ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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A rose by any other name would smell as sweet.

「それじゃあ改めて。お誕生日おめでとう、キャロル!」

 

「ふふっ。ありがとうございます、ククリさん」

 

 3月12日、坂柳有栖の誕生日。ケヤキモール内のカフェ。特別試験の真っ只中である今だが、有栖はククリとの時間を優先した。

 

 指示を出さずともAクラスはきちんと特別試験に向け勉強する人はしているし、チェスを教えている橋本──有栖は彼がAクラスで一番チェスの才能があると見込んだ──は珍しくテニス部の練習に出ている。この放課後の時間くらい好きに使って構わないだろう、というのが有栖の出した結論であり。実際、文句をつける者などいなかった。

 

「しっかし大きいパフェだね〜」

 

 ククリと有栖の前には3、4人前くらいにはなるであろうパフェがデデンと置かれていた。きちんとバースデープレートも載っているお誕生日仕様である。

 

 アイスとソフトクリームが山のように盛られ、フルーツたちはキラキラと宝石のように輝く。クッキーやマドレーヌなどのトッピング付き。生クリームも勿論たっぷりのそれは苦手な人が見れば胸焼けしそうな代物(しろもの)だったが、有栖とククリにとっては苦にならない。どちらかというと「デザートは別腹」と言うタイプだ。

 

 端末を取り出したククリがパフェと有栖とを撮影する。何やら事情があって3日ほど前に彼女の端末は壊れてしまったそうだが、ポイントを支払うことで無事復活したようだった。

 

 撮った写真を自らの端末に送信してもらいつつ有栖は考える。夏休みにアルバムを作ったククリは、真鍋の退学と葛城の加入があったことでアルバムの第二弾を計画中らしい。

 

 どうせならば自分とククリ、綾小路の思い出を詰めたアルバムも並行して作成してもらうよう頼むのはどうだろうか。後でおねだりしてみましょう、と有栖は可愛らしく微笑んだ。

 

「そう言えば聞きましたか? Aクラスの吉田(よしだ)くんは──」

 

 パフェをつつきながら他愛のない会話をする2人、と字面だけ見れば今どきの女子高生らしいものだが、実際に彼女たちを目撃した者の印象は異なる。美しい所作は高貴とすら呼べるもの。あの一画だけ何となく現実離れした雰囲気を放っている、というのがカフェ内の客の総意だった。

 

 有栖のティーカップの持ち方ひとつとっても、彼女の優雅さが(うかが)える。取っ手をつまむように持ち、綺麗な姿勢を保ったままカップを傾ける有栖を目にして自分も紅茶をと頼みたくなった客は少なくない。

 

 対してククリは紅茶にマドレーヌを浸してから口に運ぶという日本では珍しい挙動をしていたが、不思議とそれが様になっていて奇異な行動には見えなかった。

 

「『失われた時を求めて』ですか」

 

「うん、影響されてね。残念ながらプルースト効果が起きたことはないけどさ」

 

 フランスの文豪マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中には、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りによって幼少期の記憶を思い出すという有名な描写がある。そこから、匂いを引き金としてそれにまつわる記憶や感情が呼び起こされる現象がプルースト効果と名付けられたらしい。

 

 ──匂い、といえば。

 

 有栖の脳裏につい先日ククリと店を(めぐ)った時のことがよみがえった。

 

 

 

 京楽菊理はひどく適当に行動することもあればそれなりに計算して行動することもある。

 

 そんな彼女が香水をつけ始めたと知って有栖が考えたのは「心境の変化の演出」というものだった。今までと異なることをすれば周囲は勝手に憶測を並べる。それを狙い、クラス内投票というイベントに合わせて行ったのだろうという有栖の推測は、しかしものの見事に外れた。

 

 正解は生徒会長である南雲雅からの贈り物。自分を、そしておそらくククリをも『私物』の候補としたり、綾小路に不要なちょっかいを出す南雲という男をあまり好かない有栖にとってその事実は不快感を生じさせた。

 

