ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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学者とは書物を読破した人、思想家、天才とは人類の蒙をひらき、その前進を促す者で、世界という書物を直接読破した人である。

 (うら)らかな春の光が教室を照らす。まだまだ寒くはあるものの、最近は段々と暖かくなってきた。

 

 しかしクラスメイトたちの表情が明るくないのは、まああれでしょうな。39しかない机。今まで当たり前にあったものが欠けてしまったという事実。

 

 先輩たちから退学者が出ているという話を聞いてはいても、実感はなかったのだろう。私たちの学年の退学者ゼロという奇跡みたいな均衡は崩れ、一気に3人もの生徒が消えてしまった。その衝撃は皆の心を(むしば)んでいるようだ。

 

 あと次に退学するのは、首を切られるのは自分かもしれないという恐怖もあるのかも。まあそこは恐怖政治の独裁者に従う代償として受け入れてほしいところだよねえ。

 

 クラス内投票から2日経った今日、いつも通りの時間にいつも通りのチャイムが鳴る。

 

「────皆さん、おはようございます。それではこれより、1年度の最終試験。その発表を行います」

 

 ただし、違うのは。これから最後の特別試験が始まるということ。そう、言うなればファイナルミッションの幕開けなのである。まあ来年度からまた特別試験はじゃんじゃんあるけどね。夏休みの特別試験についてなんて既に生徒会で話し合ってるし。全然ファイナルじゃないファイナルミッションだ。

 

「1年を締めくくる特別試験は、各クラスの総合力で競い合う『選抜種目試験』になります。知力、体力、連携力、あるいは運の有る無し。皆さんがこれまで学んできたこと、そして様々なポテンシャルをも発揮する必要があるでしょう」

 

 話しながら坂上先生は黒板に何かを記していく。ふむふむ、試験日程のようですな。

  

【特別試験・選抜種目試験

3月08日…特別試験の説明並びに対戦クラスの決定

3月15日…各クラス10種目確定並びに対戦クラス

     の10種目及びそのルールの発表

3月22日…試験当日(試験使用10種目の確定)】

 

 卒業式が24日、終業式が25日とのことだったから23日はお休みなのだろう。うーむ、どうせなら3年生を気持ちよく送るべく何か出し物でも企画したいかも。考えとくか。

 

「試験はルールに従い、対戦するクラスを決めて行うものになります。2学期に実施したペーパーシャッフルと近い形ですね」

 

 対戦クラスを今日すぐに決めさせる、というのはいささか性急すぎる気もするけど……それだけ重要事項ってことなんでしょう、きっと。

 

 ペーパーシャッフルの時はDクラスとの対決だったよね。懐かしいなあ。でも今回はキャロルとカピバラ麻呂のバトルがあるから、DクラスはAクラスと対戦。

 

 となるとうちのクラスは一之瀬さんたちと戦うことになるのかな。むむむ……勉強だけとかだと厳しいもののこの試験はそれ以外の要素も多分に含んでるっぽいし、悪くはない対戦相手かしら。

 

「内容が複雑ですので、カードを用いて説明していきましょう」

 

 そう言って先生はペタペタとトランプサイズのカードを黒板に貼り付けていく。何も書いてない白いカードが10枚、1枚ずつに生徒の名前が書かれている黄色いカードが39、じゃない38枚。

 

 誰の名前がないのかなーと思ったら私のものが無かった。うーん、ミスということはないだろうし……何かしら意味があるに違いない。いじめとかじゃないですよね、先生。信じてますよ。

 

「まず、先に見ていただきたいのはこちらの白紙のカードです。これが表すものは『種目』。皆さんにはこれから、話し合いなどによって10種目を自由に決めてもらいます」

 

 先生はサインペンを取り出すとキュッキュッと白いカードに書き込んでいった。

 

【筆記】【将棋】【囲碁】【トランプ】【野球】【ジャンケン】【サッカー】【PK】

 

 PKって何の略だろ。プレイヤーキルなのかペナルティーキックなのか。前者であって欲しいな、うん。楽しそうやんけ。

 

