ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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人生というものは、通例、裏切られた希望、挫折させられた目論見、それと気づいたときにはもう遅すぎる過ちの連続にほかならない。

 1月21日。ついに、試験最終日! 

 

 今日の朝食は学校側が用意してくれた。うーん、私たち生徒のご飯も別に下手ではないんだが何かこう、プロの手ってものを感じる。とても美味しいです。

 

 ひよりんに会ったので「お誕生日おめでとう」と言うと、周りにいた小グループの子たちも一緒に祝ってくれていた。ひよりんが責任者としてしっかり慕われている様子に何だかほっこりする。ただ、一之瀬さんだけはやはり暗い表情だった。

 

 ひどく傷つき、悲しんでいる彼女は励まされたり擁護されればされるほど罪悪感に苛まれることだろう。それでも林間学校中は他の人の目から逃れることができないし、きちんと取り組まなければ退学者を出してしまう可能性がある。特に今日の試験なんて絶対に出席せざるを得ないのだ。可哀想に。

 

 試験は学年ごと。1年は座禅、筆記試験、駅伝、スピーチの順。よって私たちは座禅場へと移動した。2年は外に出て駅伝から、3年は教室でのスピーチからのスタートらしい。

 

 座禅は先生方とカメラに囲まれたり、場所がランダムであったりといつもと違う要素はあったものの、落ち着いてこなせれば問題ないものだ。お次の筆記試験もここで学んだことがそのまま出題される難易度の低い試験だった。グループで自己採点したところ百点がほとんどという結果。

 

 勝負がつくのは駅伝でしょうな。ここで差をつけられてしまうとかなり痛い。ただでさえうちのグループにはタイムのハンデがあるんだし。

 

 教室から出てバンに乗り自分の地点、澪の1個前のところに着くと他グループの女子たちがいた。

 

「ククリちゃん、一緒の地点なんだねっ。もしかして1.6キロ走る人?」

 

 桔梗ちゃんに明るく声をかけられる。一瞬、またたっつーとの取り次ぎ希望かなと邪推してしまったけど、流石にこんな人目のあるところでその話はしないだろう。ごめんよ桔梗ちゃん。たっつー曰く、君を使うとDクラスとリンリンにダメージを与えることはできるけどカピバラ麻呂に対しては力不足らしいんだ。

 

「ううん。それは次の澪」

 

「そうなんだ〜。じゃあ伊吹さんがアンカーなんだね」

 

「うん、そっちは堀北さんとか?」

 

「正解。15人グループだから、伊吹さんと走る距離は変わっちゃうけど」

 

 そのまま桔梗ちゃんと談笑していると、やがて先生から1つ前の地点を通過した生徒が出たとの報告を受けた。みな走る準備を整えつつ誰が来るのかと道をじっと見る。どのグループが1位だとか最下位だとかの情報は入ってきていない。ついでに言うと野生動物出現の一報もないので、イノシシが登場することもなかったらしい。アクシデントにより完走できないと失格らしいけど、それはイノシシとかに襲われるのも含めるのだろうか。試そうとは思わないものの謎である。

 

「はい」

 

 一番最初に到着したのは姫野さん。彼女らしい簡素な声がけだ。バトンを受け取って走る。走る。

 

 うーむ、単純に1位が百点、とかでなくタイムも成績に影響してくるだろう。なにせキャロル欠席の分の加算がうちのグループにはあるのだ。要するに1位を維持するだけでなく好タイムを取らなきゃまずい。

 

 幸いにも後続とはある程度の差がある。頑張って走っても問題ない、はず。

 

 舗装されてるとはいえ山道を走るのは辛い。授業のときとは違い周囲の景色を楽しむ余裕もなく、ただただ足を動かしていると。見慣れた姿がそこにあった。

 

「任せたよ、澪」

 

「任された」

 

 澪はクールにバトンを受け取って去っていく。い、イケメン……! 