 とはいえ捨てろと言ってもククリが応じるかどうか。ならばと有栖は新たに自分も香水を贈ろうと考え、実行に移した。南雲が選んだであろうグルマン系の甘いお菓子のような香りがククリにあまり似合うとは感じなかった、というのも理由の一つだ。

 

 ケヤキモールには多種多様な店が揃っている以上、香水を取り扱う店もきちんと存在している。そこへ足を運んだ有栖とククリを店員は温かく迎えた。

 

 香水は香料の濃度や持続時間によってパルファム、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロンの大きく4つの種類があるという基本的な話から、どういった香りが好きかという個人的な話まで。「理由はわからないものの最近は自分用の香水を求めて来る男子生徒の客も多い」というような雑談も交えつつ、有栖とククリは互いの香水を選び合った。

 

 

 

 ──機会があればまた行ってみたいものです。

 

 目を細めククリのほうを見やると、彼女もまた有栖のことをじっと見つめていた。

 

「むー、最後の一口。どうする?」

 

 ククリの言葉に有栖は容器に残ったぶんを(すく)う。もちろん自分が食べるためではない。

 

「どうぞ」

 

 ククリに向かって差し出したスプーンは「じゃあ遠慮なく」と咥えられた。もきゅもきゅと幸せそうに食べる彼女につられて有栖もそっと微笑む。大抵の物事に対して楽しそうに反応するククリは見ていて気持ちがいい。その内心まで推し量ることができないのは残念だが。

 

 音を立てないようにカップを持ち上げる。まだ甘さの残る口へと流し込む紅茶の味は格別だった。

 

 有栖はゆっくりとソーサーに空のカップを戻してから、パフェを完食して満足そうな顔のククリへと話しかける。

 

「メッセージカードをいただきありがとうございました」

 

「ん、どういたしまして」

 

 バレンタインの日にした約束をククリはしっかり果たしてくれていた。

 

 渡されたケーキ型のバースデーカードにはやや癖のある字で祝いの言葉が書かれている。お手本のような機械的な文字、というよりはわざと崩した感じのする人間味のある字。文字の調子からして左手で書いたもののようだ。

 

 今年の誕生日には自分もククリにカードを贈ろう、と考えた有栖はその『カード』という単語から、ふと学生証のことを連想した。

 

「ところで。葛城くんに新たな学生証が発行された、というのをご存知でしたか?」

 

「へー。彼が失くした、とかじゃないよね」

 

「ええ、もちろん」

 

 葛城は慎重な男だ。そういったミスをすることは滅多にない。

 

「そかそか。じゃあやっぱアレなのかな」

 

 ククリが言いたいのはクラス移動が原因だということだろう。有栖は否定も肯定もせず、にこりと無垢な笑みを浮かべた。

 

 個人が他クラスに移動するというのはこの学校では前例がない。しかもAクラス『から』Bクラスに行くというのだ。その関係で学生証が作り直しになったと言われても何ら不自然ではない。だが、有栖は別の要因であろうと睨んでいる。何故なら彼女はそれを見たいこともあって山内を退学へと追い込んだのだから。

 

 伝票を持ち立ち上がったククリに近づき、その耳元へと唇を寄せる。

 

「いつになっても構いませんので、彼の学籍番号を確認していただけると嬉しいです」

 

 よくわからない、といった様子で頭にはてなマークを浮かべつつも、ククリは素直に頷いた。

 

 

 

 

 

 

「面白い光景が見られましたね」

 

 寮の自室に戻った有栖はククリを招き入れると、ベッドに腰掛ける。そして彼女の上着の裾を引っぱり、隣に座るよう指示した。

 

 特に抵抗なく腰を下ろしたククリに寄り添うように距離を縮める。そのまま肩にもたれかかり甘えるように身を(ゆだ)ねた。

 

 慣れているのかククリは気にする素振りもなく、平然と話す。

 

「うん。バーティに石崎君、小宮君、近藤君、澪、木下さんたちに龍園君が命令してるの。無言で後を付け回せって」

 

