ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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Life is the farce which everyone has to perform.

「少し、いいかしら」

 

 爽やかな朝。澪と一緒に通学路を歩いていると、リンリンから声をかけられた。珍しい。

 

 リンリンと私に接点というものはほとんどない。私がどうこうではなく彼女は他者との関わりが極端に少ないのだ。最近ちょっと改善されてるようだけど、それでもやっぱり他クラスの人と話している姿は滅多に見かけない。そんな彼女が私と話したい理由は……まあだいたい想像はつく。

 

 リンリンの隣に立つ平田君は、いつものナイスガイなオーラを振りまきつつも「ごめん」と申し訳無さそうな顔をしていた。

 

「それで、何の用かな?」

 

 通学路で話し込んでいては目立つ、ということでいつもの休憩スペースに移動して早々、問いかけた。私はともかく澪は忙しいのだ。あまり拘束されるのはよくない。

 

「私はあなたのことを誤解していたかもしれない」

 

「誤解?」

 

 彼女の私への元の評価を知らない以上、何とも言い難いのだけど……続きを促す私の視線に応じるように、リンリンは凛とした態度で言い放った。

 

路傍(ろぼう)の石。それが私のあなたへの印象だったわ」

 

「それは何というか、思っていても言わないほうがいい類いの話だと思うんだけどな……」

 

 もしやこちらをわざと怒らせようとしているのだろうか。だとすれば半分成功している。元から不機嫌だった澪の目がさらに鋭さを増してきているのだ。どうやら澪は平田君のこともリンリンのこともあんま好きじゃないっぽい。まあ他クラスの人間なわけだしね。あと無人島でスパイしてた時なんかあったのかもしれない。

 

「それにちゃんと足元を見てないと、道端の石ころにもつまづいちゃうかもだよ? ほら、言うじゃんか。一円を笑う者は一円に泣くって。ちょっとの金額もちょっとのことも軽視しちゃダメなんじゃあないかな」

 

「一応忠告として受け取っておくわ」

 

 私の感想を華麗にスルーしてリンリンはどんどん話を進めていく。むー、Dクラスのリーダーっぽくなって性格も丸くなったと思っていたのだが、わりと相変わらずらしい。

 

「でも今、私はある疑念を抱いているの…………あなたが、龍園くんを裏から操っている人物じゃないかしら、と」

 

「は? 何言ってんの、あんた」

 

 リンリンのあまりに飛躍した推理に澪がたまらずといった感じでツッコミを入れた。うん、私も同じ気持ちです。

 

 どうしてそんな冤罪をおっかぶせてきたのだろう、と思い平田君のほうを見て……あ、あー、はいはい。あれっすね、私が平田君を(そそのか)そうとしたってのを聞いたから、たっつーの場合も同じかもって考えに至ったのか。ちゃうねん。たっつーは昔からあんなんでしたぁ! 奴が横暴な独裁者であることは私と何の関係もないっす!! 

 

「面白い話だけど、私と龍園君の関係はまろ、綾小路君と堀北さんとは違うよ」

 

 あの自称事なかれ主義と一緒にしないでほしい。私は別にたっつーを隠れ蓑にしようとは思っちゃいないし、そもそも私はAクラスに興味がないんだからリーダーも影のリーダーもやる気はゼロよゼロ。

 

 でもそうか。なら何でカピバラ麻呂は微妙に目立つような真似をしてるんだろ。干支試験の時には「Aクラスを目指さざるを得ない」とか何とか言ってたけどよくわからんなあ。

 

 ま、いいか彼のことは。頭がいい人の考えることはさっぱりだ。

 

「何故綾小路くんの名前が出てくるのかはわからないけれど、それなら最近の龍園くんが今までと違うのはどうして? 私たちのクラスにあからさまにちょっかいをかけなくなったし、クラス内投票の結果にも違和感があったわ。今回の試験についてもそう。くじ引きで権利を得たにもかかわらず、龍園くんはDクラスではなくCクラスを指名した」

 

 ふむ。どうやらカピバラ麻呂は屋上での一件についてリンリンにも平田君にも話していないらしいね。やっぱりカピバラ麻呂の考えは理解できない。この2人とは結構仲良しさんという印象だったんだけど、味方だと思ってないんだろうか。

 

 さてさてどうするべきかな。別に彼女に真実を話す義務もないのだから適当に誤魔化すこともできるが、どうにもそれは味気ない。

 

「むー。ね、堀北さん。チャットアプリの連絡先、交換しない?」

 

「必要性が感じられないわね」

 

