ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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孤独を愛さない人間は、自由を愛さない人間にほかならない。 なぜなら、孤独でいるときにのみ人間は自由なのだから。

 初雪が降るほど寒かったり、夏に近いほど暖かくなったりと寒暖差が激しい日々が続き。体調不良者でも出るんじゃと思ってたけどうちのクラスはみんな元気いっぱいだ。冬休みがもうすぐ始まるからかもしれない。うんうん、長期休暇は楽しみだよね。

 

 今日の6限のHRを坂上先生は早めに終わらせた。たっつーと目配せしているところを見るに予め話をつけていたようだ。

 

 そのまま先生が教室を出てから、たっつーはいつも通りの偉そうな口調で話し始めた。

 

「アルベルト、石崎、小宮、近藤。Dクラスへ乗り込む。ついて来い」

 

 4人は「ついに来たか!」という表情で頷い……いやごめん。やっぱバーティの表情はちょっとわからん。

 

「伊吹、京楽。おまえらは寮への道で待機してろ」

 

 勿論こんな面白そうなイベントには参加するっきゃない。私はとびきりの笑顔で頷いた。ひゃっふー、カチコミだカチコミだ! 

 

「誰が標的なわけ?」

 

「高円寺だ」

 

 …………え、ロック? 

 

 私の気持ちは一気にしぼんだ。まじかよ、ロックか。

 

「やめようよ、ロックにカチ込んでも碌なことにならないよ絶対!」

 

「うるせぇ。黙って従え」

 

 ……むー。たっつーの狙いは何か。

 

 目立つ行動をすることで楽しむ? だとしても別の人に接触するのが正解だと思う。やめよーよぉ。

 

 澪は私の味方をしてくれるに違いない。じっと見つめると申し訳無さそうにしながらもふいと顔をそらされた。そんな、澪……! 

 

「私だけでいいんじゃないの?」

 

「ダメだ。あの変人との対話には変人をぶつける必要がある」

 

 うんうん、まごうことなき変人だよねロックは……ん? 待てよ、私も変人だと言ってるのかなたっつーは。

 

「誰が変人じゃ誰が」

 

「おまえ以外の誰がいる」

 

「龍園君」

 

 私は迷いない瞳で断言した。澪が肩を震わせて笑う。

 

 ベシっと頭をはたかれた。ひどい。

 

「来るのか来ないのか。どっちだ」

 

「そりゃあ行くよ、行くけどさ」

 

 何とも言えない気分になってしまうのは仕方ないだろう。変人枠でお呼びって。

 

 軽く鼻を鳴らしたたっつーが石崎君たちを引き連れDクラスへ向かうのを、私は何とも言えない表情で見送った。

 

 んー、端末の位置情報の閲覧許可をONにしとくか。一応。

 

「伊吹さん、ククリちゃん。くれぐれもお気をつけて」

 

 そう言って図書室に行くひよりん。優しいっ。わかりました、気をつけます! 

 

 

 放課後も始まってすぐなので全然人がいない通学路。ロックは素早くここに出現した。

 

 澪と目を見合わせる。アイコンタクトでの激しい譲り合いの末、私がロックに話しかけることになった。

 

「高円寺君。ごめん、ちょっといい?」

 

 ロックは堂々たる態度で振り向いた。私を見ると軽く髪をかきあげる。風に運ばれコロンの匂いが漂ってきた。

 

「パワフルガールか。どうかしたのかい」

 

 澪は再び肩を震わせた。やめて、そんな目で見ないで。別にあだ名で呼び合うから仲が良いとか、そういうわけじゃあないから。

 

「ちょっと高円寺君に用がある人がいて……」

 

「用? ふむ、構わないがこれからデートの約束があるのでね。あまり長くならないようにして貰えるかな?」

 

「悪いけど、どんな用件かも知らないしそれはわかんないや」

 

 そう話していると玄関のほうからたっつーたちが現れた。たっつーは両ポケットに手を入れた姿でこちらへと歩いてくる。そのままコケれば面白いのに。というかAクラスの鬼頭君の真似なのかねそれは。

 

「ああ、君はドラゴンボーイのことで動いているようだねえ」

 

「ぶふっ」

 

 不意打ちドラゴンボーイを喰らってしまった。やばい、忘れてた。口を押さえて笑いを(こら)える。耐えるんだ私の腹筋……! 

