ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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Self Sacrifice

(SS︰Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration.  by Thomas Alva Edison)

 

 

 

 

 ──塩ラーメン。

 

 夕食を、と考えた瞬間に舌がそれを欲していた。この求めに応じるべく綾小路が向かう先など決まっている。ラーメン屋の暖簾(のれん)(くぐ)って入れば、店内には客が一人、座っていた。

 

 定規を当てたかのようにピンと伸びた背筋。きっちりと整えられた髪型。湯気で彼のメガネは曇ってしまっていたが、その程度で見間違えるはずもない。

 

 坂上数馬。龍園や伊吹たちの担任教師であり、丁度昨日は選抜種目試験において綾小路と坂柳を監督していた相手でもある。

 

 しかし気まずい、と綾小路が思うのも無理からぬことだろう。こういう場で二人きりとなると、挨拶をすべきか、するにしてもどう声をかければよいか、判断に迷うのだ。

 

 ひとまず食券を買って店主の男に渡し、さぁどうしようと綾小路が途方に暮れる前に。日頃の行いの賜物だろうか、救世主が現れた。

 

 ガラリと戸が開く音に視線を向ければ、そこには黒髪の少女の姿。彼女のほうも綾小路たちを認識したらしく、にぱっとお日様のような笑みを浮かべる。

 

「こんばんは、坂上先生」

 

 丁重な一礼を披露してから、ククリは綾小路へ小さく手を振った。

 

「こんばんは、麻呂君」

 

 少し強張(こわば)っていた坂上の表情も可愛い教え子の登場のおかげか僅かに緩んでいた。

 

 ククリが店主に挨拶をしたりしているうちに食事を終えたようで、坂上が席を立つ。一応会釈を済ませた綾小路にはもう反応を示すことなどないと予想していたのだが、どういうわけか彼はこちらに近づいてきた。

 

 レンズ越しに見える瞳は温かさを伴ったものであり、それも奇異に感じる。彼の好感を得るような行動を綾小路がとった覚えはない。

 

「何か、茶柱先生に相談しづらいことがありましたら……他の教員が話を聞くことも出来ますから」

 

 ポンポンと優しく肩を叩き、大いなる疑問を残したまま坂上は去っていった。

 

 ──まさかホワイトルームのことを指しているのか。

 

 チェス勝負からの帰り道、綾小路は坂柳から父である理事長の電話番号を聞き出し、その日の夜に連絡していた。蟄居(ちっきょ)させられているとはいえ電話ならば繋がるに違いないとの判断からである。

 

 彼をどこまで信用するかはともかく、月城側でないことだけは確実。そんな理事長・坂柳が綾小路の事情を多少とはいえ教えていた相手が茶柱であり、さらに通話中彼が信頼できる教師として名を挙げたのが真嶋だった。

 

 坂上についての言及がなかった以上は、先ほどの発言は月城側の人間であることを(ほの)めかしていることになるが……。

 

 一瞬、頭に()ぎった思考をかき消したのは、訳知り顔で肩を震わせるククリの様子。どうやら彼女に仔細を問う必要がありそうだ。

 

「え、ええとね────」

 

 吹き出しそうになりながらもククリが説明した内容をまとめると、こういうことらしい。

 

 前の日、学年末試験において一之瀬と争っていた龍園は、南雲×綾小路の創作恋愛物語を朗読した。勿論その場に居合わせていた真嶋と茶柱はしかとこれを聞いていたわけである。何かの拍子で坂上にも話が漏れたため、あの謎の助言になったのだろう、というのがククリの予想であった。

 

 おそらくそれは正鵠(せいこく)を射ている。坂上がどのように考えたかは不明だが、悪感情を発してはいなかった。

 

「ごめんね麻呂君。でもアフターケアはしてるよ、ちゃんと。一之瀬さんのほうは彼女のクラスの女子にそれとなく頼んどいたし、龍園君のほうは下手に騒げば次は自分が標的になるってわかってるし」

