ようこそ享楽至上主義の教室へ【特殊タグ無し版】   作:アネモネ

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おまけ2

 たっつーが立ち去るのに合わせて、私もとりあえずみんなへ会釈してからついていく。協力プレイをする気はさらさらないらしい。

 

「中身は?」

 

 無言で寄越されたので、開ける。手触りも匂いも普通の紙だった。光を透かしてみても何も変わらない。

 

 

 

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 文字ではなく、絵。ヒントはこれだけらしい。

 

「なんと言うか……運が悪かった気がするよ」

 

 たっつーに紙を引かせるべきじゃなかったか。うーむ、さて、どうするかね。

 

「船員さんとお喋りでもしてみる?」

 

「不要だ」

 

 さっさとお互い考えてることをすり合わせ、結論を出す。

 

「あのスカした男の思惑か」

 

「いいじゃん、もともと濡れ手で粟なんだし」

 

 というわけで。私とたっつーはスピーディーに別行動することになった。チャオ!

 

 

 

 

「やっほー、調子はどう?」

 

「偵察に来た、ということかしら」

 

「否定はしない!」

 

 リンリンとカピバラ麻呂の姿は幸いすぐに発見することが出来た。完全に歓迎されてないのはたっつーのせいに違いない。もっとこう、スプリンクラーのように愛想を振りまくべきだと思うの。

 

「参加者がヒントの指し示す場所に行くのは分かりきっていること。大方、龍園くんから尾行しろとの指示でも受けたのね」

 

「──なら、オレたちDクラスより葛城か一之瀬のほうについてくべきじゃないか?」

 

 カピバラ麻呂の疑問に、私は笑顔で返す。

 

「一之瀬さんはともかく、他の男子3人とはそう親しくないからさ……」

 

 葛城君も戸塚君も無人島試験の件でご立腹だろうし、神崎君とは全然会話したことないけど、たぶん彼は私をちょっと苦手に思っている。こうなると、Dクラスしか選択肢が残ってないのだ。

 

「龍園くんは今どこで何をしているの」

 

「バーでグラス傾けてくつろいでると思うよ」

 

 いや、部屋に戻って二度寝してる可能性も捨てがたい。むー、でも寝坊で遅刻したくらいだから五度寝くらいになるのかしら、それだと。

 

「試験放棄……いえ、またフェイク?」

 

 悩むリンリンに、カピバラ麻呂は告げた。

 

「堀北。せっかくだし、この際手伝ってもらえばいいんじゃないか」

 

「何を言うの綾小路くん。あなた、暑さで頭がやられた?」

 

「同行する条件として、オレたちから絶対に離れないでいてもらう。そうすれば逆に龍園の手足を潰すってことにならないか」

 

 なるほど、そうきたかあ。

 

「うん、いいよ。ずっとぴったりくっついてるよ、この試験中は。白旗をあげます」

 

 決意を瞳に宿した私に対し、リンリンは何とも言えない顔になった。

 

「あなた、ちゃんと考えて動いているのよね?」

 

「私が考えてるのは宝探しを楽しみたいなーってことだよ。我々はみな謎という迷宮(ラビリンス)に囚われているのさ……!」

 

 謎解きがしたいのである。というわけでヒントの紙みせて。ハリーハリー。

 

「ま、ラビリンス云々は置いとくが、どのみちお前の手を借りるべきではあったんだよな」

 

 紙には、女の子らしい可愛い丸文字が踊っていた。

 

 

 

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 ふむふむ。中国語の(ér)? いや、声調符号がないし違うかな。

 

「私から高円寺君に何かアクションを起こせってことかしら」

 

「かもな」

 

 じゃあ、会いに行くべきだよねえ。うーん、わりかし気が進まないけど。橘書記と彼が喋ってる可能性もあるし、心当たりを聞いといて損はないだろう。

 

「むむ、端末いま手元にないんだよね〜。あれば高円寺君に電話で居場所聞けたのに」

 

 と、言ってから気づいたけどクラスメイトなんだしこの二人がかけたほうが早いか。

 

 そう思ったんだけど────

 

「あいつの連絡先を知ってるのか」

 

「うん、この船で過ごしてるときに交換して」

 

