ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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夏季休暇
One benefit of summer was that each day we had more light to read by.


 裁判の余韻を味わう暇もなく期末テストは慌ただしく訪れ、そして無事終わった。期末は中間と違って過去問はあんまり参考にはならなかった。やっぱ世の中そんなに甘くはない。あ、1日には支給できてなかった今月のポイントもいつの間にか振り込まれてました。生徒会長の言葉通り3馬鹿のプライベートポイントはある程度経費として没収されたらしいけど、クラスポイントには特に影響はなかったみたい。

 

 7月は裁判と期末テストがメインイベントだっただろう。石崎君たちはなんでも桔梗ちゃんに呼び出されてのこのこ現場に出向いたら偽の監視カメラを仕掛けられてて、学校側は証拠を握ってるからこのままだと退学だと嘘の情報を吹き込まれたんだとか。あ、特別棟には桔梗ちゃんがいなくてカピバラ麻呂と一之瀬さんの共闘だったそうです。うーん、相手もやり口が汚いっ。でも騙されるのも馬鹿すぎるっ。特に、再審直前の時間に会うっていうちょっと不自然な桔梗ちゃんトラップにあっさり引っかかったところ。男って単純すぎる。確かに彼女は素晴らしいくらいの美少女だけどさ。違和感くらい持てや。

 

 まあ裁判の反省はそのくらいにして、夏休みにはなんと学校側がバカンスをプレゼントしてくれることになっている。予定では最初の1日は船での移動日、そこから1週間は無人島にあるペンションで、その後1週間は客船内での宿泊だ。密閉空間、学生、旅行、しかも無人島のペンションと豪華客船と来ればなんか殺人事件でも起こりそうだなあと今からワクワクしている。ま、実際はクラスポイントを賭けた争いになるのではというのがたっつーの予想らしい。そういうのがないとAクラスの独走になっちゃうもんね。

 

 さて、夏、旅行、無人島、豪華客船と来れば当然水着が必要だ。あとはお泊りセットなんかもちょこちょこ必要になってくる。つまりお買い物である。

 

 ところで、だ。我が校は外部との連絡は禁止。お金はポイント払いである。こうなるとお誕生日というのは友達にメッセージを送ってもらうとかが多くなって、外と同じように気軽にプレゼントを買えるのはたぶんAクラスだけ、Bもちょっと厳しいかなって感じだろう。Cはそこそこ厳しい。Dはたぶん論外だ。私も20日の一之瀬さんの誕生日はメッセージを送るだけになってしまった。Cクラスの私にも「ありがとう!」と優しく接してくれる一之瀬さんは本当にすごい。お誕生日会が盛大に開かれたらしいのも納得だ。

 

 そして今日、27日は伊吹さんの誕生日! ちなみに1月21日がひよりんのお誕生日。絶対に忘れないようにしないとね。

 

 今日は一緒にお買い物したあとにカフェに行ってケーキとご飯を奢る、というなんとも実用的なプレゼント内容になっている。お金がないって悲しいね。いやどうせならなにか買おうか?高い物は買えないけど……って言ったら伊吹さんはご飯でいいよって返してくれたんだ。はじめはお祝い自体いらないって話してたくらいだし。優しい。

 

 そんなわけで私と伊吹さんとひよりんは今、ケヤキモールに来ています! 水着を選ぶ女子でいっぱいです。1年らしい人が多いけど、先輩っぽい人もいる。勝負水着なのか、1年でお胸が成長しあそばせたということなのかちょっと気になってしまう。

 

 ひよりんは運動苦手だし泳がないからスクール水着でいいって言ったけど、それだと目立って仕方ないと思うの。体育で強調されたんだし泳げる機会は絶対にあるはず。よって可愛い水着を着ないと駄目です。私が悲しいもん。スクール水着は予備です、予備。というわけでみんなで選んでるんだけど……。

 

「水着って何を基準に選べばいいんだろう」

 

 色とりどり、様々な種類の水着が並ぶ中、私は悩んでいた。めっちゃ紐だけってのもある。選ぶ人とかいるんだろうか。茶柱先生とか星之宮先生とかが着たり?

