朝9時、有宮府警察本部生活安全部
「幼稚園児が来る?」
空は生活安全部長から園児が来る旨を伝えられ、オウム返しをする。
「そう。本部を見学するらしいから、新居浜君と中務さんに案内を頼もうと思ってね。」
「了解しました。ですが、なぜ僕たちに?本部見学なら、もっと適任がいるでしょう?」
「それはそうなんだけど、見学案内なら軍学校の子の方が年も比較的近いしいいんじゃないかなってことになってね。それに2人ならちゃんとやってくれそうだし。」
「なるほど。ではキリノさんに伝えに行きます。」
空がキリノに伝えに行こうとすると部長は何かを思い出したのか待ったをかける。
「どうかしましたか?」
「ごめん、一個言い忘れてた。今回、軍学校の大井田大佐も見学案内をしてくださるから。」
「先生が?またなぜ……?」
空は少し困惑した表情で部長に問う。
「少し前に大佐が来られたことがあって、その時にこのことを話したらぜひ同行したいって言われてね。」
「そうでしたか。」
空は先生が同行する理由を理解すると今度こそキリノに伝えに行こうと部長に一言言って部長のデスクから離れる。
「キリノさん。」
「はい、どうかしましたか?」
空が問いかけるとキリノは軍学校から配られた教材から目を離して空の方を向く。
「今日、付近の幼稚園から幼稚園児がここに見学に来るそうで、その案内を僕とキリノさんが担当することになりました。」
「子供たちの案内ですか!警察のかっこいい姿を見せられるよう頑張らないといけませんね。」
「そうですね。あ、あと今回の見学案内には大井田先生も付いてくださるので。」
「了解しました。先生がついてくださるのはとても心強いですね。」
「ええ、本当に。」
空は話が一区切りついたところでこれだけは念の為とキリノに一言言う。
「キリノさん。」
「何でしょう?」
「くれぐれも銃は取り出さないように。子供に当たると危険ですから。」
キリノは少し不本意そうにするが分かりましたと言った。……言葉の意味には気づいているようだった。
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10時55分、有宮府警察本部前
「あ、先生!」
「こんにちは。」
先生である大井田大佐が来たのを視認すると空とキリノは挨拶をする。
「こんにちは。本日は無理言ってすみません。」
「いえいえ、問題ないですよ。むしろありがたいです。」
「そう言っていただけると幸いです。」
先生と空が話し始める。キリノは低姿勢な先生を見るのがかなり珍しいのか目を丸くする。
「それにしても、なぜ同行したいと?」
「キリノの見学案内をちょっと見てみたいな……と思っただけです。」
「そうですか。」
空と先生が話を終えると5、6歳ぐらいの話し声が聞こえてくる。幼稚園児が集まって来たみたいだ。
「キリノ、大丈夫?」
先生は心なしか緊張しているキリノに話しかける。
「え!?あ、はい、本官は大丈夫です……」
「緊張しなくてもいいよ。私たちがついてるから。」
先生はそうキリノに微笑むと集まったみたいだよ?と声をかけた。
キリノは集まった園児たちの前に立つと静かになるのを待って話し出す。
「皆さん、有宮府警察本部へようこそ!」
「本官が、本日皆さんの案内を担当する、生活安全部の中務キリノです。隣にいますのが……」
紹介が回って来たところで空も話し始める。
「同じく、本日案内を担当します。生活安全部の新居浜空と言います。あと、もう1人……」
「有宮軍学校から来ました、大井田と言います。今回はお二人のお知り合いなので、補佐として来ました。」
3人の自己紹介を済ませたところで園児たちから色々残念がる声が聞こえる。
「ええー、警備部とか、刑事さんとかじゃないのー?」
「こわーい犯罪者を逮捕するお話が聞きたかったのに……」
「ばーか、刑事は忙しいの。だから暇な生活安全部くらいしかやってくれないの。大人の事情ってやつ。」
「そ、そんなことありませんよ?警備部や刑事さんたちほどではありませんが私たちも日々様々な業務を行っています!市民の方の財布を探したり、何か危険がないか街をパトロールしたり……」
「何それ地味ー。」
空は園児の言葉を聞いて地味でも大事な仕事だと口に出そうになったが何とか喉の奥に引っ込める。
「もっと派手なお仕事はないのー?」
「え、えっと……派手なお仕事ですか?」
このままでは歯止めが効かなくなると感じた空はキリノに助言をする。
「キリノさん、まずは案内をしませんか?このままここにいるのは皆さんも退屈でしょう。」
「そ、そうですね……案内をしたら色々伝えられるかもしれませんし……それでは、移動をします。本官について来てください!」