 驚くカピバラ麻呂のリアクションを見る限り、少なくとも彼らは連絡先を知らなかったようだ。うーん、でもたしか桔梗ちゃんも「高円寺くんすぐに教えてくれたよ」って言ってた気がする。だけど、橘書記の連絡先まで知ってるくらいだしなあ、彼女は。こっちが特殊なケースなのか、どうなんだろ。

 

「八方美人ね、あなたは」

 

「堀北さんみたいな美人さんにそう言われるとは、光栄だよ」

 

 出来れば八面玲瓏って言ってもらえるともっと嬉しかった。ん、私のほうもべっぴんさんと褒めたほうが喜ばれただろうか。

 

「あとは一之瀬さんにも連絡できたのにな」

 

 制服と一緒に端末を預けちゃったことがつくづく悔やまれる。こんな事態になるなんて思ってもなかったんだから仕方のないことだけどさ。

 

「いや、一之瀬の連絡先は堀北が知ってるから大丈夫だ」

 

「綾小路くん、余計なことは言わないで」

 

 え、すごいな一之瀬さん。実はリンリンと仲が良いんだろうか。須藤某の裁判の時とか協力してたし、そのせいなのかな。

 

「ともかく、思い出してみなさい。プールで泳いでいた高円寺くんはおそらく携帯を持ち歩いてないはず。あなたと一緒でね。コールしたところで無意味よ」

 

「あ、そかそか」

 

 そんなこんなで。

 

 プールサイド。またここに戻ってくる形となったわけだ。

 

 あまり時間がたってないこともあって、プールにいる人の顔ぶれも先ほどとあまり変わりないように見える。

 

「そういや堀北、ずっと本持ち歩いたままだよな。どこかで預けたらどうだ?」

 

 確かにこのプールサイドに来たときからずっと手持ちだったっけ。監視員さん……は流石に預かってくれないだろうけど、他のスタッフさんに頼めばロッカーに預けたりしてくれそうだ。

 

「断っておくけれど、攻撃手段に使ったりはしないわよ? 本が可哀想だもの」

 

「そこはオレのことも可哀想と思ってくれ」

 

 ぶ厚い本の角ってなかなか武器になりそうだよね。ちょっとバイオレンスな二人のやり取りはさておき、我々の探し人はというと、ビーチチェアで日光浴していた。

 

「ふっ……美しい」

 

 手鏡に映る自分の顔に見惚れているらしきその姿は、ギリシャ神話でも有名なナルキッソスを思わせる。そのまま水仙になってくれれば静かになるのにとちょっと考えてしまった。ってか何だその高そうな手鏡、まさか私物なのかしら。

 

「私、あれに話しかけるのかあ」

 

 頑張れ、と平板(へいばん)な声でカピバラ麻呂に応援される。手伝ってくれる気はないらしい。ふーんだ。

 

 近づくと、流石に手鏡を置いてこちらを向いてくれた。

 

「高円寺君、ちょっといい?」

 

「私に何か用かな。それともこの肉体美についてのクエスチョンかい?」

 

 いんや、マッスルマッスルはノーセンキューなので。

 

 キョロキョロと周囲を見渡す。特別何か起きる様子はないし、目立つ物とかも見当たらないなあ。クエスト発生!みたいな感じはなさそうね。

 

「橘先輩に会わなかったかな? 生徒会の書記をやってる」

 

「私のメモリーには刻まれていない。それがアンサーさ」

 

 嘘をつく理由もない。真実とすると、橘書記は彼の何をヒントにしたのか。

 

「何か変わったことがあったりは」

 

「それは今日に限った話ということでいいかな? とすれば何事もない時間だったとしか言いようがないねえ」

 

 迷惑行為はしてた気がするけど……まあ置いておこう、うん。しかし何だろ、私からロックへの矢印の意味って。告白でもしてみろってことなのか。でもそんな恋のキューピッドもどきな真似を橘書記がするかな?