「対価、になるのかな。交換してくれたらある程度のことは話すよ」

 

 物事には対価がつきものである。

 

 私の言葉に釈然としない様子ながらもリンリンは連絡先を教えてくれた。よしよし。いや別にカピバラ麻呂から彼女の連絡先を聞いたりしてもいいんだけど、そしたら既読無視か未読無視とかされそうなんで本人から聞きたかったんだよね。

 

 ついでにチャットには通知が来てる。【23時にそちらへ行くよう伝えておきました】、か。流石キャロル、仕事がはやい。なら私もちゃんとやらないとなあ。ま、この後に言えばいいか。

 

「ではでは。龍園君のDクラスへの執拗(しつよう)な攻撃が冬休み以降止んだ理由、だよね」

 

 私は屋上でのカピバラ麻呂の活躍を2人に話した。リンリンと平田君なら他に漏らすこともないだろうという信頼──2人ともカピバラ麻呂と敵対する気はないだろうし、平田君はKちゃんがいじめられていたという過去の暴露を絶対に良しとはしないだろう──からである。

 

 あとたぶん月城理事長代理は暴力に寛容な人とみた。だって自分も使ってるもの。だからたとえ学校側にこの件が知られたところで処分も比較的軽いものと思われる。それに……うん、まあ。

 

 さて。そもそもたっつーはDクラスに潜む策士Xを探るべくKちゃんに目をつけたこと。そして囚われの彼女を救うためカピバラ麻呂は屋上に出向き、石崎君とバーティ、澪、シメにたっつーを倒したこと。

 

 私とキャロルがその屋上にいたことは黙っておきつつ、それ以外のほぼ全てを語ると2人は驚きながらも納得した様子だった。

 

「清隆くんと軽井沢さんの間にそんなことが……全然知らなかったな……」

 

「だからあなたは綾小路くんのことを引き合いに出したのね」

 

 澪からは「何であんたが現場にいたこと隠してるの?」という感じのじとっとした目を向けられる。だーってそれ言ったらまたたっつーの背後に私がいるとかいう話になっちゃうじゃん。まったくもってそんな事実は存在しないのに! 

 

「綾小路くんを警戒している龍園くんはDクラスと戦うことを避けた、ということかしら」

 

 実際にはキャロルvsカピバラ麻呂の構図にしてやろうという意図が大きいんだけど……うーむ。どこのクラスが当たりを引いても同じ対戦相手になってただろうなあ。一之瀬さんはクラスポイントで上だけど実力的には下であろう私たちとの対戦を希望したでしょうし、カピバラ麻呂とキャロルは互いの対戦を実現するために互いを指名したはずだ。

 

 でもまあ、そこまで言わなくていいか。私は曖昧に頷いた。ぶっちゃけ勝率のことを考えるとそれもあるとは思う。

 

 クラス内投票の結果についてはなあ。匿名なんだから証拠とかもないし。んー、まあ私は借りがあるからロックに投票したけど、たっつーはそんなことは考えてないだろうしな。

 

 あの特別試験?でヒントもらったり干支試験の優待者聞いたりとロックには一応……一応!夏休みの特別試験ではお世話になったんだよね、うん。賞賛票いっぱいあげたことで借りは返したと言っていいに違いない。

 

「それと、耳寄り情報を教えてしんぜよう」

 

 また何か変なこと言うのか?という視線を無視して私はバシッとポーズを決めた。こういう時は堂々とするべきなのだ。

 

「Aクラスが種目として確実に出すものはズバリ『チェス』! だから今のうちから練習しておくことをおすすめするよ」

 

 一部が変わる可能性もあるが、キャロルたちもうちのクラスと同じで一日でさっさと種目を決めたらしい。同じ独裁型の体制だからだろうか。お互い役割分担なんかもはっきりしてる。勉強担当とか、情報収集担当とかそういうのが。

 

 リンリンと平田君は私がいきなりAクラスの情報をペラペラしゃべったことに面食らっていた。まあ、だよね。私も逆の立場なら罠を疑うし。

 

「それは、本当なのかしら。本当だとして、何故あなたが知っているの?」

 

「そのうちわかると思うけど、今回の試験でうちとAクラスは一部協力してるの。ペーパーシャッフルの時に堀北さんたちが一之瀬さんたちと勉強会開いてたみたいな感じで、一緒に勉強することになってる」

 

「その流れで情報を?」

 

 胡散臭い、と雄弁に語る瞳。どうやら私はリンリンからの好感度がだいぶ低いようだ。うーん、何でだろ。ま、きっとたっつーのせいだな! たいていの物事はたっつーのせいということで片付けられる。