「あくまでもこれらは一例ですが、このように各々好きな種目を選び、14日までに申請してください。もし14日の受付が終わっても10種目を確定させられなかった場合、学校側が代案として用意している種目を割り当てられることになってしまいます。チェックに通らなければ種目は認定されないので、1種目ずつでも早め早めに確定させていくことをおすすめしておきましょう」

 

 何かまたペーパーシャッフルと似てるなあ。でもあの時と違って一之瀬さんクラスからは裏切り者なんて出せないだろうし、担任の星之宮先生も食わせ物っぽいからなあ。相手方の情報を知るには苦労しそう。

 

「ここで、注意としてまず同一クラス内では種目が同じものを複数登録することは出来ない点をお知らせしておきます。仮に2点先取のサッカーを種目として申請した場合、PKで勝敗を決めるルールのサッカーを別種目として登録しようとしても学校側から却下されます」

 

 坂上先生はPKと書いたカードに大きくバツをつけた。むー、ペナルティーキックのほうだったらしい。ちっ。

 

「種目の認定については、先ほども少し触れましたが学校側によるチェックがあります。例えばマイナーな競技やゲームを種目とした場合は採用されないでしょう。加えて種目のルールは公正で分かりやすいもの、かつ引き分けが起こらないよう細かな勝敗のルールまで予め決めておくことが必要です」

 

 ふむふむ。マイナーというのがどの範囲までを指すかはわからないけど、一つの指標になるのはたぶん部活かな。部活動の内容としてあるものなら大体オッケーしてくれるだろう。

 

 ひよりんだったら茶道とか……いや、茶道の勝敗ってどう決めるんだ。よりわびさびがあるほうの勝ちとか? でも林間学校で座禅に点数をつけられたわけだし、同じような感じでいけるのかも。

 

「板書の通り、各クラスが決定した10種目は15日になると対戦クラスにも通達されます。公平な勝負を成立させるためですね。そしてそれぞれのクラスは選抜種目試験の当日である22日、申請した10種目の中から5種目を選び『本命』として提出することになります。こうして両クラス5種目ずつ、計10種目から学校側の用意したシステムによるランダムな抽選で7種目が自動的に選出される。こういった流れです」

 

 ほほう、つまりクラスの種目を決める期間が1週間近く、そして種目のための勉強や練習を行える期間が同じく1週間近くあるわけですな。

 

 ただ相手の10種目のうちから5種目しか試験には出てこないし、当日も何がどんな順番で選ばれるかは運要素になるわけだから、どの種目の対策に力を入れるべきかは難しいところだね。

 

「1種目につきクラスポイントに30の増減があります。例えば7連勝でしたら210ポイントが、5勝2敗なら90ポイントが『相手クラス』から移されるのです。さらに試験で勝利したクラスへの報酬として学校側から100ポイントの付与がありますから、最大で310ポイント得ることが出来るというわけですね。このようにクラスポイントの変動にかかわってくるため、7種目の途中で勝敗が決しようと最後の1種目まで試験は執り行われます」

 

 もし対戦相手がクラスポイント不足だった場合は学校側が代わりに払って、後は借金みたいな感じでそのクラスは学校へちゃんと返済しなくちゃいけないらしい。まあ今はどのクラスも210ポイント以上あるから大丈夫だね。

 

 ……あれ、そういえば5月にDクラスが0ポイントになってたけどあれはどんな扱いだったんだろ。表面上は0ポイントだけど実はクラスポイントがマイナスになってたのか。うーむ、謎い。

 

「この種目に関しては詳細を記載した資料を1部用意しています。後でコピーするなり自由に使ってください。また、種目について質問をしたい場合はこれに目を通してからでお願いします」

 

 何故人数分用意しないのだ、学校側。いつも湯水の如く資金をつぎ込んでるくせに変なとこでケチくさいな。まあ紙の節約ということにしておいてやろう。ペーパーレス化だね。

 

 そういえばディスプレイ型の電子黒板とタブレット利用でのデジタル教科書の導入とかも来年度から始まるって話だったなあ。これで置き勉という文化が消えると思うと嬉しいようなちょっと悲しいような気持ちになる。うーむ、しかし今でも手書きの生徒会の議事録こそデジタル化してほしいなあ。伝統を重んじているのかこの学校設立以来、議事録はファイルして生徒会室の本棚に並べてあるんだけど、普通にパソコンを使えばいいような気がするのよな。

 

 そんな私へと坂上先生は視線を投げかけた。およ? なんぞなんぞ。

 

「種目を決める以外にも重要なこととして、クラスから1人『司令塔』を選定することがあります」

 

 ペタリと私の名前が書かれたカードが黒板の上のほうに貼られる。他の人たちのカードとかとは離れた位置だ。えーっと、よくわかんないけど私、司令塔に決定なんすか? 