 

 男色家であるという噂が蔓延しては困るものの、そうでなければ特に気に留める話でもない。自身の名を便利に使われたわけだが、綾小路のほうもククリを便利に使ったことが多々ある。教員たちもこういったことでは口が堅いだろう。極論、軽井沢の耳にさえ入らなければいいのであるし、彼女が知ったとしても言いくるめるのは容易い。

 

 どちらかというと綾小路の関心は既に『もしククリが本気で悪評をばらまいたら』というシミュレーションに移っていた。謝罪を受け取り、脳内でいくつもの対処策を講じつつ適当な話題へ転換する。

 

「ところで、店主の方に食券だけじゃなく何か渡してたよな」

 

「おお、目ざといね。うむ、実は山吹色のお菓子を少々……」

 

「なぜ唐突に袖の下(賄賂)を使ったんだ」

 

 時代劇で定番のやり取りである「越後屋、そちも悪よのう」「いえいえ、お代官様ほどでは」に出てくるアイテム、山吹色のお菓子(小判)。確かにこのラーメン屋の和風な雰囲気に合致しなくもないが、悪代官の誕生は見過ごせない。

 

「あはは、冗談冗談。山吹色したお菓子なのは本当だけどね、ただのスイートポテトだよ。上手く出来たから、おやっさんにおすそ分けをと思ってさ。持ってきたの」

 

 語っているうちに興奮してきたのか、ククリはブンブンと手を動かしながら口を開く。

 

「もう本当にね、味見した時『天っ才!』って思っちゃったくらいの成功ぶりなんだよ」

 

 その台詞は普通であれば違和感などないが、坂柳と親しい彼女のものとなると異なる。『天才』を至上とする坂柳は、この語を軽々しく使うことは嫌うだろう。

 

 綾小路の視線から何かを悟ったのかククリはやや神妙な顔つきになった。

 

「んー、お気を悪くさせちゃったかな」

 

「いや。ククリの天才観がちょっと気になっただけだ」

 

 少なくとも坂柳とは違うようで、多少の興味は湧く。

 

「ふむ。人に語って聞かせるほどの高尚な考えは持ってないけどね」

 

 それでも構わないと促すと、彼女は苦笑しつつ話を続けた。

 

「『天才』って基本誰かを『すごい!』て思った時の褒め言葉なんじゃあないかな。無論自分自身をも含めて」

 

「えらく単純だな」

 

「うん。ま、だって『私が思うに天才とは〜で、だから君は天才だと思う/思わない』なんてたぶんいちいち言わないでしょ? 前半部分は省かれる。つまり定義が何であれ、発言者のプラスの気持ちが籠もってれば嬉しいし、マイナスだったら悲しい。それだけのことのように感じるよ。鬼才も天才も偉才も秀才も奇才も、誰かを褒めるための言葉に大差ない」

 

 なるほど、と綾小路は相槌を打つ。竹を割ったような、さっぱりとした回答だ。

 

「坂柳とは見解の相違があるようだが」

 

「キャロルの前では口にしなければ済む話だよ。別に彼女の考えを間違ってるとは思ってないし。そもそも私は他者の意見をあまり否定しないようにしてるんだ、自分が否定されるのが嫌いだからね」

 

 寛容なようでいて、どこまでも他と自己を切り離すような言葉だった。しかし()に落ちるものもある。

 

「それで、おまえは──」

 

「ん、そうだね。死人に口無し。だから名言は好きだよ。死者は生者ほど多くは語らないからね」

 

 私淑(ししゅく)するにもいいと、蜂蜜のように甘い笑みと声でククリは告げる。確かに過去の偉人が新たな意見を、批判を出すことはない。

 

 さりとて、その穏やかな態度に流されそうになるがツッコミどころもあった。

 

「前に洋介の意見を否定していたのは気のせいか?」

 