 

「信じないなら信じないで構わないよ。とりあえず伝えはしたから。そうだな、平田君へのお詫びってことで納得してもらえるとありがたいかも」

 

 活用するかは勝手にしてほしい。キャロルとしてはチェスの練習を頑張ってほしいそうだが、あんまり推し過ぎても胡散臭さが増すだけだろう。

 

 平田君へのお詫びって何、と澪に目で問いかけられる。私はさっと視線を逃がした。しまった、やぶ蛇だったな。

 

「お詫びだなんて。僕としてはむしろ京楽さんに感謝してるよ。今日もそのことを伝えたかったんだ」

 

 いい人すぎる平田君の言葉に今度は私が驚かされた。まじか。いいんだよ、私に怒っても。別に気にしないから。

 

 しかしなるほど、2人とも私に用があるということで一緒にいたのか。いや、単に特別試験のことを話していたら偶然私を見つけたのかな。前のクラス内投票で正面からぶつかり合ってたリンリンと平田君だけど今は全くその気配を感じさせない。リンリンのトゲトゲした感じを平田君の優しさや柔軟な考え方が抑え込んでいるからだろうか。

 

 2人とも入学時から成長を遂げたんでしょうな。カピバラ麻呂のおかげで。あれだ、我が子を千尋の谷に落とす獅子みたいな雰囲気がカピバラ麻呂にはあると思う。試練を与えて成長させようぜ☆みたいな。

 

 試練……デスゲーム……うーん、カピバラ麻呂とは仲良くできるかもしれないな。

 

 リンリンは私を揺さぶって情報を得ることが、平田君は感謝を伝えるのが目的だったらしく、これにて解散と相成った。

 

 通学路に戻る2人を見送る。澪はどうもリンリンたちと一緒に通学路を歩くのが嫌だそうで、私たちはここでちょっと時間を潰してから向かうことにしたのだ。

 

「でも澪が平田君のこと苦手だなんて知らなかったな。リンリンのことはなんか体育祭のときに因縁あるんだなーとは思ってたけど」

 

「別に。私は真っ当な善人ってやつを信じないだけ。胡散臭いでしょ。ああいう僕は良い人間ですって顔をしてるヤツほど裏は黒いって相場が決まってんのよ」

 

 だとすると一之瀬さんのことも信じていないのだろう。確かに澪は彼女の万引きの話を聞いても平然としていたな。桔梗ちゃんは……うん、まあ元からクラス裏切ってるからなあ。まっくろくろすけだ。

 

 逆に「俺は悪いヤツだぜ」って全身全霊で表現してるたっつーはどうなんだろ、って一瞬考えてしまったけど愚問だったな。澪はたっつーのことは誰より何よりずっとずっと嫌いなのである。

 

「堀北みたいに賢そうな顔してるのも嫌い。ついでに言うなら、綾小路みたいな人畜無害そうなヤツも最近は嫌いになった。クソムカつく」

 

 ふむ。では私は善人っぽくも悪人っぽくもなく。賢そうな顔でもなければ人畜無害そうでもないのか。程々にほどほどって感じかな、うん! ほどほどが一番だよね。

 

「ところで、平田とあんたでは何かあったの?」

 

 私は口笛を吹いて誤魔化した。ククリちゃん、知ーらない。

 

 

 

 

 昼休みに入り、私は特別棟の多目的室にいた。

 

 昨日たっつーの言ってた操作確認については司令塔以外も参加していいらしいのだ。そのハイテクなかっこよさに吸い寄せられた私と、たぶん単純に作戦立案のため見学したい金田君、そして当の司令塔のたっつーが坂上先生立ち会いの下、向かい合わせに並べられた2台のパソコンやら共通の大きいモニターやらを眺めていた。

 

 昨日の説明はくじ引き含めて1時間ほどかかったそうだが、今回はそこまでかからないだろう。というかお昼休みの時間は45分しかないのでそんな長くなったら困る。まあお昼ごはんについては心配ない。たっつーが石崎君をパシっていたのだ。きっと帰ったら私の机とかには焼きそばパンが置いてあるに違いない。ところで何で不良は焼きそばパンを買わせるんだろうか。謎である。

 

「当日って司令塔4人ともこの多目的室にいるんですよね。他クラスの試合を見ることもできるんですか?」

 

「いえ、室内の半分で区切るよう防音性のある壁を設置する予定です。今回で言いますとAクラスとDクラスには私と星之宮先生が、BクラスとCクラスには真嶋先生と茶柱先生が試験の進行役として付き添う形になります」

