ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】 作:アネモネ
女子のグループを決め、ついでに責任者も選ぶのはお昼すぎまでかかった。揉めに揉めたんだ、うん。
長いからダイジェストでお伝えしよう。まずはじめにキャロルと神室さん、一之瀬さんと
それでまあ4クラス構成6班ということで合意はできたんだけど、たいへんなのはそれから。クラスごとに何となくグループを作って、それらをどう組み合わせるかなんだよね。「あの子と一緒がいい」「あの子とはやだ」という要望のまあ多いこと多いこと。気分はさながらパズルゲームである。
仮グループを作っては文句が出て、作り直しては不満が出て、もう全てを投げ出してクジで決めないか?と7割くらい本気で思ったもののまあ何とかグループは決まり、こういうのは早い方がいいだろうということで責任者も選んでもらった。
出来上がった女子の6班の構成はというと、まず私のいるのはAクラスメインの班。メンバーはうちのクラスから私と澪。Aクラスがキャロル、神室さん、
一之瀬さんのクラスがメインで8人いる班は残りが他クラスから2人ずつの合計14人。ここはAクラスの子が責任者に手を挙げたそうだ。
リンリンと桔梗ちゃんのいる班はDクラスがメインで7人。Aクラスから2人、一之瀬さんとことうちのクラスから3人ずつの合計15人。責任者は恨みっこなしのジャンケンで決めて一之瀬さんとこの人になったそうな。
ひよりんと一之瀬さん所属の班はうちのクラスがメインで6人いる。真鍋さん、藪さん、山下さん、木下さんに西野さんとひよりんだね。そんでAクラスの子が3人とDクラスの子も1人いるから合計11人。責任者にはひよりんが挙手。頑張れ!
カピバラ麻呂の手駒っぽいKちゃんの班にはDクラスが6人、うちのクラスから4人、Aクラスと一之瀬さんクラスから2人ずつの合計14人がいる。責任者は話し合いの末Dクラスの子になったとのこと。
カピバラ麻呂と遊んでるのをよく見かける佐倉さんと長谷部さんの班はあとAクラスが2人、一之瀬さんとこが5人、うちのクラスから3人で合計12人。責任者はうちのクラスの人に決定したらしい。
小グループが決まるとそれごとに寝泊まりする部屋を教員から案内される。チッスチッス。今回の試験では全学年の先生方が集まっているためかよく知らない先生が多いね。
別棟は古くも手入れの行き届いた木造建築という感じだけど、それはこの部屋も同じだった。写真で見た限りだと本棟も同じ感じだったから、特に男女で差があるというわけでもないだろう。ハイテクな学生寮に慣れてしまった身としては部屋も木製の2段ベッドも古ぼけているように見えてしまうし、トイレがついていないというのも不便極まりない。待遇の改善を要求するー! まあでも無人島生活よりは何倍もマシなのかな、きっと。
「さて。ベッドの振り分けを決めませんか?」
責任者ということもあり、キャロルが基本的にこのグループを仕切っている。自己紹介をした感じではAクラス以外の人々はまあ可もなく不可もなく普通って感じだった。
姫野さんは1人で自分からこのグループに入ってくれたことからしてクラスとはちょっと距離をおいているというか、一之瀬さんたちの仲良しこよしに加わらず距離を置いている印象を受ける子。グループでも話の輪に加わってはいるものの相槌を打つだけのことが多い。
松下さんと佐藤さんは2人ともギャル系の子。佐藤さんはカピバラ麻呂とクリスマスに一緒のとこを目撃したのよな。Kちゃん・平田くんカップルとWデート的な感じだったのだけど、カピバラ麻呂と付き合っているのだろうか。うーむ、機会があったら聞いてみたいものですな。あとは佐藤さん、クラスメイトの小野寺さんのことはあまり好きじゃないようで、彼女とグループになるのは避けたがってたしわりと他の女子もそれを察してたように見えたっけ。
「私は余ったとこでいいよー」
「同じく」
私と澪がそう話すと、他の人たちも同意してくれた。唯一キャロルだけは身体的な問題でドアの近くのベッドの下段を希望。もちろんみなOKする。
そうなるとまあクラスごとに固まる感じでベッドの位置が決まっていく。7台あるベッドは部屋の左右で3、4に分かれてるから、4台側は全てAクラスが。3台側の奥に姫野さんと田宮さん、真ん中にDクラスの2人、入口側が私と澪ということになった。澪と上下どっちにするか、という話になったので何となく下の段を選択。ふう、ちょっとひと息。
