ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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人間は、自分の頭脳や心を養うためよりも何千倍も多く、富を得るために心を使っている。しかし、私達の幸福の為に役立つものは、疑いもなく人間が外に持っているものよりも、内に持っているものなのだ。

「何ですか?」

 

 ひよりんもついてきてくれた。優しい。澪はさっき見たときはたっつーの(そば)にいたけど、今はどこかへ行ってしまったようだ。どうやら私たちが話すべき相手はたっつーと金田君らしい。

 

「俺の作戦を説明する。聞け」

 

 石崎君や山田君とかもいない。偵察に放ったのかしら。

 

「まず、ベースキャンプは浜辺だ。300ポイントをすべて使い切る以上はスポットかどうかなんざ関係ねえからな」

 

 ん? なんて? 

 

「Aクラスの挙動は想像がつく。今回の旅行の欠席者は坂柳だ。今は葛城が指揮を執っている。一応、な」

 

 え、そうなんだ。坂柳さんは身体的な事情があるからまあしゃあないわな。……って、さっきの300ポイントどうこうの続きは? 話変えやがって。

 

「ヤツは臆病者で、多少は頭が回る。船から見ていたのは森を切り開いた道だろうな。向かう方向なんざ丸わかりだ」

 

 人工的に作られた道があったってことか。その先にスポットがあると。あー、だから有意義な景色ってアナウンスだったのね。はいはい。

 

「無線機を持たせた石崎をやった。そのうち接触したと連絡が来るはずだ」

 

 なんでAクラスと接触する必要があるんだろう。B、Dにはもう喧嘩売って仲が最悪だから? でもAもうちに協力してくれるとは思えないんだけど。

 

「Aクラスは内紛を抱えている。葛城は坂柳に勝つ材料に飢えてやがるんだよ。ヤツは最近生徒会入りを断られたばかりだしな。AをAたらしめるもの、それはクラスポイントだ。プライベートポイントよりクラスポイントを得た方が葛城の支持率は上がる」

 

 そこまで言うとたっつーは周りを見渡した。既にうちのクラス以外はもう移動している。もうここには教員しか残っていない。

 

「俺はAと取引して200ポイント分の物資と同価のプライベートポイントを交換させる。残りの100ポイントで遊び呆けたふりをして偽装工作を行い、クラスの連中はリタイアさせるって寸法だ」

 

「なるほど……感服の一言です……!」

 

 金田君が感嘆の声を漏らす。しっかし本当に頭いいな、たっつー。1番クラスポイントを欲してるのは1番クラスポイントのある『Aクラス』なわけか。もしかしてここで取引するためにAクラスだけには今まで攻撃を仕掛けなかったのかな? いつからこういうこと考えてたんだか。何だかんだでちゃんと君主してるというか、すごいなあ。

 

 でも一応聞いとくか。

 

「リタイアは、自分自身で続行不可能と判断した場合でも可能なの? あとリタイアした場合、その生徒はどう扱われるのか。そんで、クラス全員リタイアって学校的にオッケーなわけ?」

 

「全員がリタイアしようが仮病だろうが構わねぇだとよ。リタイア後は船に戻って待機だ」

 

「それはそれは。わーい、豪華客船生活だ〜」

 

 んー、ただ今回の試験ってポイントを残せても確実にクラスポイントになるって保証されてるわけじゃあないよね? そこんとこどうなんだろう。もしリーダーを当てられたら、とかポイントを失うリスクがそこかしこにあるもん。

 

「……話を戻す。B、Dのリーダーの情報もAにくれてやる。そうだな、俺に逆らった手下共に罰を与えて放り出したら“たまたま”お優しい他クラスに拾われたって寸劇でも開きゃいい。内部からリーダーを探ってすべてを喰らってやるさ」

 

 おお。それでいければAクラスにはさらに100ポイントがプラスされ、BとDは50ポイントずつマイナスになる。Aクラスは元の270ポイント+100ポイント+スポット占有ポイント分のクラスポイントを、1人月2万ずつのプライベートポイントで得れるのだから、葛城君も大金星を上げられると考えるんじゃあないか? 魅力的な提案。まあ成功したら、だけど。

 