 

「おい高円寺。ちょっと顔貸せよ」

 

 そして当のドラゴンボーイがやって来た。ちょ、ま、笑っちゃうからもうちょい待って。

 

 少し先にある休憩スペースが指で示される。

 

「用向きならあっちで伺うよ」

 

「物わかりがいいな。褒めてやるよ」

 

 ロックは鼻で笑うと肩をすくめてやれやれという感じの雰囲気を醸し出し、それから黙って歩き始めた。おいたっつー、おまえよりロックのほうが大人の対応だぞ。

 

 先導されて私たちは並木道から移動する。ロックにたっつー、澪に私、バーティ、石崎君と小宮君に近藤君となかなかの大所帯だ。

 

 さらに追加人員もついてきた。

 

「龍園くん。何をしたいのかは知らないし分かりたくもないけれど、これだけは言っておくわ。私のクラスメイトに手を出す気ならこちらも即座に学校側へ通報する」

 

「クク。釣られてノコノコやって来たか」

 

 フィッシングされたDクラスメンバーはリンリンにカピバラ麻呂、三宅君、幸村君、須藤某。……え、こういう時は平田君と桔梗ちゃんの出番ではなかろうか。ちょっと人選に問題アリと言わせていただきたい。

 

 たっつーは顎をしゃくってロックを取り囲ませた。あれ、これ私もこの輪の中に入るべき? 迷うなあ。

 

「まるで王様気取りだな。クラスメイトを顎で使うとは」

 

「悪いな三宅。俺の育ちの悪さは昔からだ」

 

 うんうん、小学生の頃からたっつーはたっつーだったよね。私は深く深く頷いた。

 

 たっつーはポケットに手を突っ込んだまま。寒いから、ということではないだろうし「俺は手は出さないぜ」というアピールなんだろうね。たぶん。

 

 休憩スペース付近に監視カメラはないっぽいものの寮への帰り道が近いから、誰に見られるかもわからない。まあ生徒会役員の私を連れてきた時点で暴力行為に当たることをしようとは思ってないんだろう。南雲会長は喧嘩に寛容だし自分も暴力とか使うときは使う(配下にやらせる)とはいえまったく取り締まらないわけではないし。つかそもそもロックからは結構な強キャラ感が溢れてるしね。

 

 何かリンリンとおしゃべりしてるたっつーに私は声をかけることにした。

 

「龍園君、高円寺君に用があるならさっさと話したら? 暇そうにしてるよ」

 

 ロックは懐から手鏡を取り出して身だしなみチェックを始めている。うんまあ確かにデート前は気になっちゃうよね。お昼休みは上級生の女子に囲まれ仲睦まじい様子でご飯を食べてたりしてたとも聞くし、クリスマスの予定も埋まってるんだろうなあ。

 

 ネイルファイルで爪磨きをしながらロックは悠然と話す。

 

「その通りだよドラゴンボーイ。話がないなら帰らせてもらいたいねえ」

 

 ふくっ……ドラゴンボーイ第二波がやって来た。笑い出しそうになったが今はみんな真剣なお顔。我慢我慢。ククリちゃんは空気の読める子。

 

「ふふふ」

 

 と、思ってたら可憐な笑い声が響いた。私じゃない私じゃない。だからクラスメイトたちよ、こっちを見るな。冤罪だ。

 

「何を騒いでいるのかと思えば、随分と面白そうなご一行(いっこう)ですね」

 

 やっぱ来たか。

 

 コツコツという杖の音とともに姿を見せたのはキャロルと彼女の率いるAクラス三銃士。神室さんに橋本君、鬼頭君の3人だ。

 

 神室さんと目が合うと、彼女は手にしていた端末を鞄にしまった。

 

 鬼頭君はポッケに手を入れている。見てるかたっつー。あれが元祖だよ元祖。

 

「しかしBクラスとDクラスの生徒が一堂に会するなんて、もしやこれからクリスマスパーティーについての打ち合わせが始まるのでしょうか?」

 

「あ、それいいね。高円寺君とのお話が終わったら一之瀬さんも呼んでやろうか!」

 

 流石はキャロル、ナイスな提案。それなら後は平田君と神崎君あたりも呼んだほうがいいかな。

 

「ふふ、私は構いませんが……ドラゴンボーイさんはご不満そうですね」

 

「黙ってろ坂柳、まだおまえに用はない。それとおまえが次にその呼び方をしたら殺すぜ?」

 

 ロックはいいんだ。たっつーの基準が謎い。私とかクラスメイトがドラゴンボーイって呼んだらどんな反応するんだろうか。

 