 

 うーん、今まで服はオシャレな親戚のお姉さんに選んでもらっていたんだよね。私服はマネキン買いを決行したり、店員さんに頼んで選んでもらったり、あるいはすごく無難なのを購入して誤魔化してるのだけど。水着はマネキンのは派手だし、シンプルなのは逆に似合わなさそうで困るなあ。中間を教えてほしい。

 

 他の人はどんなの選んでるんだろうな、とキョロキョロしていると腰まで届く艷やかな黒髪を(なび)かせる美少女がいた。リンリンだ。彼女は白のオーソドックスなビキニを手に取るとさっさと会計に行ってしまった。白……赤外線撮影とかで透けたりしないかな、大丈夫かな。

 

 ビキニがやはり定番らしく人も多い。人気の柄なんかは取り合いになっているらしく「これは私のよ!」と争っている生徒も見受けられる。あれは、Dクラスの軽井沢(かるいざわ)さんかな? うーん、避暑地。なんか名前を聞くだけで涼しい感じがする。彼女は学年でも屈指の人気を誇るイケメン、平田君となんと4月から付き合っていて、ちょっと横柄なところが目立つ子らしく度々もめ事を引き起こしている場面を見かける。今日もトラブってるみたいだ。巻き込まれても面倒なのであまり近づかないでおこう。

 

 肌を見せない水着といえばやはりラッシュガードだろう。ちらっと見ると、前の裁判の目撃者の佐倉さんが選んでいるようだった。彼女はあのあと調べたところグラビアアイドルだったので、オフの時は露出を減らしたいんだろうね。正体も隠したいのでしょうし。でもああいうのって彼女のようなスタイルのいい人でないと逆に線が出るから体型がバレてしまうというか……むむむ。

 

「伊吹さんはどんなのにしたの?」

 

「ん? これ」

 

「おー、スポーティ」

 

 競泳水着っぽいシンプルなやつだった。クールな伊吹さんにはよく似合いそう。

 

 ひよりんの方を見ると、白のフリルのビキニとリボンの可愛いワンピースタイプのものを手にしていた。うーん、どっちでも絶対似合うね。

 

 さて、水着というのは体型がよく現れてしまうものである。ワンピースよりも実はビキニの方が隠してくれるらしい。でもビキニはちょっと……! 

 

「ククリにはこのあたりとかどう?」

 

 差し出されたのはビスチェビキニ。緑色で下はキュロットみたいな感じです。布面積が大きいのでなんとか……なんとかいけそうです。食後にぽっこりお腹が見えちゃうとかは駄目なんだよ……! 

 

「よし、試着してみるね」

 

 試着室に入りガサゴソと着てみる。サイズは問題なさそうだ。上下で分かれてはいるものの、お腹もほぼ見えないくらいだから、動くときに気をつければ大丈夫! うん。いい感じじゃないかな、たぶん。値札も……想定内の値段。伊吹さんとひよりんにも見てもらってOKもらったらこれにしよっと。

 

 ザッとカーテンを開ける。このエリアは実質男子禁制のようなものだから見られても特に問題はない。

 

「どうかな?」

 

「いいと思います!」

 

「えへへ、ひよりんありがとう。選んでくれた伊吹さんのおかげだよ。とっても感謝しています」

 

「ん、私もあんたに似合ってると思う」

 

「嬉しい! じゃあこれ買うことにするね」

 

 水着を決めたら、他の持ち物もチェックだ。基本、制服かジャージで過ごすよう言われてるので衣類は必要ないのだが、細々としたものは準備しておくべきだろう。

 

 面倒になってきたので店員さんに聞いた。いつもお世話になってます。どうも私も同伴者たちもきゃっきゃとあれこれ迷うのを楽しむよりもスパッと買い物は済ませるタイプのようだ。ひよりんの場合本屋は別格で行くと長居しちゃうんだけどね。そういえばリンリンもたまに本屋や図書館で見かけるけど、やっぱ読書が趣味なんだろうか。

 

 店員さんは既に生徒から何度か聞かれたのかテキパキと必要そうなものを教えてくれた。お世話になりました、ありがとうございます。

 

 手早く買い物を終えた私たちはケーキが美味しいと評判のカフェに入った。ここの代金はひよりんと折半になる。あんま高くないのにしよう。

 

 ボロネーゼを頼み(伊吹さんは猫舌だからちょっと冷ましてから食べてた。可愛い)、あとのケーキはみんな苺のショートケーキだ。お店に頼んでメッセージプレートだけつけてもらった。蝋燭(ろうそく)は恥ずかしいからいらないらしい。確かに私も最近は蝋燭の火を吹き消すとかやってないな……。