 それでCクラスは試験で300ポイントを使い切っても、月2万×Aのクラスメイト数のプライベートポイントとリーダー当てで100ポイントのクラスポイントを得られることになる。つまり300クラスポイント相当だ。

 

 すごい。知能犯。

 

「流石……!」

 

 そう言うほかなかった。

 

 たっつーは当たり前と言いたげにふんぞり返ってた。うん、今回は偉そうな態度でも妥当ですな。許そう。

 

「それでもまだ取引には弱いとAクラスの方々が仰った場合はどうするんですか?」

 

「はっ。京楽の動画でスポットの場所をあらかた把握した俺は体力バカ共を重要であろうスポットへ向かわせた。スポットを取りたきゃバカをどかす必要があるが、暴力行為は禁止だ。無理やりどかすことはできねえ、かといって誰も占有していないスポットを占有する権利はあってもそこから他クラスの生徒を強制排除できる権利はない。特に洞窟の近くには小屋やら塔やら複数の施設がありやがったからな、洞窟へ行かせたアルベルトには俺の声を聞くまでは梃子(てこ)でも動くなと言ってある。抜かりはねぇよ」

 

「石崎氏たちが占有のための機械の前に立って牽制しているということですか。スポットを取ろうにも他クラスの前では自分たちのリーダーが誰かバレてしまうので出来ない、かといって無理にどかすのも難しい、と」

 

「Aクラスが取引に応じればどいてあげるよ、早くしないと他クラスもここに辿り着くかもしれないよ、ということですね。複数のスポットを管理しやすい場所にある洞窟担当の人には無線機を渡しているのは、先月の反省でしょうか?」

 

 フン、とたっつーは返事をせずにそっぽを向いた。

 

 ひよりんは7月の裁判にオコだったらしい。ちょっと嫌味っぽかった。喧嘩ふっかけさせることでDクラスに喧嘩売ったわけだからね。裁判楽しんでごめんなさい、ひよりん。うーん、あの時は報連相がなってなくてCクラスのボロ負けになったもんなあ。

 

 無線機を持ってる石崎君とAが接触、葛城君とたっつーが無線で交渉、成功すればたっつーは山田君に無線越しに命令してスポットからどかせる、と。他のスポットの人は無線機持ってないだろうけど、まあそっちはたっつーの声がなくても石崎君とかが言ってもどいていいよっていう感じなのかもしれない。

 

 計算された卑劣な手口……否が応でも取引に応じろという気迫すら窺える。ひよりんと金田君と一緒に感心するも────。

 

「スポットの機械を壊して回らせることも考えたがな。下手に触れると警報が鳴るらしい」

 

 このように奴が余計な言葉を吐いたせいでその株は急落。プラマイゼロで元通りになった。

 

「破壊工作って、どこのテロリストだよ」

 

 すぐに特別試験委員がすっ飛んで来て修理交換に当たり、修復費の支払いというべきか、壊した代償としてそのクラスは当該スポットを試験中ずっと占有出来なくなるとのこと。誰が犯人かは時計についてるGPS見ればだいたいわかるんだろうしね。プラスして一クラスが大量に破壊すりゃ故意とみなして来月のクラスポイントが減るであろうと釘を刺されたという。相変わらず坂上先生からの負の信頼があるなあ、たっつーは。

 

 レンタルした商品を自分たちが壊したりしちゃっても似たような扱いで、破損の程度や事情にもよるんだろうけど、あんまりひどい場合は学校の備品の破壊とみなしてクラスポイントの査定に響くらしい。できるだけ丁寧に扱いなさいってことなんでしょう。特別試験の真っ只中とはいえ、生活態度もいつも通りではないにしろある程度観察されているということかね。だから教師への闇討ちがどうのとか呟いてるたっつーはやめとけよ、そんなんすればあっという間にクラスポイントゼロにされるぞ絶対。

 

 腕時計は試験が終わるまでずっと装着してないとペナルティがってことだけど、これも破壊して新しいのもらってって何度も繰り返してたらクラスポイント減らされそうだなあ。

 

「読み取り部分に泥だらけの手で触っちまうなんて事故は往々にして起こるものさ」

 

「人為的なやつは事故とは呼ばないもん……」

 