 

 あっという間に澪の姿が見えなくなってから、少しして2位の走者がやって来た。というか桔梗ちゃんだ。どうにか澪には頑張ってほしい、と思いつつ私はペットボトルに口をつけた。あー、水分が身にしみるんじゃあ。

 

 私がゴール兼スタート地点に戻った時には既にみなゴール済みだった。我がグループの結果は1位。わーいとハイタッチすると一部は渋々と、だいたいは喜んで返してくれる。

 

 その中のAクラスの一人を見て私はふと思い出した。石崎君からされた話の意味をこの子にも聞いてみた際、こんな風にめっちゃ喜んでたなあと。なんかカピバラ麻呂×ロックがどうとか呟いていた。よくわからないけど、私はカピバラ麻呂に申し訳ないことをしてしまった気がする。今度会った時に覚えてたら謝っとこう。

 

 最後の試験であるスピーチは、グループごとに行ったので他と比べてどんな感じであるのかはわからない。けれどみんな大きなミスはなかったし、キャロルのスピーチは素晴らしかったしで十分に成功の範疇だろう。

 

 こうして3学期最初の特別試験、その4つの試験は無事に終了した。お疲れ様っした! 

 

 

 

「生徒の皆さん、8日間お疲れさまでした。この林間学校は試験内容こそ違うものの数年に一度開催される特別試験ですが、前回行われたものより全体的に成績は良好。あなた方の協調性の高さが表れたのでしょう」

 

 全学年の全生徒が体育館に集められた。時刻は既に5時前。結果発表やら何やらを終え、学校につく頃には夜になってしまうだろう。だったらもう一泊して帰っても……いや早く帰りたいな、うん。端末使いたいし。

 

「気になっていることだと思うので先に言っておきますと、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーラインを達成していました。退学者はゼロということになりますね」

 

 男子生徒の、か。つまり女子は南雲会長の予定通りに運んだということなんだろう。

 

「ではこれより男子、女子の順で試験結果を述べていきます。ここでは3年生の責任者のみを読み上げますが、もちろんそのグループに属する1年生から3年生の全員に対してポイントの配布や回収が後日為されます」

 

 会場の空気が途端に張り詰める。男子グループの1位、それが果たして堀北先輩のところなのか南雲会長のところなのか。みな集中して次に出てくる言葉を待つ。

 

「男子グループ、総合1位! 3年Cクラス────二宮(にのみや)倉之助(くらのすけ)くんが責任者を務めるグループです」

 

 直後。歓声があがった。おそらく3年のAクラス、そしてたっつー率いるうちのクラスがメインとなっているグループによる喜びの声だ。2年生の小グループは南雲会長の手前、素直に喜べない。

 

 これでうちのクラスが得るのは336クラスポイント、108万プライベートポイント。まあそりゃあはしゃぎたくもなるわな。

 

 2位は南雲会長のいる大グループ、つまり幸村君やカピバラ麻呂のいるグループ。南雲会長も惜しかった、ということなのだろう。うちのクラスは9クラスポイント、4万5千プライベートポイントをゲット。

 

 3位はAクラスが14人いるグループ。Dクラスの今回の方針ではポイントを各自で精算することなっていたはずなので、これで山内君は報酬を得ることになるわけだ。

 

 4位は平田君が責任者のDクラスがメインのグループ。うちのクラスはマイナス5千プライベートポイントと。

 

 5位は責任者が三宅君の混合グループ。マイナス12クラスポイント、マイナス4万プライベートポイント。

 

 6位は神崎君のグループ。順位には2年3年の成績も入っているとはいえ、いい感じにガタガタになってくれたらしい。ありがとう最下位になってくれて。うちのクラスの人は一人だけだからマイナス5クラスポイント、マイナス2万プライベートポイント。

 

 んー、ざっとだけどまあプラスだわな。うんうん、たっつーも名誉挽回できたね! 

