ホームレスがトリニティの生徒になる話   作:ちゅーぴか

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 うおおおおお!!
 ハレ!!マキ!!チヒロ!!!

 キャンタマぁぁぁあああああああああ!!!!!


 今回ほぼ原作通りです。


ナギサビーティング

 

 それはアズサの言葉だった。

 

「……ティーパーティーのナギサが探してる『トリニティの裏切り者』は、私だ」

 

 第二次特別学力試験がナギサの妨害により不合格になった。残すは三次試験だけとなりもう後のない補習授業部は、翌日に迫ったそれを前に眠れない夜を過ごしていた。

 

 しかしハナコより告げられた現状———正義実現委員会により、試験会場への立ち入りは何人たりとも認めない———に、皆は絶望することになる。

 

 ……試験を受けたいのならば正義実現委員会を敵に回せ。

 

 それは、ナギサの「裏切り者」に対する強大な敵意の表れだった。

 

 そんな現状に、これ以上隠し通せないと考えたアズサが自らの正体を明かしたのだ。

 

 その後もアズサは話を続ける。自分がアリウスの出身であること、そのアリウスからナギサのヘイロー破壊という任務を受けてトリニティに潜入していること、明日の朝にアリウスの生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入すること。そして———

 

 

 

 

「……私は、ナギサを守らなきゃいけない」

 

 ———アズサの考え。それは話の流れを真っ向から裏切るような、確固たる意志だった。

 

「ま、待って! おかしくない!?」

 

 アズサの言葉に、コハルが声を上げる。

 

「よ、よく分かんないけどアズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ? なのに守るってどういうこと? 話が合わないじゃん!」

 

 至極当然の疑問だった。コハルの意見にその場の皆が同意した。

 

 ……ただ一人を除いて。

 

「……アズサちゃん自身(・・)は、最初からその目的でトリニティに来た。そういうことですね?」

 

 それはハナコの声だった。

 

 ハナコは知っていたのだ。アズサがアリウスの人物と密会をしていたことを。その上で裏切る準備を一人進めていた、二重スパイであることを。

 

「……どうして、ナギサさんを守ろうとするんですか? それは、誰の命令で?」

 

「……これは誰かに命令されたわけじゃない。私自身の判断だ」

 

 アズサは続ける。

 

「桐藤ナギサがいなければ、エデン条約は取り消しになってしまう。あの平和条約が無くなればこの先、キヴォトスの混乱はさらに深まるだろう。その時また、アリウスのような学園が生まれないと思えない……」

 

 アズサの動機。それはとても勇敢で、正義感と慈愛に満ちていて、それでいて———

 

「……とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約と同じくらい、虚しい響きです」

 

 ハナコの言葉はとても厳しく、しかして本質を突いたものだった。

 

 アズサは嘘をつき、周囲を騙した裏切り者だ。そしてその裏切り者のせいで、何の罪も無い補習授業部のメンバーが退学の危機に陥っている。

 

 それは紛れもない事実であった。

 

「アズサ、ちゃん……」

 

「本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、私がもたらしたことだから……」

 

 アズサが痛みを堪えるように俯きながら、そう吐き出した。

 

 しかし、そんな姿に黙っていられない人物がいた。

 

 

 

 

「……それは違うよ」

 

 

 

 

「……先生?」

 

 アズサがはっと顔を上げる。

 

「元々の原因はきっと、『信じられなかったこと』の方」

 

「……」

 

「ナギサがもっとヒフミを、ハナコを、アズサを、ハスミとコハルを信じていたら」

「ミカがもっと、ナギサのことを信じていたら」

「もっとお互いがお互いを深く信じられていたら、こんなことにはならなかった」

 

 そんな先生の言葉に、皆が押し黙る。

 

 他人を信じる……。それはひどく難しく、虚しい響きだった。

 しかし、先生の瞳は確かな意思を宿している。

 

「そうですね、そうかもしれません」

 

 沈黙を破ったのはハナコだ。

 

「……ごめんなさい。先ほどのは何と言いますか、どうしても意地悪がしたくなってしまったんです。アズサちゃんの真っ直ぐな顔を見ていると、何だか心が落ち着かなくなってしまって」

 

「……」

 

 ハナコが纏う何とも言えない異質な威圧感に、アズサが顔を引きつらせる。

 

「本来ならアズサちゃんのような『スパイ』は、こんな注目されるところに長くいてはいけないはずです。誰にも気づかれないように消える……そういう手段やタイミングは、今までいくらでもあったはず」

 

 しかし、ハナコの表情は真剣そのものだ。

 

「……しかしアズサちゃんは、そうしませんでした。その理由を、私は知っています」

 

 ナギサの保護を第一の目標に据えるのなら、———より酷なことを言えば、補習授業部の皆を救いたいと考えるのであれば———本来するべきではないのにもかかわらず、アズサが補習授業部に残り続けた理由。

 

「……補習授業部での時間があまりにも楽しかったから。そうではありませんか?」

 

「……!」

 

