ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
富は海水のようなものだ。 飲めば飲むほどに渇きをおぼえる。 名声についても同じである。
朝比奈先輩や金田君の誕生日も過ぎ。3学期が始まったばかりの今日、1月14日の朝。私たちは3学年一諸に輸送されていた。クラスごと12台のバスが高速道路を走っている。移動時間はおよそ3時間らしい。
何をするか説明は受けていないもののまあ特別試験だと皆予想はついているだろう。みなジャージ着用を言い渡されていて、替えの下着等々も持ってくるよう推奨された以上は泊りがけということもわかるはずだ。少なくとも私は知っている、これから林間学校が始まると!
実はククリちゃんはこのあとの試験のルールとかを事前にご存知だったりするのだ。というのも林間学校は何年か前に行った特別試験と同じものらしく、生徒の意見を取り入れようとする学校側から生徒会にルールやらペナルティやら昔と変えるべき?と聞かれたのである。
冬休みに生徒会で色々と話し合って意見を提出したのでその後学校側はどんな感じに林間学校を変えたかはわからないけど、まあかな~り把握しちゃってるんだよね。もちろん他の生徒に話したら即☆退学なのでお口チャックなんだけどさ。
長いトンネルを抜けるとそこは雪国────ではなかったけど、坂上先生がマイクを手に立ち上がった。
「静かに」
トランプやゲームで盛り上がっていたクラスメイトたちもしんと黙り込む。いよいよ特別試験の説明が始まる。
「あと1時間弱程度でこのバスは、とある山中の林間学校へと到着します。今回みなさんが参加する特別試験は学年を超えての集団行動を7泊8日で行うものです。名称は『混合合宿』。これから資料を配布しますが、バスから降りる前に回収するのでしっかりと読んでおいてください。また書き込みしたり、他の紙に書き写すことも禁止です。筆記用具を持っている方はバスを降りるまでは使用しないでください」
ガサゴソと荷物を片付ける音がする。言われた筆記用具であったり、遊び道具なんかも念の為もう鞄にしまっておくのだ。邪魔になっちゃうしね。
まわってきたのは20ページくらいの厚い資料。うーむ、なんか遠足のしおりみたいだなこれ。中には合宿地の写真も掲載されてる。
「さて、今回の特別試験の主な目的は精神面での成長。社会で生きていくためのイロハであったり、普段関わりのない人と円滑な関係を築けるかの確認、そしてそれを学んでいくことになります」
ふむ。上級生とか他学年の先生とかと仲良くしたりしようね!ってことかな。
「資料の5ページを開いてください。まず皆さんには学年別、男女別の6グループを作っていただきます」
【1つのグループを形成する上で、その人数には学年及び男女を分けた総人数より算出される下限と上限が定められている。同一学年の男子あるいは女子生徒が60人以上であれば8人から13人。70人以上であれば9人から14人。80人以上であれば10人から15人が1グループにおける下限と上限の人数となる。60人を下回る場合には別途参照のこと】
うんうん、うちの学年は退学者もおらず男女80名ずついるから10〜15人のグループを作るんだよね。
さらにこの項目の下には次のような記載がある。
【グループ内には最低でも2クラス以上の生徒が存在することが条件である】
「グループは人数の範囲内でしたら組み方は自由ですが、2クラス以上の混合である必要があります。さらにグループ結成は話し合いによる満場一致、反対者がいない状態でなければいけません」
強引な手法とかは基本使えないってことっすね。他クラスと一緒なんだからせっかくの機会だしキャロルあたりと同じグループになれるといいなあ。
「グループは、例えるならこの林間学校だけの臨時クラスといった感じのものです。メンバーで一緒に授業を受け、炊事や洗濯、入浴から就寝まで様々な日常生活を共にすることになります」
まあここらへんは普通の林間学校みたいな感じだね。うー、お料理スキルが不安でせう。カレー作ったりすんのかな。
「本格的な授業は明日15日の朝から始まり、20日まで。普段とは異なり土日も授業が行われます。そして最終日となる21日には全学年一斉に試験が行われ、直ちに採点されます。詳しいスケジュールについては到着次第の発表。どのような試験をどのように行うかも今は申し上げることができません」
