ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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おまけ1

 

 ぐーきゅるるるーとお腹の虫が鳴いた。

 

「たっつーめ……!」

 

 すべての道はローマに通ずならぬ、大体の悪事はたっつーに繋がる。私が朝ごはんを食いっぱぐれてるのも、勿論やつのせいだった。

 

 昨日、無人島試験が終わって、夜にその反省会をしたのだけど……たっつーから次の日朝食一緒に食べようぜ的な誘いを受けた私は、きっちり約束の時刻の10分前から船の甲板にあるカフェ『ブルーオーシャン』で待っていたのだ。しか~し! 待てど暮らせどあやつは来ない。

 

 きゅーきゅーとひもじい思いを訴えるお腹にもう少しの辛抱だと言い聞かせて、私は飲み物だけの注文にしていた。先に一人で食べてちゃ悪いなあと偉い偉いククリちゃんは配慮したのである。でも今考えれば何か食っときゃ良かった。

 

 それで、お昼ごはんの時間になってようやっと連絡が来たと思えば【寝坊】の一言のみ。あのなあ、遅刻して許されるのは宮本武蔵くらいなんだよ! 

 

 今度からは絶対待ち合わせなんてまどろっこしいことせず直接迎えに行ってやる。今日の夜開催予定の枕投げ大会についても以下同文ですな。

 

 もうご飯は勝手に食べに行くもん、と怒った私は【お前、来ない、帰る】とだけ送って移動を開始した。カフェでちまちま食事する気分じゃあないのだ。船内にはいろんなレストランがあって、ハンバーガーやラーメンからフレンチまで選び放題なんだけど。ここはやっぱビュッフェをがっつり堪能することにしよっかな。

 

 目的地へ(いた)るべくトコトコ廊下を歩く。

 

「あ、麻呂君だ。はよーっす」

 

「お、おう、おはよう」

 

 道すがら、カピバラ麻呂を発見。ふむ、ならば……! 

 

「ね、もし良ければ一緒にお昼ご飯食べない?」

 

 試しにちょっとお誘いしてみることにした。

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

 

 ボーイミーツガールという言葉がある。少年少女が出会うのは王道も王道、物語の定番だろう。特に無人島試験も終え皆がサマーバケーションを満喫中の今は、カップルが何組か誕生しただとか成立寸前なんて噂もオレの耳にまで聞こえてくるくらいだ。

 

 池が櫛田を、須藤が堀北を下の名前で呼ぶことにしたように、どうやら男女の仲がグッと縮まる時期らしい。快諾した櫛田はともかく堀北は「勝手に私を鈴音と呼ばないで」と言い放っていたが、そこは置いておこう。オレはといえば全員名字呼びだし呼ばれるのもそうだ。ただ、唯一例外とするなら────

 

「お待たせ〜。ごめんね、麻呂君。スタッフさんに選んでもらったら、デートと思われたのかちょっと時間かかっちゃって」

 

 と、ビキニ姿の少女が元気よく小走りでやって来た。

 

 白と黒の可愛い水着に、腰にはロングスカートみたくパレオを上品に巻き付けている。船では男女共に多種多様なサイズや種類の水着が用意されてるから、無料レンタルしたのだろう。

 

 普段よりずっと露出が多いのに全くドキッとこないというか、色気のようなものを感じないのは、どこかおませでおしゃまな子どもっぽい印象があるからなのか。何しろ箸が転んでもおかしい年頃という言葉がぴったりな少女だ。それでも似合うものは似合う。

 

 そんな彼女、京楽菊理とオレが何故一緒に行動してるかといえば、単なる流れってヤツだ。

 

 健全な男子としては横車を押してでも女子との食事の機会は欲しい。御多分(ごたぶん)()れずオレも彼女の誘いに飛びついたというわけだ。全く自慢できることじゃないが、基本孤独な時間を過ごしてるしな。あの時はククリが救いの神に見えた。

 

