ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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才人は、誰も射ることのできない的を射る。 天才は、誰にも見えない的を射る。

 時が経つのは早いもので、全部活休止期間に入った。期末試験の足音が刻々と近づいてきている。うー、憂鬱ですな。生徒会会議もテスト期間や一部の特別試験のときは休止するのだけど……11月下旬には修学旅行があるらしく、南雲会長たち2年生は学校を留守にするのだ。もしその時期緊急の案件が生徒会に入ってきたら、私と一之瀬さんで対応しなければならないことを考えると気が重い。

 

 11月に入ってからもうちのクラスはぎりぎりBクラスを保持。まあかなりクラスポイントが近いのでちょっと何かあればまたCクラスに戻る位置にいる。

 

 とはいえ教室が変わるとかではないのでBクラスという名称でもお隣さんはDクラスであるわけでして。ばったりとDクラス所属の彼女、桔梗ちゃんと遭遇した。

 

「おはよっククリちゃん」

 

「おはよう、桔梗ちゃん。寒くなってきたねぇ」

 

「そうだね。あ、ククリちゃんタイツにしたんだ〜。いいね、私もタイツ穿()こっかな」

 

 うむうむ、スカートの下にジャージを穿くなんてのは校則で禁止されてるからね。タイツで防寒するしかないのじゃ。にしても笑顔の桔梗ちゃんはマイナスイオンを発生させてる気がするなあ。天使だ。大天使クシダエルだ。

 

 しかしこんな愛くるしい笑みを浮かべながら実は……とその裏事情を知る身としては、面白いやら悲しいやらびっみょーな気持ちになるというものである。何かこう、ソーセージの皮って動物の腸で出来てるんだぜって知った時の気持ちに近いかもしれん。あの時はなんかどう表現していいかわからんけどすごい衝撃を受けた。

 

 まあそれはさておき。桔梗ちゃんの暗躍はほぼ終了しているので、彼女が何をやったのか私の知る範囲で説明しよう。

 

 まず彼女はたっつーの誕生日の夜にコンタクトを取ってきたらしい。何でもその日、リンリンと桔梗ちゃんは堀北元会長を証人にしてある賭けをしたんだとか。その内容は期末試験での数学の点数勝負。リンリンが桔梗ちゃんの点数を上回ればその後桔梗からのリンリンへの妨害行為は禁止。逆だったらリンリンは自主退学を申し出る。同点だった場合は無効。

 

 だからうちのクラスが作った数学の問題文と解答が欲しい、というのが彼女のオーダーだった。たっつーはこれを承諾。代わりに桔梗ちゃんが担任である茶柱先生にたっつーが渡した問題をDクラスの問題として受理させることとなった。

 

 たっつーは言葉巧みに桔梗ちゃんを説得したのだ。きちんと練られた立派な問題を先に提出してしまえば、第三者からは桔梗ちゃんが裏切ったのかどうかあやふやにできるし、Dクラス側の問題作成者たるリンリンは桔梗ちゃんのことを話せず平田君もクラスの内紛を恐れてことを公にはしないと予想される。さらに言えばリンリンが自主退学する際に「問題を流出させた責任をとって退学する」とでも噂を流せば完璧だ、とかいった具合に。

 

 桔梗ちゃんへの問題の提供並びにそれをDクラスの問題として受理させることと、その見返りとしてうちのクラスの数学の問題と解答を教えてあげることは、金田君とひよりんが頑張って問題を作り上げてくれたため既に終了している。お疲れ様っした。

 

 桔梗ちゃんは提出の際、たっつーからの指示で茶柱先生に次のようなことを言ったそうだ。Dクラスの問題文と解答が漏洩しないよう秘密を守ってほしいので、勝手にすり替えようとする人物が現れた場合には受け取るだけ受け取って保留にしておき、さらに後日誰が訪ねて来たか教えてほしい、と。こうしておけば後は保留にさせておいた問題を回収すれば済む。

 

 さらに桔梗ちゃんが自分の提出した問題はきちんと受理されたかを確認したら、茶柱先生は「受理された」と答えたそうだ。先生が嘘つくのはたぶん……たぶんないだろうから、きっと大丈夫……なはずだろう。頼むぜ茶柱ティーチャー! 