 

 ともかく、これ以上情報は引き出せなさそうだ。あと私の精神力がゴリゴリ削られていっている。一旦退却しよう。

 

「ええと、ありがとう高円寺君。それじゃまた聞くこと出てくるかもだけど、とりあえずお暇するね」

 

 すると、無駄に綺麗な指パッチンの音が響いた。ロックが勢いよく立ち上がる。

 

「シーユーアゲイン、パワフルガール」

 

 そうして、彼は嵐のように去って行った……おい待て、船内に戻るならバスタオルで身体ふいてけよ。ボーイさんまた困っちゃうじゃん……。

 

「パワフルガール?」

 

「うん。どっから名付けられたんだろうね」

 

 こんなにか弱いククリちゃんにパワフルだなんて。貴様のほうがよっぽどパワフルじゃい!

 

「高円寺は英語交じりで喋ったり、呼び方も不思議なセンスを、いや、まあ、それでだろ」

 

 何で言葉を濁した、おい。

 

「不思議なセンスなら──いえ、待って。京楽さん、あなた先程高円寺くんについて語っていたわよね」

 

「連絡先の話? ごめん、番号は覚えてないから教えられないや」

 

「結構よ。そうじゃなくて、もっと前。ニックネームがどうこうと綾小路くんと話してたでしょう?」

 

「ああ、うん。ロックって……」

 

 え、あれ、もしかして灯台もと暗し? -er、接尾辞。

 

 私が彼をロックと呼ぶのは、たぶんあの場でみんなが聞いていた。冷えてたり生温かったりな視線を送られたもん。

 

 teach, swim, drive

 

 teacher, swimmer, driver

 

「そこにerをつける?」

 

 rocker──ロック歌手。locker──戸棚、ロッカー。

 

 ロッカーというのがヒント、というかハンカチの隠し場所ってこと!? だとすると、だとすると……。

 

「話しに来なくて別に良かったじゃん!」

 

 何だったんださっきのロックとのやり取りは。私はシクシクと心の中で泣いた。号泣だった。

 

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

 

 一方その頃。龍園翔は、堀北学のもとを訪れていた。

 

「宝を見つけ終えた……という顔では無さそうだな」

 

 マッサージチェアでくつろぐ堀北学を見下ろすように仁王立ちし、高圧的な態度で龍園は言い放つ。

 

「あんなもん動き回るだけ時間の無駄だ。いい性格してるぜ、生徒会長様はよ」

 

 ぴらっと紙を投げ捨てる。

 

 

 

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 運が悪いと、京楽菊理はこれを見るなり言った。『あまりにも自分に有利すぎる』ヒントで、運が悪いと。実際、彼女はすぐにこれの答えを導き出した。

 

「山田アルベルト。国旗が好きなヤツがいてな。そいつは国旗以外の旗にも興味があるんだとよ」

 

「その生徒の話を普段から聞いていた、と」

 

 京楽がな、と龍園は内心吐き捨てる。彼女はアルベルトにも物怖じせず話しかける数少ない生徒の一人だ。

 

「さらに海外で生活した経験もあるときた」

 

 なるほど、と堀北学は眼鏡のブリッジを指で上げる。

 

「──本題は何だ」

 

「今まで受けてきた特別試験の内容は?」

 

「多くの試験は毎年異なったものを実施している。今答えられるのはここまでだ」

 

「生徒会長を倒すような試験の存在は? まさか同学年としか戦う機会がねえのか」

 

「入学して間もないうちは、そうだ。しかし例年通りであれば今年度中にお前の望むような試験も行われるだろう」

 

「そいつは楽しみだ」

 

 愉絶に薄ら笑う龍園をたしなめるように堀北学は付け加えた。

 

「しかし、お前がまず見るべきはクラスの内側ではないか」

 

「俺は俺のやり方を好むのさ」

 

「京楽菊理」

 

 その単語に、龍園の口元がますます歪む。

 

「賢いだけが取り柄のインテリ野郎と思ってたが、色ボケしたのか? 確かにあいつのツラは悪くはねぇが」

 

「今まで出会った中で一番近寄りたくない相手。それが、俺からの印象だ」

 

「猛獣みてえな扱いだな」

 

 先日の須藤の暴力事件の際、接点を持ったのかと龍園は片付ける。

 

「南雲と似た異質さ。あるいは、何かを切り開く人間というのはそういうものなのかも知れない。しかし許容できるかは別問題だ」

 

