ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
「それではこれより学級裁判を始めます! 被告人、前へ」
12月も後半に入った。ペーパーシャッフルでDクラスに勝利を収めた私たちであったが、クラスポイントの増加の予定は露と消え。何故か、なーぜーかー、差し引きゼロとなった。そう、奴の仕業である。
あ、ちなみに桔梗ちゃんは無事賭けに負けたので、今回学年の退学者もゼロ。うん、まあこっちは喜ばしいかな。
ペーパーシャッフルではどっちの対決も僅か2点くらいの差で、好勝負だった。あちらはAクラスの勝ちであったためキャロルたちは単独トップを維持。私たちのクラスも1月になれば一之瀬さんたちのクラスとポイントの差ができる、はずだったんだけどなあ。
「さて。重大な違反行為をしたとかで見事マイナス100クラスポイントもの罰則を喰らった龍園翔君。何か申し開きがあるなら言ってほしいな」
「俺は悪くねぇ」
いや、悪いわ。むしろおまえ以外の誰が悪いと言うんじゃい。
私はこのHRの時間を学級裁判用にくださった坂上先生のほうを、うるうるとした瞳で見つめた。しかし先生は静かに頭を振る。ちっ、本人が話さないと駄目らしい。
「あのね、理由を言ってほしいの理由を。マイナス100クラスポイントになったわけを。みんなでこの一ヶ月勉強したぶんがパーになったんだよ!」
おまえマジで何したんや。
クラスメイトたちも勿論気になるらしく、皆の視線が一点に集まる中。たっつーはまったく、まーったく悪びれる様子がなかった。こいつのメンタル超合金だよ。
「黙って従ってりゃこんくらい次の特別試験で取り戻してやる。それでチャラだろ」
「チャラにするか決めるのはこっち側ちゃうん……?」
なんてふてぶてしい奴だ。っていうかあれよ、理由によっちゃ許してやるから話せよ。
プンプンしているククリ裁判長に、金田君が弁護人っぽく話しかけてきた。
「龍園氏はこの件について語りたくないようですし……その、本来100クラスポイントを得るはずでしたから、1万プライベートポイント。それをクラス全体に配布する、という形で終わらせるのはいかがでしょう」
ふむふむ。みんなが頑張ったご褒美ということですな。うん、いいんじゃないかな、まあそれなら。たっつーはAクラスとの契約のぶんとか、船上試験とか体育祭でクラスが得たプライベートポイントも独り占めしてんだし。1クラス40人、たっつー抜いて39万くらい余裕で払えるっしょ。
「いいね、それ採用!」
「…………」
たっつーは不満そうにしている。おまえな、こんくらい補填しろや。
「金田君の意見に賛成の人〜」
澪が真っ先に手を挙げ、ひよりんがそれに続く。他のクラスメイトたちもチラチラとお互いの顔色をうかがいつつも2人に倣った。よーし、全会一致ぃ!
「じゃあそういうことで、判決が出ました」
「…………1回限りだ。これ以上は譲歩しねえ」
「うん、1月には特別試験があるしね。その時に頑張って取り戻すならそれで大丈夫だよ」
仕方ないから1月に100クラスポイント増えるはずだったぶんはこれでチャラにしてやろう。
うーん、でも確か1月の特別試験って体育祭みたく3学年でやるんだよな。クラスで頑張ってどうにかなるものなのかしら。ま、いっか。頑張れよたっつー。応援してるから。
私は通販で取り寄せた木槌、正式名称ガベルを叩いた。
「ではこれで学級裁判を閉廷します!」
カァン、といい感じの音が鳴り響き、私はガベルさんの初仕事に満足した。悲しいことに生徒会では使用許可を出してもらえなかったのですよ。クスン。
今度また使いたいなあ。誰か何か楽しい感じの事件起こしてほしい。裁判長するから。
§§§
先日の学級裁判の結果、みんなに1万ポイントずつ行き渡ったのだけど。何故か私だけお振込みナシだった。
たっつーを問い詰めると「前にやったからいいだろ」の一点ばり。私の誕生日の時にさあ、確かに1万ポイントもらったけどさあ。もう3ヶ月以上も前の話だよ、ひどくない? むー、ケチくさい奴め。
クリスマスが近いこともありクラスのみんなは思わぬ臨時ボーナスに喜んでた。ふふ、我に感謝するとよいぞよ。
でもたっつーはもっと給料を払うべきだと思う。最近の石崎君とかの忙しそうな様子を見ると、本当に。