 

 あ、違うらしい。適当に1枚省いたらたまたま私のカードだったそうな。ふー、よかったよかった。

 

「この司令塔は直接種目に参加することは出来ませんが、全ての種目に関与し補助することが出来ます。生徒の交代や解けない問題を代わりに解くなど、司令塔の関与方法も種目のルールと同様みなさんが決める。もちろん、学校側のチェックが入るのも同じです」

 

 司令塔の優秀さも勝敗に大きく関わってくるということになるのか。うわ、やりたくないっすよこんなの。そう思ってたら坂上先生から衝撃発言が飛び出した。

 

「勝利側の司令塔にはプライベートポイントの付与があり、敗北側の司令塔には退学処分が下されます」

 

 最近、退学乱発しすぎじゃないかな学校側は。新しく来た月城理事長代理のせいなのか。だとしたら恨むぞ私は彼を。

 

 生徒会室でちょっと会ったときは温和そうな人に見えたものの……一昨日はキャロルの杖を蹴り飛ばし、彼女を庇おうとしたカピバラ麻呂を一発殴ったうえに壁ドン(首を掴み喉元を強く押し込む)してきたとのこと。バイオレンスっすね。監視カメラをダミー映像に差し替えてたらしいし、手段を選ばない感じがする。よくわからないけど、やっぱり坂柳理事長と対立してるのかしら。キャロルの身が心配。

 

「司令塔は臨機応変な対応が求められる重要な役割であり、この特別試験に必要不可欠な存在。もし本日放課後までに決まらなかった場合は、私のほうから強制的に任命する形となってしまいますので、ご注意を」

 

 ぶー、いいじゃん司令塔なしでのバトルでも。まあ坂上先生に文句をつけても仕方ない。先生は上から指示されたことをやってるだけなのだ。つまり諸悪の根源は月城理事長代理!(推定)

 

 ええと、退学回避にはまずプロテクトポイントの消費があるけど、他にも方法があったりするのかな。

 

「先生。前回の試験のように、2000万プライベートポイントでの救済などはないのでしょうか」

 

「はい、そうですね。今回の特別試験でも退学者が出た場合のペナルティはありません。そして退学の取り消しには2000万プライベートポイントと300クラスポイントが必要になります」

 

 この言葉にクラスは軽くざわめく。7連敗したとして210クラスポイントの減少、そこに300クラスポイントが加わってもうちのクラスは支払うことができる。

 

 後は2000万プライベートポイントさえあればプロテクトポイントを温存して金田君以外を司令塔にするという選択も取れるわけだ。んー、でもまあ普通に金田君が司令塔でもいい気はするかも。

 

 私は頭脳戦なんてノーセンキューなので司令塔は絶対やりたくないなあ。キャロルとカピバラ麻呂よりはマシだろうけど、一之瀬さんはたしか入試トップだったし、普段の成績も抜群の才媛。私なんかよりよっぽど頭が回る。

 

「坂上。勝利側の司令塔に入るプライベートポイントはいくらだ?」

 

「額は勝敗によって変動する。7連勝だと70万ポイント、5勝2敗だと50万ポイントといった具合に1勝につき10万ポイントが学校側から付与される」

 

 およ、わりとプライベートポイントくれるんだね。司令塔になって勝てば40万から70万ポイント貰えるのかあ。うん、でもどうせたっつーが徴収するだろうから意味ないな。

 

 他に質問は、とクラス全体を見回してから、先生はゆっくりと告げる。

 