「気に食わねえな。俺よりあいつを脅威と見ていると?」

 

「評価といった話でなくまず正しく意思疎通できる相手か、そこを危ぶんでいる」

 

 堀北学は、1年の生徒会メンバーを入れるならば、南雲に対抗可能な人材を選ぶことを固く決意していた。その点綾小路は申し分なく、故に以前勧誘してみたわけだし、また誘いの声はかけるつもりであるが……京楽は、読みづらい。南雲の影響を受ける、南雲に影響を及ぼす、どちらに転がっても良い結果は見出(みいだ)せなかった。彼女の人となりを知ることが出来れば多少なりとも印象が変わるかもしれないが、その段階には至っていない。

 

 事を荒立てることを避け、『見本』であり『模範』であるべきなのだと、将来をはっきりとは決めずただ優秀な人間となることを目標に生きてきた。伸び悩み苦しむことがあっても、努力で課題を乗り越えてきた。そんな堀北学は、何か目的があってこの高校に進学したわけではない。

 

 そうであっても。────今は、この学校を守りたいと願っている。それは事実。ただ、何が正しいのか、その部分に迷いが生じているのも、また事実だった。

 

 変革を頭ごなしに否定したくはない。さりとて、南雲に盲目的になることは間違っていると断言できる。裁定者として綾小路は機能してくれるのではないかと、青臭くも堀北学は期待してしまっている。完全無欠に近い存在のように感じてしまっている。

 

 この試験でも、綾小路はまた水面下で動くのだろう。

 

「龍園、お前の得た解答は何だ」

 

 橘と用意したヒントの紙に目を向け声を出す。

 

「船舶が通信に用いる国際信号旗には、アルファベットと数字を示す旗がそれぞれある。あの絵はそれだろ?」

 

 知識がなくとも船員にでも聞けば一発で分かる話だ、と龍園は続ける。

 

 

 

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「level1、それがヒントの表す文字列。ゲームなんかにはレベルがあるが、んなもん関係ないだろうな。で、階数をフロア以外にもレベルと言うケースがあるらしいじゃねえか」

 

 あとストーリーとかも言うね、と海外経験のある京楽はほざいていた。某海賊漫画に出てくる海底大監獄も階をレベルと称しているのはこれが理由じゃないか、とも。

 

「グランドフロアが入る場合は除外する。ここは日本だし、使うならそこもヒントに含め書いとくだろ。よって一番下の階を1とするか、1階を1とするかの二択。だが、最下層は配電盤室など、つまり生徒とは関係ない場所。お優しい会長サマがここに配置するとは思えねえ」

 

 そもそも何かを隠すのにも不適当な場所である。

 

「つまり────」

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 

「────1階。たぶん、それが私たちへのヒントだったから、Dクラスのと合わせて『1階のロッカー』にお宝は眠ってるって感じかな」

 

 リンリンはぽかんと驚きの表情を見せた。フレーメン反応みたいで可愛いな。

 

「あなた、口が軽すぎやしない?」

 

「いや、だってこれって私たちすごく不利なんだよ。残り2つのヒントに書かれてることを考えるとさ。だから協力しないとなーと」

 

「ABクラスの手には……ロッカーの鍵へのヒントがあると言いたいの?」

 

 コクコク頷く。鍵がなければ、お宝を持ち出すのは不可能。そういう構図なのだろう。同様に鍵だけあってもどこの鍵かがわからない、ないしは探すのに時間がかかる。

 

 ヒントにほんのちょっとの手がかりしかなかった時点で感じた。この試験は、はじめから全クラスの協力を前提にしている。公平な生徒会長のことだ、みんな0ポイント、あるいはポイントを4等分するってのが既定路線のはず。

 

「もしロッカーに鍵はかかってなくて、ABとCDがそれぞれ同じ、2種類のヒントを持っているとしたら?」

 

「誰か他の人が間違えてハンカチを取り出しちゃうかもだし、気づかずに閉めちゃうかもしれない。橘先輩もそんなミスはしないと思う。だから鍵はほぼ確実にかかってるよ。それに、競争させたいのならどのクラスにも同じヒントを与えてスピード対決にしてたって思うし」

 