 やれやれと肩をすくめてると、無線機に声が入ってきた。Aクラスは少なくとも話はしてくれるらしい。第1段階は問題なく成功だ。

 

 お相手は葛城君だね。相変わらず渋くて誠実そうな声だ。実際、取引相手として彼ほど信頼できる人はいないに違いない。そしてたっつーは学年でも有数の信頼できない人だろうな。

 

 たっつーはマニュアルの白紙のページに契約メモを書いたのを見せてくれた。同じようなものを石崎君を通じて葛城君にも渡したんだろう。盗聴を警戒してか、1番とかアレとか言って濁して会話していた。無線機を他クラスが買って傍受とかされる可能性もまああるといえばあるもんね。でもBとDはそんな余裕ないし買わないと思うけど、これが葛城君の慎重さなんでしょうな。

 

 ①CクラスはAクラスに200ポイント相当の物品を購入して譲渡する。購入する物品はAクラスが自由に指定できる。

 ②Cクラスは、BクラスとDクラスのリーダーが誰であるかを探り、得た情報をすべてAクラスに伝える。

 ③Cクラスが上記①、②を遂行した後、Aクラス生徒全員が龍園翔へ毎月2万プライベートポイントを月末までに譲渡する。本契約は、本校の卒業まで継続する。

 ④署名した者は、本契約内容に同意したものとする。こちらは龍園翔が署名し、あとは坂柳有栖以外のAクラス全員の署名を要求する。

 とのこと。

 

 葛城君はさらに互いにリーダーを当てないことを盛り込むことを要求してきた。さらにリーダー情報には証拠が必須、キーカードの写真もしくは実物が必要だと言った。信用ないなたっつー。絶対、他クラスとの契約だったら葛城君はもうちょっと相手を信じてあげたに違いない。

 

 2人は急いで話していた。時々金田君にたっつーが目をやり、こそっと話す。私とひよりんはただぼーっとそれを眺めていた。頑張れー。暑いー。

 

 途中から坂上先生も呼んでポイントと交換で契約書を作れるか聞いてた。契約の効力確認したり、違約条項がどこまでできるかとか尋ねたり。ふーん、マニュアルにないものでも買えるんだね。まあ作業員さんたちが設置してた特設テントにはパソコンやプリンターもあったことだし、学校側が今用意できるものかつ正当なものはって感じかな。しかしいつもお疲れ様です先生。たっつーがすみません……。

 

 すぐに大筋では合意したらしく、たっつーのメモ書きを3人で回し見する。むー、もっと字を丁寧に書いてほしかった。読みづらい。こういう細かいことは苦手だからよくわからないけど、いいんじゃあないだろうか。大きな穴はないと思うし、まあ教師が契約書を作って契約にも立ち会う以上、公平な彼らは契約の遵守を求めてくれるでしょうしな。教師を巻き込んだ上での契約となるとたっつーすらも破ることはできないに違いない。

 

 結局、AC間でのリーダー当てはしないという契約は盛り込まれなかった。Cクラスがリーダー含め全員リタイアすることになった場合はそもそもリーダー当てにCが参加しないのだからこちらのメリットがなくなるという理屈とか、リーダー名もポイント内訳も明かされないのだから『リーダーを当てた』という完全な証拠の提示は不可能だとか色々ペラペラ喋って引き下がらせてた。こいつ、よく口が回るなあ。

 

 たっつーは即座に指示してスポットに立たせたCクラス生徒の一部をその周囲に隠れさせていた。Aクラスが来たらバトンタッチみたいな感じで引き上げるとのこと。B、Dクラスがこのわずかな隙に来てスポットを占有しちゃわないようにか、あわよくば他クラスのリーダーを知れるようにしてるのかもしれないね。

 

 正式に契約を交わすのは洞窟で、ということになったらしい。Aクラスはベースキャンプを洞窟にするんだろう。風雨もしのげるし涼しいしいい場所だと思う。洞窟が何個あるかは知らないけど、1個しかないならAクラスはかなりのアドバンテージを得られるんじゃあないだろうか。

 

 通信が途切れると、たっつーが無線機を渡してきたので鞄の中にしまっておく。さらにポイントの使い道を私たちに聞いてきたからとりあえず水を配ってほしいと言うと、あっさりと買ってくれた。喉乾いたんだよね。水と食料のセットで10ポイントか。毎月千円が消えていった……! カロリーメイトとペットボトルが渡される。40人分だから一月25円かあ。そう考えると安いのかな。微妙なとこだわ。

