ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
12月22日、終業式。午前中で全ての行事が終わり、これから冬休みということでクラス全体のテンションが高い中。伊吹澪は静かに考えていた。
龍園がなぜ三宅などDクラスの生徒たちを見張らせていたのか。高円寺になぜ迫ったのか。もちろんDクラスに潜む策士、Xの正体を暴くためであるだろうが……実際龍園が何を考えているのかというのが伊吹にはさっぱりわからなかった。そもそも見つけ出したところで、という話なのに、危険を
今日、この日も。伊吹は石崎、アルベルトとともに何を行うかも伝えられないままXに関する龍園の作戦に協力しなければならないこととなっていた。
これはクラスのためになること。何度も自分に言い聞かせてきた言葉を再び唱えた伊吹はため息を一つ、吐いた。
正午ごろ。担任の坂上の話によって、2学期最後のHRが締めくくられようとしていた。
「冬休み中、校内の一部は改修のため立入禁止になります。それから今日は部活もお休みです。皆さん、なるべく早く帰宅してください」
こくこくと伊吹の隣の席に座るククリは教師の話に笑顔で頷いていた。その様子を真正面で見る坂上もまた小さく微笑み生徒たちへの言葉を告げる。
「これでHRを終了します。休日だからといってあまり羽目を外さず、生活のリズムを保つように」
坂上が教室から去ると、生徒たちは続々と立ち上がり帰路につき始める。座ったままの伊吹に対し、ククリもまた鞄を手に立ち声をかけた。
「あれ、澪は帰らないの?」
「ん。ちょっと用があるから」
「そっか、それは残念」
伊吹は決めている。ククリと椎名、この2人を荒事に関わらせることは避けようと。そういうのは伊吹の役目なのだ。天然で奇行も目立つとはいえ、中学の時と同じで学年の女子の中で1番強い自負のある自身のように格闘技経験者でもない少女たちを巻き込むわけにはいかない。何より。2人は伊吹にとって、大切な友人なのだから。
本来ならば先日に起きた高円寺との一件の時だってククリがついてくるのには反対だったのだ。坂柳が蹴られそうになった際、ククリが彼女へ駆け寄ろうとしてるのを見た伊吹はゾッとした。アルベルトが引き止めていたから良かったものの、もしククリが坂柳をかばっていたら。龍園は躊躇なくククリを蹴り飛ばしていただろう。あれはそういう男だ。
伊吹は龍園がククリや椎名に暴力らしい暴力を振るっているところを見たことはないが、それは今の所の話だ。これから先の保証などない。
でも。それでも伊吹は、2人にはできる限りのんきに笑っていてほしいのだ。
「あんたさ、クリスマスパーティーは寮のロビーで映画流すとか言ってたよね?」
「うん。プロジェクターは借りれることになったし、寮の管理人さんとは話をつけたし、抜かりはないよ!」
以前からククリが騒いでいたクリスマスパーティー。25日の日中は生徒会でカラオケに行く予定が入ったらしく、夕方ごろから行うのだという。
お菓子など食べ物を持ち寄ってホームパーティーのように皆で映画を観る、というククリにしては落ち着いた形のものになったのは他クラスとも話し合った結果だろうか。それでも以前手に入れていた着ぐるみで仮装しようかな、とかぶつぶつ呟いていたのだが。映画を観るのに着ぐるみだと前がよく見えないだろうというツッコミを伊吹はしようかしまいか迷った記憶がある。
「今まで観たことあるやつから選んだおすすめ、メモってみた。今日にでもレンタルショップ行ってみたら? 椎名とかと」