 とりあえず残念ながら殺人は一発アウトである。私は鞄から生徒会の腕章を取り出し着用した。見て見てカッコよくない? ……たっつーはため息を吐いた。何故に。

 

「視界の端に存在する程度なら許してやるよ。お口はチャック、手はお膝でいろ」

 

「ふふっ。ええ、ここはパーティーの主催者の顔を立てましょう」

 

 キャロルは優雅にベンチのほうへと進み腰を下ろした。キャロル……クリスマス・キャロル。やはりクリスマスパーティーには彼女が欠かせないだろう。

 

 私は端末の位置情報の閲覧許可をOFFに戻しつつクリスマスパーティーの計画を考えた。せやせや、ついでに一之瀬さん宛のメッセージを作っておこう。何て書けばいいかな。

 

「くだらねぇことすんじゃねえ。さっさとこれでも読め」

 

 たっつーが謎のメモを渡してくる。なになに。

 

 私はメモに書いてあることを実行すべくロックの前に立った。

 

「えーっと、高円寺君。質問があります。Dクラスで策士っぽい行動をしてるのはあなたですか?」

 

「ナイン。君も知っての通り、私はクラスに全く興味がないんだよ。他クラスの先行きについても同様だがね」

 

 私は頷いた。もしロックが自分のクラスに貢献しようとするなら体育祭に参加しただろうし、ペーパーシャッフルの問題作りも手掛けたに違いない。

 

「だそうだよ龍園君」

 

 次のメモが渡された。いつ準備したのこれ。授業中に内職でもしてたんだろうか。

 

「それじゃあ、クラスの中でそんな感じの頭のキレる人に心当たりはないかな──」

 

 って、え、これ聞いちゃう? 

 

 ロックの洞察力はかなりのものだ。というか直感でXを当てるのも簡単にやりかねない。なにせ干支試験の時にはさらっと優待者を当てた前科がある。

 

 ロックを見ると、Dクラスの面々に軽く目を向けていた。およ、ど、どうなるのやら。

 

 たっつーを見る。何が面白いのかニヤニヤ笑って、さり気なくリンリンのほうに注目してる。なるほど、ロックの言葉自体よりもそれを聞いたDクラスの人々の反応を確かめたかったのか。ここでリンリンが焦ってカピバラ麻呂のほうにでも目をやると、たっつーはその違和感に気づいちゃうだろうけど……大丈夫そうだな。顔色を変えることなく落ち着いてる。ツンドラのようだった彼女も体育祭でポキっと心折られたことによって成長したんだろう。立派になって……! 

 

 キャロルはというと、ロックの様子を観察しているようだった。是非とも分析結果を後で教えていただきたい。

 

「Dクラスの中で頭のキレる存在、ねえ。特に考えたこともなかったが……何にせよ私の回答は望ましくないだろう。ドラゴンボーイの求めている楽しみを奪うことになるからね。そのような真似はできるだけしたくないんだ。私はこの学校で青春を謳歌している、それだけなのだよ」

 

 何かむっちゃしゃべってくれる。よほど早く終わらせたいんだろうか。ごめんよデート前に引き留めて。

 

 でもせやな、たっつーが楽しんで探してるXの答えは自分で見つけてほしいよね。そこは同意見。

 

 少し空を見上げながら話していたロックはここで私の目を見てきた。うん、人と話すときは目を見て話す、大事。

 

「学校が果たすべきは私を飽きさせないよう常に努力すること程度だが、それもあまり期待できそうにない。であれば、美しき女性たちと多彩な恋に落ち、互いを高め合う。そして己の美を追求し続ける。それだけさ」

 

 そこは相手の女性を一人に絞ったほうがいいと思うのですよ。まあ他人の恋愛観はそれぞれか。

 

「あれ、じゃあ高円寺君は青春しようと思ってこの学校に来たの?」

 

 だとしたら御曹司という身分を隠して真実の愛を見つけようとする、とかのが青春ぽい気がするのだが。

 

 私の素朴な疑問にロックはフッとキザに笑った。

 

「選ばれたから来てあげた。それ以上でもそれ以下でもないねえ」

 

 どういうこっちゃ。まあ入試受かったから入ったよってことかな。ロックにしては平凡な理由だけど。

 

 お、新しいメモ来た。はいはい。

 

「つまり高円寺君はクラス間抗争には不参加ってことでいいのかな?」

 

「もちろんだとも。夢中になってじゃれ合っているドラゴンボーイやリトルガールには悪いがね」

 

 そう言いながらロックはたっつーとキャロルに視線をやった。リンリンにも目を向けてあげてほしい。クラスメイトだろおまえ。

 