 

 リンリンがこのテスト問題先出し作戦にいつ気づくかというのが重要になるが、たっつーの計算では気づいた頃にはもう遅いという状況になっているらしい。これには特別試験の仕組みが関わってくる。

 

 えーっと、まず今回の特別試験では問題の『審査』と『受理』の2つがあるのだ。『審査』は期末試験前週の木曜日まで何回でも何枚でも行っていいという決まりだ。まあそうでなくちゃ問題作成できないよね。で、問題の難易度やらのチェックが行われて、ここを直さないと駄目だよーとかいう指摘とともに返される。

 

 『受理』は『審査』とは別口になり、受理してほしいという旨を担任に伝えて渡さなくてはならない。勿論その提出した問題に異常がないかの確認が必要なものの、基本的に審査を通ったものが受理に出されるので形式的なチェックということになる。まああれだ、この受理段階で()ねられたら教員の作った予備テスト(難易度低)に差し替わっちゃうからな。当然だろう。

 

 受理の締切は期末試験前週の金曜の16時までと告知されてるけど、その変更は18時までなら可能だ。何故分けたしと思うもののまあ学校側の温情なんだろうね。ともかく受理された問題文を変更することはできるが、それを持ち込んだ生徒が直接その意向を教師に伝えなければならない。

 

 慎重な性格のリンリンはおそらく期限ギリギリ、締切日の放課後に『受理』を行う。そしてたっつーの作戦に気づくとしたらこの時なわけだ。だからたっつーはリンリンをストーキングしてその様子を確かめ、桔梗ちゃんはこの日は居場所を掴めないように端末の電源も切って逃げるらしい。うん、頑張れよ。それで大丈夫だったらうちのクラスは解答丸暗記体制に入ると。

 

 リンリンが退学になってもいいの?と聞くとたっつーはどちらに転んでもいいようだった。奴はどうもリンリンを屈服させたいらしい。へー。ただまあXの隠れ蓑になっているリンリンが退学するとXはどう動くかを知りたい気持ちもあるそうだ。へー。

 

 だからたっつーはこのテスト問題先出し作戦が成功してたらリンリンにも数学の問題と解答を送りつけるつもりとのこと。期末試験前日くらいに。なるほど、そうすれば2人とも百点になって引き分け、賭けは無効となるわけだ。

 

 でもリンリンの連絡先知ってる人ってうちのクラスにはいないんじゃあ、桔梗ちゃんに聞くわけにもいかんしと言うと「おまえが綾小路にでも送っとけ」と一刀両断。人使いが荒い。

 

 たっつー的には桔梗ちゃんはそろそろ切り時だったので裏切るのは全然OKらしい。テストの受理期間後なら桔梗ちゃんがたっつーの裏切りを知ったところで手の打ちようがないしね。やだなこいつ。信頼できないやつナンバーワンだよ。

 

 リンリンがたっつーの送りつけた問題を見て百点を取れば、彼女がたっつーの慈悲(笑)に屈したということになり。リンリンが問題を見ずにテストに挑んで桔梗ちゃんに負ければ、桔梗ちゃんの裏にいるたっつーに負けたということになるんだとさ。性格悪いなあ。

 

 うちのクラスはたとえテスト問題先出し作戦が失敗になろうと桔梗ちゃんから聞いたリンリン・平田君・幸村君の分析をもとにして傾向と対策を考えて勉強しているため総合点でDクラスに勝てる、はず。ロックとかカピバラ麻呂が本気出してきたらどうしようもないので私は諦める。もともと勉強とかより力仕事のが得意なんじゃよワイは。

 

 ぽけぽけ考えてると桔梗ちゃんが私の顔を心配そうに覗き込んで来た。ふぐう、マイナスイオンが、空気が浄化されていく……! 