この学校で上映された全ての映画を観ることを目標にしている伊吹にとって、何本か良さそうなのをピックアップするのは容易い。しかしそれを頼まれてもいないのに行ったのは、ククリをさっさと学校外に出したいという狙いがあった。今日の作戦については、なぜかはわからないが龍園もククリには知られたくないらしい。伊吹に対してククリには何も言わずに適当な理由をつけてケヤキモールにでも行かせろと命令を下していた。
ならば映画の話をすると言うと龍園は殺し屋ものとリアルなアクションはやめとけ、と彼にしては珍しく助言めいた言葉を口にしたのだ。なぜククリの映画の好みを把握しているかはわからないが、ひとまず伊吹はそれに従った。龍園が知ってるククリの情報を知らないとは言えなかったし、言いたくなかったのである。
「私も行けたら後から行くからさ」
ダメ押しに、彼女の瞳をじっと見つめながら伊吹は付け加える。
「ありがと! そうだね、ひよりん誘ってみるよ」
メモを受け取りにこにことお礼を口にしたククリはそのまま椎名の席へと歩いていく。軽く話したあと椎名が頷いたので、伊吹はほっとした。これで2人を校舎から追い出すことができただろう。
教室で生徒たちが校内から去るのを待ってから、伊吹たちは移動を開始した。午後1時を過ぎた校内はがらんとしている。いつも悪目立ちする龍園が歩いていたところで気にする人などほぼいない。
龍園が伊吹、石崎、アルベルトを引き連れて向かったのは屋上。彼は今朝、軽井沢に脅迫メールを送ったのだと言う。
【真鍋たちからおまえの過去は全て聞いた。放課後、午後2時に一人で屋上に来い。誰かに相談したりすれば、明日にはおまえの過去に関する噂が学校中を駆け巡ることになる。】
そしてXに対しても「今日これから軽井沢を呼び出し、どんな手を使ってでもおまえの正体を聞き出す」という内容のメールを送りつけたらしい。
龍園いわく軽井沢はXの手駒。彼女を潰せばXの邪魔が出来る。
それに。Xはともかく、かなりの虐めを受けていたことを暴露されたくない軽井沢は絶対に屋上へ現れると龍園は断言した。
伊吹は危険だと思えば引き下がる、と自身のスタンスを明確にしながらもとりあえずは彼に追従した。龍園のことは、その性格も行動も死ぬほど嫌いだが、実力だけは認めているのだ。
屋上に続く扉の前に着くと龍園は石崎から鞄を受け取った。龍園が教室からずっと持たせていたものだ。中から取り出したのは黒のスプレー缶。鞄を石崎に戻した龍園はそれを手に一人で屋上に進んだ。
「アルベルト、おまえは待機だ。軽井沢が来れば通し、他のヤツであれば即座に電話で俺に伝えろ」
屋上から戻って来た龍園の言葉に、アルベルトは階段を少し下りていった。見張りということなのだろう。
龍園に目で合図された石崎が扉を開く。龍園と伊吹、最後に石崎も屋上に出た。
「うわ、確実に懲罰食らうでしょこれ」
扉の上にある監視カメラのレンズ部分は黒く塗りつぶされている。龍園のことだからリアルタイムで監視されているかは既に確認済みなのだろう。
カメラに映像が映らないのだからこれから何をしようと学校側が把握することはできない。最後に映ったのはスプレーを噴射する龍園のみか、と考えたところでふと伊吹は思った。先ほど伊吹たちを待機させて一人で屋上に入ったのは龍園が自分だけペナルティを受けるつもりだからだろうか、と。
答えはすぐに出た。龍園のことだ、単なる気まぐれだ。もしくは効率を優先したとかあたりだろう。
「そう重くはならねえよ」
監視カメラの修理清掃のためのポイント徴収、そして教師から注意を受けるだけ。淡々と話す龍園に伊吹は呆れ果てた。この口ぶりからしておそらく別の場所で実行済みに違いない。
「軽井沢にメールを無視されなければいいけどね」
「あいつだって自分の利益くらい計算できるさ」