荷物を軽く整頓してから、グループでお昼ごはんを食べに行くことにした。今日は時間がバラバラでいいけど、明日からはお昼休憩が12時からとぴしっと決まっているらしい。むー、ガッチガチのスケジュールですな。
「ここもここで広いね」
別棟の食堂は資料にあった本棟のものほどじゃないにしろ十分に広い。まあ女子全員が食事するんだから当然か。
基本的に昼食は別棟で女子だけで、夕食は本棟で男子と一緒に、という感じらしい。夕食は移動時間も考えないとだね。お隣の建物とはいえちょっと面倒くさい。
朝食については「料理できる人ー?」とみんなに聞いてみたらAクラスの半数以上の人が手を挙げてくれたのでたぶん大丈夫だと思う。ありがとう、流石Aクラス優秀! 雑事はやるので調理はお願いしやす。ちなみに澪の食事は基本カップ麺や加工食品にサプリだったりします、はい。
食堂は完全に自由席でみな好き好きに座っている。グループに14人もいるとそれぞれ何となく分かれるもので、私の場合は澪とキャロル、神室さんの近く。うん、ロックと絡んだ時のメンバーだなこれ。リンリンがいれば完璧にそうだわ。
「男子のグループ決めはどのように終わったのでしょうか」
「どうだろう、本当に別行動だと様子が全然わかんないからなあ。夕食の時に聞くしかないね」
「夕食はやはり龍園くんと?」
「うん。あれ、夕食は別行動でいいよね」
「もちろんです。私もクラスの方々とお話がしたいですし」
情報共有のため別行動は必須だろう。何せ1日1時間しか男女合流の機会がないもん。
「上級生のグループがどんな感じかも知っときたいね。午後は自由時間だし遊びに行こっかな」
「8時から大グループを決めることになりますから、今のうちに調べておいたほうがいいでしょうね」
周りを見ると上級生の姿はまばらだった。私たち1年がグループを決めるのが1番遅かったから、もう2,3年は先に食べちゃったんだろう。特に2年生のグループ決めはめちゃ早かったもんな。南雲会長の支配の賜物かしら。
「生徒会の先輩とかを訪ねるか。キャロルも来る?」
「ええ、是非に。お願いします」
澪と神室さんも頷き、この4人でこの後も行動することになった。しかしこころなしか澪の視線が険しい気がする。いや、グループは一蓮托生だし、ね? 大丈夫だよ、今回の試験でキャロルが私たちのクラスを攻撃してくることはたぶんないと思うから、たぶん。だからそんな目で見ないでくれ。
2年の女子生徒会メンバーとか、朝比奈先輩とか南雲先輩と親しい女子たちを脳内でピックアップした私はふと考えた。元生徒会だけど橘先輩なら優しいし話してくれそうだよな。うん、3年のことは橘先輩に聞こーっと。
「え、男子はもう大グループまで決まったの?」
「ああ」
夕食の時間。私たち女子がはじめて足を踏み入れた本棟の、500人も収容できるらしい広い食堂には人、人、人の群れ。全学年全生徒がいるから当然といえば当然なのか、激混みだった。
端末という連絡手段がない以上本来であれば合流は簡単じゃないだろう。しかしたっつーは悪目立ちしてるのですぐわかった。両隣にバーティと石崎君までいるしね。
というか今も2人は私とたっつーの隣で壁になるように座っていて、おかげで他の人々は近寄りがたい空間になっている。食事のトレイも準備してくれてたし、何か舎弟扱いしてるようで申し訳ないというか気恥ずかしい。
うーむ、しかしカピバラ麻呂に敗北してからというものの石崎君の様子がちょっとおかしいんだよね。何故かクリスマスの日に尾行したりしてきたし。そんな暇だったんだろうか。
まあそれはともかく。私が女子の情報を書いたメモを渡すと、たっつーのほうも何かくれた。どうやら男子の小グループの責任者とどのクラスが何人いるかを記してあるらしい。
【葛城A14、D1
龍園B12、A1、C1、D1
神崎C12、A1、B1、D1
平田D12、A1、B1、C1
幸村D3、A2、B2、C3
三宅D2、A1、B4、C3】
ふむ。キャロルの言った通り、たっつーの望み通りだね。下にはさらに大グループのことも書いてある。もう決めてるなんて男子はよほどグループ決めがスムーズだったんだろうな。そう思っていたら驚きの文章がそこにはあった。
なんと! たっつーは堀北先輩と同じグループになったというのだ。え、マジか。屋上での一件があったし、たっつーは堀北先輩を避けると思ったんだけどなあ。堀北先輩の小グループの責任者はCクラスの
大グループは南雲会長の提案で、ドラフト制度みたいに1年の責任者6人が上級生の小グループを指名していく形になったらしい。ジャンケンで決めた指名順、トップバッターはたっつー。やっぱ悪運が強いなあこいつ。