「むー。あれくらいはノーカン、ノーカンだよ」

 

 クラス内投票の際平田に迫っていたのは例外らしい。まぁ、あれは良く言えば悩める子羊に救いの手を差し伸べようとしたと形容できないこともない。より簡単だったであろう暴力的な手段を用いなかった時点で手心を加えてはいたはずだ。洗脳の手管はククリも承知しているに違いない。

 

 時折彼女の見せる冷酷さは綾小路と似通(にかよ)った面もある。それでも大きく異なるのは綾小路にとっての勝利には自己保全が含まれる点だろう。ククリならば身命を()してでも享楽を優先する。あるいは坂柳であればプライドを。貪欲なまでに勝利を求める龍園も自分の身のことなど二の次三の次としている。降りかかる災難を防ぐことを第一とする綾小路には理解できない感覚だ。

 

「へい、お待ち!」

 

 会話が途切れたところでどんぶりが2つ置かれた。

 

 少し黄色味を帯びた、それでも尚透き通ったスープからはふんだんに使われた魚介の気配が。チャーシューやネギ、メンマも良いアクセントになっており、これぞ塩ラーメンといった出で立ちだ。

 

 箸を動かしながら、いくらか言葉を交わす。双方のどんぶりが空になる頃には店内も(にぎ)やかになっており、綾小路たちはやや急ぎ足で店を後にした。

 

 

 

 

「そういえば麻呂君は知ってる? イギリスでジェットスーツが開発されたって。すごくお高いし飛行時間もまだ短めだけど、身につけるだけでお空を飛べるってすごいよねえ」

 

 街灯が照らす中、その瞳を飴細工のように美しく輝かせククリは話し始める。

 

「各国の軍隊が導入を検討していると聞いたな」

 

「うむうむ。今まで不可能だったことが可能になるってとーっても浪漫があるよね。願わくばもっと鳥みたく自由自在に翔べるようになるといいのだけれど」

 

 楽しそうに語る彼女は、飛行それ自体よりも『不可能』に憧れている様子だった。ずっと(かしず)かれ何でも与えられ、自由に過ごしてきたのだろう。だからその先を求める。ホワイトルームで生まれ育った綾小路とはまるきり違う思考回路だ。

 

「ククリは籠の中の鳥とは程遠いよな」

 

「え? 『だからオレだけの籠の中の鳥になってくれ』と? ご、ごめんね麻呂君……私、麻呂君のことは好きだけど、タイプとはちょっぴり言いづらいかな……」

 

 何故か振られた。分かっていたこととはいえ直接攻撃を受けると精神的に来るものがある。

 

「じゃあ、ククリのタイプはどんなやつなんだ?」

 

「んー、難しい質問。やっぱ私より強い人、とかかしら」

 

 視線をさまよわせながら答えるあたり、具体的に誰かをイメージしているわけではないのだろう。

 

「ゴリラの握力は推定で平均400〜500kgほど、オラウータンは350kgほどらしいな」

 

「およ、ヒト属でないとこからオススメされるとは予想外。さてはさっきの意趣返しも含んでおるな?」

 

 クスクスと彼女は無垢(むく)な笑顔を浮かべた。

 

 冗談はさておき、ククリの要望通りホモ・サピエンスから名前を出してみる。

 

「龍園あたりとの噂は多そうだが」

 

 ククリも龍園も人との距離は近い。しかしこの二人自身の距離は他より近いように見える。

 

「むむっ、麻呂君もわかってるくせに〜。たっつーの私への距離感がおかしいのは、彼が変に気を張って接しているせいだよ。あんまり避けてたら私のこと怖がってるように思われて嫌だって理屈だね。たぶん無意識だから本人気づいてないかもだけど」

 

 暴君が他者に侮られるわけにはいかない。故に普通に扱おうとして、逆に過剰となってしまっている。まるで他人事のようにひどく冷静な分析だ。

 