 ケヤキモールから寮に向かう際、一之瀬クラスの中西(なかにし)が追いかけ回されているのを2人は目撃した。ククリ曰く一之瀬や神崎といった厄介な人物は避け、他の柴田や別府(べっぷ)などの男子生徒に絡むことになっているらしい。

 

「まあ本番は15日に種目が発表されてからかな。でもAクラスも偵察っぽいことしたんでしょ?」

 

「私は意味がないと言ったのですが。どうも橋本くんは何かにつけ綾小路くんのことを探りたいようです」

 

「人気者だねえカピバラ麻呂は」

 

「はい、軽井沢さんとの関わりも少しづつ公にしていますし。困ったものです」

 

「Kちゃんか……まあ今回の試験では平田君とリンリンのほうが要注意かね。あ、あと須藤(なにがし)とか」

 

 Dクラスには身体能力の高い生徒も多い。須藤健、小野寺かや乃。平田洋介と堀北鈴音は運動も勉強もできるタイプであり、本気を出せば高円寺六助は何事でも彼ら以上にこなせるだろう。

 

 よって有栖は彼らにスポーツ系の種目で挑む気はさらさらない。学力メインの種目、それも必要人数は多めにして戦うつもりだ。

 

 Dクラスからはバスケットボール部の須藤の力を最大限に活かそうと『バスケ』を種目に入れてくる可能性は高い。だがAクラスの鬼頭もまたバスケット経験者。精神的な揺さぶりをかければ心が未熟な須藤にならば勝てる見込みもある。

 

「でもちょっと意外だったな。私、キャロルは葛城君を司令塔にさせるかもって思ってた。それでカピバラ麻呂とは選手として勝負するんじゃないか、とか」

 

「……そうですね。全く考えなかったわけではありません。しかし、手足が優秀でも頭が無ければどうにもならない。それが私の築き上げているクラスですからね」

 

「うーむ、キャロルの指示が肝要ってことか。やっぱりクラスのリーダーが司令塔になるのが一番なのかしら。カピバラ麻呂は陰のリーダーっぽいもんね」

 

 事実、司令塔の関与の影響は大きい。またメンバー選択についてもその場その場で適切な判断を行わなくてはいけないのだ。司令塔が務まる人物というのも限られるだろう。

 

 しかし、有栖が司令塔として立つ最大の要因は、綾小路と少しでも長く一緒の空間にいたいからだ。色々と目立ってしまう有栖は綾小路と接触できる機会が少なく、また会えたとしても共有できる時間は短い。

 

 教師という邪魔者がいるとはいえ司令塔は多目的室でほぼ2人きり。またとない絶好の機会だ。

 

 正直なところ、有栖はAクラスが負けようとさして気にすることはない。自分が楽しむためなら試験の勝ち負けなど関係ないし、勝つことなどより全力の綾小路を引き出すことのほうがよほど重要だ。

 

「どうでしょう。勝負は蓋を開けてみなければ分からない部分も存在しますからね。どれだけ準備しようとも想定外は起こり得る。それが醍醐味でもありますが」

 

「なんかすっごく他人事感ある口ぶり」

 

「綾小路くんとの戦いを前に他は瑣末事。そもそも以前まではAクラスに対するこだわりなどありませんでしたし」

 

 理事長の娘であり勉学の才にあふれる彼女にAクラスの特権は必要ないのである。高円寺や鬼龍院と似た境遇といえるかもしれない。

 

 無人島、船上試験と有栖はクラスポイントを自ら落とすような真似をしていた。体育祭でも手を抜いていたのだ。それが変わったのは────

 

「しかし綾小路くんがこの学校にいると分かり、Aクラスという地位にも価値が生まれました。この先彼がクラスを率いてBクラスに上がってきた時、本気で戦えるかもしれませんから」

 

「あれ、じゃあ今の状況はキャロル的にはちょい早だった?」

 

「想定外といえば想定外でしょうか。本来であれば綾小路くんとの対決はもう少し後の予定でした」

 

 Aクラスの玉座に座る有栖に挑戦する綾小路。そんな構図を思い描いていた。

 