 ビュッフェレストランを出てから、他にも特別試験用に使われそうな場所、つまり船内でも学年全員を収容可能な場所を適当な理由をつけて回ったが、特におかしな動きは無く。それでデッキのプールへ足を向けてみると、「泳がないけど水着は着たい」という謎の要望が。オレとしては、首を傾げるものであれど同時に歓迎すべきことでもある。女子の水着姿が増えて喜ばない男子はまずいないからな。

 

「でも自分で選ばなかったんだな、水着」

 

「んー、禁止令出されちゃっててさ。長くいたぶんスタッフさんたちとはわりかしよく話すようになったんだけど、前に隅っこから虎柄のやつ発見してわーい着よ〜ってはしゃいでたら『節分じゃあるまいしやめましょう……』と必死で止められて。以来、ね」

 

 意外とファッションセンスに乏しいのか。しかし私服や無人島で見た水着は普通だったが。

 

 そんなオレの眼差しに気づいたらしく、ククリは軽く手を腰に当てリスのように頬をふくらませる。完璧にあざとい。あざと過ぎる。アザトースだ。

 

「むー、あのですね、よく言われるお料理下手な方みたいなものなんですよ」

 

「料理?」

 

「そう、レシピの分量に従わないのが駄目だと言うじゃない? 私も分量通りなら、つまり無難な服にすればいいとはわかっていても、ついチャレンジ精神が働いてしまうというか」

 

 まあ何となく言いたいことは分からないでもない。ただ、ククリの手作り料理のほうは大丈夫なのかと心配になってしまう。どうせオレが食べる機会なんてもんは無いだろうが……Cクラスから体調不良者が出たらお察しだな。伊吹や龍園あたりの胃腸が丈夫なことを祈っておこう。

 

「料理はよくするのか?」

 

「あまりそう言えるレベルのものは。お菓子作りとは同じようで違うとこあるし」

 

 ここでククリは何かを閃いたらしくポンと手を打った。

 

「同じようで違うと言えば『テセウスの船』ってあるよね」

 

 パラドックスなら知っているが、漫画や小説の題名や題材の可能性もある。ここは素直に首を捻っておこう。

 

「ええとね、ギリシャ神話の英雄テセウスの船の古い部品を新しいものと取り替えたとする。これによりやがて古い部品が全てこの船から無くなったとしても、最初と同じ船としていいのだろうか、と」

 

 オレの考えていた通りの話だった。同一性。人間でならスワンプマンの話が近いだろうか。落雷により死亡した男がいて、同時に沼からその男と見た目は勿論記憶も何もかもそっくりそのままの存在、スワンプマンが出現したとする。スワンプマンは男の死亡直前までの記憶があるし、沼から生まれた自覚もない。男の生前と全く同じ振る舞いが出来る。さて、スワンプマンは元の男と同一の存在なのか。

 

「アイデンティティの問題だな。……京楽はどう思うんだ?」

 

 どう呼ぶか呼ばれるかというのもアイデンティティに含むことが出来るだろう。万が一「キモい」とか蔑んだ目で見られるかと想像するだけで怖くて、オレはククリと声に出して呼べていないんだけどな。池や須藤の思い切りの良さが羨ましくなる。『みーちゃん』みたく女子と一部の男子の中ではククリはククリという愛称で完全に定着してるから不自然では無いはずだが、どうにもあと一歩が踏み出せない。

 

「船は修復しないとどうしようもないし、同じ船ってことでいいと私は思うかな。ただ歴史ある船かなんて点は微妙になっちゃいそうだけど」

 

 こういったものに決まった正解はないだろう。同意を示すように頷いていると、ククリは何かに瞠目(どうもく)していた。

 

「よく伸びる鼻の下ね。遠くからでもすぐに分かったわ」

 

 そんな覚えは無いんだが、さっそくオレのスワンプマンかドッペルゲンガーでも出たのか……なんて冗談はこいつには通じないだろう。

 