歩いて数十秒ほど。キリノたちは屋外にある石碑に着く。
「こちらは警察官としての責務が書かれた石碑です。ここでは初代警察本部長の言葉が刻み込まれており、石碑を見るたびに警察官は自らの責務を思い返すとともに、自身の行動を省みるのです。」
「ここに書かれている通り、「警察は常に市民の安全を第一に考え、他の市民の模範となる立場であり……」
キリノが少しお堅い話を始めたところで園児からまたもや野次が飛ぶ。
「つまんなーい。」
「面白くなーい。」
「もっとカッコよく犯人を逮捕する方法とか教えて!」
先生と空は確かにつまらないよなと同情した。
「で、ですが、まずは考え方から入ることは大事でして……」
キリノが園児たちに説明し始めたところで先生が空に問う。
「新居浜さん?」
「どうしましたか?」
「ここって社会科見学用のブースとか見学ルートってないのですか?」
空は周りを見渡しながらそう言う。
「ないですね。日夜凶悪な事件が起こる有宮では警察本部見学はあまりありませんから。」
先生が納得したところで空は園児とキリノの方に意識を向ける。
「お姉ちゃんも現場に行って銃を撃ったりしたことはあるのー?」
「まさか、お姉ちゃんは生活安全部だから撃てない……ってことはないよね?」
「そこのお兄ちゃんも、撃ったことあるのー?」
園児の1人が空に問いただすと空はええ、と肯定して話す。
「生活安全部以前に、警察官として銃の射撃は必要ですからね。それは警備部だろうが生活安全部だろうが変わることはありませんよ?」
空はそう言ってキリノの方を向く。先生も言葉を聞いて同じくキリノの方を向く。キリノは少し恥ずかしそうにして目を逸らした。
「あ、そういえばついこの前、銀行強盗を撃退したことがありましたよね?」
「えっ!?ええと……何でしたっけ?」
空は限りなく小さく、園児にバレないほどのため息をつくと35番街の事件です。と答えた。
「35番街……あ!あの事件ですか!」
あの事件、というのは一昨日、35番街にある銀行を襲った不良生徒をたまたまそこを巡回していた空、キリノ、フブキが初動で対応、見事撃退した事件である。
「銀行強盗を逮捕したの!?」
「聞かせて聞かせて!」
園児たちはその話題に食らいつく。空は目配りでキリノに説明してあげてください。と指示した。
「新居浜さん?」
「はい?」
「35番街の銀行強盗って、もしかしてATM強盗の話ですか?」
空は先生の問いに何を当たり前のことをという顔をしてはい。と言う。
「ATMだって立派な銀行の支店でしょう?嘘はついていません。」
「それに……あれを逮捕したのは警備部では?」
「ええ。僕はあくまで『撃退』と言いました。『逮捕』とは言っていませんよ?」
空は悪人のような笑顔で先生にそう言った。
「警官としてどうなんですかそれは……」
「人として言語は効果的に使っていかないと。言葉は相手を都合よく騙……失礼、勘違いさせる道具であるのですから。というか、生徒に習わせてないのですか?」
「習わせるわけないでしょう……あと、新居浜さん警察官よりもセールスマンの方が向いてると思いますよ?」
「……?そうでしょうか……?」
空の闇の部分を自分自身理解していないことに先生は呆れ、これ以上何も言うことはなかった。
そして空の機転によって園児の関心を惹くことができたようだった。
「お姉ちゃん、その腰につけているのはなに?武器?」
「これですか?これは煙幕です。威力はほとんどありませんが、相手の視界を奪うことができ、人質がいる環境などでは効果的ですね。」
「じゃあその横についているシュシュは?」
園児は煙幕の横についている手錠を指さした。
「シュシュ?これは手錠ですね。悪い犯罪者を捕まえた後、手につけて動けなくするんです。」
「ちなみに、犯罪者を逃げられなくする道具なので、かなり丈夫にできていて、鍵が無いと外せないようになっています。」
空がキリノの説明に補足を加える。
「そうなのー?引っ張ればすぐに外れそうだけど……」
「見た感じではそう感じるかもしれないけど……貰うね。内側にこのように歯が付いていてね。普通の力では絶対に外れないようになったいるんだよ。」
「へー。」
先生も教師の本領発揮と言わんばかりに参加を始める。
「では、せっかくですし、実際に使用するところをお見せしましょう!」
キリノが園児の関心を更に惹かせるためか自分に手錠をつけると言い出した。
「助け入りますか?」
「いえ、ご心配なく!」
キリノは自信満々にそう言うと片腕に手錠をかける。
「まず、犯罪者を動けなくしたらこのように片腕に手錠をかけます。」