 

「あれ、大丈夫? 何かぼーっとしてるけど……体調とか悪いのかな」

 

「ごめん桔梗ちゃん、ちょっと考え事してて。大丈夫、ありがとう!」

 

 天使のような微笑みの裏に、悪魔のような悪意を隠している。桔梗ちゃんは一粒で二度おいしいなあ。

 

「そっか、よかった。もうテスト近いもんね」

 

「そうなんじゃあ。もう勉強一色だよね、みんな」

 

「うんうん。私たちも勉強会でみっちり勉強してるよ」

 

 桔梗ちゃんは勉強会でもクラスの中心人物として場をまとめたり、色んな人に勉強教えたりして頑張ってるのをよく見かける。流石ですな。これでクラスを裏切ってなければ完璧美少女なのに……やはり世の中完璧な人間など存在しないということなのだろうね。

 

「うちのクラスにも秘策があったけど使えなくなっちゃったんだよね〜」

 

「えっ、私敵なのにそんなこと言っていいの?」

 

「たぶんDクラスでもやれないと思うから問題ないよ。むしろ桔梗ちゃんに聞いてほしいな」

 

 そう、あれはとても悲しい出来事だった────

 

「私、全クラスメイト眼鏡計画っていうのを考えてね。眼鏡屋さんにカタログもらってね、計画書とかも作ってね、龍園君にもOKもらったんだよ」

 

「そ、それは……すごいねっ」

 

 そこまでは順調だったんだ。そこまでは。

 

「でも、クラスメイトに話したら……みんな、みんな、別に伊達メガネいらないってかむしろ邪魔って感じの雰囲気になったんだよ!」

 

「…………えっと、それは、うん、残念だったね」

 

 みんな気を使って「いや別にかけてもいいんすけど、試験当日だけとかでいいっすか?」となったので私はもう計画ごと廃棄することにした。そんなしぶしぶかける眼鏡なんていいんです〜。もっとノリノリでやってほしかったんだよぉ。みんなで眼鏡キラ~ン☆ってしたかったの! 

 

「あ、だからククリちゃん時々伊達メガネかけてたのかぁ」

 

「うむ。一人だけでもと思って」

 

「そっかそっか。可愛いからオシャレかなーって思ってたらそんな事情が。でもそうだね、確かに他クラスがいきなり全員眼鏡かけてきたらちょっとびっくりしちゃうかも」

 

「だよね、インパクトあるよね! ありがとう桔梗ちゃん、わかってくれて」

 

 絶対楽しいと思うのに。ぶー。いいんだ、生徒会の腕章の作成の方は進んでるからいいんだ。

 

 南雲会長もこれについてはノリ気なのだ。たぶん堀北元会長に見せたいんだろう、自分の作った新たな生徒会を。

 

「あ…………」

 

 そう思っていると丁度きれいな黒髪の少女がこちらの方へと歩いてきていた。元会長の妹であるリンリンはちらっとだけこちらに目を向けるとそのまま無言でDクラスの教室へと入っていく。彼女を見た桔梗ちゃんは小さく声を漏らした後、やや悲しげに微笑んだ。

 

「ククリちゃんはもし誰かと喧嘩、ううん、意見が合わなくなっちゃった時ってどうすればいいと思うかな?」

 

 彼女の中で答えはもう決まっている。私がどう言ってもそれが揺らぐことはないだろう。だからたぶんこれは小芝居、今後のための工作の一つと思われる。あれっすね、桔梗ちゃんは自分がクラスの裏切り者だって私が知ってるってことを知らないからなあ。ややこしやー、ややこしやー。

 

「んー、そうだね。好きなだけぶつかり合う、かな、私の場合。やるだけやっちゃえばお互いすっきりできると思うから」

 

「なるほど〜。さっぱりしててククリちゃんらしいね」

 

 桔梗ちゃんは笑顔で頷くと、礼の言葉を口にした。うーむ、心の中では実際何を考えているのやら。少し気になる。リンリンを退学にまで追い込みたい理由も不明だ。たっつーも知らないらしいし。

 