 

 なるほど。自分と対戦相手に集中できるようにしているようだ。わざわざ壁を設置するより部屋2つ使ったほうが楽なんじゃ……と思ったけど、まあ機材の都合とかなのかな。

 

「当日は司令塔がそれぞれ5種目を選び、決定するとモニターに10種目が表示されます。ここから抽選が行われ、7種目を試合の直前に逐一発表。それから、どの種目に誰を割り当てるかを司令塔がその場で選んでいくわけですね」

 

 どちらかというとたっつーより私たちに坂上先生は説明してくれていた。なんかたっつーは勝手にパソコンいじってる。こいつわりと機械類にも強いんだよなあ。

 

 パソコンにはうちのクラスの生徒一覧がズラっと出ている。マウスで顔写真をドラッグしたり、指で画面にタッチしても操作できるみたいだ。ゲームみたいでちょっと楽しそうかも。

 

「各種目ごとの生徒選択には時間制限があります。必要人数1人ごとにおよそ30秒。10人の種目であれば300秒、5分くらいになりますね。もし時間内に選択されなかった場合は不足している生徒ぶんランダムに選択され、逆に多く選択している場合には過多なぶんランダムで弾き出されます」

 

「すごい、色々とハイテクですねえ」

 

「時代の進歩というものは素晴らしいものですよね。私が学生の頃にはこんなことはできなかったでしょう」

 

 坂上先生がそう話しつつ何やら操作すると、大きなモニターには将棋の対局映像が。サンプルということなんだろう。

 

「試合が始まると大型モニターにはこのように部屋の様子などが映し出されます。またパソコンのモニターのほうでは例えば筆記試験ですと、生徒たちの解答用紙が随時自由に切り替えて見ることができるようになっています」

 

 ふむふむ。まあカメラとかはこの学校の十八番(おはこ)だよね。大量の監視カメラが校内にあるからなあ。

 

「あの、筆記試験のことで一つ質問です。点数は最後にまとめてわかる感じなんですか? それとも勝敗は種目が終了次第伝えられるんでしょうか」

 

「採点はすぐに行われ、結果は即座に発表されます」

 

 むー、つまり問題の難易度はそれほど高くないのかもな。あるいは採点に時間のかかる記述は少なめになるのか。

 

「坂上先生、僕からも一つ。生徒の私語に制限はあるのでしょうか?」

 

「そうですね。種目に参加している生徒の私語については、筆記試験以外では規制はありません。流石に目にあまるようでしたら注意があるかもしれませんが。司令塔については特に決まりはありませんので、自由です」

 

 ほうほう。それなら司令塔同士の舌戦とかも繰り広げられるのかもな。たっつーと一之瀬さん、カピバラ麻呂とキャロルの試験中の様子とかすっごい気になるんだけど。

 

 んー、でも、私語がOKってことはあれか。ふむ。

 

「司令塔の私物の持ち込みは許可されますか?」

 

「この通り電子機器の多い場所ですので飲食物の持ち込みは厳禁です。そのため水分補給などのために席を立つことは認められています。また、携帯で教室と連絡を取ることも禁止ですのでこちらで預からせていただきます。それ以外のものでしたらおそらく問題はありませんが……」

 

 具体的に何なのか、と視線で問われる。

 

「本とかノートですとか」

 

「なるほど。それでしたら大丈夫でしょう」

 

 よしよし。にんまりする私に金田君はまるで不気味なものを見るかのような目を向けてきた。君、最近私に対する遠慮がなくなってきたな。

 

「司令塔による関与はクリックすることで発動され、その合図はインカムに音として伝わります。司令塔の指示は、各々ルールに沿った上で自由なタイミングで差し込みが可能です」

 

 パソコンには『待ったをかけ、一手司令塔が指し直すことが出来る』との表示がある。これをクリックすればたっつーが指示を飛ばせるわけだね。

 

「インカムは1つの種目につき1人しか着けられません。もちろん団体戦であってもそれは同じ。そして誰にインカムを装着させるかも司令塔が指定する必要があります」

 

 かっこいいインカムを先生が取り出す。着けてもいいですか、と尋ねると承諾してくれた。わーい。

 

「司令塔からの指示は通話形式ではなく、入力した文章を機械が読み上げる仕組みです。文章を打ち、エンターを押せば出場者のインカムに送信されます」

 

「なんか面倒なやり方ですね……司令塔のタイピングスキルも問われますし」

 