 声の正体は堀北だった。オレと同様制服で堂々とプールサイドを歩いている。手にしている本は無人島試験前からの続きを読んでるのであればアーネスト・ヘミングウェーの代表作『誰がために鐘は鳴る』だろうか。

 

 普段から几帳面(きちょうめん)な堀北は外見にも気を遣っているが、体調不良時はやや乱れていたし、昨日は顔も青かった。それらが今は完璧に戻ってるあたり、完全復活したらしい。その毒舌も。

 

「うーんと、綾小路君はお腹ペコペコだった私を救助して一緒にお昼食べに行ってくれたんだよ。それからちょこっと船内を探検して、今に至るって感じかな」

 

 ククリが状況を説明してくれるも、堀北の仏頂面は変わらない。

 

「そう、それが?」

 

「いや、だって堀北さん、何で私が綾小路君と二人でいるか疑問そうな顔してたから……」

 

 会話を邪魔するように、目の前のプールからはバシャバシャと激しい水しぶきの音、それに高笑いが聞こえる。うちのクラスの人間なら慣れきってる声だ。

 

「高円寺、テメエ!!」

 

 思いっきり波に巻き込まれたらしい須藤の怒鳴り声。周囲の生徒たちからはまたDクラスか……と呆れる視線が。正直言い訳のしようもない。

 

 学校での授業時と同じくブリーフ型水着を愛用する高円寺にはどんな拘りがあるんだろうか。ともかく、お手本のようなフォームでも泳げるだろうにそれを崩してるあたり、ただ遊んでいるだけってことらしい。実際、うちのクラスでも余裕で1位を取ってたしな。速度だけはお墨付きだ。

 

呑気(のんき)なものね」

 

「あはは。で、堀北さんはお日様のもとで読書しに来たとか、そういう感じ?」

 

 堀北の手元にある文庫本に視線を向けながらの一言。

 

「答える必要は無さそうだけれど、誤解されるのも(しゃく)だから言っておくわ。茶柱先生から連絡を受けたというだけよ」

 

「ここに来るようにって? んー、あ、なるほど」

 

 他クラスにもかかわらず、茶柱先生とのオレの知らない接点があるのか。クラスの担任である彼女から脅されたオレとしては気になる事項だ。確認しておこう。

 

「理由が分かるのか?」

 

「ふふーん、あれだよ! 集合場所がプールなんだし、生徒と一緒に泳ぎたいとかそのあたりじゃあないかな」

 

 水着姿の茶柱先生。確かに、佐倉ではないがグラビアを売れば一儲け出来そうだな。

 

「くだらないわね。船内にある劇場で演劇を観るほうがよっぽど有意義な時間になるでしょうに」

 

「観劇に興味あるんだな、堀北は」

 

 演劇が楽しめるシアターにはオレも行った……朝、一人で。

 

「そうね。行くなら勿論一人に限るけれど」

 

 同じボッチなのに、こうも格好良く言い切られると少し嫉妬心が湧く。孤独を愛する孤高な少女、いや美少女だからか。これが望んで一人になってるヤツとの差なんだろう。

 

 しかし、ククリから見た印象は違うらしい。

 

「むー、なんかお二人ってカルガモの親子みたいな仲良しさんだよね」

 

「こんな子どもを持った記憶はないわ」

 

「オレが子ってことは確定なんだな……あと京楽、別にいつも二人ってワケじゃないぞ」

 

 オーストリアの動物学者コンラート・ローレンツが研究した「刷り込み」という現象がある。カルガモなんかは孵化(ふか)した直後に初めて見た動くものをずっと追尾するのだという。ニュースでもカルガモ親子が列を作ってお引越ししてる光景が取り上げられたりしている、あれだ。

 

 そんな気はないんだが、傍から見れば刷り込みっぽかったんだろうか。

 

「麻呂君、追わなくていいの?」

 

 ようやく姿を現した茶柱先生のもとへ向かう堀北の背を見やりつつ、ククリが呟く。

 