 平等に4枚ずつ同じヒントを渡して早いもの勝ちとかにしなかったのは、やっぱそういうことだろう。

 

「なら、Dクラスが先に鍵を手に入れてしまえばいいだけでしょう」

 

「現物だったら見つけたり奪ったりも出来るかもだけど、たしか1階にはダイヤルロックのロッカーもあった。数字が鍵だとしたら、ヒントなしでの入手は困難じゃない?」

 

 まあ、「ロッカーを開けられなくなっちゃって……」とか適当に言って船員さんに開放してもらうって最終手段もあるけど、どのロッカーかわかんないと全部やらなくちゃいけなくなる。流石に断られそうだし、やってもらえたとしてもプライベートポイントを取られるか、教師からの評価とクラスポイントが下がりそうだ。

 

 あとは、ロッカーが開いた瞬間にひったくるってのもあるけど、これでハンカチをゲットしても堀北生徒会長は支払ってくれないだろう、普通に。暴力行為判定を食らわずにやるのは難しそう。

 

「お前の負けだ、堀北。オレも京楽の話を聞いてると協力したほうがいいように思えてきた」

 

「Cクラスに肩入れする気?」

 

「既に十分手助けしてもらってるだろ」

 

「そうかしら。彼女がいなくとも支障は無かったように感じるけれど」

 

 い、いらない子扱いされた……。まあ確かに私がいなくてもDクラスのヒントは解けてただろうし、しゃーないといえばしゃーないか。

 

「お前、結構負けず嫌いだよな」

 

「別に」

 

「いいと思うぞ。ゲームってのは感情的にならないとつまらないしな。ただ、今回協力できないってのは龍園以下ってことになるんじゃないか」

 

 龍園以下。なんと悲しいワードだろう。

 

「不名誉極まりない台詞ね」

 

 うん、本当に。

 

「京楽、お前と龍園は同意見とみなしていいのか」

 

「そうだね……少なくとも私の目には、2.5万で納得してるように見えた。ってか、生徒会長の思惑を知ってやる気をなくしてる感じだったかな」

 

 それがないと100%宝を発見できないって感じの重要なヒントならゴネたかもだけど、違うしね。1階って、はっきり言って一番無くてもなんとか出来たかもなヒントだとは思う。

 

「だが2万5千ポイントを得られなければ厳しく責められることになるんだろ。なあ堀北、そうなると寝覚めが悪くならないか?」

 

 たっつーに折檻を受ける私。なんて嫌なイメージだ。

 

「それに、協力し合うことでお前のような生徒が友人を作る機会を設ける。もしかしたらこれもこの試験の狙いの一つかもしれないぞ」

 

「生徒会長がそんなことを考えるかしら」

 

 友達が少ないと思われる妹を気遣って、か。まあこの試験は他クラスの人と喋る必要が出てくるし、それもあるのかも。そのためだけに10万ポイントも出したなら太っ腹すぎるけど。

 

「ま、要は試験失敗で生徒会長から1年生への評価が一律に下がるか、成功して株を上げるかって話だよね」

 

「同じ成功でも、望み通りの結果か否かで変わってくるかもな。10万ポイントを取るか、生徒会長に少しでも認められる道を取るかって話でもある」

 

 我々の説得に、リンリンは軽く目を伏せる。ドキドキ。気分は捨て犬、元いた場所に戻してきなさいと判断されてしまうのだろうか。

 

 うるうる見つめていると、お母さん、じゃないリンリンはキリリとこちらへ言い放った。

 

「分かった、手を組みましょう。ABクラスとも、Cクラスとも」

 

「わー、ありがとう!」

 

「でも、正直あなたたちの裏切りを警戒しているのだけれど」

 

 うーん、たっつーの信用度の低さが酷い。いつものことか。

 

「綾小路君って利き手どっち?」

 

「右だ」

 

「じゃあ、私の左手と手をつなぐなり手錠でつなぐなりする?」

 

「待ってくれ、聞いたのに利き手を塞ぐのか」

 

 いや、だってさ。

 

「それと、手錠なんてあるのか?」

 

「衣装レンタルの小道具にあった気がする」

 