「そして留め具を外し……場合によってはこのようにどこかに引っ掛けて……」
キリノは近くの車両侵入禁止を示すポールに手錠を引っ掛ける。
「はい!逮捕です!これでもう動けません!」
「わー、すごい!」
「本物の手錠初めて見た!」
キリノが手錠をかけ終わると幼稚園児から歓声が上がる。
「ふふっ、喜んでくれて良かったです。」
「それではそろそろ解除……あれ、鍵が……あ、よいしょっ……」
キリノが手錠を解錠しようと鍵を取ろうとするが鍵がうまく取れない。
「ああっ!」
鍵を取ろうとすると鍵はキリノを嘲笑うかのようにキリノの足元の排水溝に落ちる。
キリノはどうにかしようと手錠をガシャガシャ動かすも効果はない。
「キリノさん?鍵は?」
新居浜がキリノの異変に気付き声をかける。
「ねえキリノ、見間違いじゃなければ今、鍵が排水溝に落ちなかった?」
鍵が落ちる瞬間を遠目で見た先生はキリノにそう問う。
「え、い、いやいや!仮にも警察に属する本官が鍵を失くすわけがないではありませんか!」
「で、ですから……これは………」
キリノは鍵を失くした恥ずかしさから言い訳を考えようと必死に頭を回転させる。
「だ、脱出訓練の予行演習です!」
「いや……今予行演習する……?」
先生はキリノの下手な言い訳に呆れ気味にそう言う。隣を向くと空も同じく呆れていた。
「想定外の事態が起きて、万が一拘束されてしまった時のために……これより本官が、脱出の仕方を説明します。」
なんとか繋ぎましたね……と空は小さく呟く。
「……大丈夫?」
「ご安心ください!本官のように、しっかり訓練を積んだ者であればこれぐらい簡単ですから!」
先生がキリノを心配して聞くとキリノは自信満々にそう答える。
「くうううっ!」
キリノは手錠をどうにか外そうと努力するも全て無駄に終わる。
そして結果は……
「助けてください……先生ぇ……部長ぉ……」
近くにいた信頼できる大人に助けを求めた。
「はぁ……仕方がないですね。」
空はキリノに助けを求められると自分の制服から鍵を取り出して手錠を解錠する。
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夕方、社会科見学終了後
「うう……やってしまいました……」
「警察としてカッコいい姿を見せるどころか、手錠をかけられた姿を見せてしまうなんて……これでは犯罪者側です……」
キリノは昼のことを未だに引きずっていた。
「こんな姿を見て、警察に憧れる人なんていないですよね……」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。ほら、顔を上げて。」
先生と空が落ち込むキリノを労う。
「ですが……」
「おねえちゃん!」
もう帰ったと思っていた園児たちがキリノたちのところに来る。
「あれ、皆さん、まだ帰られてなかったのですか?」
「今日はありがとう!色々見られて、すっごく楽しかったよ!」
園児に感謝を言われるがキリノはまだあまり気を取り直せない。
「あ……で、ですが……本官はミスばかりしてしまって……」
「有宮府警察の一員としてカッコいいところを見せるはずが、みっともない姿を……」
「ううん。手錠がすっごく固いってことも分かったし!」
「変な質問も答えてくれてすっごく嬉しかった!」
「他のところじゃ、こんなに話を聞いてくれるところは無かったもん!」
「私もいつか、おねえちゃんみたいな警察官になりたい!」
案内した園児からの感謝の言葉の数々にキリノも元気がまた出始める。
「み、みなさん……ありがとうございます!」
「この中務キリノ……これからも慢心することなく、皆さんの目線に立って、そして、しっかりと皆さんを守ることができる警察官になれるよう、努力していきます!」
「なんとか元に戻りましたね。」
「ですね。」
元気が戻ったキリノに2人は少し笑みが溢れる。
「ちゃんと伝わって良かったですね。」
「はい、あの子達もちゃんと話を聞いてくれて、私も嬉しかったです。」
「しかし、ミスはミスです。失敗を繰り返さないよう今回のことはしっかりと反省します。」
「次回は鍵を失くしても手錠を外せるように、頑張って脱出の練習をしておこうと思います!」
「いやそっちじゃないよね!?」
キリノの言葉に先生は思わずツッコミを入れる。
「あ、あとキリノさん。」
「はい?」
空が何かを思い出したかのようにキリノに呼びかける。
「今回の鍵の紛失の件、始末書物ですからね。帰ったらちゃんと書いてください。」
「う……はい……」
キリノは小さく返事をした。
今回はキリノのメモロビを話にしました。
ではまた次回!