「けれども、はやる気持ちを抑えきれなかったのです。どうしても彼との戦いを欲してしまいました」

 

 甘い甘い告白のように、頬を薔薇(ばら)色に染めて有栖はうっとりと呟く。

 

 ずっとずっと追い続けてきた、出会うことのなかった幼馴染みのような心境。有栖は綾小路のことが知りたくて知りたくて仕方ない。

 

 見学室から、マジックミラーのガラス越しに。対戦相手を圧倒する綾小路を見て以来、有栖は彼と対局するためだけにチェスを(たしな)むようになった。遊び続けたことで愛着も湧き、チェスは楽しい娯楽の一つとなったものの、当時抱いた想いは何一つ変わっていない。

 

 プロのチェスプレイヤーよりも強い自信がある有栖と、綾小路。果たしてどちらが上でどちらが下なのか。彼は有栖が『天才』と認めるに足る存在なのか。

 

 知りたい。綾小路の全てを解析したくてたまらない。チェスはそのためのツールだ。

 

「上手くチェスで戦えるといいね」

 

「10分の7。確率としては決して低くないと思います」

 

 選抜種目試験当日は、対戦する2クラスがそれぞれ選ぶ5種目を合わせた10種目、そこから7種目が使われる。どの3種目が弾かれるかは運次第になるだろう。

 

「『チェス』と『ダイビングチェス』とかギリギリ別種目認定にならないだろうか。無理かなあ」

 

「駒を動かせるのは水中に潜っている時だけですが、基本のルールは通常のチェスと同じ。となると難しいでしょう」

 

「うー、駄目か……」

 

「残念ながら。でも真剣に考えてくださってありがとうございます」

 

 突飛な発言は時として思いがけない発想へと繋がることがある。もしかするとそれはククリの直感が働いたせいなのかもしれない。とはいえ今回は不発だ。

 

 彼女は試験について龍園に何か作戦の提案でもしたのだろうか、と好奇心が頭をもたげたが有栖はそれを押しとどめた。こういうのは終わってから聞いたほうが面白いものだ。

 

 龍園の戦い方は有栖と異なる。クラス内投票では同じ「クラスメイトを切り捨てる」という結論になっていたものの、そこに至るまでの過程は全く別物だろう。

 

 戸塚は葛城についているだけの小物だった。真鍋のように暴力行為をバラされないためにクラスを裏切ることもなければ山内のように口車に乗せられてクラスを裏切ったこともない。

 

 だがそんなことは関係ない。有栖が戸塚()を排除すると決めた以上は決定事項だったのだ。退学者については何の感慨もない有栖だが、賞賛票に関しては真逆である。

 

 龍園がドラゴンボーイ呼ばわりされているにもかかわらず高円寺に賞賛票を投じたことを知った時には思わず笑ってしまったし、綾小路とククリの退学を有栖の手で阻止できたのは非常に喜ばしい。

 

 そこまで考えて有栖はふと思いついた言葉を口にした。

 

「ククリさん。賞賛票の件、私はとても頑張ったと思いませんか?」

 

「ええと、うん、まあ」

 

「では、報酬代わりにお願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

「お、お手柔らかに……」

 

「大したことではありませんよ。ただそのまま動かないでくだされば構いません」

 

 不思議そうにするククリのほうへと有栖は身体を傾ける。いわゆる膝枕の状態になった。

 

 ふとももの感触はやわらかく、じんわりと温かい。寝転がった有栖の頭をククリが優しく撫でた。髪を手で()くそれはどこか慣れた手付きだ。他の人にもこういうことをしたことがあるのか、と思うとちょっとむっとするような、安心するような複雑な気分になる。

 

「私もククリさんの作ったアルバムをいただきたいのですが」

 

「え、うちのクラスのやつが欲しいの?」

 

 何故、と首を傾げる彼女に有栖は「違います」と告げる。別にあったらあったで構わないが、頼みたいものは異なるのだ。

 

「私や綾小路くんの写真があれば、それで作って欲しいんです」

 