「それこそカルガモの親子になるだろ?」

 

 えへへ、と笑う彼女。図星らしい。でも可愛いから誤魔化されるとしよう。

 

 茶柱先生が堀北に何を伝えるのか。十中八九オレのことでは無いはずだ。こんな誰かに盗み聞きされてしまいそうな場で話す愚は犯さないに違いない。二人は何となく似ているし、だからか茶柱先生は堀北を気に入ってる感じもある。単純な助言あたりの可能性が高いか。

 

 思考にふけるうちに、微かな異音が耳に交じる。

 

「あ。あれかもね 、茶柱先生の用件って」

 

「ヘリ、か……」

 

 彼方から不意に現れる1機のヘリコプター。皆が顔を上げ空を見つめる。

 

「んー、島に向かってるのかしら」

 

「方向的には本土から来たっぽいよな」

 

 こっちに近づくにつれ、プロペラ音は大きくなってきた。

 

「そういえばこの船、ヘリポートもあったか」

 

「うん。着陸?着船?するみたいね。降りてきた」

 

 騒々しい音に吸い寄せられるように人が集まっていく。その群れに珍しく堀北も参加するようだ。茶柱先生の指図か? 

 

「私たちも行こっか、どうせ暇だし」

 

「そうだな」

 

 観察しておいて損はない。まさか空から助っ人が、なんてドラマチックな展開が幕を開けるのだろうか。いや流石にこれは無いな。

 

 オレたちの接近に堀北は苦々しい表情を作る。ククリよ、カルガモの親は子にこんな顔は向けないと思うぞ。

 

「どうしてついてくるのかしら」

 

「カルガモ2号なもので」

 

「それ、1号はオレなのか?」

 

 変にDクラスでカルガモ扱いが定着しても困るんだが。悲しいかな、クラスの女子への影響力は確実かつ段違いにククリのほうが上だ。

 

「言っとくが、ただの好奇心からの行動だからな」

 

 二人への言い訳のように付け足してみる。

 

「好奇心。あなたにはとても似合わない言葉ね」

 

「オレはロボットか何かか」

 

 カルガモのロボット。普通に売れそうだ。オレもちょっと欲しいかも知れない。

 

「良かった、落ちる感じはなさそうでござる」

 

 ヘリポート傍ではオレと同じく好奇心で集まったであろう生徒たちがヘリを眺めていた。流石にククリみたく水着のまま移動してる人はいないが、クラスメイトも何人かいるな。たとえば以前美少女ロボについて熱く語っていた外村秀雄、通称博士の姿もある。落ちてくるなんて余計な心配をしているのはあれか、とあるゲーム会社のゲームに出てくるヘリがよくお約束みたいに墜落するとか話してたヤツだろうか。

 

 他にもAクラスの葛城たち、Bクラスの一之瀬たち、Cクラスの生徒もチラホラ見える。Cクラスの生徒たちが端末をいじっているのはおそらく誰かに連絡しているから。龍園に知らせている、ということだろう。ヘリの登場に特別試験を連想した生徒がいてもおかしくはない。

 

「大物政治家が視察に来た、とかだったり」

 

 ククリの言葉にオレは一瞬、あの男やその手先がヘリに乗っている光景を頭に浮かべる。だが、これはまずあり得ない。

 

 第一、あの男がそんな派手な手段を好むことはないからな。それに、オレを連れ戻しに接触してくるなら茶柱先生に焦りがないのは不自然だ。クラスの担任ごときが相手にできるような男じゃない以上、単に茶柱先生が把握していないだけという可能性もあるが、だとすると堀北を呼び出していた理由が分からない。

 

 そしてこの場には教師たちもそのほとんどが集まっている。落ち着いた雰囲気から、誰が来るのかは皆に通達されているのだろう。あの男以外の、誰かしらの名前が。

 

 しかしここで疑問が湧く。何故生徒に何も知らせなかったのか、と。

 