 しかしリトルガールか。パワフルガールとどっちがマシなのか、というのんびりとした私の思考はキャロルの言葉によって中断させられた。

 

「おや、ドラゴンボーイさんはともかくとして────」

 

 直後、動き出したたっつーを追ってキャロルのもとへ行こうとしたが失敗した。バーティに止められたのである。しかも大きな掌で目を塞がれた。何も見えぬ。

 

 ドスン、とコンクリートに誰かが倒れる音。すまんキャロル、そもそも遠いし位置関係的に駆けつけるの難しかったんじゃ。仇はたぶんそのうちカピバラ麻呂が取るから許せ。

 

「ご機嫌を損ねてしまいましたか」

 

 あ、無事だったキャロル。よかったよかった。

 

 視界が開くとバットジャスティスが左腕を押さえて地面に転がってるだけだった。テニス部なのに大丈夫かな。君サウスポー? 

 

「もう一度呼べば殺す。そう言ったはずだが、耳の調子まで悪くなったのか、それとも記憶力の問題か?」

 

「龍園くーん、喧嘩はよくないですよ。生徒会役員の目の前なんだよ? 見えなかったけどさ。もうちょい躊躇いとか持とうよ」

 

 腕章をほら、ほらとアピールする。ってかあれじゃん、たっつー手は出さないけど足は出したな。ポッケに手を突っ込んだまま蹴りを叩き込んだとみえる。この不良生徒め。ポイントには影響ないだろうけど停学処分くらいなら下されちゃうぞ。

 

「フフ。今、何かありましたか?」

 

「ただ自分が誤って転倒しただけのことです。何の問題もありません」

 

 バットジャスティスは普通に立ち上がった。そんなにダメージ入ってないっぽいな。流石運動部。

 

 むー、しかし被害者が口を閉ざした。こうして事件とは闇に葬られていくのだな……。

 

「ごめんなさい龍園くん。少し(たわむ)れが過ぎましたね」

 

 うん。でもここまでドラゴンボーイを嫌がるとは思わなかった。まさか誕生日の時のドラゴンケーキが原因なのだろうか。

 

 チラッと石崎君のほうを見ると「龍園さんかっけー」という感じのキラキラした目になっていた。君はもう少し危機感というものを持て。

 

「話を戻しますが、高円寺さん。あなたの英語表現には誤用がありますよ? 私は幼女ではないのですから」

 

「ふっふっふ。それを決めるのは君ではなく私、故に間違いなど何処にもないさ。君がガールと呼ぶに相応しい年齢と体型を得た暁にはそう呼ばせてもらうよ」

 

 ロックがセクハラした。ひでえや、確かにキャロルは150センチしか身長ないけど、けど……! 

 

「いいえ、 “little girl ” は小学生くらいまでの女の子にしか使わない言葉である以上は、あなたのミスとなるでしょう。私たちほどの年齢ですと “young woman” と呼称するのが適切。この世界はあなたを中心に回ってはいません」

 

「さて、それはどうかな」

 

 地球の自転と公転すらも操る気なのだろうか、高円寺コンツェルン。ちなみに地球のおへそとか言われるエアーズロックはオーストラリアにあるんだが、彼も行ったことあるのかしら。

 

「……いい加減にしろ、高円寺」

 

 と、ここで低い声が響く。鬼頭君が白い手袋を外そうとしていた。よーし、やっと素手が見れるぜ。

 

 ワクワクする私であったが、結局鬼頭君の手を拝むことはできなかった。そう、毎度おなじみの奴のせいである。

 

「邪魔はするなと言ったろ。今はすっこんでろよ、Aクラス」

 

 おまえがすっこんでろよたっつーめ。ぶー、もうちょいで見れそうだったのに。いや、でも見たら果たして何が起きたのだろうか。うむむ……謎じゃ。しかし謎は謎のままのほうが浪漫があるというのもまた事実。難しい。

 

 でももうそろそろ解散でいいんじゃあないかな。ロックに聞くことないっしょ。次はクリパの話したいし。

 

「高円寺君への話、終わったなら解放してあげたら? デートに遅れちゃうかもしれないしさ」

 

「そうだねえ。無意味に時間を取られるのは不愉快だよ」

 

「話が長くなったのは高円寺君のネーミングセンスのせいでは……?」

 

 そう言った私に他の人々の視線がビシバシ突き刺さった気がした。でもたぶん気のせいだろう。もしくは自分たちの言いたいことを代弁してくれてありがとうという感謝の視線に違いない。