 

 あとは日除けできるのが欲しいよね。パラソルとか日よけのターフとかいいんじゃあないだろうか。あと海で遊ぶといえばBBQ! 花火も楽しそうだなあ。というかこのへん、船に持ち帰ってもいいんだろうか。どうなんだろ。でもデジカメとか、じゃないと現像出来ないよね。

 

 たっつーから奪ったマニュアルをめくり100ポイントぶんを考えていく。このマニュアルには物資の詳細が載ってないし、先生に聞いてもあまり答えてはくれないみたいだけど、遊び道具なら別に適当に注文してもいいよね。仮設トイレやシャワー、テントなんかの使い回せるものはAクラスと相談して購入(消耗品以外は基本学校からの貸し出しって形なんだけど)すればAクラスに渡す200ポイントぶんの物資に入れてくれるかもしれないらしい。優しい。まあたぶんみんな明日明後日でリタイアするからね。私たちのリタイア後にどうせ回収するんだから、1日や2日くらいなら譲歩するということなんだろう。あとはこっちのポイント数を誤魔化すことは、Aクラスの利益にもなるからかな。

 

「I'm back」

「戻りましたっす!」

 

 しばらくして続々と森へ行った人たちが戻って来た。お疲れです。お水をどうぞ。

 

「Thank you!」

「あざー」

 

 どういたしまして。

 

 澪も帰って来てひよりんからお水を受け取っていた。

 

「澪! お疲れ様」

 

「ありがと、ククリ」

 

 たっつーにみんな報告していたのを聞いていると、どうやらたっつーがあらかじめ地図を作っててそこを目指したら無事にスポットについたみたい。注意深く周りを観察してたけど特に誰もいなかったって。Aクラス以外と接触はなかったけど、帰り道は他クラスの生徒も見かけたとのこと。どのクラスも頑張って探検してるはずだもんね。

 

「ご苦労」

 

 たっつーは偉そうにそう言うと、クラスメイトの集まっている方へ向かった。どうやらみんなに森の探索と他クラスの偵察を命じてるみたい。Aクラスへも偵察へ行くらしい。Aとの契約について話すつもりは毛頭もないようだ。あちらもCクラスの生徒が来ても知らんぷりするだろうし、まあいいのか? どうせたっつー以外は洞窟に入れてくれないだろうなあ。ちょっと入ってみたかったのに。

 

「15時までにこの浜辺に戻って来い。分かったら、散れ」

 

 そうたっつーが言い終わるとクラスメイトは蜘蛛の子を散らすように急ぎ足で去っていった。だいたい2、3人で行っているようだ。森に1人で入るのはちょっと怖いよね。

 

 女子たちはこの暇だった時間に日焼け止めを塗り直したようで、準備万端だった。元々水着に着替えるときに塗り直す予定だったもんね。羨ましい、私も塗り直したいな。

 

 澪以外の森から戻って来た人たちに休んだら探索しとけと言ってもう1度森へ追いやったたっつーは、あたりを見渡してみんないなくなったことを確認してから話し始めた。用心深いなあ。

 

「さて、お前らは別だ。聞いてない伊吹のためにもう一度話してやろう。Cクラスは300ポイントを使い切る。200ポイントの物資はAクラスにプライベートポイントと引き換えに売りつけた。残りの100ポイントを使い他クラスの目を誤魔化した後、大方はリタイアする。スパイになるヤツと俺以外だな。そして俺は最終日に3クラスのリーダーを当てる。以上だ」

 

 あっさりとした台詞に、澪は頭が追いついていないようだ。だいたいの理解でいいと思うよ。

 

「スパイは誰が? この中から2人、になるんだよね」

 

 私は嫌だ、リタイアするんだいと熱い視線を送る。他クラスでサバイバルとか楽しめないよ……。

 

 たっつーが私たちをジロジロ見つめる。ドキドキ。4人に2人だから50%! 