 放送で『今日はヘリが来ます』の一言くらい伝えても問題なかったはずだ。その上で興味ある人はヘリポートに来いだとか、逆に生徒は近づくなだとか話しておくのが普通だろう。

 

 つまり、おそらくこれは学校側にとっても想定外、偶発的な出来事。その対応に追われていたから生徒へ放送するという発想も出なかったし、茶柱先生が堀北を呼び出すタイミングもギリギリになったのではないか。そんな結論に辿り着く。

 

「茶柱先生の口ぶりだとそれは無いわ」

 

 堀北に彼女はどんな人物の名を告げたのか。食い入るようにヘリを見つめる視線。驚き、萎縮、喜びといったものが混在している複雑な表情。

 

 あの人だろうな、と想像はつく。

 

「お前はこんなイベントに参加したがるタイプだったか、鈴音」

 

 だが堀北もこの声にヘリから視線を外さざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

「お前はこんなイベントに参加したがるタイプだったか、鈴音」

 

 すごくすごく偉そうな声が背後から聞こえてきた。寝坊して約束の場所に来ないで人の朝食の機会を奪うなんてことしそうなヤツの声だ。しかもよくよく考えると謝りすらしなかったぞ、こいつ。

 

「たまたま居合わせただけよ。あなたこそ、ヘリの来訪を知って慌てて飛んで来たのかしら」

 

「リーダーとしての責務を、な。立派だろ?」

 

「大衆は常に間違うとはよく言ったものね。あなたみたいな人をトップに据えたままにするなんて」

 

 グスン、間違ってる大衆扱いされた。しょんぼりする私の腰にぐっと腕が回される。うーむ、これはセクハラ認定していいのではなかろうか。

 

 少し身を低くしたたっつーは私に何かを耳打ちしてほしいらしい。えー、何をっすか。ヒントをちょうだいな。

 

「今のリンリンが言ったのはね、たしかアール・ナイチンゲールの言葉だよ。ちなみに私的にはこういう系だと権力(Power)は腐敗する、( tends to corrupt)絶対的権力は(and absolute power)絶対に(corrupts)腐敗する( absolutely)って言葉が好きかな」

 

「……鈴音の狙いは分かるか」

 

 ちょっぴり見当違いなことを喋っちゃったようだ。う、うん、そっちだったのね。

 

「特別試験じゃあないと思うよ」

 

 だとすると、茶柱先生がリンリンを呼び出したのは平等に反することになっちゃうだろう。たぶん。

 

「それで、たっつー」

 

「何だ」

 

「微妙に寒いの。そのブレザー寄こせ」

 

 降下してくるヘリの風が私をいじめてくるのだ。むむ、水着から着替えるべきだったな。

 

「ほらよ」

 

 呆れたような声とともに、視界が真っ赤に染まる。バサッとブレザーを頭から被せられたらしい。もっとちゃんと手渡せや。

 

 わたわたと私が上着を羽織っているうちに、ヘリは無事着陸していった。

 

 扉から登場したのは堀北生徒会長に橘書記。彼らを労うように真嶋先生が話しかける。

 

「長時間の移動、疲れただろう。ここで存分に羽を伸ばすといい」

 

「お気遣いありがとうございます。しかし……随分と大げさではありませんか」

 

「学校サイドとしても、生徒会長職というものをそれだけ重んじているということだ。お前が果たすべき職務も含めてな」

 

「あくまで今回こちらは要請に応じた、というだけですよ」

 

「例の島へ向かう途中の補給と休息のために立ち寄ったのだったな。さあ、船内を案内しよう」

 

 ふむふむ。ただただ何かのお仕事でヘリに乗ってた生徒会長たちを派手めにお出迎えするだけに先生方は集合していたらしい。

 

 別に特別試験が始まるわけでも何でもないとわかった生徒たちはあっさりと散っていく。ええと、それで、我々はどうするのかな。

 