 

「おめでとうございます堀北先輩。1位とは、全く流石ですね」

 

 南雲会長の言葉は女子側にまで聞こえてきた。堂々とした態度、少しも後悔している素振りはない。

 

「お前は2位。勝負あったな、南雲」

 

 堀北先輩ではなくそのクラスメイトの藤巻先輩が答えた。今までの南雲会長の態度が腹に据えかねていたのだろう、だいぶ誇らしげな様子だ。

 

「いやいや、試験はまだ終わりきってはいないでしょう」

 

「だが結果は変わらない。おまえの負けだ」

 

「ええ、『男子』の結果“は”そうですね」

 

「男子? 他者を巻き込まない、そういうルールだろ。女子は関係ない」

 

「はい、確かに。俺と堀北先輩の勝負には一切関係ありません」

 

 南雲会長は今回の林間学校で勝負の決着をつけようとは思っていないんでしょうな。これはいわば前哨戦。

 

 正々堂々なんてつまらない勝負じゃなく、南雲会長なりのやり方で堀北先輩と戦うのだと。戦いたいのだと。そんなメッセージを一方的に送りつけている。うーん、挑戦状とか果たし状のほうが近いか。

 

「次に、女子グループの発表に移ります」

 

 その言葉に、少し騒がしかった男子側も静まった。みなドキドキと前のほうを見つめる。

 

 我々の点数はどうなったかな。上級生の成績にもよるけど、上位を狙えはするはず。

 

「女子グループ、総合1位! 3年Cクラス────綾瀬(あやせ)(なつ)さんが責任者を務めるグループです」

 

 ガーン。1位取れなかった……しょんぼり。

 

 あそこっすね、リンリンと桔梗ちゃんとかのいるDクラスメインのグループだ。うちのクラスの子は3人だから42クラスポイントに13万5千プライベートポイント。まあ悪くはない。

 

 素直に祝福しよう。おめでとう、リンリンと桔梗ちゃん! 

 

「えー、2位以下を発表する前に。非常に遺憾なことではありますが……女子グループからはボーダーを下回る平均点となった小グループが一つ、出てきてしまいました」

 

 途端に。空気が、凍った。

 

 退学者が最低1人は出たということ。どの学年の、どのクラスの女子なのか。不安でたまらない人もいるに違いない。

 

「そのグループは……」

 

 ゴクリ、と息を呑む音がする。誰もが前を向き、早く次の言葉をと願っていた。

 

「3年生──────」

 

 1年、2年からは安堵の息が漏れる。逆に3年生は……特にAクラスは言いようのない不安感に襲われていることだろう。自分たちは何かを見誤ったのではないか、と。

 

「責任者────猪狩桃子さんのグループです」

 

 静寂。みな針で縫い止められたように動かない。動けない。それを破ったのは藤巻先輩だった。声を荒げ南雲会長に詰め寄る。

 

 彼は理解したのだろう。あのグループには橘先輩がいて……そして。猪狩先輩は間違いなく彼女を道連れに選ぶことを。

 

「静粛に! これにより猪狩さんへの退学措置を行います。ただ、救済であったりグループメンバーへの連帯責任を告げることもできますので、後ほど私のもとに来てください。それでは女子の順位発表に戻ります」

 

 でも、それは正直私たち1年生にとってはどうでもいいこと。対岸の火事である。応援だけさせてもらおう。頑張れー、堀北先輩、橘先輩、ついでに藤巻先輩! 

 

「2位か」

 

「まあまあだね。2人合わせて8クラスポイントに4万2千プライベートポイント。頑張った甲斐はあったよ」

 

 3位はKちゃんのいるDクラスメインのグループ。うちのクラスに入ってくるプライベートポイントは5万400。

 

 4位、マイナス1万5千プライベートポイント。5位がひよりんたちでマイナス18クラスポイント、6万プライベートポイントか。ちょっと痛いな。

 

 そして6位は予定通り一之瀬さんとこのクラスがメインのグループ。うちのクラスは2人だけだからマイナス10クラスポイントと4万プライベートポイントに抑えられたわけだ。うーん、計算はできないけど男女両方で6位の生徒が多くなってしまった一之瀬さんたちは他クラスと獲得ポイント数に大きな差がついてしまったことだろう。マイナスになってる可能性すらあるな。乙! 