「別にいいんだけどよ。京楽も来るのか?」
「うん! 弓道場、前から行ってみたかったんだ〜」
期末試験以降のたっつーはDクラスのX探しを本格化させた。クラスでわりと暇してる人を使ってターゲットに張り込みさせてるのである。
ただし一応、大きな問題にならないようにと配慮はしていて、ストーキング対象はD男子だけにしてるらしい。女子だけでなく気の弱い男子も除外してるんだとか。
ちょっと楽しそうだな、と思ったものの私は生徒会役員。そういうのを取り締まる側の人間であるため諦めた……のだけれど。三宅君の張り込みのために弓道部の見学に何度か行ってると聞いて、ついていくことにしたのだ。
うちのクラスには弓道部所属の吉本君がいるからね。紹介でもしてもらったんだろう。彼は10月頃から上級生の女子と付き合っており、たっつーによる1万配布でクリスマスプレゼントが豪華にできるとたいそう喜んでたし協力は惜しまないはずだ。「俺、クリスマスにプロポーズしようと思うんだ……」と言う吉本君をクラスメイトの男子たちが「やめとけまだ早い」って感じで必死に止めてたのは記憶に新しい。
「じゃあゆっくり歩いて行くか」
鞄を持った石崎君はバーティと一緒に教室を出ていく。てててとそれに追従しながら、私は浮かんだ疑問を口にした。
「んー、早く行かなくていいの?」
「予め何回か見学したいってのは伝えてるからな。早く行くとむしろあれだ、準備に忙しい時に入っちまうからさ。ちょっと遅く着くくらいが丁度いいんだよ」
「そかそか。じゃあのんびりだね」
弓道場は生徒のあまり通ることのない、静かなエリアにある。校舎から離れた位置で、部活動専門に用意された建物の一部。茶道部も近くにあって「和!」って感じの敷地なんだよね。外に出た私たちは自販機で無料の水を買ったりと道草を食いながらゆったりと校舎沿いに進む。
ふと上を見上げた私は気づいた。
「あれ、あのあたりにあるのって確か応接室だっけ」
「ん? わかんねーわ。京楽が言うならそうなんじゃね」
茶柱先生……じゃないや、ラッキー先生が窓の近くでじっと立っているのが見えたのだ。こちらに背を向けていて表情はわからないけど、その視線の先にあるのはおそらく応接室。生徒会の仕事で行ったことがあるんだよね。ふっかふかのソファが設置されてるいい感じの部屋だった。
気になって見ていたら、丁度その応接室のドアが開いたらしい。出てきた人物はラッキー先生がいるのとは反対側につかつかと歩いている。
窓越しに見えるのは40代くらいの男性。高級そうなスーツに身を包んでおり、髪はオールバックでピシッとキメている。どう見ても先生とかではないだろう。ここは日本政府が関わっている学校なんだし、政府の関係者が監査に来たとかが一番しっくりくる。
「うわ、怖そうなオッサン」
石崎君の声が聞こえたわけじゃないとは思うけど、その呟きと同時くらいに彼はこちらへ目を向けた。
鋭い眼光はまるで刃のようにこちらを貫いてくる。敵意を向けられてる、というほどではないにしろ好意的なものとはとても思えなかった。バーティが私をかばうように前に立ってくれる。優しい。
ガタイのいい男子生徒2人にか弱い女子生徒1人という組み合わせが奇妙に映ったのだろうか。少し驚いたように目を見開いた。が、すぐに興味を失ったようでそのまま廊下を進んでいき。やがて見えなくなった。
「ありがとう、バーティ。にしても誰だったんだろうねあの人」
3人で首を捻るも、答えは出ず。どこかで見たことがあるような気がしなくもなくもないような……と考えていた私だったが、弓道場に辿り着く頃にはその顔が思い出せなくなった。いやだって遠くからちょっと目が合っただけなんだもん。そんな覚えてらんないよ。
この学校は全体的な施設レベルが高いからだろうか。弓道場は思ってたよりもずっと広くて立派なものだった。
「あら、また来てくれたんだ」
弓道着のよく似合う女子生徒が優しく声をかけてくれる。たぶん上級生だろう。彼女を皮切りに他の部員たちも概ね歓迎ムードを出してくれた。
「初めて見る子もいるね。あなたも見学希望者?」
「はい。はじめまして、京楽菊理と申します。生徒会所属なのですが、石崎君たちの話を聞いて見学だけでもさせていただきたいと思い。こうして参った次第です」
「わー、ご丁寧にありがとう。私は主将の