「カピバラ麻呂こそ……いや、これは野暮天か」

 

 やれやれ、という感じでククリが気だるげに髪を払う。なんのことだかと綾小路はすっとぼけた。

 

「龍園といえば、よく葛城を口説き落とせたな」

 

「えへへー、あれは龍園君だけじゃなく私も頑張ったんだよ。まあ奴には信用というものがてんでないからね」

 

 Aクラスの生徒が下位クラスに移籍したというニュースはすぐに学年中を駆け巡った。当然、綾小路も耳にしている。

 

「信用、か。葛城にも付きまとう話かもな」

 

 以前所属していたクラスのスパイ、という心配はないだろう。こういった場合に一番不安視されるのは寝返りだ。たとえ「後で2000万ポイント使って元のクラスに戻してやるから」という話でスパイを送り込んだとしても、移籍先のクラスがAクラスになれば帰る理由が無くなるのだから、そのスパイのもたらす情報なりを信頼することもされることも難しい。

 

 だがそんな理屈抜きに他クラスから来た新参者が重用されるのが気に食わないという生徒もいるはずだ。あるいは逆に、利用してやろうと目論む生徒も出てくるかもしれない。

 

「そうだね。時任君あたりはまた騒いじゃうかも」

 

「時任?」

 

 林間学校で綾小路と同じグループだった時任克己(かつみ)が頭に浮かんだが、彼は一之瀬クラス。龍園クラスにいる時任裕也(ひろや)を指しているのだろう。

 

「そ、龍園君を排斥したいと思ってる人だから。葛城君を味方につけようと考えてもおかしくはない」

 

「ククリも声をかけられたりしたのか?」

 

「前にね、代わりにクラスのトップをやるのはどうかって。でも私はリーダーなんて柄じゃないし断ったよ」

 

「役不足ってことか」

 

「あはは、そこは力不足でしょ。誤用だよ麻呂君」

 

 遠慮なく笑い飛ばしてから、ククリは持論を述べた。

 

「リーダーに不可欠なのは、やる気だと思う。上に立つ者とはあらゆる出来事を想定し先回りして動くのが当然であり、失敗すれば激しく糾弾される。称えられるかどうかもわからない。やる気がなければ務まらないと、私は考えるよ」

 

「だからお前には出来ないと」

 

「うむ。葛城君の場合は、やる気はあったけどキャロルに先んじて彼女の企てを阻止することが出来なかった。後手後手になっちゃったのがまずかったと思うよ……って、偉そうに言ってるけど私もキャロルの思考を読むなんて普通に無理だけどね。うん、難易度がえげつないや」

 

 その通りだな、と頷いた綾小路に胡散臭いものを見る目が向けられる。彼女のことだから昨日の坂柳とのチェス勝負については大方把握してるのだろう。

 

 あとは、とククリが付け足す。

 

「韓非子曰く『人主の患いは人を信ずるに在り。人を信ずれば則ち人に制せらる』、と。まあ信じているふりなのか、本当の信頼なのかの判断は極めて難しいとは思うけどさ」

 

 君主は人を信じてはならない。信じれば押さえとどめられてしまう。

 

 つまり。彼女が理想とするのは熱意に溢れ、自分のみを信用する人間。それはあの男の姿と重なって。脳裏にちらつく影を綾小路は即座に打ち消した。

 

「キングメーカーでも目指しているような口ぶりだな」

 

「んー、どっちかって言うと……まあ、ともかくそれはないかな。観賞は好きでも過干渉は嫌いなんだ。端役(はやく)、は言い過ぎか。脇役を()りたいし」

 

「脇役?」

 

 どうにもククリの印象とはそぐわない言葉だ。

 

 綾小路の疑問を当然と受け止めたらしく、彼女は軽く頷き。そしてお芝居じみた調子で答えた。

 

All the world’s a stage(この世の全ては舞台), And all the men and women merely players(人はみな役者に過ぎない)