 

 たっつーは一度口を開きかけてから軽く首を振ると高円寺君のほうに向き直った。

 

「ああ、もういい。行け」

 

 呼びつけといて失礼なこの態度にもロックは別に怒ってなさそうだった。うーむ、たっつーのほうが普通に器が小さいのではなかろうか。

 

「では。ヴィーダーゼーエン」

 

 立ち去るロックの後ろ姿をキャロルがもの言いたげな目つきで見ていた。大丈夫、流石にリトルガールは広まらないと思うよ。ドラゴンボーイはわからないけど。妙に耳に残るんだよドラゴンボーイ。

 

「よーし、それじゃあ4クラス合同クリスマスパーティーの話に入ろうか」

 

「誰がやるかど阿呆」

 

 えー、やろうよパーティー。

 

「でしたら女子のみで開催するというのはいかがでしょうか」

 

「なるほど、女子会か。いいね、堀北さんはどう思う?」

 

「そんなことにうつつを抜かしている暇はないわ」

 

 バッサリと切られた。クスン。いや、でもこの場にまだ女子はいる! 

 

「えー、じゃあ澪は澪は?」

 

「……自由参加でやれば?」

 

「それ、澪は参加しないってことだよね」

 

 ククリちゃんしょんぼり。

 

 残る一人、神室さんに目を向けると、キャロルが笑顔で話しかけていた。

 

真澄(ますみ)さんは参加してくださいますよね?」

 

「……どうせ拒否権はないんでしょ」

 

「いえ、お嫌でしたら強制はしませんよ」

 

「拒否した後の保証は?」

 

「それはいたしかねますが」

 

 うーん、な、和やかな会話だなあ。キャロルがいれば神室さんはセットでついてくる、と。メモメモ。

 

 ならば。私は澪と堀北さんを籠絡すべく口を開いた。

 

「参加者には耳寄り情報を授けるというのはどうだ!」

 

 ビシッとポーズを決める私の言葉に2人はちょっと食いついた。

 

「ふっふっふ。あのね、ケヤキモールのパン屋のおじさんはね、仲良くなると食パンの切り落としをお安く売ってくれるんだよ」

 

「へえ」

 

「え、えとえと、坂上先生はね、他クラスの生徒の時と違ってうちのクラスの生徒と話す時は龍園君以外だと敬語でしゃべることが多いんだよ」

 

「だから何?」

 

 私は撃沈した。2コンボだった。いやいきなりだと何かちょっと思いつかなかったんだよ。

 

「……そんなことよりもあなた、生徒会としてもっと問題行動を取り締まるべきじゃないの? 少なくとも龍園くんがクラスメイトに行っている迷惑行為をやめさせてほしいのだけれど」

 

 うむむ。まあ確かにね。非生産的な張り込みは私もやめさせるべきだとは思ってた。

 

 ただ一つ言わせてほしい。堀北元会長も、南雲会長もクリーンとは言い難いからね! 後ろ暗いこともやるのが生徒会なんだよ~(一之瀬さんを除く)。

 

 しかしこのリンリンの私への言葉に返答したのはたっつーだった。台詞を奪われた……。

 

「おいおい鈴音。俺は何もしちゃいないぜ。言いがかりをつけられて京楽も困惑してるだろ」

 

 わあ、これがついさっき暴力行為したやつの言う言葉か。何て白々しいんだ。でもなあ、実際今んとこグレーゾーンだからなあ。生徒会に持ち込まれてもたぶん無罪放免になるレベル。

 

「まあ、いいぜ。今日の俺は機嫌がいい。鈴音、おまえの裏で好き勝手していたヤツの候補も絞り込めたからな。もう幕切れは(ちけ)ぇ」

 

「あなたの言動は理解に苦しむわ」

 

 たっつーはリンリンたちDクラスの人々の顔を軽くグルっと眺めてニヤリといつも通りの薄ら笑いを浮かべ。それからキャロルへと宣戦布告した。

 

「おまえも3学期を手ぐすね引いて待ってろよ、坂柳」

 

「ええ」

 

 にっこりと笑顔で頷いたキャロルは、さらに言葉を付け加える。

 

「でもそれよりも先に。パーティーについてはまたお話をしましょうね、京楽さん」

 

 首肯しつつ私は思った。みんなたぶん学校に戻ると思うんだが、この集団のまま一緒に歩くのか、と。

 

 道、一本道なんだよな。ものすご〜く空気が死にそうっすわ。

 

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