大まかなテスト内容は7ページに書いてあるらしい。どれどれ。
【道徳、精神鍛錬、規律、主体性】
ふむふむ……うん、漠然としすぎてわからんわっ。
「グループ決めは非常に重要です。如何なる理由があろうとも脱退やメンバー入れ替えは出来ません。病気や怪我での離脱の際もその穴埋めはグループ内で『生徒が存在するものとして』対応するということになります」
つまりグループのメンバーは一蓮托生、妨害行為は益にならないってこと。他グループの妨害はむしろ効果的っぽいからたっつーとかたっつーとかがやりそうなんだけどね。
「1年の中で6つのグループ、小グループを作り終えた後は上級生と合流します。あちらも小グループを形成しているので、そこから全学年で大グループを作り上げるわけですね。大グループは1年から3年を合わせた、およそ30から45人で構成された6つのグループになります。特別試験の結果はこの大グループのメンバー全員の試験結果の『平均点』で評価されます」
体育祭と同じで他学年の成績にも左右されるんだよなあ。結構な運ゲーじゃないかねこれは。
「大小を問わずグループ決めに教員が口出しすることは基本的にありませんが、設けた時間内に決められなかった場合のみ全グループメンバーをこちらでランダムに配分します。それでは、資料の10ページを開けてください。最後にこの特別試験の報酬とペナルティについてお話しします。大まかに言うと平均点が1位から3位の大グループの生徒全員にはクラスポイントとプライベートポイントの支給があり、4位から6位は逆に減点される形ですね」
パラパラとめくって該当ページを開く。
【基本報酬】
1位:1万プライベートポイント、3クラスポイント
2位:5千プライベートポイント、2クラスポイント
3位:3千プライベートポイント
以上の報酬を、グループの生徒1人1人に配布する。
4位:5千プライベートポイント
5位:1万プライベートポイント、3クラスポイント
6位:2万プライベートポイント、5クラスポイント
以上のポイントを1人1人から回収する。
「クラスポイントもプライベートポイントも0以下にはなりませんが、累積赤字として今後の試験等で報酬を得た際に精算されます。注意してください」
1位のプラスは美味しいけど、6位のマイナスがかなり痛い。最下位だけは何としても避けたいね。
まあでも上手く負債を他クラスに押し付けるのはできるかな。自分たちが1位を取れるかはわかんなくても、よそを6位にさせるやり方はある。
「小グループ内のクラス数に応じて、3クラス構成なら2倍、4クラスだと3倍と報酬は増えていきます。また、小グループを構成する総人数によっては更に倍率は増加します。これらは1位から3位までの報酬のみへの適用であり、4位以下には適用されませんのでご安心ください」
総人数だと10人が1倍で11人が1.1倍……と増えていく。最大で15人の1.5倍だね。つまり1位が4クラス構成の15人グループだった場合の報酬は一人当たり14クラスポイントに4万5千プライベートポイント。小数点以下は四捨五入!
この報酬とペナルティのバランスも生徒会で話し合った。懐かしいや。ちゃんと私たちの意見が反映されてるみたい。
「そして最下位になった大グループへは『退学』のペナルティが科される可能性があります。学校側の用意した平均点のボーダーラインを小グループの平均点が下回ってしまった場合、その小グループの『責任者』には退学処分が下されます」
総合順位は大グループの平均点、退学基準は小グループの平均点になるわけだ。確かこのペナルティは南雲会長が主張してたっけ。もう3学期になったんだから、退学の可能性もつきまとう厳しい試験にするべきだって。あの人実力主義だからなあ。
「メリットとして、責任者と同じクラスの生徒は報酬が2倍になります。責任者は小グループで話し合うなりして明日の朝までに決めてください。成り手がいなかった場合は即失格、グループ全員が退学となってしまいます。もちろんそんな事態に陥ったことは今までありませんでしたが……」
流石に責任者を押し付けあって退学になるのはダサすぎる。よほどやばいことしない限りは平均点が学校のボーダーラインを下回ることはないと思うしね。1人ボイコットしてる程度なら周りがカバーすれば、たぶん大丈夫。それにそういうのができないような仕組みを南雲会長が提案していた。