 

「以上で林間学校を終了します。生徒の皆さんは解散してください。帰りのバスの準備が整うまでは自由時間とします」

 

 帰り支度をするべく体育館から出る人も多い中、私はここにとどまることにした。ごめん澪、ここでちょっと見物したいから部屋には先に戻っててください。

 

 

 体育館では楽しい劇が繰り広げられた。ヒロインは橘先輩、ヒーローは堀北先輩。ヴィランはもちろん南雲会長。見事な悪役っぷりだった。

 

 猪狩先輩が橘先輩を道連れにする通達をしに行き、涙を流す彼女に堀北先輩は寄り添った。ヒューヒュー! そしてAクラスは救済を宣言。よって3年AクラスとBクラスが同時に退学の救済を行使することになるだろう。

 

 これから3年生の戦いは、南雲会長と堀北先輩の戦いはどうなるか。間近で見ることができないのは口惜しいけど、生徒会にいる以上はある程度情報が入ってくるに違いない。楽しみだね。

 

 学校へと戻るバスの中、試験の疲れもあって眠ろうかどうしようかと思っていると、端末が振動した。

 

 

【手短に結果だけお伝えします。今回の林間学校により僕たちのクラスが獲得したポイントは339クラスポイント、1172400プライベートポイント。他クラスと合わせた結果は以下の通りです。

 A(坂柳)106クラスポイント

 B(龍園)339クラスポイント

 C(一之瀬)4クラスポイント

 D(平田)124クラスポイント】

 

 

 金田君、いつもお疲れ様です。しかしあれだね、どこもプラスになったのか。んー、今回はわりと甘い試験だったのかもしれない。退学者が出たのだって南雲会長の工作がなければなかったことだっただろうし。

 

 私は金田君にお礼のメッセージを送ると、次にひよりんへ明日は今日の代わりに誕生日をお祝いしにお出かけしようとのお誘いメッセージを送信。そしてカピバラ麻呂に謝罪しとくことにした。

 

 

【ごめんね麻呂君】

 

【何かあったのか?】

 

 

 何、と聞かれると難しい。うーん、そうだなあ。

 

 

【掛け算を増やしてしまった】

 

【数学の話か?】

 

 

 違う。んな掛け算持ち込んだら坂上先生はものすごーく困ると思う。

 

 

【今度説明するよ】

 

 

 気が向いたら。そう考えつつ私は端末の電源を落とし。ゆっくりと(まぶた)を閉じた。

 

 おやすみなさい──────

 

 

 

 

 

(実はオクラは英語の「okra」からの外来語らしい)

 

「さて──」

 

 バスで学校へと戻った綾小路は、寮でなく校舎とケヤキモールをつなぐ道へと向かっていた。そこにあるのは学生たちが休憩に使ったりするベンチ。長谷部と佐倉が放課後よくこの辺で雑談しているのを綾小路は知っている。もっとも、ある人物からここへ来るよう連絡を受けたのは綾小路グループとは全く関係ないだろうが。

 

「Dクラスは散々な結果だな。うちの半分以下のクラスポイントを獲得とは」

 

「Aクラスより上だ。それに一之瀬たちのクラスほどじゃない。あれはおまえたちの仕業なんだろ?」

 

 龍園の嫌味にも表情を変えずに応じた綾小路は、一瞬視線を先の方へと向けた。

 

 それで察した龍園が場を離れようとするのを、手で制止する。

 

「やあやお二人さん。うーん、ただいまって感じだよね。学校に『帰ってくる』ってなんだか不思議な感覚だけど」

 

「テメエか」

 

「はいはい、みんなのククリちゃんですよ〜? なんかたっつーたちがコソコソしてたから来てみた!」

 

 綾小路と龍園の密会を第三者に見られ、何か勘ぐられるのは良いことではない。しかしこれがククリであれば全く問題ないだろう。

 

 龍園も諦めたように息を白く吐いた。

 

「綾小路。おまえに坂柳がご執心の理由は何だ」

 

「たっつーも人のこと言えないじゃんそれ……」

 