 あれはお巡りさんのコスプレとかに使うのかな、きっと。手錠でつながれる二人……漫画だと鍵をなくしてしばらく一緒の生活を送るなんてのが定番だよね。

 

「それだと、綾小路くんが不審者街道(かいどう)を突き進むことになるわね」

 

「そんな道を歩こうと思った記憶はないんだけどな」

 

 うん、歩こうと思って歩く人は滅多にいないんじゃあないかな。

 

「まあいいわ。念を押しておくけれど私たちから絶対に離れないでちょうだい」

 

「了解! じゃあ堀北さん、腕組んで一緒に歩く?」

 

「遠慮しておくわ」

 

 こうして、私たち三人組は葛城君たちと一之瀬さんたちを探す旅に出ることになったのだ。

 

 

 

 

 

「どこにいるんだろうねえ」

 

 私たちはとりあえずレストランエリアに来ていた。客室フロアには鍵があることもないだろう、という判断から適当に見回っているのだ。

 

 両手に花な状況で無気力な姿を晒すカピバラ麻呂にリンリンはちょっぴりご不満なのか。言葉のナイフを突きつける。

 

「あなた、パックの魚みたいな表情になってるわよ」

 

「目が死んでるってことでいいのかその罵倒は」

 

「お魚、パックだと水や血が出てないほうが新鮮なんだっけ」

 

 リンリンはお魚さばけるのかしら。だとするとすごいなあ。

 

「んーと、迷子センターみたく放送をかけてもらうってのはどうだろ」

 

 迷子の葛城君、保護者の方がお呼びです、みたいな感じで。これだと保護者役はリンリンがいいのかな。

 

「葛城くんが迷子になるような生徒で無いことは皆分かっている。何かあったのかと勘繰られるのがオチよ」

 

「じゃあじゃあ、私が迷子になったことにして保護者として呼び出してもらうとか」

 

 迷子の京楽さんをお迎えに葛城君、来てくださいって流れはどうっすか。

 

「それ、余計に不審に思われるだけじゃないか?」

 

 うぐぐ、何も反論できぬ。じゃあ別の作戦を。

 

「呼ぶより(そし)れと言うし、何か葛城君たちの話してみる?」

 

「話って、ぱっとは思いつかないな」

 

「むー、噂話。尾鰭(おひれ)背鰭(せびれ)おまけに胸鰭(むなびれ)がつく感じになっちゃうかもだけど、ここは一つ適当に喋ってみようかな」

 

「お前の噂話はフカヒレか何かか」

 

 ああ、こんなところで食べ物の話をされると、まだ食べれる気がしてきてしまう。フカヒレスープ飲みたいな。滋養に良さそうだし。んー、滋養といえば。

 

「今更になっちゃうけど堀北さん、体調はもう大丈夫なの?」

 

「本当に今更ね。問題はないわ」

 

 無人島試験では高熱に倒れていたものの、元気そうなのですっかり忘れていた。ちゃんと治ったなら何よりです。

 

「賑やかだな」

 

 と、やや呆れの交じった低い声。

 

 オーララ。噂をすれば?葛城君が来てくれた。あんま噂してない気がするけど、まあいいか。ありがとうフカヒレ、今度美味しく食べてやろう。

 

「……CクラスとDクラスは共闘を決めたのか?」

 

 こっちが仲良し3人組で行動してるからだろう。葛城君の疑問に、リンリンが前に出た。

 

「いいえ。私たちが望むのは全クラスで手を取り合うことよ。葛城くん、あなたも分かっているはず。この短い制限時間でひとクラスだけの力で発見するのは不可能に近いわ」

 

「Dクラスが偉そうに。お前らだとそうでも葛城さんがやれば話は違うんだよ」

 

 戸塚君は、葛城君をすごく慕っているらしい。舎弟みたいだ。

 

「随分とDクラスを下に見るのね。無人島試験の結果をもう忘れたのかしら」

 

「それは…………」

 

「ぞんざいな扱い、(ないがし)ろにしていた部分があったのは否定しない。だが俺のクラスではその認識を少し改めさせた。前の試験の結果を受けてDクラスを、そして勝利の立役者である君を警戒している。だからこその言葉と思ってもらいたい」

 