そう言って龍園はニヤニヤと笑った。見たくもないムカつく顔が、余計に歪んでいる。悪趣味なヤツ、と吐き捨て伊吹は空を見上げた。一面、どんよりとした雲。今にも雨が降り出しそうな天気だった。
2時になる、少し前。軽井沢が一人で屋上に姿を現した。どうやらXと一緒ではないようだ。
しかし女一人、のこのことやって来たのは何か裏があるのではないか。つまり軽井沢が会話を録音したり録画したりしていて今度はこちらが証拠を握られるんじゃないかと危惧した伊吹に対し、龍園は「いいから黙ってろ」と言い放つ。その自信満々な様子に伊吹は仕方なく口を閉ざした。
問い詰められるもなかなか口を割らない軽井沢を、龍園の指示で伊吹が押さえつける。気乗りはしないが、全ての責任を自分が持つと言ったこともあり龍園に少しだけ手を貸すことにした。流石の彼もこういう場面で嘘は吐かない。
ひとつ下の階の男子トイレ。そこの清掃用バケツを使って水を汲んできた石崎がその中身を軽井沢に浴びせる。寒空の下、冷水。1度だけではない。急いで往復して水を汲む石崎によって何度もひっくり返されるバケツを見る伊吹は心底胸くそ悪いとしか思えなかった。これに加担はしたくないと離れたところでXが来るのを待つ。視界に入れたくはないと感じる程度の良心はあるが、行為を止めるほど善人ぶることはできなかった。
龍園は軽井沢のトラウマを的確に刺激しながら、その強気な態度だけでなくXへの信頼をも剥がそうと鋭い言葉の数々を浴びせる。
「Xは真鍋をけしかけおまえを陥れた。そのくせ逆におまえを救ったヒーローのフリをした。マッチポンプってヤツだな。おまえだって今考えりゃ不自然な点の一つや二つ、すぐに思い浮かぶだろ?」
船上試験の真実。
「誰かがここへ繋がる階段に近づく様子もない。おまえは見捨てられたんだよ軽井沢」
Xが今、この場に現れていないという事実。
「助かる方法はたった一つ。簡単なことだ、ただ名前を告げればいい。後はおまえに関わることはないと誓ってやるさ」
そう、甘く微笑む龍園に対し。怯え、震えながらも。
軽井沢は、Xの名前を決して言おうとはしなかった。
そして軽井沢が屋上に来てから30分、いや40分くらいが経過した頃だろうか。
「あやの、こうじ……?」
伊吹は思わず呟いた。自分の見ているものが信じられなかった。
「悪い。遅くなった」
その男、綾小路は。いつも通りの無気力な無表情でありながらも。まるでヒロインを助けるヒーローのように颯爽と登場し、優しげに軽井沢へ声をかけた。
ただの間抜けなお人好しである綾小路がXであるはずがない。そう主張する伊吹に石崎も賛同する。
しかしそんな伊吹たちに綾小路は無人島試験での話をした。彼女がリーダーのキーカードを撮影しようと隠し持っていたデジカメを、水を使って外傷をつけずに壊したのは自分であると。さらに伊吹が土に埋めていた無線機のことにまで言及したのだ。
それからも言葉の応酬を重ねた結果、綾小路がXであると伊吹たちも認めるしかなかった。
当初の目的であるXの炙り出しは完了。しかしそれだけでは龍園は満足できないらしい。暴力でX、綾小路を屈服させようとする龍園に伊吹は反発したが、頬に平手打ちを受けたことで一旦沈黙する。
「これもゲームだ。そこに軍師を暗殺するのが禁止ってルールはねぇ」
暴力で決着をつける。その舞台はもう整っていた。
「いいか。今回重要なのは双方が得た情報をどう料理するか、それに尽きる。綾小路は自分の正体と軽井沢の件がある以上、この屋上での揉め事は秘密としておきたい。こっちとしても軽井沢への恫喝、冷や水を浴びせたことをチクられりゃかなりのペナルティを受ける。つまり、外部に漏らすのは誰にとってもデメリットであるってことだ」
軽井沢の過去と、Xの正体。それが龍園たちを守る盾になる。