「はい、ありがとうございます」
橋垣先輩が弓を持って軽く弓道の説明をしてくれるのを、私は殊勝な面持ちで聞いていた。
それから先輩も練習に加わりにいったので、見学者3人で皆が的に向かって弓を引く様子を静かに眺める。うーむ、カッコいいよね弓道って。吉本君や三宅君の感じも何だかいつもと違って見える。
石崎君とバーティはというと、三宅君をじーっと睨むように見つめていた。可哀想に、三宅君はこちらが気になるらしくちょっと練習しづらそうだったが、何か言うのも難しい。ただ見学してるだけだからね。すまぬ三宅君。
練習が終わる少し前に、私たちは橋垣先輩や顧問の先生へお礼を言って弓道場をあとにした。本来ならこれから三宅君を尾行するとこだけど、それは小宮君が引き継いでくれるらしい。前も言ったけどこのクラスはやっぱスパイ養成してる気がするよ。諜報スキルがグングン伸びているね絶対。
バーティも買い物に行きたいらしく、寮までの道は石崎君と2人で歩くことになった。
「弓道部、楽しそう……」
さっそく入りたくなってきた私に、石崎君も同意した。
「ああ。いい人たちばっかだよな」
「うんうん、何か部活ってこう、青春って感じだよねえ」
「京楽は生徒会入ってるだろ」
「あそこは青春ポイントがちょっと足りないんだよ」
だってほら、みんなで学校を盛り上げていこう!よりも誰が覇権を握るか争おう!って感じだしさ。いや、これも青春なのかな。むむ、青春難しい。
「三宅君、上手だったね」
「吉本が言うには、三宅は中学からの経験者らしいぜ。たしか中2から始めてたとか何とか。それでだろ」
「なるほど、高校でも続けてるんだね。偉いなあ」
中学で弓道部って珍しい気もするけど。ある中学にはあるんでしょうな。どこ中だったんだろ三宅君。
「三宅も中学時代は荒れてたらしいぞ」
「え、そうなんだ」
…………この学校不良率高くない? 石崎君も中学時代は不良生徒だったって言ってたし。たっつーもうちの地域で有名な番長になってたそうだし。須藤某も何か昔暴れてたって逆転裁判の時に聞いたし。バーティも上級生と揉め事起こしちゃったことがあるってしょんぼりと言ってたことあるし。うむむ、学校の選考基準がわからぬ。
ああ、でもだから三宅君は前にカフェで会った時もたっつーに全然物怖じしてなかったのか。納得したわ。
「俺たちのせいで龍園さんの変な噂が流れてるからな。早く
うちのクラスの人たちがDクラスの生徒を尾行してることは学年のみんなが気づいてきてる。最近ではたっつーがDクラスの誰かに負けてその復讐のために探しているなんて噂もあるみたい。うーむ、ある意味正解かもしれんけど微妙なとこよな。ってかあれだ、たっつーが何で敗れたという設定なんだろうかこの噂は。喧嘩なのか特別試験なのかそれ以外の何かなのか。そこんとこ気になる。
ただなあ。たっつーは容疑者Xにプレッシャーかけたいんだろうけどなあ。たぶんカピバラ麻呂は何処吹く風なんだよね。石崎君たちは徒労という。うん、やっぱ給料とか出してあげるべきだと思う。
せっせと働く彼らを想うと悲しくなってきた私は話題を変えることにした。
「石崎君て公開日に映画見る派ってことは、たっつーの誕生日の時チケットくれたやつも当然見てるよね?」
「見たけどよ。あ、どうだったよあの時は」
「そうだな。うん、ポメポッソパピパロンが格好良かった」
「誰だよポメポッソパピパロン」
「え、映画見たんだよね石崎君」
「いや知ってる。ああ、あの映画の登場人物だろ。ただ違えんだよ俺の聞きたいところは」
石崎君は頭を抱えた。何だよ、ポメポッソパピパロンの覚醒シーン格好良かっただろ。あの映画の一番の見所でしょうに。
「龍園さんの様子は……どうだった?」
「決まってるでしょ」
うん、本当に決まってる。というか石崎君は次の日きっちりと腹部に蹴りを食らってたのに覚えてないんだろうか。
「私も龍園君も騙された怒りに満ちていたよ」
「そういうのでもないんだよだから」
石崎君はまた頭を抱えていた。どうしてか
「3学期のテストの時は、もっといっぱいお勉強しようね?」
「やめてくださいお願いします」
石崎君は頭を抱えたポーズからきれいなお辞儀の体勢へと移行した。やめろ、道行く人々に私が怖い人だと誤解を受けちゃうだろ。顔を上げなさい。