「責任者が退学になる際はグループ内の1人に連帯責任として退学を命じることが出来ます。これはボーダーを下回った原因の『一因』だと学校側に認められた生徒のみを対象とします。例えばわざと赤点を取ったり、試験をボイコットしたり等ですね」
うむうむ、道連れにするわけですな。グループでギスギスすんなよーってことね。
「退学者を出してしまったクラスには相応のペナルティが科されます。内容は試験によって常に変化していますが、今回の特別試験では退学者が出た場合、一人につきクラスポイントが100ポイント減少します。これでクラスポイントが0になると累積赤字として残りますね。まあこのクラスには関係ないことでしょうが」
うーむ。退学者を出すと即ペナルティってとこ、連帯責任感あるよね。個人だけじゃなくてクラスで力を合わせましょうってことっすか。クラスポイントという仕組みはつくづく複雑で厄介だ。
「説明は以上です。質問は?」
「坂上」
後ろのほうからふてぶてしい声が聞こえた。席が名前順だからたっつーは結構後ろにいる。おかげで本来なら先生の目が届かない後ろのほうが盛り上がるはずなのに前のほうが騒がしかったんだよなあ。後ろの席の人々、可哀想に。
「確認だ。退学の取り消しはプライベートポイントを2千万とクラスポイントが300。加えてペナルティの100クラスポイントが必要、それで間違いねえな?」
「その通りだ。ポイントがどちらかでも不足している場合は行使不可能になる」
うわ、400クラスポイントですってよ奥さん。そんなの支払えないよ。高すぎる。まあ2千万プライベートポイント用意できるのもAクラスくらいだろうし、1年生はA以外だと退学の救済は無理かな。上級生はわかんないけどさ。
「大グループの決め方は何だ」
「基本的には小グループと同じで全体での話し合いだ。午後8時から大グループを作成する場を設けてあり、クジなど道具は一通り用意しているので要望があればできる限り学校側で対応する」
うーん、大グループはかなり重要そうだから小グループより揉めちゃう可能性も思うんだけど。でも夜8時にやるってことは例年そんな時間かかんないのかな。クジ引きでぱぱっと決めてるのかも。
「男女は全く交流なしか?」
「ああ、基本的に1週間バラバラでの生活だ。林間学校の本棟を男子が、分棟を女子が使い、これらは隣同士だが休み時間や放課後の許可なき外出は禁止されている。ただし一日1時間だけ本棟の食堂で男女同時の夕食の時間があり、この際は好きにして構わない」
端末が使用できないから、情報交換の時間っつーわけですな。スパイごっこみたいなことやる人たちもいそうだなあ。ワクワク。
「特別試験の結果発表の方法は?」
「男女合わせて体育館で行う。1位から最下位まで順位のみの発表で点数は公表されず、また3年生の責任者の名前のみを読み上げ、報酬やペナルティのポイントは後日配布と回収が為される」
うーむ、各クラスとかのポイントがどうなったかの計算がややこしそうだねえ。金田君、頑張れ! 応援してるよ。
質問を思いついた私はすっと手を挙げた。先生に指されたので起立……はシートベルトしてるからやめとこう。
「炊事、というのはいつ行うのですか?」
「明日の朝食は学校が用意しますが、それ以降の朝食は全て大グループごとに作ってもらいます。食事スペースや調理場が外にありますので雨天時は学校側が食事を提供しますから、皆さんが炊事するのは晴れの日の場合ですね。人数や分担方法は話し合いで決めていただきます。献立は決まっていて、調理方法などの説明や資料配布もありますのでご心配なく」
うみぃ。朝食作るんか。お、同じグループの人に頑張ってもらおう。私は皿洗いとか配膳とか皿洗いとか頑張る。お菓子作りならそこそこ出来るのだが、スコーンだとか優雅なブレックファーストにはならないだろうしなあ。
「他に質問はありますか?」
バスは静まり返っている。たっつーに視線が集まったけど、奴も特に聞きたいことはないらしい。
「では残り時間は自由に使ってください。先ほども言った通り資料は到着後に回収します。そして林間学校中は端末などの電子機器の類いが使用禁止ですので同様に回収させていただきます。その他日用品等は基本的に持ち込み自由ですが、食料品のみ不可となっています。保存のきくものはお預かりしますが、そうでなければ捨ててしまうので嫌な方は到着までに食べきってください」