「何があろうと、互いが泣き寝入りすることになるのさ」
それでもなお龍園に食ってかかろうとした伊吹は、次の瞬間、何を口にしようかも忘れて目を見開いた。半分ほど開いたままだった屋上の扉がバンと開け放たれたのだ。新たなる来訪者が2人、そこに出現していた。薄着の軽井沢とは異なり2人ともコートにマフラーに手袋と完全防備だ。
ドア脇に立つアルベルトも戸惑いを隠せない様子でいるし、石崎ももちろん慌てふためいている。龍園と綾小路の感情はその表情からは読み取れない。
「泣き寝入り、ですか。龍園くんにはとても似合わない言葉ですね」
儚げな雰囲気を持つ少女は、横抱きにされ運ばれていた。彼女を姫君のように丁重に降ろした女生徒はそのまま扉を閉める。
招かれざる客の1人はAクラスの女王、坂柳有栖。そしてもう1人は────
「クク、リ……?」
猫の着ぐるみの頭部を着用しているが、生徒会の腕章をつけていることからしても間違いないだろう。猫柄のマフラーも、もこもこした手袋も、いつも彼女が使っているものと一致している。
どうしてククリがここにいるのか。伊吹の思考は疑問符で埋め尽くされた。
「あれ、一発バレするとは予想外。わざわざ被り物した意味とは」
「腕章を外し忘れていますから。それ、まだ試作品で南雲会長とククリさんしかお持ちでないのでしょう?」
「おお。そかそか、こりゃあ普通にわかっちゃうね」
ククリは今更のように腕章を外すと、コートのポケットにしまい。それから背負っていた鞄をよっこらしょと床に置いた。どこまでもいつも通りの声と態度に、伊吹はここが普段の教室であったのかと錯覚してしまう。
「何故おまえたちがここにいる」
「ショーを特等席で見るために来た感じだよ。あ、見物するだけだから手出しも口出しもしないし、喧嘩でもなんでもご自由にどうぞ」
ほら、と言うようにククリは鞄から取り出した折り畳み椅子を組み立てて坂柳とともに座る。それは伊吹にも見覚えがあった。体育祭の時にククリが使用していたものだ。さらに2人は水筒のお茶でのんびり一服しようとしていた。
「うんうん、言うなれば“Welcome to the mad tea party!”かな。あれチェシャ猫は参加してなかった気がするけど」
「ふふふ。では私は“Off with their heads!”とでも言いましょうか」
「むー、ハートの女王もお茶会の参加者というよりは元凶だと思うぜよ」
そう話しながら被り物をとったククリがお茶を飲む。あまりにも和やかな雰囲気。坂柳とククリのいる空間だけが異質なものに変貌しているようだ。
伊吹はわけがわからなかった。なぜククリが坂柳と仲よさげにしているのか。なぜ濡れ鼠になった軽井沢の様子を気にも留めないのか。なぜこれから起こることを予期していたような口ぶりなのか。なぜ。とても楽しそうに笑っているのか。
「招待状なんざ送った記憶はねえんだがなあ」
「えへへ、こんな楽しそうな催しに参加しないなんて選択肢はないからね。来ちゃった! というかなんで呼んでくれなかったのかな。ひどいよ」
この状況で龍園と普通に話すククリを見て伊吹は思った。感じてしまった。ククリは、もしかすると。その性質が龍園に少しだけ、ほんの少しだけ近いタイプの人間なのかもしれないと。
「俺の考えていたXの本命は綾小路か平田。おまえがそっちに裏切る可能性を考えてのことだ」
「あれ、信用ないな私。いや確かに2人ともイケメンランキング上位だけれども」
「抜かせ。おまえXの正体に薄々勘づきながら黙ってただろ」
そうだ。ククリはこの場に綾小路がいることに全く驚いていなかった。Xが綾小路であると気づいていたかのように、あっさりと受け入れているのだ。