 

 ウィリアム・シェイクスピア『お気に召すまま』第2幕第7場。

 

 歌うように、ククリは告げる。

 

「だったら脇役あたりが最も舞台を把握できそうじゃない?」

 

 謙虚なようでいて、その実傲慢で尊大な科白(せりふ)だ。自らが安全圏にいることを確信しているような、そんな声音。それでも嫌味なく聞こえるのは彼女の雰囲気故だろうか。

 

「そのわりには動きが目立っていたように思うが」

 

「馬脚を露わすのがわりと早かった麻呂君には言われたくないかも。んー、軌道修正は常に必要となってくるものだよ。こういうのって配役と設定を考える時が一番楽しいしね」

 

 中学でもそうだったと呟くあたり何か仕出かしたに違いない。とはいえ綾小路には関係のない話だ。

 

 ただ考えついたことのみを述べる。

 

「……ククリには華があるから、注目されないようにするのはオレよりずっと難しそうだな」

 

「にゃっ!? と、突然褒められた!!」

 

 はにかむように、困ったように彼女が微笑む。

 

「お前の名前には花が入ってることだし」

 

 黄色いキクの花言葉は『slighted love(軽んじられた恋)』『破れた恋』。ククリにぴったりなものだ。なにしろ綾小路もついさっき振られたばかりである。

 

「うーん、その付け足しはちょっぴし余計かな。あれですよ、ククリちゃんとしては菊よりその別名の星見草(ほしみぐさ)って呼ぶほうが好きなのですよ、ロマンチックで」

 

 どうやら謎のこだわりがあるらしい。

 

「なら星見草のように美しいから、とかのほうが良かったか」

 

「乙女心的には『花が恥じらい、月も隠れるほどに美しい』あたりまで言ってくれると高得点かも」

 

 さらに(よう)貴妃(きひ)貂蝉(ちょうせん)へ向けるものと同程度の賛辞を要求しているらしい。無駄に厳しい採点だ。

 

 あるいは、金色の月が此方を照らしているからこそ出た言葉だったのかも知れない。

 

 沈黙する月に合わせたように、コツコツとしばらく靴音のみが響く。

 

「ところで、麻呂君はそういう口説き文句をもう誰かに使ったりしたのかな?」

 

「オレは教科書通りに動くタイプだ、くらいの情報で勘弁してくれ」

 

 自分の嫌いな点であるが、変えようのない点でもある。変更する必要に迫られた時がないのだ。

 

 つまらない回答にククリが頬を膨らませる。

 

「むー。麻呂君ってば超超理性的だもんね。直感的な私とは大違いだ」

 

 理性と直感は、確かに相容れないとされることが多いだろう。

 

「要は理解できないってことか」

 

 お前が、オレを。主語を省いた、挑戦的な問いかけは純粋な興味から発せられたものだ。

 

「ん?」

 

 ククリは小首を傾げてから、闇夜に溶けるように静謐(せいひつ)な笑みを形作った。

 

「それは、あなたが求めるか求めないかの問題でしょう?」

 

 鼓膜を震わせる声は、至純なようでいて混沌としている。風がそよぎ、木々を擦り、彼女の豪奢な黒髪が(なび)いた。

 

「……そうか」

 

 それ以上の言葉は出ない。

 

 彼女が視線を僅かに下ろし、瞬きをする。そんな些細な動作すら目が離せなかった。

 

 少し見ていれば十分に分かる。ククリもまた、理解を求めていない側に違いない。

 

 こういった人物の操作は極めて困難だと、再確認させられる。

 

「うふふ、綾小路君のそーゆーとこ、好きだよ私」

 

「そいつはどうも」

 

 花が咲くようにククリは微笑む。

 

 万人受けする、人によっては大枚(たいまい)(はた)いても構わないと思ってしまうであろうその笑顔は。しかし綾小路にとっては何の価値もなかった。

 

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