 ちらっとたっつーを見る。追うぞ、と目で伝えられた。やつは船内へスタスタ歩いていく。

 

「堀北さんたちはどうするの? 一緒に行く?」

 

「私は──」

「勿論だ。カルガモのようについていくさ、今度は生徒会長にな」

 

 カピバラ麻呂は珍しくリンリンを遮っての発言をした。たぶん兄に気後れしてる彼女を気遣ってるんだろう。

 

 たっつーについていく私、の後ろにリンリン、の後ろにカピバラ麻呂。しかし我々の前にも、既に他の生徒がいた。葛城君と戸塚君、一之瀬さんと神崎君だ。

 

「お久しぶりです生徒会長、橘先輩」

 

 一之瀬さんの明るい挨拶に、堀北生徒会長たちは軽く頷きを返した。続けて葛城君が口を開く。

 

「ご無沙汰しております。もしよろしければ、ですが、船内の案内に私どもも同行させていただけませんか。この機会にお二人とぜひお話しさせていただきたく存じます」

 

 どうする、と問うように真嶋先生が二人を見やる。橘書記は堀北生徒会長にアイコンタクトを送っていた。全て任せます、ということなのだろう。堀北生徒会長はキラッとその眼鏡に知性の輝きを灯しながら話し始めた。

 

「幸いにもこの場には4クラスの人間が2名ずつ揃っています。真嶋先生、予定を変えてしまい申し訳ないのですが、交流会を開催してもよろしいでしょうか」

 

「交流会? 構わないが……」

 

「おいおい、まさかとは思うが勝手に頭数に入れられてんのか? 仲良しクラブじゃねえんだぞ」

 

 ………………

 

 ……………………ええと。

 

 せっかくまとまりそうになった空気をぶち壊した馬鹿がいた。そう、たっつーである。く、空気を読め……! 

 

「あの、龍園君、そしたらうちのクラス抜きで交流会やることになっちゃうかもだよね。めっちゃ不利じゃない?」

 

「テメエは黙ってろ」

 

 お・ま・え・が! 黙ってろし!! 

 

「どうにも胡散臭い。何が目的だ」

 

「生憎だが目的、というほどのものはない。生徒会長として1年生の実情を、どのような能力を持つかを知りたい。それだけだ。状況次第では以前俺が下した決断も変わるかもしれないな」

 

 堀北生徒会長は葛城君と一之瀬さんへ順々に視線を向けてから、たっつーに向き直る。

 

「龍園、お前にも利を示そう。交流会にて俺は出来る限りお前たちの質問に答えるつもりだ」

 

「ほう。天下の生徒会長サマがそうまで言うのか?」

 

 他クラスの前だからか知らないけど、むちゃくちゃ喧嘩腰だ。この失礼な態度に生徒会長の隣で佇む橘書記は爆発寸前っぽい。うー、あー、もう! 

 

「はいは〜い、あの、では今質問よろしいですか?」

 

「問題ない」

 

「えっと、その、堀北生徒会長って何かニックネームで呼ばれたりしたことってありますか」

 

 こいつ何言ってんだ、という眼差しが四方八方から突き刺さる。違うんです、こう、ほのぼのした交流をしようと思っただけなんです。

 

「ある男から『まなぶーん』と呼ばれているな」

 

「会長、それは彼一人だけですから……」

 

 お二人にはフレンドリーな同級生がいるようだ。あたりにはちょっと脱力感が漂った。

 

「京楽ももし同学年だったらやりそうだよな」

 

「の、ノーコメントで。ちなみに麻呂君のクラスメイトの高円寺君は『ロック』と陰で呼んでたりします」

 

「高円寺六助、だからか?」

 

「あとロック鳥ってのもあるかも」

 

 おおきーい鳥は、わりとロックのイメージ通りな気がする。

 

 私たちの雑談する様子を堀北兄妹はすごく冷めた感じの目で見ていた。あなた方、やっぱ兄妹っすよ。眼がそっくりっすよ。

 