 坂柳のしようとしていることと、綾小路の考えていることは基本的に同じだ。彼女は綾小路を倒すことで天才の意味に答えを出そうとしているのに対し、綾小路はホワイトルームの教育がけして完璧なものではないことを彼なりのやり方で証明しようとしている。

 

 ただ、そこまで語るメリットは綾小路には無い。故に、

 

「おまえとククリの関係と似たようなものだ、オレと坂柳も」

 

 怒る様子もなく龍園はこちらへ探るように目をやった。

 

「血も涙も情け容赦もねえって点は共通か」

 

「ひっどーい。私なんてあれだよ、もしバスで隣の席の人が突然吐いちゃったら掌でさっと受け止めてあげるレベルには優しいよ、たぶん!」

 

「袋を使え」

 

「間に合わないときだよぉ。それに今回のバス、エチケット袋網ポケットに入ってなかった気がするし。長距離バスだとあそこにあること多いんだけどね」

 

「なるほど。確かに車酔いした場合、嘔吐する可能性があるのか」

 

 エチケット袋……ホワイトルームにてバーチャルコンソールで外の世界のことを学んだ際、基本的な公共交通機関についても学習したが、それでもこうして分からないことは無数にあるものだ。長距離バスの前の座席後部のポケットには乗客とおそらくバス会社自身のためビニール袋がセットされていることがある。そんな便利なものもあるのだと綾小路はよく覚えておくことにした。

 

 VRを使った授業では続行が不可能なほどではなかったにしろ『3D酔い』の不快感があってあまり気乗りしなかった記憶が存在する。また、格闘技を教わる際に腹部へ強烈な拳を叩きこまれリバースしたこともあった。ホワイトルームでは当然、袋に吐かせてもらえるなんて配慮は無かったのである。

 

「バスにも乗ったことのないボンボンの感想かよ」

 

「移動はずっと運転手つきのリムジンの人なのかなカピバラ麻呂は」

 

 ツッコミを軽く受け流し、綾小路は話を変えた。

 

「それはそうとバスの中で寝てたんだなククリは。寝ぐせが少し残っている」

 

「うわ、マジか。恥ずい……カピバラ麻呂は寝たりしなかったの?」

 

「携帯で最近のニュースをチェックしたりだ。前日も十分睡眠はとったしな。二段ベットというのは新鮮だった」

 

 ホワイトルームでは1人小さな自室にて電極つきで寝るのが当たり前。寮では勿論1人だし、他人と寝るのは慣れないものだと綾小路は環境の変化からの戸惑いを消せていなかった。それでも学校でのこと全てが新鮮で楽しいと綾小路は思う。ただ普通のことをやりたかっただけなのだから。

 

「たっつーは迷わず上を選んでそうだよね」

 

「おまえら野郎と肩を並べて寝る気はサラサラねえからその点多少は良かったと思うぜ」

 

「私は野郎じゃないもん。つか女とだったら肩を並べて寝るの……?」

 

 聞いておいて自分で答えが出たのか、ククリはこの流れを裁ち切った。

 

「林間学校での道徳の授業ちゃんと受けてたのかしらたっつーは。あれさ、小学校のときの帰りの会なんてのもちょっと思い出させたよね。たっつ一は全然出てなかった気するけど」

 

「帰りの会?」

 

「あれ、そういう名前じゃなかった? なんか1日を振り返って話す的な時間」

 

「ああ……あったな。オレはいつも話に耳を傾けるだけで積極的に話をする気にはなれなかったが」

 

 会議と呼ばれる、一日を振り返る発語の時間。教員たちもいない子どもたちだけの狭い空間での対話。ホワイトルームのカリキュラムの一環としてそんなものもあった。特別ノルマも無く、ルールさえ守っていれば沈黙も許される時間だ。あの頃はどうしても意欲的に話す気にはなれなかった。

 

「ガキの頃から根暗かよ」

 

「そう言うたっつーは根明、でいいのかしら」

 

「ククリなら間違いなくそうだろ」

 

 んー、と彼女は指をクルクルと回す。透明感のある笑みに、声。

 

「そもそも、根なんか無いかも知れないぜ?」

 

 不思議と、よく響く声だった。

 

 

 

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