 葛城君らしく、双方への紳士的なフォローだ。

 

「しかし勘違いすべきではないだろう。たまたま一度上手く行ったからといって次もそうとは限らない。今もクラスポイントの差は歴然。対等、とは言い難い」

 

 強い口調で釘を刺す。こういうのも、リーダーというのはやらなければならないのだろう。やはり大変な役柄だ。

 

「本当にそう思っているのならこの程度のプライベートポイント、譲ってくれても構わないのだけれど」

 

「小さなことでも、3年間続く勝負でどんな影響を与えるかは誰にも予測できない。そして生徒会長から課せられた試験という点も重要だ」

 

「ええ、だからこそ協力してクリアする。早く見つけられればそれだけ私たちへの評価も上がるでしょうね。ポイントを山分けするとなっても、その使い道はそれぞれ異なることになるわ。あなたたちが最も上手く活用できれば、デメリットにはならないと思わない?」

 

 兄のため、ということか、いつになくリンリンは饒舌だ。

 

「……まだ決めるには早いんじゃないか。また後で話すとかよ」

 

 戸塚君が思わず、というように口を挟む。

 

「どのくらい時間がかかるか予想がつかないもの。悠長にしていると、ヒントは解けたけど宝は得られない、なんて結果にもなりかねないわ」

 

「時間制限付きのヒントの可能性も考えるべきということか」

 

 むべなるかな、うべなるかな。葛城君は重厚に相槌をうった。

 

「そうだな、協力するのが堅実だろう」

 

 構わないか、と確認を取られた戸塚君はブンブン首を振って肯定する。よかったよかった。

 

「ただ、姿の見えない龍園の存在が気にかかるな。奴の非道(ひど)さはお前たちも理解しているだろう?」

 

 おいたっつー。お前いても疑われるしいなくても疑われるんだけど。しわ寄せがめっちゃこっちに来てるんだよ! 

 

「勿論よく分かっているわ。彼が介入できないように、さっさと終わらせてしまいましょう。それで、あなたたちへのヒントは?」

 

「これだ」

 

 差し出された紙を三人で見てみる。ふむふむ。

 

 

 

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 たぶん、鍵の在り処ってことだよね。

 

市場(いちば)らしきところは船内にないし、市場(しじょう)かな、読み方は。競争がないのなら、無料の商品を売ってる店ってこと? でもそれってお土産物以外全部だよね」

 

 この船内のサービス、全部無料だもん。

 

「わざわざ青い文字で書かれている点も気になるわね」

 

「ああ、俺たちもこうしてレストランなどを覗き青に(まつ)わる物の周辺から鍵を探してはいるが、結果は芳しくない」

 

 青い商品や看板、装飾、色々とありすぎて苦労していたのだろう。声音に疲労感が(にじ)んでいる。

 

「一之瀬さんたちのヒントと連動している可能性もある。ひとまず彼女に連絡しましょう」

 

 そう言って、リンリンはアドレスが書かれてるらしきメモをカピバラ麻呂へ渡した。あ、ご自分で連絡されるわけじゃないんすね……。

 

 

 

 一之瀬さんたちはすぐにこちらに出向いてくれた。

 

「協力? うん、いいよー」

 

「正直、行き詰まっていた」

 

 二人も店を回っていたけれど、手がかりは発見できていなかったようだ。

 

 

 

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 この紙の内容から、カウンター内の様子を窺っていたらしい。ふむ……。

 

「いやあ、SOSって感じだね、もう。さっぱりだよ」

 

「だよねククリちゃん。私たちも全然で」

 

 一之瀬さんと頷き合う。数を数える物とか、反撃とか神崎君と二人で考えながら船内を巡っていたけど、普通に飲食店のテーブルやレジカウンターのことなのかな、という結論になったそうだ。

 

「ところでククリちゃんは、その、お洋服着替えないの?」

 

「……な、なんかすっかり馴染んでて忘れてた。あとそんな暇もなくて」

 

 先生にも注意されなかったし。見逃してもらえたのだろう。ん、そういやロックが船内の床を濡らしながら歩く点、茶柱先生にでも叱ってもらえばいいのではなかろうか。でも、教師の注意を聞き入れるかってところ、微妙だよなあ。謎のこだわりがあるっぽい口ぶりだったもん。