 個人的には、桔梗ちゃんが堀北元会長を慕っているので妹であるリンリンをひどく敵視しており排除したがっている、あたりが面白そうなのだけどどうなんだろうなあ。何かすごく少女漫画にありそうな展開。

 

 それじゃ、と可愛らしく手を振る桔梗ちゃんに、私も振り返してから教室へと入った。

 

 

 

 

「んー、終わったぁ」

 

 チャイムが鳴り、6限が終了した。全ての授業が終わった解放感に何となく伸びをしてみる。

 

 今は部活がある生徒もいないので、みんなやるだけやろうと放課後の勉強会は時間も特に定まっていない。ただし成績下位者は最低2時間が義務付けられている。石崎君とか、と思ったら教室から既に立ち去っていた。授業終わったばっかなのに素早い行動。後でちゃんと帰って来るんですよー。

 

 図書室も当然混雑するため教室での開催ということに決まっている。基本的にみんな自席でそのまま行うので、私はさっそく勉強を始めた。うう、生徒会メンバーみんな成績良いからなあ。私も頑張らねばまずいんじゃあ。

 

 授業の復習をしたり、他の人に教えを請うたり、金田君たちが作ったプリントを解いたりと皆好き好きにやっており、黙々と励む人もいれば多少のおしゃべりを交える人々もいたり様々だ。私は半々タイプ。とりあえず黙ってやると決めたぶんを済ませつつ、わかんないとこがあったら誰かに聞いたり逆に聞かれたりとそこそこしゃべってる。

 

 4時を少し回った頃。ガラリと教室のドアが開いた。うちのクラスの場合、襲撃だとか道場破りとかなんか荒っぽいイベントが起きることを考えてしまうのだけど、普通にクラスメイトだった。というかたっつーだった。もっと静かに入って来い。

 

 後ろには石崎君、小宮君、近藤君、と何となく一緒にいることの多いトリオが揃っていた。ついでに言うと全員成績はあまりよろしくない。勉強しに来たのかね? 歓迎するとも。

 

 しかし教室の雰囲気はというと、途端にみんな黙り込みまさにお通夜といった状態になってしまっていた。やべえ、誰一人喋ろうとしねえ。先程まで響いていたシャーペンをカリカリと動かす音もピタリと止んでいる。私は仕方なく口を開いた。

 

「どうかしたの、龍園君」

 

 たっつーはニヤニヤしている。いつも楽しそうだなこいつ。そろそろおまえも勉強しろし。いや、実は寮でコソコソ勉強してたりすんのかな。どうなんだろ。

 

「来い、京楽」

 

 端的な一言に、私は反射的に返した。

 

「どこに?」

 

「カフェだ」

 

 わお、カフェとかたっつーには全然似合わない場所じゃん。図書室よりかはマシかもしんないけど。あれよな、たっつーはコンビニの前で座ってカップラーメン食べるとか似合うと思う、すごく。

 

 でもまあ奢ってくれるのかもしれない。なら行こう。そう考えた私はとことこ付いていこうとして、一つ重大なことに気づいた。

 

「石崎君たちも一緒に行くの?」

 

「不服か」

 

 私は頷いた。決まってるじゃないか。

 

「どうせ教室戻ってきてくれたんなら勉強会参加して欲しいんだけど……」

 

 石崎君たち3人はたっつーを見た。奴は少し考えてから言った。

 

「石崎は残れ」

 

 小宮君と近藤君は連れて行くらしい。ま、石崎君の成績がダントツ悪いからな。しゃーない。

 

 石崎君はしょんぼりと捨てられた子犬のような目をしていた。大丈夫、また教室戻ってくるからさ。荷物あるし。

 

 

 ハイ・ホー、ハイ・ホーとたどり着いたそこはケヤキモールの中のカフェだった。てっきりカフェというと学校併設のパレットかと思っていたので意外である。こちらはいつもならこの時間だとそこまで混んでいないはずなんだけど、やはりテスト前かつ部活停止期間だからだろう、試験勉強してる人でほぼ満席に近い状態になっていた。

 