伊吹は綾小路のほうを見る。彼はただ黙って会話を聞いていた。これっぽっちも動揺などは見せない。この展開も想定内だったとでも言うように。
「何故バレたし」
「俺がX当てゲームなんてのをやってる時におまえは静か過ぎたんだよ。普段のおまえならもっと騒いで首突っ込んできた」
「理由が単純! そんな何にでも興味持つ子どもみたいな認識されてたのか私……」
「いえ。ククリさんが本当に興味を持てば、推理小説の登場人物欄を見るだけで犯人を当てることも容易いですからね。そのことも加味してあると思いますよ?」
さらりと告げる坂柳の様子は、ククリのことをよく理解しているように見えた。もしかすると伊吹よりもよっぽど。
「……いつからそいつと繋がっていやがった」
「知り合ったのは入学してすぐ、それからちょくちょく話してたけどここまで仲良くなったのは夏休み後半からかな」
意外と長い付き合いだ。だが今はそんなことよりも、と伊吹は思わず口を挟んだ。
「もし坂柳がここでのことを話したなら、うちのクラスは……!」
「問題ないですよ。私はここでの出来事を一言たりとも漏らすことはありませんし、録音等の行為もしていませんから。ただ
「理解できなくもねえが。そんな言葉が信じられるとでも?」
「信じるかどうかは勝手ですが、私がここにいるという事実は変えようがありませんよ。逃げることもありませんから、先にそちらを片付けてからお考えになったらどうですか?」
この状況を見られた以上、これから喧嘩をおっ始めようとその罪は大差ない。なら全ては綾小路を倒してから考えればいいだろう。幸いにも、坂柳が不得手としている暴力は龍園の専売特許と言ってもいい分野だ。不敵に笑った龍園は綾小路へと向き直った。
遠くからそれを見ていた伊吹もまた、視線を綾小路に戻す。大丈夫。
「グダグダ待たせちまって悪かったな。借りを返すぜ綾小路。おまえが無様な姿を晒す程度で勘弁してやるよ」
龍園が石崎に攻撃命令を下す。石崎は躊躇しながらも綾小路を殴りつけようとし──しかしそれはできなかった。石崎の右拳が綾小路の右手によって止められたのだ。そのまま手を握りしめられ痛がる石崎を助けるべくアルベルトが拳を繰り出すも、今度は左手で受け止められた。
あの石崎とアルベルトが、2人がかりでも敵わない。そんな信じられない光景。
しかしその後、綾小路の流れるような攻撃によって嘘のように2人とも倒されていくのを目の当たりにした伊吹は、彼の実力が本物であると認めざるを得なかった。
龍園ですらも予想外だった綾小路の腕っぷしの強さ。そして綾小路によって明かされたのは、こちらが誘い込んだはずが、逆に誘い込まれていたという事実。
「オレとおまえがこうして対峙することは以前からの決定事項だった。両者が学校に報告できない状況での暴力勝負となることもな。
綾小路が坂柳に視線を向ける。彼女は椅子に座ったまま軽く会釈した。
自らの技量の一端を見せ付ける綾小路。それでも尚楽しそうに笑う龍園。ただ観察するようにこちらを見ている坂柳。
「何なのよ、あんたたちは……!」
溢れ出る苛立ちを綾小路にぶつける伊吹であったが、その攻撃は全て避けられる。歯がゆさのあまりチッと舌を鳴らした。
隠しながらも能力を使う。強いくせに、それをおくびにも出していなかった。そんな綾小路に今まで腹の中でバカにされ、あざ笑われていたようで。生理的に受け付けられない。
飛び蹴りを、食らわせる。そうしようとした伊吹であったが、突如目の前まで近づいてきた綾小路に容赦なく床へとたたきつけられた。
無人島で話した時と、あのお人好しを演じていた時と変わらない無表情。その暗い瞳は自分のことを敵として映していないようで。
────めちゃくちゃムカつく!
そこで、伊吹澪の意識は途切れた。