 

「そういえば京楽、その水着を見ててずっと思ってたんだが」

 

「え、なに、どうしたの麻呂君」

 

 変な着こなしとかしてしまってただろうか。

 

「そういう色、なんて言うんだっけか」

 

「モノクロ?」

 

「いや、2色ある感じの……」

 

「ああ、ツートンカラーってこと?」

 

「それだ。いや、思い出せなくてモヤモヤしててな。ありがとう」

 

 うんうん、あるよね、何か言葉が出てこないの。私も困ったことがある。

 

「色……この紙の文字の場合、そこは普通ね。ただ上下に他の紙にはない模様がある」

 

「そっか、他クラスのヒントには書いてないんだね。じゃあこれがヒントの一部ってこと?」

 

「でしょうね。ただ、どういう意味かは思いつかないわ」

 

 シンキングタイムに入る。ここで少し様子のおかしい生徒がいた。顎に手をやって考えた後、葛城君は端末を操作する。

 

 ややあってから、こちらに画面を向けつつ告げた。点線と文字がずらりと並んだ表。アの横に--・--と、イの横に・-と、他の文字に関しても同じようにたくさん続いている。

 

「モールス符号、ではないだろうか」

 

「そうか。点と線で……」

 

 神崎君の言葉に、葛城君はもう一度端末に視線を戻す。たぶん調べてくれてるに違いない。やがて力強く宣言する。

 

「『レツヘタ ラヘライヨヘ』となるな」

 

「意味が分からない語句ね」

 

「すごい呪文みたい」

 

 れつへた〜らへらいよへ〜となんか唱えたくなる。

 

「和文の場合は、だ。アルファベットであれば『Open sesame』となる。おそらく後者だろう」

 

「わわっ、葛城くん冴えてるね! うん、あとは他のクラスのヒントと組み合わせればいいのかな?」

 

 この言葉を受けて、リンリンがCDクラスのヒントはおそらく『1階のロッカー』であることを伝えてくれた。

 

「悪いが一之瀬、Aクラスのヒントは未解決だ」

 

「なるほど、じゃあぜひ私たちがお礼に解かせてもらいたいね」

 

 というわけでみんなでAクラスのヒントを前に唸る。駄目だ、これは全然わかんないや。

 

 Bクラスのほうも、どう使うのか謎ではあるよね。オープンセサミ、オープンセサミかあ。

 

「『Open sesame』、この意味分かるか?」

 

 カピバラ麻呂もAクラスのはちんぷんかんぷんで諦めたのかしら。

 

「アラビアンナイトの『アリババと40人の盗賊』に出てくる、財宝への扉を開けるための呪文だね。うーん、でも音声認証のロッカーもアルファベット入力や番号のロッカーもないよね。ついでに原典にこのアリババの話はないってされてるし」

 

 古い話って色々と後から内容が付け加えられたり変更されたりして、最初にあったやつがどう書かれてたかよくわかってないの多いんだよなあ。完全に宝探しとは関係ない話だろうけど。

 

「別の何かがある、ということか。だとしてもオレたちが知ることも出来るやつだよな」

 

「そうね。カウンターとあるのだし、店、という方向性は間違っていないと思うのだけれど」

 

 うんうん、他にカウンターってなさそうだよね、リンリンの言う通り。

 

「商品名や料理名にあればそこに隠されてたりな」

 

「流石に突き止める難易度が高すぎるんじゃなくて。名前なら、店名あたりが怪しいのかしら」

 

「うーん、心当たりないか店員さんに聞いてみる?」

 

「それは奥の手にしましょう。店名の一覧なら、そのへんに置いてあったはずよ」

 

 ちょっと行くけどどうする、と聞いた結果ぞろぞろと7人で移動する。もしかしたら周囲からすごい仲良しグループと思われてるのかもしれない。まあテンプレ不良なたっつーはいないし違和感はそこまででもないか。

 

「O、O……ないわね」

 

「ねー」

 

 残念ながら影も形もない。しかし、何かに気づいた人もいるようで。

 

「────まさか」

 

 落ち着いた、低めの声。神崎君の声だった。

 

 

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