 いそいそとレジに並ぼうとした私の首根っこをたっつーはガシッと掴んだ。何故君たちは私の首元を攻撃してくるんだ。だからお守りの紐が引っ張られるんだって。せめて腕とかにしてくれよ、掴むならさ。

 

 奴はそのまま偉っそうに店内、席のある方へと進んでいく。えー。何か買ってよ。

 

「場所は?」

 

「あそこっす!」

 

 舎弟のような態度で小宮君が指し示したテーブルには見知った顔の4人がいた。カピバラ麻呂、三宅君、幸村君、長谷部さんという前にも見たメンバーだ。どうやらあの中の誰かに用があるらしい。って、前と同じく遠くの席に佐倉さんもいるな。ちょっとストーキングっぽ、いや可愛い女の子のやってることだからセーフだね、うん。

 

 ズカズカとたっつーが歩いていく。待って待って。

 

 近づくにつれ彼らの会話が聞こえてきた。

 

「────よし、お代わりしに行こうかな」

 

「また砂糖どっさり入れるのか? あんな激甘、俺だったら一口でギブだぜ」

 

「私としては、みやっちみたいにブラック飲む人の気持ちのほうが理解できないけどね……っと、ととと」

 

 立ち上がろうとした長谷部さんが少し躓き、プラスチックカップを床に落としてしまう。

 

「あ、ごめ────」

 

 コロコロとこちらに転がってきたので、拾おうとしゃがんで右手を伸ばしたらカップごとたっつーに踏まれた。ひどい。僅かに残っていたらしく中身がこぼれて床を汚してしまっていた。

 

「やめてよたっつー、今手を怪我したら大変じゃん」

 

「おまえ逆でも書けるだろうが。ま、そんなことはどうでもいい」

 

 よくないやい。謝れよ私とカップさんに。

 

「混雑中につき同席を希望したくてな。俺らも入れてくれよ」

 

「何、あんたたち……」

 

 長谷部さんに睨まれてしまった。どれもこれもたっつーのせいである。ポストが赤いのも電柱が高いのもたっつーのせいに違いない。

 

「初めまして、京楽菊理と申します。これ、カップどうぞ」

 

「え。あ、ありがとう」

 

 ティッシュで水滴を軽く拭いてからカップを渡してあげる。むー、床もちゃんと拭くべきなのか。面倒だから店員さん来てくんないかな……お、目が合った。よしよし店員さん掃除に来てくれた。あざますっ。

 

「こちらはクラスメイトの龍園翔君です。後ろにいるのが同じくクラスメイトの小宮君、近藤君になります」

 

「いや、名前は知ってる。こっちは紹介してほしくて言ったわけじゃねえよ」

 

 三宅君にツッコまれてしまった。クスン。親切心だったのに。

 

 しょんぼりする私をよそにたっつーは辛辣に言い放った。

 

「おまえに用は無い。俺の興味の矛先はそっちの2人だ」

 

 幸村君と麻呂君のほうを見るたっつー。台詞だけ聞くと告白っぽく感じなくもない。

 

「贈り物は届いたか」

 

「一体何を言っている……?」

 

 贈り物と謎の発言をするたっつーに私はピンと来た。なるほどね。

 

「あれか、もしかして龍園君が誕生日プレゼント贈ったの? 先月麻呂君の誕生日あったもんね」

 

 勢いよく首を横に振るカピバラ麻呂。稀に見る機敏な動作だ。激しく否定してるとこを見るに違うっぽいね。

 

「じゃあ幸村君に?」

 

「そんなわけあるか。そもそも俺の誕生日はもう過ぎた」

 

「あ、そうなんだ! それは申し訳ない。んーと、じゃあ1つ耳寄り情報を。実はね、麻呂君と龍園君ってね、誕生日が────」

「うるせぇ京楽、一旦黙れ。話が進みやしないんだよ」

 

 ペチッと頭をはたかれた。ぶー。

 

「おい龍園。前々から言いたかったんだけどな、そういうのはいい加減やめろよ」

 

 み、三宅君……イケメンだ、イケメンがおる……! 何て紳士的な人なんだろうか。

 

