブルには兎さんグループで一緒だった幸村君、夏休みに知り合った弓道部の三宅君、後は100メートル走で同じレースだった長谷部さんもいた。男3人に女子1人と少々異色の組み合わせだけど……まあ、単に勉強会だろうな。幸村君は確か学年でも成績上位の生徒だし。テスト問題をリンリンと協力して作ってそうな人だよね。

 

 邪魔してもあれなので遠くの方に座るかと空いてるとこを探すと、別の席にいる佐倉さんがチラチラとカピバラ麻呂たちの方を窺っていることに気づいた。青春の香りがする。そうか、カピバラ麻呂と一緒に勉強したいんだな。うん、長谷部さんも女子一人よりやりやすくなるだろしいいと思う。頑張れ、行けー。攻めろー! 

 

 心の中で声援を送りつつ席に着く。むー、しかしあれだな。カピバラ麻呂モテモテじゃん。佐倉さんにぃ、桔梗ちゃんにぃ、リンリン……はちょっと微妙か。一之瀬さんとも兎さんグループでわりと仲良かったよなあ。キャロルにもバッチリ目をつけられてるし。堀北元生徒会長にもなんか好かれてる。あ、あとたっつーにもめっちゃ執着されてるよね。カピバラ麻呂はすごい愛されキャラだなあ。

 

 石崎君たちがやって来てコーヒーを差し出してくれる。うむ、苦しゅうないぞ。話を聞いてやろう。語れ。

 

 ふむふむ。どうやら彼らはたっつーの誕生日という一大イベントを特別なケーキで祝いたいらしく、他のケーキ屋にも電話して聞いてみたりしたもののどこもドラゴンケーキを作ってはくれなさそうだったらしい。

 

 …………なしてドラゴンケーキって発想に至った? 

 

 彼らにとってドラゴンは格好いいものであり、たっつーは格好いい存在であるからしてドラゴンが良いらしい。わからぬ。あれだよ、絶対おまえら修学旅行とかでドラゴンが剣に巻き付いたキーホルダー買ってただろ。

 

 まあ無理って言われたもんはしゃーない。どうしてもドラゴンしたいなら自作するっきゃないっしょやっぱ。料理部の子とかに頼んでみたら? 

 

 そう話すとうなだれた。既に断られたらしい。ほーん。

 

「じゃあもうバーティに頼みなよ。優しいからきっとOKしてくれるって。和食好きではあるけど、料理上手だからたぶんケーキでもレシピがあればなんとかできると思うし」

 

「分かった。アルベルトと話してみるわ」

 

「うん、そうして。一緒に頼みに行くくらいならするからさ」

 

「マジ? サンキュ、助かる」

 

 悪いけど作る側に参加する気はない。元からケーキあげるつもりもなかったしね。

 

「それで、京楽は龍園さんの好きな食べ物とか知ってるか? どうせ作るなら好物を入れてあげたいしな」

 

 たっつーの、好物。たっつーの…………何だろ。今までのたっつーの行動を思い返す。いつも口にしてるものというと1つしか思い浮かばないね。

 

「水」

 

「それ生きるの必要だけどよ、違うだろ!」

 

 特に炭酸水が好きだと思うよ、うん。他の好物は知らん。ちなみに人ってね、水を一滴も取らないと5日程度で死んじゃうらしいよ。豆知識。

 

 ってかあれじゃん、もし私が納豆とか言ってたらケーキに納豆入れるのか? む、スヴィーズかくさや、マーマイト、あるいはドリアンとでも言っておくべきだったか。失敗した。

 

「まあ雑食だから何でも食べたと思うよ」

 

「そりゃあ、雑食ではあるだろうけどよ……」

 

 好き嫌いはたぶんなかったはず。無人島サバイバルも一人で頑張って乗り切ってたし……ん、海といえば、そういや貝類が苦手だったような気がしなくもなくもないけど、まあいいか。ケーキには関係ないでしょ。

 

「あ、それと京楽。明日の放課後は生徒会の仕事ないんだよな?」

 

「? うん。そう毎日行かなきゃいけないってほどでもないからね。勉強会に参加しようと思ってるよ」

 

「待て待て待て。頼むから予定を空けといてくれよ」

 

 えー、何でー? あ、お誕生日会開きたいのね。うーん、まあそれなら楽しそうだし参加してやらないこともない。『本日の主役!』って書かれたタスキをかけるたっつーとか想像するだけでおもろい。

 

「わかった。明日は不参加って伝えとくよ」

 