 

「金田はB、伊吹がDに潜入しろ。Aクラスからの要求はキーカードあるいはその写真だ」

 

「かしこまりました」

 

「……分かったよ」

 

 よし、自分じゃなかった。澪、Dクラスかあ。頑張ってください……! クラスの中でたっつーに逆らいそうで、ちゃんと他クラスに保護されそうなのってこの2人なのはわかる気がする。他の男子たちは保護しなくても生きていけそうな気がするし、女子たちは逆らうことなんてしなさそうだもん。私とひよりんはお前ら本当に逆らったの!?って驚かれそうな気がする。普段は大人しい女子だからなあ。

 

「クラスにはポイントを使い切って遊んだ後はリタイアしろと指令を下す。その時、お前ら2人が反抗したことにしろ。真実にするために俺が殴ってやる。したらそれぞれベースキャンプ付近に行け」

 

 え、殴るの? 可哀想……でも2人は特に異論はないらしい。普通に頷いている。試験が終わったらすっごく(ねぎら)うからね、2人とも! 

 

「後で懐中電灯、デジカメと無線機を渡す。証拠が取れたら連絡しろ。取れなくとも最終日の点呼前には連絡しろ」

 

「証拠と、リーダーの情報では優先度はどちらが上でしょうか?」

 

「リーダー情報だ。Aクラスとの契約では情報提供のみで、証拠は絶対必要ってわけじゃねえ」

 

「なるほど。承りました」

 

 金田君はたぶんわかってるけど確認で聞いてるんだろうな。しかしたっつーの信用のなさと葛城君の慎重さのせいで難易度がルナティックだよね。澪と金田君の健闘を祈る……! 

 

「私も了解。けど、他はともかく無線機が見つかったら一発アウトでしょ。どこに隠せばいい?」

 

「そうだな……地面、はどうだ?」

 

「はい。バッテリーを外して、ビニールで包んでから埋めれば大丈夫かと思います」

 

「ん、了解」

 

 地面かあ。雨降ったとき大丈夫なのかなあ。まあ金田君の言葉を信じよう、うん。

 

「龍園君は残って何するの?」

 

 たっつーって呼んだら虫の居所が悪かったのか前にブチ切れたんだよねこの人。カルシウム食えよ。ともかくたっつーはマニュアルを開いた。いくつかある白紙のページの1つに、島の形だけ写したもののようだ。

 

「潜伏だ」

 

 ってことはたっつーがリーダーになるのか。ふーん、頑張れー。

 

「あ、どうせなら金田君か澪をリーダーにしてさ。他クラスが探せば見つけられるレベルで砂浜にカード隠しといて。そんで直前に『龍園翔をリーダーにします』って言ってリタイアしてもらったら? あとさ、レンタル品についてだけど────」

 

 保険をかけとくのもいいだろう。楽しそうではあるし。

 

「…………悪くはねえ。お前、時々知能指数上がるな」

 

 馬鹿にしてるのか一応褒めてるのか。しかし先生のとこに行ったたっつーは戻ってくるなり、追加注文した無線機を片手に言った。

 

「レンタル品の条件は『船が出発するまでに返却すること』のみ。そしてリーダーのリタイアは他と違ってそう簡単には認められないだとよ」

 

 あらら残念。何でも、クラス全員リタイア時、リーダーのリタイアが認められるのは「リーダー以外みんないなくなっちゃったから仕方ないね」という理由らしい。むー、こうなると駄目だね。ってことで結局たっつーがリーダーになりました。

 

 

 

 §

 

 

 

 そして次の日。追い出されて他クラスでスパイを頑張ってる澪と金田君に悪いと思いつつも、私たちCクラスはまさにバカンスを謳歌していた。バーベキュー美味しい。マシュマロも焼いたんだけど、スモアを考えた人は天才だと思うの。スイカ割りしたり、免許ある人がいたから水上バイクに乗せてもらったりもした。風になったよ私は。楽しかった。

 

 陽気な鼻歌交じりで歩いていると、いきなりたっつーに呼び止められる。

 

「お客様のお越しだ。連れてこい」

 

 奴が指し示した先にはカピバラ麻呂とリンリンの姿。あのな、人への指差しは失礼なんじゃぞ。ともかく、行きますか。

 

「2人とも……龍園君が、来てほしいだって」

 

 声をかけるとリンリンはおかんむりだった。美人さんが怒ると恐いなあ。

 