でも何で南雲会長はそんなやり方にしたんだろ。んー、たぶん1巡目で堀北先輩のグループも自分のいるグループも指名されるから、確実に別の大グループになれると踏んだんだろうか。まあ理由は何にせよ、1年から選ばれるというこのやり方ではグループの組み合わせがどうなるかの完璧な予測は不可能でしょうな。ということは南雲会長が退学させようと思ってる生徒はやっぱり女子側にいるんだろう。
南雲会長の小グループは幸村君が指名したそうだ。幸村君とこの小グループにはカピバラ麻呂がいるから注目したいところ。あとロックもいるらしい。うーむ、ヤバい奴2人に挟まれる幸村君が
で、大グループが完成した後は南雲会長が堀北先輩に宣戦布告。グループの平均点勝負、まあつまりは順位の勝負ということになったそうだ。堀北先輩からの条件で他の人の妨害したりとか卑怯な真似は禁止。誰に対してでも何かしらの工作に南雲会長が関与したと判明した時点で勝負は無効とのこと。
でも南雲会長の小グループ、桐山副会長とかもいるけど全体的にCとDクラスの人が多いらしいんだよね。別にAクラスじゃないから優秀ではない、と言うつもりはないけど、普通であれば自分のクラスなんだしAクラスをメインにするはず。そうしなかった意図は何なのか。
うーん、他クラスでも有能な人材は認めてるってアピールとか? 加えてあれかな、万が一ドラフト制度のやり方に誰かが口を出して「1年が2年3年のグループを同時に指名する」という形になっちゃった場合とかは南雲会長のグループが魅力的すぎると堀北先輩のとこと同時に指名されちゃう。そういうのを防ごうとしてたのかもしれない。
この林間学校とは関係ないけど、南雲会長についての話では面白いことが書いてあった。同じ大グループであるロックと口論になったらしいのだ。
「あれ、プライベートポイントって学校側で現金化してくれるんだ」
「ああ。1ポイント1円より下ではあるらしいがな」
うーん、卒業前の上級生にポイントもらうって案は私も考えてたけど。買い取りしてもらえるなら後輩になんかあげないわな。ちぇ、学校側も抜け道を防ごうとしてるらしい。
「確かにロックなら2000万円以上払えそうだもんねえ」
学校側よりも高く買い取ってくれるならそっちに売るだろう。お金を受け取れるのはロックが卒業してからになってしまうかもしれないけど、高円寺家の人とかに会って言えばポンと出してくれる可能性もある。悪くはない賭けだ。
「2年の中には既にポイントを売る予定だった生徒が何人もいたらしい。反応からして3年にもかなり紛れてた。変人だがバカじゃねえな、高円寺のヤツは」
「でも南雲会長が言った以上は、近々3年生に対してはプライベートポイントの譲渡を躊躇わせるようなルールが追加されそうだね」
この学校は公平性を重んじる。ロックのこの作戦を封じるべく何らかの手段を講じてくるはずだ。それでも全然気にしないんだろうなあ、あの人は。
「でも坂上先生、入学時にポイントは現金化できないって言ってたよね」
「生徒に余計なこと考えさせないためだろ」
「ポイントはあくまでもこの学校内だけで使うものって基本的には考えてほしいってことか。本来は3年生の卒業前のこの時期になったら情報解禁されるとかだったのかな? でもだとすると何で南雲会長は知ってたんだか」
「さぁな。誘導尋問なり何なり方法はいくらでもある」
トントン、とたっつーはテーブルを指で叩いた。
「で、これは間違いないのか?」
私の渡したメモの、最後の一文が指される。それはこの特別試験最大のポイントとも言ってもいいもの。
「たぶんね。キャロルも同意見だったし」
先輩たちの部屋を訪れて情報収集して。気づいたのは、やっぱり南雲会長と親しい人たちが固まった2年のグループがあったということと、橘先輩のグループの異様な雰囲気。そこの責任者は3年Bクラスの
直感的にわかった。おそらく間違いないだろう。
【橘茜】
彼女こそがこの林間学校での南雲会長のターゲットであり。私たちにとっては引いてはならないカードだ。
「大グループ、意外とあっさり決まったねー」
「いやうちらが小グループ決めるのが時間かかりすぎたんだって」
「朝食のローテーションもサラッと決まったし。はぁ、でも1年から順番でやるってことはもし雨とか降ったらちょっと損だよね」
「まあ相手は先輩なんだしそのくらいは譲んないとじゃない?」
8時から始まった大グループ作成も無事に終わり、私たちは部屋で仲良く駄弁っていた。