「むー、石崎君も学業御守でも買えば? ポイントはちゃんと残ってるでしょ?」
「ああ、まあそんくらい買う金ならあるけどよ。効果あんのかそれ」
「私も体育祭の後に買ったしなあ。でも中間期末とも成績悪くはなかったよ」
ペーパーシャッフルではペアの男子が頑張ってくれてたこともあって2人合わせての成績もクラスで上位だった。しかし彼が私と話す時ちょっと青ざめた顔をしていたのは何故だろう。一緒に退学になるかもしれないのがよほど心配だったのかな。
首からお守りを出して揺らすと、石崎君は怪訝な表情になった。
「ちょっとデブくないか、それ」
「デブ言うなし。うん、中に追加で紙を入れたんだよ」
「それにしては綺麗に紐結べてんな」
「ありがとう。結び方ググってね、頑張って結び直したの」
二重叶結びというらしい。願いが叶う感じがする名前だよね。しかも二重だから2倍!
「へー、それって人間が結べるもんなんだな。何か機械でウィーンガシャンって感じのイメージ持ってたぜ」
「すっごいご利益なさそうだわそれは」
機械で大量生産するお守り。うーむ、何かこう、悲しい。
「何入れてるんだ?」
「んー、友達からの手紙……いやチケットみたいなものかも。大切なものだから失くさないようにと思ってね」
「確かにそれなら失くさねえな。流石は京楽、冴えてるぜ!」
私はえっへんと胸を張った。ククリちゃんは褒められると調子に乗るタイプなんだ。自覚はある。
「ありがとう、けどおだててもお勉強からは逃げられないからな?」
「今から3学期が憂鬱になった」
「はっはっは、そこは冬休みもやるんだよ。金田君に頼んどくからさ」
「うえっ、マジかよ。俺の休みが……」
冬休み云々よりも、今たっつーにこうして尾行とかをさせられてる方が忙しい気がするんだが……そこらへんはいいんだろうか。うーむ、感覚がわからん。
歩いているとクリスマスの装飾が目に入った。ケヤキモールは勿論のこと並木道なんかでもイルミネーションが準備されている。
「冬休みはクラスでクリスマスパーティー開くのとかもいいかもね。楽しそう!」
「確かになあ。でも龍園さん、そういうの嫌いっぽいんだよな」
「じゃあ龍園君抜きでやるとか」
うん、君たちを労るためにやるんならたっつー抜きのがやりやすい気もする。でもなあ、サンタ帽子をかぶるたっつーも見てみたい。石崎君がまたチャレンジしてくれないだろうか。
「いや、龍園さんがいねえとダメだろやっぱ」
「そっか……まあクリスマスは予定がある人もいるだろうしね。それこそ吉本君とか」
「あー、羨ましいけどそうだな。って、京楽はないのか?」
「うん、今の所は特に。でも他クラスの女子から軽くお誘いは受けてる」
終業式が22日だから、冬休みに入ればクリスマスはすぐにやってくる。んー、本当に何しようか全然考えてなかったなあ。どうしようかな。
「石崎君は?」
「いつも通り小宮とか近藤と遊ぶんじゃねえかな。わかんねえけどよ」
「まあ、クリスマスと言ってもずーっと私たちは学校の中にいるわけだし。いつも通りっちゃあいつも通りだよね」
うんうんと私は頷いた。
みんなクリスマス、何するんだろうなあ。全員寮にいるわけだし、学年でクリスマスパーティーしても楽しそうだけど。誰か計画してくんないかな、ってそれこそ生徒会の仕事か。うぐ、一之瀬さん頑張ってくれないかしら。
んー、クリスマスケーキとか七面鳥とかをみんなで食べるとかくらいなら、と考えていたところで、石崎君の口から衝撃的な発言が飛び出した。
「ただクリスマスケーキはちゃんと準備してあるぜ」
「え、まさか?」
「おう! 今度こそちゃんとしたドラゴンケーキを特注したんだ」
「ドラゴンて。サンタどこ行ったし!?」
まじかよ。再チャレンジが意外と早かった。
「問題ねえ。サンタとドラゴンの夢の共演だ」
「ドラゴンに乗ってくるサンタとかやだよ普通に」
知ってるかい石崎君。まずな、キリスト教においてドラゴンは基本的に倒すべき対象、悪の象徴なんだ。そしてサンタクロースのモデルは聖ニコラウス。キリスト教の聖人だ。ついでに言うともともとクリスマスってキリストの降誕祭やぞ。ミスマッチが過ぎるわ。
「25日に龍園さんの部屋に届けてもらうよう頼んである。抜かりはねえ」
くそう、無駄に計画的だ。ってかあれか、たっつーは一人でクリスマスケーキ食うのか? 悲しすぎでは?