 カピバラ麻呂は私の水着にノーコメント。いいんだぜ、盛大に褒めてくれても。く、ご飯食べすぎたからお腹出てるのかな……? いや、たぶん大丈夫だ、うん。たぶん。

 

「Cクラスは何を考えているのかしら? 愚行にしか見えないのだけど」

 

「あー、んー」

 

 ちょっと迷う。どうしよっかなあ…………むぅ、まあ、クラスのために働くとするか。

 

 声を潜めて話す。

 

「伊吹澪ってCクラスの女子がいるんだけど。もし今彼女が何してるか知ってるなら教えてくれたら、私も教えられるかな」

 

「彼女なら私たちが預かってるわ」

 

「そうなんだ! よかった──ありがとう。Dクラスに保護してもらえてて本当によかった!」

 

 ちょっとわざとらしいかな? ま、でも澪がDクラスに入り込めてて嬉しいのは本当だし、いっか。

 

「一昨日の夕方、デッキで見かけた時も仲良さそうにしてたよな。友達、なのか」

 

 ああ、澪が私の前でたっつーと口論してる時カピバラ麻呂もあの場に居合わせてたっけ。子どもの教育方針で揉める夫婦のようだった、とボソッと言ったのは聞かなかったことにしてやろう。あんな父親は嫌です〜。

 

「うん、そう。大切な友達。でも澪、龍園君がこうやってポイントを好き勝手使うって宣言した時に反発しちゃって。私、彼女を(かば)ってあげられなかった────」

「そういう仲良しごっこは他所(よそ)でやって。つまり伊吹さんはポイントの使い方について不満を口にして、その結果暴力行為が起きた。だから彼女は顔を腫らしていたのね」

 

 ピシャリと言われた。仲良しごっこじゃないもん。ひどいやい。

 

「そ、それで澪と金田君は飛び出して行っちゃって。少なくとも試験中だけでも龍園君に近づきたくないってことだと思う。彼は『土下座すれば許す』とか言ってたけど、それも本当かわかんないし……もしかして金田君もDクラスに?」

 

「いいえ、知らないわ」

 

「そっか……ごめん、肝心のCクラスの作戦を言ってなかったよね。実はうちのクラスは、こうしてポイントを使い切ったらみんなリタイアすることになったの」

 

「じゃあ、あなたたちは試験そのものを放棄したってこと?」

 

 コクリと頷く。

 

「なら、リーダーは?」

 

 珍しく真剣な顔つきのカピバラ麻呂がなかなかいいことを聞いてくる。一瞬、眼光が鋭くなった気すらした。んん、どう言おっかな。

 

「龍園君が受け取ってたけど、カードキーは隠しちゃってたからわかんないの。どうせスポット占有にも使わないからって。ごめんね。でも、たぶん金田君か澪なんじゃないかな?」

 

「そうね。全員リタイアするなら、それが一番手間がかからないわ。でもどちらなのか分からないわね」

 

「50%の確率に賭けるのは難しいな」

 

 金田君がたぶん潜入できてるであろうBクラス、一之瀬さんたちも同じ結論を出すはずだ。あるいはどちらかの名前を書いても構わない。真のリーダーであるたっつーの存在を見抜けなければ、ただポイントを失うだけになる。

 

「いえ、ちょっと待って。よく考えればCクラスが皆リタイアした後、伊吹さんにここへ来てもらって坂上先生に『自分がリーダーであるかどうか』を尋ねれば確実に分かるのではないかしら」

 

「ほえ?」

 

 おっと、つい間抜けな声を出しちゃったよ。しかし、ふむ。意外とDクラスはまとまっているのかな? クラス内部からの裏切りを警戒していれば、この疑問は既に解消されているはずだ。例えばAクラスなんて葛城君たちは坂柳派の面々にはリーダー名を何が何でも隠そうとしているだろうし、逆に坂柳派はどうにか知るべく探っているはず。

 

 リンリンの様子からしてDクラスはみんなで集まって話し合ってリーダーを決めたか、決定のあとでクラスメイト全員に通達したのだろう。すごーく民主的っすね。ま、とにかくともかく。

 