「司令塔を務める生徒は放課後すぐに私のところまで来てください。共に特別棟へ移動して、多目的室にて対戦クラスの決定と司令塔の『関与』についての説明が行われます」

 

 こうして長く難しい説明が締め括られ、坂上先生は教室を後にした。残された私は授業までの短い休み時間を有効活用しようと端末を取り出す。目の前の教卓に置かれている種目のルールの紙をパシャパシャと撮影。グルチャに送った。ふっ、ククリちゃんは仕事のできる子なのだ。

 

 みんなが小さな端末の画面で頑張って読んでるのを尻目に私は原物の用紙を見よう、と思ったらにゅっと現れた手に奪われた。毎度おなじみたっつーである。何なんだ貴様。ちゃんとおまえも入ってるほうのグルチャに写真送ったんだからそっちで見ろし。

 

 返せーとぴょこぴょこ跳ねつつ手を伸ばすも(かわ)される。くそう、身長差が憎い。しゃーないから私も端末で読むことにした。ええと、なになに。

 

 

【選抜種目試験、種目を決める際のルール】

 

 ✦マイナーすぎる種目、複雑すぎる種目、及びそのようなルールの制限極めて細かなジャンルなどは不許可とする場合がある。また、一度決定した種目の取り消しは不可。

 筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題作成を行うことで公平性を保つものとする。

 種目において基本ルールを逸脱又は改変する行為はこれを禁ずる。

 

 ✦使用できる施設に関して

 試験当日は、特別棟多目的室にて司令塔が種目進行を行う。また体育館、グラウンド、音楽室や理科室等々学校内の施設は基本的に使用可能であるが、利用申請が他クラスと同時同施設になった場合など一部例外も存在する。

 

 ✦種目制限、時間制限に関して

 同じ内容と判断される種目は各クラス1つのみの採用とする。また種目の消化に時間がかかりすぎる場合や、時間制限のない種目などは採用が見送られる可能性がある。

 

 ✦出場人数に関して

 種目に必要な人数は、交代要員を除いて申請する10種全てが異なっていなければならない。

 最小人数は1人、最大人数が20人とする(この人数には交代要員を含める)。

 1クラスで出場する人数が交代含め10人を超える種目は最大2つしか登録出来ない。

 

 ✦参加条件に関して

 各生徒が出場可能な種目は原則1つであり、2つ以上の種目に参加することは出来ない。ただしクラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、2つ以上の参加を可能とする。

 

 ✦司令塔の役割に関して

 司令塔は7種目全てに関与する権利を持つ。どのように関与するかは種目を決める際に各クラスが定めること。ただし採用には学校側の承認が必要となる。

 

 

 にゃるほど。人数が結構ネックだな。クラスの生徒、司令塔を除き38人が1巡しないと2度目の参加は出来ないということか。少数精鋭にするとかも出来ない、わりとクラス一丸となってやる系になるのかな。

 

 まあ種目はともかく、まずやるべきは司令塔の決定。とはいえどこもプロテクトポイント所持者がなることだろう。キャロル、カピバラ麻呂、一之瀬さん。クラスメイトからの評価を考えるとカピバラ麻呂はちょっと怪しいけど、何とかするはず。

 

 一昨日のクラス内投票でカピバラ麻呂が他クラスからの賞賛票を得た理由はこんな感じになっているに違いない。彼は、彼に同情した一之瀬さんたちから票を得たのでは、と。そしてキャロルは山内なんぞ無視して仲の良い私に賞賛票を集めた。ロックへの賞賛票はたっつーからDクラスへの嫌がらせ。そう考えれば説明はつく。

 

 ま、カピバラ麻呂は人畜無害そうな見た目してるし、平田君とKちゃんとリンリンの3人が彼に味方するだろうから大丈夫でしょ。

 

 さてさて、たっつーはどうするのかな。ポテンシャル勝負となると正直このクラスは他クラスに劣っちゃうと思うんだけど。

 

 じっと奴のほうに目を向けると、またえらっそうに教卓に座った。そこは席じゃねえんだよ。もう今度からせめて座布団でも敷いとこうかな。

 

「喜べ。俺が司令塔をやってやる」

 

 …………? 