「事実の指摘と必要な仕置きをしたまでだ」

 

 三宅君は言葉に詰まった。あれ? もっとかばってくれていいんだよ? 視線を送るも、申し訳なさそうに顔ごと逸らされた。悲しい。彼はたっつーのほうへ向き直って話を続ける。

 

「ともかく、龍園。俺たちは勉強中なんだ。冷やかしに来ただけなら帰ってくれ」

 

「ああ、挨拶も済んだことだしな。最後に伝えとくか、近いうちにまた会おうぜ」

 

「トラブルなら金輪際(こんりんざい)ごめんだ」

 

 しかしたっつーは三宅君の拒絶の意志を鼻で笑った。何てひどいやつだ。そして彼らに何を言いかったんだ。

 

 奴は私の耳元で「Xを探れ」と小声で告げると立ち去る。おい、まじかよ。カフェでお茶するんじゃないの〜? 

 

 残念なことに小宮君たちもそれに続いた。……置いてかれたんだけど私。Xを探れってさ。どうしろと言うんじゃい。

 

 4人からこいつどうしたんだ、という目で見られる。私が聞きたいよそれは。

 

「えーっと、龍園君がご迷惑おかけしました。あれは礼儀とか礼節というものをガン無視する人種なのです」

 

 敬語も使えないわけではないが、性根の悪さが透けて慇懃無礼になるんだよなあ。あと違和感がすごいんじゃ。

 

「う、うん……」

 

 長谷部さんは戸惑いつつも頷いてくれた。許してくれたんだろう。少なくとも私はそうみなした。優しいなあ。

 

「ククリは何しに来たんだ?」

 

「私にもわかんない」

 

 正確にはわかるけどわかりたくない。だってあれよ。私はカピバラ麻呂がXってことを知ってるし、カピバラ麻呂はたぶんそのこと知ってるし、私もカピバラ麻呂が知ってるって知ってるし……あーあーややこしい。

 

「なになに? 仲いい感じだけど、京楽さんと男子3人は知り合いなの?」

 

「俺と綾小路は船上試験で京楽とも同じグループだった。だが綾小路は元から知り合いだったよな?」

 

「ああ。初対面時、ククリは1学期中間の試験範囲の変更を教えてくれたんだ」

 

 そういやそんなこともあったな。でもあれは山脇君の功績……? ま、いっか。

 

「俺は夏休みにちょっとな」

 

 うんうん、三宅君とはあの猫と着ぐるみとビニール袋の一件で知り合ったんだよね。ちょっと前のことなのに懐かしいなあ。

 

「へー、でも随分と親しそうね。綾小路くんなんて違うクラスなのに誕生日覚えてもらってるし」

 

「それはククリの社交性が高いからだ。オレが特別ってわけではない」

 

 えヘヘ、褒められたー。うむ、カピバラ麻呂だけでなく誕生日にはできるだけみんなにメッセージを送って……メッセージを……贈る……10月20日頃……贈り物……あ、あ、やっとわかった! 

 

 あれか、たっつーが「贈り物は届いたか?」って言ってたのってあれか。【おまえは誰だ?】って書いたメールのことか。X宛に送ったやつ。うわ、回りくどい言い方するなあ。

 

「社交性、か。しかし京楽、おまえスパイしに来たわけじゃないよな?」

 

「違う違う。んー、あー、じゃああれだ。勉強の邪魔しちゃったしうちのクラスのこと少しくらいなら答えるよ逆に。私の言葉を信じるかどうかはそっち次第だけどさ」

 

 桔梗ちゃんからDクラスの情報もらってるしね、私たちは。ハンデに少しくらいなら答えてやるぞよ。

 

「なら。おまえたちのクラスのテスト、作成者は金田か?」

 

「うん、そうだよ」

 

 幸村君は金田君を知ってたのか。眼鏡繋がりかな。

 

 しかしこれは答えても問題ない質問だったね。職員室に誰が問題文を『審査』のために持っていってるかとかでだいたい問題作成者くらいはわかっちゃうからなあ。

 