「それは無理かな……先生たち、同じクラスの生徒はもちろん、たとえリーダー本人に聞かれてもその手の質問には答えないってスタンスみたいなの。龍園君が坂上先生にしつこく確認してたから、間違いないと思うよ」

 

 たっつーは試験のルールについてかなりネチネチと質問攻めしていた。度々あんなことされる坂上先生は本当にお気の毒としか言えない。

 

八方塞(はっぽうふさ)がりだな」

 

 カピバラ麻呂が呟くのに、リンリンも無言で同意しているようだった。私もうーんと腕組みしていると、クラスメイトの男子に怯えた感じで話しかけられてしまった。

 

「京楽さん……龍園さんがまだかって……」

 

 あ。ごめん、忘れてたわ普通に。今行くぜよ。

 

 

 

「よう。偵察日和のいい天気だな。随分話し込んでたが、そいつからいい情報は聞き出せたか?」

 

「ただの世間話よ。それより、遊び呆けているようだけどリタイアなんてふざけた事をする気なのかしら?」

 

 すごい、相性最悪な感じだ。まさしく水と油。もしくは美女と野獣、はちょっと違うかな。

 

 そういやたっつー、裁判の後リンリンたちへ宣戦布告したぜってニヤニヤしながら言ってたっけ。一応面識あるのね。

 

「そのバカが喋りやがったか。ま、見りゃ理解できるだろ。慈悲深い俺は、全てのポイントを消費してクラスの連中にも還元してやってるところだ」

 

 うん、たっつーのおかげで夏のバカンスを堪能してる。そこはありがとう。でも欠片も慈悲深くはないっしょ。

 

 たっつーはタオルの横に置いてあるペットボトルをとっても偉そうに手にした。水着姿でチェアーに寝そべって肌を焼いてるし、なんかホスト崩れっぽいなあ今日のこいつ。ってかそのタオル、無線機くるんでるやつじゃん。電化製品を水のそばに置いとくなよ危ないなあ。私はちゃんと鞄の中に入れてるぞい。

 

(ぬる)いな。おい石崎。冷えてんのをさっさと取ってこい」

 

 そう言うと飲みかけのそれをこっちに渡す。え、いらなっ。ばっちい、仕方ないから後で石崎君にでもあげよう。そもそも炭酸水、あんま好きじゃないんだよね。

 

 哀れ石崎君はバレーを中断してテントに走る。彼が豪快に開けたその中にはダンボールの山。なるほど、2人にテント内の物資を見せつけてうちのクラスがポイントを使い切ったと強調したかったのか。

 

 あー、だから全部一旦こっちに置いといたんだね。いやさ、はじめっからCクラスに必要なやつ以外はAクラスへとお届けしてもらった方が楽じゃんって思ってたんだよ。なるほどね、こんな意図が。

 

 そんで私たちが去った後は先生たちにAクラスへこれらの品を運んでもらうらしい。何でもポイント交換商品は再移動もしてもらえるんだとか。アフターサービス万全だね。ま、仮設トイレとか運ぶの重いもんな。100㎏以上あるとか先生言ってたし。

 

「旅行をただ楽しむってのはセンコーも推奨してたやり方だ。少しのクラスポイントのために我慢生活すんのが正解だと本気で思ってやがるのか?」

 

 わ、嘘つきー。しれっと言うなあ、たっつー。というかまず真嶋先生は別に推奨まではしてなかったと思うぞな。

 

「考えるまでもないことよ。今は良くても、他クラスとの差が引き離されるばかりになる。自滅としか思えないわね」

 

「自滅? これは傑作だ。おまえらの所業、特に4月のそれはよく覚えてるぜ。鏡は見たかDクラス」

 

 石崎君が(うやうや)しく炭酸水を差し出す。たっつーはキャップを回しカッコつけて飲んでた。炭酸がシェイクされてて吹き出てきたら面白かったけど、そうはならなかったらしい。ちぇっ。

 

「過ぎたことでしょう。いずれ痛い目を見るのはそっちよ」

 

「どうだろうな。用件はもう終わりか? おまえであれば歓迎するぜ。そこらの道具で遊ぶなり酒池肉林と洒落込むなり好きにすればいい。それとも俺と別の遊びを希望か? 専用のテントくらい用意するが」

 