 ちょうど勉強会の話になったので、石崎君たち成績悪いこの3人にも何をやるべきか説明する。うえって感じの嫌そ〜な表情になったけど、たっつーのためなんだ、やらにゃたっつーに叱られるぞと言ったらしぶしぶ頷いた。どんだけ勉強嫌いなんだよ貴様ら。

 

 ケーキのレシピや材料を買える店なんかを調べたりとかしてちゃんと決めていく。よし、じゃあおつかいもバーティに頼んどいてやるから、後は明日早起きして男子どもで頑張ってケーキ作れ。私はポイントだけ出してやるよ。

 

 晩ごはんも済ませ、時間も頃合いになってきたので今日の勉強会の開催場所、図書室へと彼らと共に移動する。おら、さっさと歩けよてめーら。いつもよりスピード落ちてんぞ。

 

 図書室はいつもより多くの人々で机が埋められていた。試験勉強をしている人が大多数に見える。

 

 図書室では何となく学年ごとに席の区分がなされており、私たち1年生は入口近くのエリアを使用する。むー、上級生になったらフリードリンクのそばの席を使うんだい! 

 

 ひよりんがいたのでその周辺の席に座る。うむうむ、今日の勉強会は午後4時から6時までは金田君が仕切ってくれてたみたいだけど、これから始まる午後8時から10時までの方はひよりんが参加してくれるみたい。ありがてえ。

 

 ひよりんは嬉しそうに本を読んでいる。彼女が愛読する人物の本は校内の本屋等では手に入りづらいらしく、お取り寄せになってしまう。だったら個人で購入するよりみんなが読めるようにしたいからと図書室でリクエストしてたら、新しい本が入荷したらしい。よかったねひよりん。

 

 利用者が多いためか図書委員らしき人も忙しそうにしてた。うーん、図書委員も腕章ほしいよね。今度南雲会長に全委員会腕章付与計画でも話してみるか。

 

 勉強道具を取り出し始めていくと、クラスメイトが次々とやって来て近くに着席した。全部で15人くらい、かな。初日としては上々だろう。

 

 軽く方針なんかを話したら後は自由に勉強したり教え合ったりしてもらう。小声での会話はあるとはいえ、図書室という静かな空間。流れるクラシック音楽が私たちの耳を楽しませていた。ベートーヴェンの交響曲第6番『田園』。穏やかで明るい感じの曲だ。

 

「あちらは、どうしますか?」

 

 ひよりんの視線の先にはDクラスの人々。須藤某やリンリン、桔梗ちゃん、平田君、Kちゃんなどがいる。どこも勉強会を、と考えることは一緒らしい。他にも部活終わりらしき生徒や平田君目当てっぽい女子たちが参加していた。

 

「そうだねえ。お互い勉強中は近づかないのが1番、かな」

 

 こういう時に喧嘩を売ってきそうな須藤某はリンリンに隣で教えてもらってデレデレしてるようだった。お、恋模様に新たな一石が投じられたようだ。なるほどなるほど、須藤某はリンリンのことが好き、と。……あれ、たっつーはリンリンとカピバラ麻呂だとどっちの方が好きなんだろ。リンリンはカピバラ麻呂と仲良しだし。ややこしいな。

 

 Dクラスは女子が少々騒がしいがこっちの男子もうるさい。だがお互い注意を受けるレベルではないし、変に話しかけにいく必要もない。

 

 特に滞りなく勉強会は進んでいった。

 

「んー」

 

 座ってばかりだと疲れるし、図書室には参考書も揃っている。いくつか借りようと立ち歩いて本棚を見ていると平田君とKちゃんのカップルも同じく本を探しているようだった。勉強してる最中ではないしいいかと声をかけてみる。

 

「どう? 勉強会。順調?」

 

「まずまずってところかな。京楽さんたちは?」

 

「出だしは好調、って感じ」

 

 完璧イケメンの平田君は対応もそつがない。ククリでいいよ、と言おうとしてふと気づいた。そういえばこの人、石崎君とか男子でも仲良い人多いけど、誰のことも名前で呼んでないな。彼女であるKちゃんも「軽井沢さん」だし。んー、もしかして人を名字でしか呼べないタイプ? ククリちゃんとの相性悪しですな。

 

 ちらりとKちゃんの方を見やると図書室という場所であることを差し引いても普段より何だかおとなしめだった。ああ、真鍋さん関連か。私もKちゃんがいじめられて過呼吸ぽくなってるとこ見たしな。うん、納得。

 