「じゃあクリスマスはみんなで龍園君の部屋に行くか」
ケーキの消費に協力してやろう。そう思って話す私を見て石崎君は何か満足げに頷いていた。むー、君たちも来るんだよ? あれだ、仮装とかするのもいいんじゃないかな。たっつーをサンタにしてみんながトナカイとか。やばい、絵面を想像するだけで面白い。
(鳥兜は全体が有毒であり、根や葉、花びら、蜜にまで毒がある)
美しい薔薇には棘があるように。美味しい食べ物にはカロリーが付き物なことのように。甘さにはしばしば毒が混じっているという話で。
京楽菊理はトリカブトの蜜のような少女だと、金田はつくづく思う。
教室の喧騒がまるで耳に入っていないみたいにゆったりとカップを傾ける彼女を眺めていると、余計にそう感じられる。
「よっぽど茶が好きなんですね」
つい呟いた言葉に、彼女はにこりと返した。
「習慣化してるって言ったほうが正確かも。中学の友人がお茶会好きで、よく開いてたから」
「はあ……」
友人、という発言に金田は彼女の中学時代を想像しづらいなと率直な感想を抱いた。今でさえククリの行動は予測が困難なのだ。
「お茶でいうとバタフライピーとかが好きかな。すっごく綺麗な青色で、レモンとか加えると紫色になるやつ」
おそらくアルカリ性のため、リトマス試験紙のように酸性に反応して赤色へ変化するのだろう。
「青色の飲み物がお好きなので?」
「んー、そうかも。ただあんまお外では飲まないようにしてるんだよね」
外で飲もうが家で飲もうが変わらないのでは、という金田の疑問に答えるように、ククリは言葉を続けた。
「ええと、お酒に多い話でさ。相手が席にいない間に睡眠薬を入れて、なんてことを聞くじゃない? ああいうのを防ぐために睡眠薬は溶かすと青色に染まるようになってるってのを知ってさ。もちろん無色の睡眠薬もあるし、お茶と混ぜて緑色にしたってケースもあるらしいけど、何となく敬遠してしまうというか」
「なるほど、確かに睡眠薬での
摂取したかどうかは尿や血液からの検査も可能だが、睡眠薬では服用した後の記憶が思い出せなくなってしまい発覚が遅れることも多い。特に酒との併用では副作用が大きくなる。
「うむうむ。でもバーでお酒飲むのには憧れてるんだよなあ」
「ああ、船でも聞いた記憶があります」
夏休みの豪華客船でククリはバーに通っていたらしく、金田にその魅力を語ったりもしていた。
「お酒飲める年になったら金田君とも一緒に飲めるといいな。私、『君の眼鏡に乾杯☆』って言ってみたかったんだよ」
「物理攻撃する気ですか……!?」
勢いよくグラスをぶつけてきそうな口ぶりである。
「ごめん、冗談冗談。しっかし “
「1番は何なんです?」
「それはやっぱり、『フフフ……奴は四天王の中でも最弱……』かな」
日常生活で話す場面など思いつかないような台詞だ。とはいえ、真正面から否定するのも
「言える機会があるといいですね」
「うん!」
金田は、曖昧に濁した。