 リンリンがキッと睨み、たっつーは笑顔を返す。うーむ、たっつードM疑惑が浮上してしまった。誰も得をしない展開だ……。

 

 しかし、ちょっと気になるな。

 

「綾小路君のことは歓迎しないんですか?」

 

「芸でも見せりゃ褒美をやるよ。犬っころにはお似合いだろ?」

 

 たっつーの投げた肉をカピバラ麻呂が口でキャッチする光景が頭に浮かんだ。意外と楽しそ、いや、まあノーコメントで。

 

「試験で協力が出来ないクラスに未来はない。私たちからすれば好都合だけど、あなたのクラスメイトは不憫(ふびん)ね」

 

「雑魚が群れたところで何になる? おまえこそ甘いな」

 

 小さい魚が集まるとあれだよ、スイミーたちみたいにおっきい魚になると思う。あー、海が近くにあることだしお魚さん食べたいな。じゅるり。

 

「戻りましょう綾小路くん。これ以上無意味な会話を続けるのはうんざりよ」

 

「またな鈴音」

 

「気安く下の名前で呼ばないでもらえる? 虫酸(むしず)が走るから」

 

「つれない女だ。おまえも俺の名を呼べばいいだろ」

 

 こ、こいつ──やはりサディストに見せかけたマゾヒストなのだろうか。私はさり気なくチェアーから距離をとった。マルキ・ド・サドの著作もザッヘル=マゾッホのほうも一部目は通したけどちんぷんかんぷんなんだよね。

 

「あなた……龍園……何だったかしら。次郎丸?」

 

「ぷっ、ふっ、じ、じろーまるっ」

 

 いいじゃん龍園ジロー丸。リンリン、ナイス挑発! お腹を抱えて笑っているとギロっとねめつけられたので、か弱いククリちゃんはビクッと小動物のように震える。するとcryptid(UMA)を見るような視線に変わった。何だよ、失礼なヤツめ。

 

「ユーモアに溢れる(くそ)ジョーク、面白かったぜ」

 

 出ましたおもしれー女認定。ゆるっゆるの口元を引き締めて私も会話に加わる。

 

「え、えっと、龍園(かける)、だよ」

 

「そう」

 

 たっつーのことは全く興味ないらしい。うん、知ってた。

 

「さて、これで俺を下の名前で呼ぶ気になったか?」

 

「いいえ、全く」

 

「ククク。それでこそ屈服させ甲斐がある。遊びたくなったらいつでも来いよ、鈴音。最高の気分を味わえるだろうぜ」

 

 こいつ下ネタ多いな。小学生かよ。リンリンも可哀想に。

 

 立ち去る2人を追って私も()ける。

 

「麻呂君、堀北さ────」

 

 砂浜でずべっと転び、リンリンにぶつかりそうになる……ところで。さっとカピバラ麻呂に受け止められた。お、意外と筋肉あるな君。

 

「ありがとう! その、龍園君が申し訳なかったです。いつもはあそこまで言う人じゃないんだけど」

 

「気にしてないわ。ああいう(やから)はどこにでも()くもの」

 

 涼しい顔のリンリンであったが、私はちょっと気になることがあった。

 

 2人が帰るのを見送り、たっつーのところへ戻る。

 

「ね、少し立ってみて」

 

 立ち上がった彼に、私は先ほどの再現をする。つまり転んだ。

 

 たっつーが手を伸ばしかけるも届かず、私は砂浜に打ち付けられる。何やってんだこいつ、という目を向けられたのがわかった。

 

「ついに頭までおかしくなったか?」

 

 ちゃうわい。実験だもん。というか頭“まで”って何だよ“まで”って。

 

「麻呂君、この状況で私を受け止めた。あんなに素早く動いて」

 

 素晴らしい反射神経、運動能力。でも。……何か少し、不自然だ。いつも無気力そうな彼がリンリンや私を守るために動いた、と言うよりは……理由があってリンリンには『触れられたくなかった』、とか。そんな感じだった。

 

「もしかしたらDのリーダー、リンリンかも」

 

 キーカードを彼女が持っているから、カピバラ麻呂はああも焦って動いたのだろうか。

 

 そう話す私に、たっつーは笑った。蛇みたく目を細めて。

 

 

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