 普通に話させてくれればいいのに。まあでもたっつーの声よりは機械音声のほうがみんな緊張しないかもしれないな。

 

「僕の予想ですが、公平性を保つためかと。この『待ったをかけ、一手司令塔が指し直すことが出来る』という関与でも通話で上手く符牒(ふちょう)を伝えるなどすれば一手のみならず二手三手を伝えることもできてしまいますから」

 

「はい。司令塔が関与を逸脱する行為をすれば、その時点で反則負けとなる可能性があります」

 

 なるほどと頷いているとたっつーがフンと鼻を鳴らした。

 

「文章がいちいちチェックされてるってことかよ」

 

 坂上先生は何も言わなかった。まあこの場合は肯定ということだろう。

 

 いくらたっつーでもそれだと反則行為はできないに違いない。やめろよ、チャットでなんか暗号送るとか。

 

「操作方法の説明は以上ですが、他に質問はありますか」

 

 私はピシッと手を挙げて発言した。

 

「試験終了後にもHRなどがあったりするんですか?」

 

「いえ、当日は特別試験のみになります。従って司令塔も他の生徒も最後の種目が終わればすぐに解散ということになるでしょう。私たち担任教師は多目的室での撤収作業がありますから、教室にいる職員から指示が出されると思います」

 

 ふむふむ。じゃあ試験終わったらたっつーは待たずにさっさと帰るか。こいつ祝勝会とか開くタイプじゃないもんなあ。

 

 私以外に特に質問はなく、たっつーも満足したっぽいので帰路につこう……としたところでインカムを着けっぱなことに気づいた奴に笑われてしまった。うっさい、外し忘れてたんだよ! 

 

 

 教室に帰ると机にはメロンパンが置かれていた。ハムハムしながら私は考える。

 

 メロンパンにメロンは入っていない。この縦横の格子状の線がマスクメロンに似ているということでメロンパンと言われているとか聞いたことがある。

 

 ではメロンパンの味とは何味なんだろうか。うーむ、世の中、謎が多いなあ。

 

 しんみりしていると後ろのほうからソースの匂いが漂ってきた。たっつーが焼きそばパン食ってる。

 

 あんま教室で食べることなかったけどあれだな。匂い強いもの食べるとこんな感じになるのか。カップラーメンとかファーストフードとかは教室では非推奨ですな、と思いつつ私はお仕事を終えて戻ってきた澪に「お疲れ様」と声をかけた。

 

 

 

 

 

 

(虹の色は世界各国で違うらしい)

 

「均一ショップで面白い物を発見したんだよ!」

 

 あまりない胸を張って言い放つククリの姿に、石崎は何だか微笑ましい気分になった。

 

 彼女の手には遠目からでも目立つような派手な虹色の、バネ状のおもちゃ。石崎も昔遊んだ覚えがあるが、たしかレインボースプリングだとか呼んでいた気がする。階段から落とすと綺麗に自力で降りていくのが面白くて好きだった。

 

 ククリも同じ遊び方をしたいらしい。こっちこっち、と呼ばれ階段へ向かう。タンタンとリズムよく1段飛ばしで上っていく彼女を後ろから追うと、ある点が気になった。

 

「ククリ……もうちょい気にしたほうが良くねえか?」

 

「ん? これで遊ぶ階段をもっと厳選しろと?」

 

 おもちゃを弄びつつ振り返るククリに石崎は少し言いづらくも口を開いた。

 

「スカートだよスカート。んな短いのでピョンピョン跳ねてたら見えちまいそうで怖いんだよ」

 

「むー、別に校則違反ではないんだけどな」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて彼女は制服のスカートの裾に触れると、そのままひょいと持ち上げる。ちらっと視界に入りかけるも、石崎は慌てて視線を外した。

 

「ちょ、おまっ、恥じらいってものを持て恥じらいを!」

 

 ククリの下着をまじまじと見た日には龍園に殺されることだろう。いや、そうしたジェラシーも恋愛のスパイスとして必要なのか? 石崎は少し迷う。

 

「えー、いいじゃんスパッツくらいさ」

 

「……え、スパッツ?」

 

「うん、ペチコートとかレギンスと言ってもいいけど」

 

 視線を戻すと、確かに彼女はちゃんとスパッツを履いていた。どうやら石崎が指摘するまでもなくきっちり対策していたようだ。

 

 しかし──────

 

「それでもスカートめくり出すのはどうかと思うぜ?」

 

 どちらにせよ乙女の(つつし)みが欠けている気がする、と石崎が思ったのも仕方のないことだろう。

 

 

 

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