 

 唐突な言葉に、クラスみんな狐につままれたような顔になった。

 

 ふむ。たっつーが、司令塔にとな。

 

「え、馬鹿なの? 普通に金田君でいいじゃんか」

 

 ペシッと紙で(はた)かれた。ひどい。

 

 金田君もたぶん反論しようと口を開くも、逡巡した後黙り込んだ。んー? 何言おうとしたんだろ。

 

 たっつーが司令塔になるメリット。何か強そう。以上! デメリットは敗北した時奴が退学になるか、回避できるにしてもプライベートポイントとクラスポイントを大量に失うことになる。

 

 うーん、たっつーのポイント、2000万あるのか微妙なんだよね。船上試験で600万でしょ、Aクラスに支払ってもらってるぶんが……480から560万ポイントくらい? 林間学校で100万強、2・3月のポイント徴収で750万弱。他にも収入があるかもだけど、支出もあるはずだしなあ。やっぱ微妙! 

 

 みんなはどう感じたのかなと思って教室を見回してみると、どうも反対意見は無さそうだ。まあここで反対するならおまえが立候補するのかって話になるしね。退学のリスクを背負うのはそりゃ嫌だろう。

 

「俺がやるからには勝つ。おまえらはただ従えばいい」

 

 プロテクトポイントを持たずに退学を賭けた試験に臨むなんて普通なら自殺行為だけど、たっつーならばという何かを感じさせる。まあ実際、金田君が一之瀬さんと戦って勝てるかといえば厳しいと言わざるを得ない。このクラスで誰が司令塔になるのが一番勝率が高いかと考えると普通にたっつーだろう。あと金田君が司令塔に回っちゃうと筆記種目の戦力低下がまずいしね。

 

 たっつーは金田君を前へ呼び寄せて何やらコソコソ話すと、自分の席に戻っていった。

 

「では、本試験のために自分が得意あるいは絶対に負けないと言える種目を僕にチャットで送信してください。期限は今日の放課後に入るまでです。思い浮かばなければ無しで構いませんし、この段階で学校側から認められる種目であるかを考える必要はありません」

 

 期限がだいぶ短いけど、まあ自信を持って得意と言えることならすぐに思いつくだろうから妥当っちゃ妥当か。

 

 ふむ。私の場合は……名言クイズとか生け花とかなら自信あるな。送っとこーっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

(外村くん=博士、船上試験で同じ兎グループ)

 

「あ、外村君。ありがとうね、前に紹介してもらった動画も面白かったよ〜」

 

 明るい声にDクラスのメガネをかけた男子生徒、外村秀雄(ひでお)は頷きを返した。

 

「京楽さんが楽しめたなら良かった」

 

「……ん? うん」

 

 いつもの『ござる』口調ではないことで違和感が生じたらしく、ククリが首を捻る。

 

「止めたんだ、あの喋り方。合宿の座禅のとき担当の人に注意されてさ。元々キャラ付けのためにやってたことだし」

 

 Dクラスで最もパソコン関連の扱いに長けていて、タイピング速度も最速。そんな外村は、しかし他に得意と言えるようなものもない。だからこそ口調で個性を出してきていた。それを消したことで弊害もあるかもしれないが、丁度いい機会だったと外村は捉えている。どのみち、口癖の矯正もいずれはやらなければならなかったのだ。

 

「ふむ、なるほどなるほど。真面目な話し方もいいね」

 

 にこにことククリは呟いた後、シリアスな表情を作る。

 

「加えて名言をいっぱい伝えるようにするとかはどうだろう。すごくすごくおすすめなのだけど」

 

 いつもはアニメなどを外村が布教する側だったが、今回は逆の立場に回るらしい。彼女はいたく楽しそうに告げる。

 

「例えば愛の台詞、古代ローマの詩人カトゥルスの『カルミナ』より。

 私に千のキスをしておくれ それから百回 それからもう千のキス それから二度目の百──」

「待て待て待って。どんだけキザな言葉を言わせるつもりで!? ハードル高すぎでは!?」

 

「うん、実は私も美しい詩とは思えど小っ恥ずかしくてあんま全部は言えないんだ」

 

「でござるよな!!」

 

 

 

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