「んー、キャロルはともかくカピバラ麻呂は……あー、兎さんグループで撮ったのがあったなあ確か」

 

 ホワイトルームで育った綾小路はデータ等は取られていてもアルバムなんてものとは無縁だっただろう。有栖は彼を倒したいと思うと同時に、その思想をよく理解している。平凡な学校生活を送りたい綾小路に思い出づくりのためのアルバムというアイテムは最適に違いない。

 

「佐倉さんも何か撮ってるかもしんないし、うん、まあ頑張ってみるよ」

 

 もし良ければ一緒に作ろうか、と話すククリに有栖は首肯して応じた。ゆるゆると動かされる手のひらにグリグリと頭を押し付ける。

 

 人は身体接触によって相手との心の距離を埋めることができるとされている。打算も含んではいるものの、有栖は純粋にククリを気に入っていた。

 

 昨夜は遅くまで橋本にネットでチェスを教えていたからだろうか。ふわ、と欠伸(あくび)を漏らす有栖の頭上からククリが声をかける。

 

「眠たいの?」

 

「ええ、少し……」

 

「ふむ。お疲れなのかね。なら子守歌でも歌おうか?」

 

 いたずらっぽく笑うククリは冗談のつもりで言ったのだろう。だが有栖はとろんとしてきた目を輝かせた。

 

「ぜひぜひ。どうぞ」

 

「え、まじか」

 

 子守歌かあ、とククリが悩む仕草を見せる。彼女の幼少の頃について聞いたこともある有栖はその知識がないのか、と感じた。しかし定番どころの歌はたとえ歌われずとも耳にすることくらいはあるだろう。前言は撤回しなかった。

 

 よし、と気合を入れた様子で、されどゆったりとククリは歌い始める。

 

「むごきさだめ 身に天降(あも)りて」

 

 ジョスランの子守歌。19世紀フランスの作曲家ゴダールによるオペラ『ジョスラン』に登場する曲だ。ククリの意外なチョイスに有栖は驚いた。

 

(なれ)と眠る のろわれの夜」

 

 透き通るような声が部屋に響き渡る。英才教育を受け音楽家たちやその卵とも接点のある有栖の耳に届くククリの歌は、普通程度の力量のもの。選抜種目試験で『カラオケ』なんかの種目があったとして勝てるかどうかは怪しいだろう。だが感情豊かな歌声は有栖の心を()きつけた。何か賛辞を、と思ったところでうとうとと睡魔が忍び寄ってくる。

 

「胸のうれい ゆめに忘れん」

 

 膝の上で丸くなる猫のようになった有栖の背をククリはトントンと叩いていた。心地よいリズムにますます有栖の意識が薄れていく。

 

「祈らばや ゆらぐ星のもと」

 

 ゆっくり、ゆっくりと。有栖は夢の世界へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「そういや、カピバラ麻呂とキャロルが戦ってどっちか勝ったほうのお願い聞くとかあるの?」

 

「ええ、何も条件をつけないと綾小路くんはわざと負ける可能性もありますから」

 

「ほほう。じゃあどんな条件? やっぱ退学とか?」

 

「いいえ、私が勝った場合は『龍園くんが探していたのは綾小路くんでありその理由は恋い慕っているから』という噂を流す予定です」

 

「関係ないたっつーがめちゃくちゃ巻き込まれてて笑っちゃうんだけど。え、何かな、たっつーがDクラスを目の敵にしてたのは策士Xを探してたんじゃなくて運命の相手を探してたのか……」

 

「綾小路くんが勝った場合は彼の出てくる同人誌の情報を根こそぎ渡してほしい、という要求でした」

 

「なんと。漫画も小説もかなあ」

 

「おそらくそうでしょう」

 

「うーん。じゃあ私はキャロルのほうを応援しよう。楽しそうだし」

 

「……いいんですか?」

 

「いや、まあキャロルのことだから勝っても本当に実行はしないでしょ?」

 

「────はい、もちろんです」

 

「何かな今の間。怖いんだけど……」

 

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