この言葉に不満の声が上がる。ずっと端末いじれないのは現代っ子的にキツいよね。無人島試験でも、うちのクラスだけサバイバルしてないもんなあ。
まあ食べ物については基本みんなスナック菓子とかを持ってきてるから大丈夫だろう。袋を開けてしまった人は慌てて食べきろうとみんなに回したりしてる。お菓子祭りだぜやったね。まだ開封してなかった人でも1週間お預けになるなら今食べちゃおうと食べ始める人もいるみたい。
あ、どもども木下さん。ポテチくれるの? ありがとう、ピザポテトは私も好きだよ。考えた人は天才だと思う。
お菓子をつまみつつ私は情報交換タイムに入ることにした。
【キャロル、同じグループになろうよ】
【ふふ、嬉しいお誘いですね。わかりました、調整は私が行うということでよろしいですか?】
【うん。試験で点取れるかなんてわかりっこないし、好きに組む感じでいいと思うからね。全体的な能力が低い人とか協調性のない人を排除するくらいしか方法ないっしょ】
【そうですね。男子グループはその方向で固まっていただこうと考えています。付け加えるなら他クラスの偵察要員も作りますが】
ふーん、スパイか……って。
【それ、私に教えちゃっていいの? たっつーに話しちゃうけど】
【ええ、問題ないです。Aクラスのことをお伝えする代わりに教えていただきたいことがありまして。今回のルールについてなのですが、いつもの学校側の姿勢と異なる部分が見受けられますよね。生徒会が関与しているのでしょうか?】
おお、流石だな。私は全然違和感ないと思ってたけど、気づく人は気づくらしい。
【ん、正解。ルールのいくつかは私たちの意見が採用されてる】
【では責任者のペナルティである退学や連帯責任の制度についても】
【うむ。そこらへんは南雲会長が言ってたよ】
【なるほど。おおよそ理解できました】
何を? むー、怖い、怖いぞキャロル。
【Aクラス、男子側は14人を選出して残りの1枠を他クラスに埋めていただくことにします。意図的な妨害行為がなければ責任者が道連れにすることもないと言えば、大方Dクラスあたりで自分の能力に不安のある生徒が入るでしょう。残りの6人は他クラスが好きにできるようにしますから、とりあえずはこの意を
【ふむふむ。大グループの決め方にもよるけど、最下位になることはまずないね。堅実だ】
【特別試験において学校側は下位クラスが上位クラスに勝利できるチャンスを常に用意しています。つまり運によって試験が左右される余地があるのですね。例えば今回はどのように小グループを作っても、運悪く大グループの上級生がDクラスばかりとなれば1位を取ることは不可能に近いです。それに男子側で争っていても私たちは様子を見ることが出来ません。引っ掻き回したところで面白みに欠けますね】
あー、確かにそうね。キャロルは自分のいない無人島や船上試験では軽く葛城君の足を引っ張るくらいで……いや結構妨害してたような……うん、まあそんな感じだったね。あれだ、きっと今のキャロル的には自分のいないとこでカピバラ麻呂が活躍したりすると寂しくて嫌なんだろう。だからやる気が出ないんだね。
それにやりすぎると次の特別試験で勝負する約束を守ってもらえなくなるかもしんないもんな。カピバラ麻呂はたっつーほどではないにしろ100%信用できる男かと聞かれると首を横に振らざるを得ないからなあ。
【女子はどうするの?】
【各クラスの代表を集めた話し合いをして、適当に4クラス構成の班を6つ作る形になりますかね。今回はババを引かないようにすればよいかと】
【ババ抜き?】
【はい。今のところ確証はありませんが、とりあえず一之瀬さんで少し遊ぶことになるでしょう。詳しくはお会いした時にお話しします】
うーん、ババってどういうこっちゃ。まあいいや、後で教えてもらおう。キャロルもAクラスに指示を出さなきゃいけなくて忙しいだろうし。
よし、次は……たっつーからメッセージ来た。なになに。
【一之瀬たちを攻撃する】
大人気だな一之瀬さん。
【女子? 男子? 両方?】
【男子だ。あのクラスは一之瀬がいなけりゃ脆いからな。男女別の試験である今回は都合がいい】
【ほいほい。女子側はキャロルが何かちょっとやるっぽいよ、ってチャットのスクショ送ったほうが早いか。送るね】
さっきまでキャロルと話してたことをたっつーに教えてあげると返信が止まった。少し考え込んでいるようだった。
【Aクラスに乗ってやろう。男子は残りの3クラスで自クラス12人、他クラス1人ずつの4クラス構成グループを形成する】