大グループの決め方は、予想通りと言うべきか南雲会長の指示を受けてるであろう2年の女子が「小グループの責任者がお互いに他学年を指名し合っていって、マッチングしたところからグループ形成。何回か指名して残ったグループはクジ引きとかする感じでさ。どうかな?」と提案。これが受け入れられる形となった。その先輩のグループはもちろん橘先輩の所属するグループとマッチング。たぶん南雲会長と3年のB、C、Dクラスはグルなんだろうなあ。橘先輩、ファイト! 他人事ながら応援だけしています。
一方私たちも夕食後に根回しをやっといた甲斐があって朝比奈先輩のいる2年Aクラスがメインの小グループとマッチングに成功。ただ3年のほうまでは決まらず、やがてクジ引きになった。というか3学年ともマッチングできたのは橘先輩のとこだけ。他の小グループは2学年だけがくっつけたか、どこともマッチングできないかだったので大方クジ引きで決まったということになるだろう。
「そういえば」
「男子のほうでは南雲生徒会長が、堀北元生徒会長と勝負するんだとか。お聞きになりましたか?」
キャロルの言葉に、Aクラスの数人は心当たりがあったらしいがそれ以外の人たちはキョトンとしている。むー、情報格差ですな。
「それはどっち応援すればいいか迷うなー。2人ともカッコいいもん」
「え、南雲先輩でしょ。だって堀北先輩には橘先輩がいるし、太刀打ちできないって」
「けど南雲先輩の周りのほうが女子多いじゃん。ほら、一之瀬さんとか、ククリちゃんだってそうだし」
謎な感じで飛び火してきた。火の粉を払うべく口を開く。
「私はそんな会長とは親しくないよ。私たちと同じグループの朝比奈先輩とかのほうがよっぽど仲良しだし……それに誰、とは言えないけど他の先輩がさ、南雲会長のこと狙ってるだとかいう話もよく聞くし」
「あー、確かに生徒会長、たいてい2年の女子の先輩とかと一緒にいるよね。あそこに割って入るのは怖いなぁ」
うーむ、先輩たち別に肉食系女子ではないんだけどな。南雲会長を中心にすごくまとまってるのだ。昼ドラを期待していた身としては残念なことに。ちっ。
「ちょっとチャラいっていうかプレイボーイみたいな感じよね、南雲先輩。でもそこがいい!」
「わかる〜。ああいう人に『お前しかいない』とか言われるの、憧れるわ」
南雲会長が一番執着してる人というと……堀北先輩では? そう思ってたら同じことを考えた人がいたらしい。
「南雲会長×堀北元会長のチャラ男攻めか、堀北元会長×南雲会長のメガネ攻めか。悩ましいところ」
Aクラス側からぼそっとそんな声が聞こえてきた。目が合ったので軽く頷く。実はな、最近そこにカピバラ麻呂が入って三角関係になってきてるんだ。
「でも上級生にしろ、やっぱりAクラスはイケメンが多くて羨ましいな」
松下さんがそう話すも、当のAクラスの子たちはうーんと微妙な表情を浮かべていた。イケメンランキング上位陣にはAクラスの人が多かったはずだけどな。入学当初のイケメンランキングの1位はAクラスの
「えー、でも
「綾小路くん?」
「そうそう! 体育祭でちょっと目立ってた人。堀北先輩と同じくらい足速かったっけ」
カピバラ麻呂の話題になると佐藤さんはビクッと肩を震わせていた。わかりやすい反応ですな、どちらも。松下さんが彼女を庇うように話題を変える。
「でもうちのクラスはそれ以外が全然ダメ。みんな子どもっぽいんだもん」
「うん、騒がしい感じの人が多めかなとは思ってた。でもAクラスも別にそんな変わんないよ?」
「えー、でも矢野さんさあ、前にクラスメイトの中に気になる人いるって────」
林間学校は広いものの、いつもの学校よりも狭い閉鎖空間。旅先ということでみな気分が高揚しているし、娯楽も少ない。それに仲良くなるにはやはり話すことが必要。恋バナをするグループも多いことだろう。
人の口には戸が立てられない。この林間学校で様々な噂が駆け巡ることはすぐに想像できた。
(
「
「ほほう。いや、聞き覚えがないな」
「日本書紀や万葉集に登場する天皇家ゆかりの場所ですね。恋物語が伝わる地なので、恋愛成就のご利益があるとされています」
「なるほどなるほど。それだと私の縁結びパワーがさらに強まりそうな予感。どこにあるの?」
「岐阜県
「うわ、すごいククリククリしてる。あと
「いえ、可能の可に
「だったら面白いね。うーん、にしても蟹か。ちょっと苦手だな」
「アレルギーなどが?」
「いやいや、そうじゃなくて。綺麗に食べるのが難しいからさ。美味しいのに、難儀なものだよ」
「分かります。力が必要だったりしますよね」
「あー、うん……そうだね。コツが要るよ」