 あと問題作ってるの金田君だけじゃなくひよりんもいるし。確か金田君よりひよりんの方が成績良かったような気がしないでもない。まあ2人ともすっごく頭良いからその点は変わらないけどね。

 

「何パターンか問題文を用意しているのか?」

 

「そりゃあ、たぶん。でもどのクラスも一緒じゃない? 『審査』には何枚でも提出できるんだし」

 

 問題用紙を何パターンか作成して、最もいいやつを最後に選ぶ感じにみんななるだろう。何でカピバラ麻呂はそんな当たり前のこと聞いてきたんだか。

 

「問題何出るか教えてくれたりしない?」

 

「ごめん、私も知らないからそれは無理かな。作成者以外は見る必要もないしね」

 

 私の言葉に4人は納得した感じだった。Dクラスも同様なんだろう。リンリン以外は問題文を知らないと見える。

 

 三宅君は、と視線を向けるとかぶりを振った。どうやら質問はないらしい。まあ私が言ったことが合ってるかわかんないしね。全部本当なんだけどなあ。

 

「んーと、私からも一つ聞きたいんだけど。なんかね、Dクラスにはその正体を隠した策士が潜んでて、無人島とか船上試験、体育祭でも密かに大暴れしてたって龍園君がずっとうるさいの。心当たりあるかな?」

 

 一応聞いとかにゃたっつーに怪しまれるのである。すまぬカピバラ麻呂。許せ。

 

「策士? 正体が隠れてるかは知らないが、堀北じゃないのか」

 

「うん、私も堀北さんとしか」

 

「ありがとう。でもごめん、リンリンじゃないらしいです、彼いわく」

 

 カピバラ麻呂をちらっと見る。適当に何か喋ってくれ。

 

「と言われても、堀北以外だとオレも思いつかないんだが」

 

 よしよし。最後ー、幸村君。君も話すんだ。

 

「ああ、堀北の作戦や立ち回りはいつも本当に優れている。あいつ以上の人物は考えづらいな」

 

 ふむ。4人とも心当たりナシ、と。いやー平和平和。たっつーにはちゃんとXを探しはしたよって伝えとこう、うん。

 

「わかった、ありがとう! 龍園君には策士は錯視だったって伝えとくね」

 

 みんなすごく微妙な表情になった。ごめんなさい。

 

 私はすごすごとカフェを後にした。ええねん、ええねん……。

 

 教室に帰ってみんな白だったよーってたっつーに言ったら「本当か?」と疑われた。なら何故やらせたし。こいつの考えとることはようわからん。

 

 

 

 

 

 

(特別な人)

 

 クラス全体の学力向上。ペーパーシャッフルの発表された今、どのクラスも考えることだとひよりは思う。同時に、龍園が最も嫌う正攻法。彼は裏の手や奇襲に頼ろうとする傾向が強い。

 

 今回、龍園が正攻法を受け入れたのは、学力の低いDクラスにならば勝てる可能性があること。テスト問題をとりかえられるかというXとの勝負には影響を及ぼさないこと。そしてもう一つ、他の誰でもなくククリが言ったからではないかと、ひよりは考えている。

 

 クラスメイトは手足だが、彼女だけは異物と、別個体と龍園は認識しているのだろう。

 

 いつもの彼なら普段抑圧しているガス抜きのためクラスメイトたちを勉強させなかったはずだ。そうなっていた場合、ひよりはハイリスクな彼の作戦が失敗してクラスから退学者が出る可能性を考えそれを防ぐように動いていただろうけど。例えばクラスで龍園が比較的活用しない生徒を集め秘密裏に勉強を教えるなどして。実力の有無に関わらず、龍園には重宝している生徒とほとんど活用しない生徒がいるのだ。

 

 彼がククリに指揮を任せたのは、自分の代わりのリーダーとなれるか試す目的や自分には出来ない考え方を見る実験目的もあるのだろう。

 

 それは紛れもなく龍園の成長に思えて。ひよりはとても嬉しい。

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