 でもそういえばKちゃんはどういう立ち位置なんだろ。体育祭では変な動きはしてなかった気がするけど、カピバラ麻呂と仲良しなんだろうか。真鍋さんたちがKちゃんに手出ししないよう端末で証拠写真とか────端末。カピバラ麻呂。

 

「あっ」

 

 思い出したぁ! めちゃスッキリしたわ。

 

 いきなり声を上げた私に2人は不思議そうな目を向けてきた。すまんすまん。

 

「どうかしたわけ?」

 

「ううん、ごめんね。ちょっと今思い出したことがあっただけで……ほら。2人はもう知ってるかもだけど、明日は綾小路君の誕生日でしょ?」

 

 チャットのプロフィール欄見て驚いたんだよなあ。たっつーと同じ日なんだもん。すごい偶然だよねえ。

 

 そう話す私に2人は驚いた顔を見せた。およ、知らんかったんか。カピバラ麻呂、誕生日はアピールせんと損やぞ。

 

「それ、本当?」

 

 Kちゃんが疑り深く聞いてくる。

 

「うん。チャットにあったもん」

 

「そうだったんだね。気付けなかったな……ありがとう京楽さん」

 

 笑顔でお礼の言葉を口にする平田君。うーん、爽やかだなあ。彼のことだ、明日クラスでカピバラ麻呂を祝ってあげるに違いない。よかったねカピバラ麻呂。いやー、いいことしたな私! 

 

 

 

「うみぃ……あんな、眠いし冷えるし夜は嫌なんよ」

 

 勉強会も無事終わり、寮に帰った後。私は1階のロビーまで下ってきていた。

 

 既に22時を回ってる。はやくお風呂に入ってゴロゴロして寝たいんじゃあ。

 

 夜ということでロビーにはもう他に人はいない。自販機があるので買いに来る人が降りて来るかもだけど、まあここで話すってことは別に聞かれてもいい内容なんだろう。

 

「勉強会、何かあったか?」

 

 私は話した。つっても後半戦だけしか行ってないし、大したことはしてないけど。Dクラスが勉強頑張ってたよー、と言うとニヤニヤしてた。うーん、絶対なんかする気だぞこいつ。

 

「クラスポイントも少しは大切にしてよ。龍園君のおかげでちょいちょい減ってってるんだから」

 

「うるさい」

 

 むー、だったら問題行動起こすなや。やるならバレないようにやれし。いくらプライベートポイント重視してるからってなあ、クラスポイントだって重要やろがい! 

 

「そういや石崎たちがすがりついて来たのはおまえの仕込みか?」

 

「知らないよ。何でも私のせいにする、よくない。どんなこと言われたの?」

 

「昼休み屋上にってのと放課後は空けとけってのだ」

 

「そ。たまにはお昼一緒に食べたり、放課後遊んでほしいんじゃないの」

 

 屋上は年中開放されている。しっかりとした柵と防犯カメラがあるかららしい。それにまあ、不人気スポットだしね正直。静かにお昼ごはんを食べれることだろう。つかぞろぞろ不良どもが来たら誰でも場所を移動するわ。

 

「了承してあげたんだ。優しいじゃん」

 

「ぎゃーぎゃーぴーぴーしつこかったんだよ」

 

 石崎君たちの粘り勝ちらしい。その根性をぜひとも勉強で見せてほしい。

 

「そうだな。俺も遊んでやるか」

 

 たっつーはふと思い出したように端末を操作し始めた。誰かと遊ぶ約束でも取り付けるのかな。

 

「何してんの?」

 

 好奇心のままに聞くとメールの送信画面を見せられた。体育祭でXに送られたメールへの返信。本文は【おまえは誰だ?】の一言。夜中いきなりこんなの送られるカピバラ麻呂可哀想。

 

 うーん、確か「Who are you?」っていもむしさんがアリスに言うシーンがあったよね、不思議の国のアリスで。それでいくとたっつーはいもむし。カピバラ麻呂がアリスか。む、いもむしさんはキセル咥えてたし似合うかも。まあ健康な不良であるたっつーはタバコは吸ってなかったはずだけどさ。

 

 ともかく、話も終わったみたいだから部屋に帰るか。ソファから立ち上がる。

 

 あ、そだそだ。

 

「ちょっとフライングだけど。お誕生日おめでとうたっつー。おやすみ」

 

 虚をつかれたような顔になるたっつーを見て、ドラゴンケーキの代わりにパイ投げでも提案すればよかったかもと思いつつ私はエレベーターに乗り込んだ。

 

 

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