ふむふむ。高倍率を狙っていくのか。ハイリスク・ハイリターンのギャンブルだね。1位を取ったらドカンとポイントをゲットできるけど最下位だと結構取られちゃう。
【うん、いいんじゃないかな。あ、女子はたぶん無理だと思うからね、それ。色んな意味で。男子だけだよ男子】
女子はたぶん自分のグループにクラスメイトがゼロの状況になるのを断固拒否する人が大半だろう。2人、3人くらいずつに分けてどうにか組み合わせるのがいいのかな。
【ああ。そっちに1位を求める気はねえ。女子は最下位の人数をできるだけ少なくすりゃいい】
【うーん、そう言われてもなあ】
【南雲が退学やら連帯責任をルールにしたのは何故だか考えてみろ】
特別試験をより良くしたいから……じゃあないんだろうな、まあ。
【退学させたい人がいるから?】
【そうだ、そいつがババだ。それを引かねえようにしろ】
なるほど。で、それ誰よ。
【男子の可能性もあるんじゃないの?堀北先輩とか】
【堀北であれば自力でどうにかするだろうからその線は薄いな。どちらにせよ警戒するに越したことはねえ。やるなら2年で南雲と親しい奴らを使って事を起こすだろうから、固まってたら避けとけ。それと、大グループの作り方も操作しようとしてくるだろう。口出ししてくる奴は怪しめ】
おお。そうか、南雲会長とよく一緒にいる女子ズを回避すればいいのね。あと大グループの決め方かあ。うん、意図的にどこかの小グループを選べるよう調整してくるとこがあれば怪しいね。
まあそこらへんはキャロルも気づいてるっぽいし相談すればいっか。あれだね、一之瀬さんで遊ぶってことはババを押し付けるってことなのかな。
【了解。他は何かある?】
【女子グループの全体把握、坂柳の見張り。問題があれば報告しろ】
【ん。夕食の時に会う感じでOK?】
【誰に聞かれるともわからねえからメモにでも書いて渡せ】
全生徒一斉にご飯だもんなあ。聞き耳立てられててもおかしくないか。
【わかった。そっちも男子の状況教えてね】
たっつーとの会話も終わったしグループラインを開いてみる。みな思い思いにしゃべり合っていた。そこに不安の色があまり見えないのは、何だかんだたっつーについていけば大丈夫だと思っているからということなんだろう。
端末の画面を消してから濡れティッシュで手を拭き、配られた林間学校資料をもう一度読み込む。こういう暗記の得意なひよりんがいるとはいえ、自分でも回収される前におおよそのルールは把握しておかなきゃ。
しかしよく考えるとたっつーのいない試験って初だな。これ以降も男女別の試験があったらやだなー、面倒くさい。
もらった飴をバリバリ噛み砕きながら資料をめくっていると。後ろのほうからパン、と手を叩く大きな音が鳴った。おしゃべりしてた人も途端に黙り込む。このクラスの人々はよく知ってる。これから暴君の時間が始まるのだと。
「聞け」
マイクを使ってるわけでもないのによく響く声だ。ある種の才能なのかもしれんな、これも。
「試験後、報酬は全て俺に送れ。ペナルティを受けた奴は申告しろ。相殺してやる」
うん、体育祭の時と一緒だね。でも今回は試験後にたぶん結果を全て計算するんだろうな。クラスポイントも関わってくるもん。計算頑張れ金田君、応援してるよ。
「おまえらはただ黙って従ってりゃいい。いつも通りのことだ」
俺を信じてついてくるならこのクラスをAクラスに引き上げてやるだとか付き従う限りは守ってやるだとか、そんなこと言ってたよねたっつー。澪たちのために自主退学しようとしてたし、あながち嘘じゃなかったのかもしれない。
ぶー、いいなあ、男子は楽で。女子は女子で頑張らないとだよね。
それからたっつーは金田君にバトンタッチして注意すべきこととかを話させていた。たぶん私とキャロルがチャットしてる間、たっつーは金田君と連絡していたんだろう。
やがてバスは高速を降りて山道に入っていった。とある山中の林間学校と先生はおっしゃってたから、そろそろ着くのだろうか。
そう思っていたら正解だったらしい。
「間もなく目的地に到着します。すぐに屋内でのグループ作りが始まり、その後の部屋の割り振りが終わり次第昼食、午後は各自自由行動です。ただし先ほど言った通り午後8時から大グループ決めがありますので、それにはもちろん参加してください」
窓の外には段々と施設たちが見えてくる。
3学期最初の特別試験、その幕開けだ。