「その……生徒会長に認めていただける方法、みたいなものはないんでしょうか」

 

 と、話を切り出したのは戸塚君だ。自分が認められたいとかじゃなく、生徒会入りを断られたらしい葛城君のために発言したんだろう。

 

「そうだな。実力の証明、といったところか。橘、何かいい案はないか」

 

「…………一旦交流会を取りやめて、ちょっとした『特別試験』を行うというのはいかがでしょう」

 

「と、特別試験!?」

 

 泡を食って飛び上がりそうな戸塚君の様子を見ると、こっちは逆に落ち着いてきた。ふむ、特別試験か。え、どうやるんだろ。

 

「案ずるな。正式な試験でなく個人的なものだ。橘、具体的には?」

 

「船内に隠されたお宝を最も早く発見した人の勝ち、ですとか」

 

 つまり宝探しってことか。えー、すごい、楽しそう! ちょっとした海賊気分になれちゃうかも。

 

「質問に答える気がねえってなら俺は帰らせてもらうぜ。そんな子ども遊び、時間の無駄だ」

 

 何故たっつーはこうも場の空気を悪くするのか。もはや趣味としか思えない。

 

「単にお前が早く見つけ出せばいいだけの話だ。加えて、勝者には少額だがプライベートポイントも付与しよう。俺の持つポイントから用意する」

 

「え、いいんですか、ポイントまでいただいて!?」

 

 クイズ大会の賞金みたいな感じってことだよね。めっちゃテンション上がるよこれは。

 

 ああ、と肯定した堀北生徒会長はポケットから何やら取り出した。

 

「ハンカチ、これを見つけ持ってきた者に10万ポイントを支給しよう」

 

「じ、10万……」

 

「ククク。金をプレゼントされりゃ受け取るくらいしてやるか」

 

 頼んだ、と堀北生徒会長が橘書記にハンカチを渡した。パタパタと彼女は去っていく。うーむ、どこに隠すんだろうな。

 

「教師として、一つ付け加えさせてもらおう。今回生徒会長が課す試験について、この場にいる生徒以外へは他言無用とする」

 

「個人の試験に教師がペナルティだなんだと口出しする権利はねえだろ」

 

 真嶋先生の言葉にたっつーが噛みつく。この狂犬め。

 

「その通りだ。しかし龍園、逆に問おう。お前はクラスメイトの助力を得なければ太刀打ち出来ないと、そう言いたいのか?」

 

 自分だけじゃ子ども遊びとか評してた宝探しをクリアするのも無理ってことか?というカウンター。これは強烈だぁ! 

 

「試験後に吹聴するというのも、私と生徒会長からの印象を悪くするだけ。お前にメリットはない」

 

 たっつーに対する信頼が底を打ってるにしろ、不必要な行動はしないと、そこは信じているって感じかな。

 

 フン、とヤツは鼻を鳴らす。とりあえず大人しく引き下がるらしい。

 

 堀北生徒会長は橘先輩と連絡してるのか、ちょっと端末を操作していた。ふむ……。

 

 やがて戻ってきた彼女は、4枚の封筒を掲げていた。

 

「お待たせしました。隠し場所のヒントを書いた紙です。各クラス1つずつ、どうぞ」

 

 中身を透かして見れればいいんだけど、流石にそれは出来ないか。封筒ってね、開けずとも蛍光灯に押し当てたりトイレットペーパーの芯なんかを当てて覗きこめば透けて見えるんだよね。豆知識。

 

「協力し合っても構わないということでしょうか」

 

 葛城君の台詞に堀北生徒会長が答える。

 

「ヒントを並べれば隠し場所は自ずと明らかになる。その後10万ポイントを4クラスで分け合うというのも一つの手だ」

 

 2.5万円ずつ。それも悪くはないのかな。

 

「試験時間はこれより2時間とする。では────各自、励め」

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