 

「「伊吹さん、お誕生日おめでとう!」」

 

「…………ありがと、椎名、ククリ」

 

 2人で書いたメッセージカードも渡す。ぷいと横を向いた伊吹さんの照れている様子がとっても可愛らしかった。喜んでいただけて何よりです。

 

「次の誕生日はククリだよね?」

 

「そうでしたね。9月9日でお間違いないでしょうか?」

 

「うん、合ってるよ! その次は……龍園(りゅうえん)君? たしか10月だったような」

 

「あいつの誕生日なんて祝わなくていいでしょ」

 

「まあまあ。でも何日か気になりますね」

 

「うーん、そこまではよく覚えてないや。ごめん」

 

 うむ、ケーキ美味しい。ポイントの節約もあっておやつは自作したりしてたけど、今度洋菓子を目一杯買ってもいいかもなあ。あ、でも豪華客船に乗るならそこで食べれるかもか。うふふ、期待しよっと。

 

「船には本をどのくらい持っていっていいのでしょうか?」

 

「図書室くらいはあるだろうし、お気に入りとか読みかけの本だけにしておいたほうがいいんじゃないかな。ペンションに持っていけるかわかんないし」

 

「同意。無人島ってのがきな臭い」

 

 無人島、ねえ。駄目だ、殺人事件とかデスゲームしか思い浮かばない。うーん、健全なので言うとお宝探しとか埋蔵金探しとか……海賊の秘宝とかあったりしたら楽しそう。ヨーホー、ヨーホー! 

 

「今ひよりんが読んでるのってなあに?」

 

「『十角館の殺人』ですよ」

 

「孤島での殺人事件やんけ」

 

 思わずツッコんでしまった。ひよりんと思考が一致していたらしい。いや面白いけどさ、館シリーズは。名作だよ? まあでも私たちは1クラス40人の学年160人で行くからね。どちらかというとパニックホラーになりそう。推理する隙間がない。犯人候補が多すぎるな。

 

「あんた……それ持って行くのはやめときなさいよ」

 

「面白いですよ? 伊吹さんも読みます?」

 

「無事に帰ってきたら、考えとく」

 

 それはフラグだよ伊吹さん。

 

「あ、もう1冊あるんだね。そっちは何なの?」

 

「こちらはギリシャ神話になります。有名所で言いますと……ヘラクレスの冒険などが載っています」

 

「へえ。名前だけは聞いたことあるかも」

 

 伊吹さんが知ってるのは、ヘラクレスオオカブトあたりからかな。そういった神話が由来の名前も多いよね。

 

「神様のお話ですが、人間臭くてとても面白いです。こちらもよろしければお貸ししますよ。ククリちゃんはご存知ですか?」

 

「うん、だいたいは。ヘラクレスの話も好きだけど、私はオデュッセウスの話とか、イカロスの話とかが好きかなあ」

 

 イカロスの翼。ダイダロスという発明家はクレタ王ミノスに命じられて攻略不可能な迷宮を作るも、王の娘アリアドネが攻略。これによりミノスの怒りを買ったダイダロスとイカロスの親子はその迷宮に閉じ込められてしまう。彼らはアリアドネの使った攻略法は使うことができず、途方に暮れたがなんとそこは偉大なる発明家。落ちている鳥の羽を集めて巨大な翼を作ったのだ。できた翼を使って親子で飛んで逃げようとしたとき、父ダイダロスは子イカロスに「あまり高く飛びすぎるな、蜜蝋(接着剤)が溶けてしまうから」と言った。2人は飛んで迷宮を脱出したのだが、イカロスは父の忠告を忘れ高く飛びすぎてしまう。太陽の熱で蝋が溶け、イカロスの翼はもがれ、彼は海に落ちて死んでしまった。

 

 私は別にイカロスが死んだところには興味がない。イカロスが死んでもダイダロスは生きていた。彼の作った人工の翼は高度を守れば最後まで飛びきったのだ。

 

「いつか翼で空を自由に飛び回れたらと思うよ」

 

 そう言った私に、ひよりんはにっこりと微笑んだ。

 

 伊吹さんは、はてなマークを頭上に浮かべていた。そっか、ごめん微妙にネタバレかも……。ぜひ後で読んでほしい。

 

 

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