 勉強をする、ご飯を食べる、洗濯や掃除をする……目標に向かって努力する。それも、友達と一緒に。

 

 それが、あまりに楽しかったから。

 

「違いますか、アズサちゃん?」

 

 アズサは言葉を詰まらせる。いろいろな言葉が頭をめぐり、口に出かかっては引っ込めた。

 

 しかし、そうして出した結論はただ一つ。

 

「……そうかもしれないな」

 

 それは単純なことだった。

 

「何かを学ぶということ、みんなで何かをするということ……。その楽しい時間を、私は手放せなかった……」

 

 もっと学びたい。もっといろんなところへ行って、いろんなことを知りたい。

 

 ただそれだけだった。

 

「アズサちゃん……」

 

 ヒフミがアズサを見つめる。アズサの想いは、皆も同じだった。

 

「何だか知ったような口をきいてしまいましたが……分かるんです、その気持ち。何せ……はい。同じように思った人が、いたんです」

 

 ハナコは話す。何かと要領が良くて、何でもできてしまった(・・・・・・・)その人のことを。

 

「その人にとってトリニティ総合学園は、嘘と偽りで飾り立てられた、欺瞞に満ちた空間でした」

 

 誰もがその人の能力を必要とした。いや、正しくは「どの組織も」だ。

 そこにその人自身(・・)へ向けられる感情など一つもなかった。その人の能力以外を、誰も見てはいなかった。

 誰にも本心を話せず、本当の姿を見せられず。

 

 

 

 

「さらにその人は、突如現れた後輩(・・・・・・・)に……勝手に過去の自分を、そして自分の『もしも』を重ねていました」

 

 ハナコは続ける。

 

「その後輩も本当に何でもできて、賢くて……。自分のようにならないよう、その人は後輩を守り、導くつもりでした」

 

 ハナコは俯き、自分の腕を強く握った。

 

「しかし、そんなその人の傲慢は、後輩に不幸をもたらしました。その後輩は他人を想うあまりに、自分の身を犠牲にし始め、そして、この学校に……」

 

 

 

 

 ……殺されかけました。

 

 

 

 

 その音を耳にした人物はいなかった。しかし誰もがその言葉を聴いた。

 ハナコの纏う怒りや後悔。それは誰の目にも明らかだった。

 

「その人にとって、全てのことは無意味で……学校を、辞めようとしていたんです。……その後輩もついて来てくれるんじゃないか、なんて縋ったりもして」

 

 それは……ハナコにしては珍しい、紛れも無い本心の吐露だった。

 

「ですが……その人とアズサちゃんは違いました」

 

 アズサがもし目的を遂げたなら。書類を偽造してトリニティに入学したのに、アリウスをも裏切ってしまったら。

 

 アズサは、帰る場所を失ってしまう。

 

 にもかかわらず、アズサはいつも一生懸命だった。

 

「アズサちゃんいつも口癖のように言っていた通り、全ては虚しいもの(vanitas vanitatum)のはずなのに」

 

 皆の顔が曇る。

 

「ですが同時に……アズサちゃんはその後ろに、いつも言葉を付け加えていました」

 

 

 

 

『……うん。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない』

『それにあの事態は気の毒だけど、いつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない』

 

 

 

 

 アズサの言葉。いつも彼女が失わない、強さの正体。

 

「そうして……ようやく、その人も気づいたんです」

 

 ハナコが静かに目を閉じた。

 

「……学園生活の、楽しさに」

 

 自分をさらけ出せる人たちと、何かに全力で挑むこと。それがこんなにも楽しかったんだと。

 

 

 

 

 それを、後輩(イト)にも知ってもらえたら……。

 

 

 

 

 ハナコが目を開く。

 

「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう? もっと知りたいんでしょう? みんなで色んなことをやってみたいって、あの時話したじゃないですか。海に遊びに行くとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか。……それを、諦めてしまうんですか?」

 

 それは、答えの分かりきった問いだった。

 

「……何も諦める必要はありません」

 

 ハナコが強い意志を持って宣言する。

 

「桐藤ナギサさん……彼女を、アリウスの襲撃から守りましょう。そして私たちは私たちで無事に試験を受け、合格するのです」

 

 しかし、アリウスの襲撃と試験開始時刻は同時。ハナコの宣言は、物理的に不可能なものだった。

 

 ……本来であれば。

 

「今ここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称凡人な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」

 

「……?」

「へ、偏愛……!?」

「……?」

 

「その上、ちょっとしたマスターキーのような『シャーレ』の先生までいるんですよ?」

 

「ま、まあ……」

 

 周囲の困惑とは裏腹に、ハナコがニッコリと……それはもう満面の笑みを浮かべた。

 

「この組み合わせであれば、きっと……トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」

 

 ハナコの言葉に、各々が驚きの反応を示す。ハナコは「試験を受けて合格するだけです♡」などと言っているが、本当か疑わしいほどの笑みだ。

 

「さあ、今こそ力を合わせるときです。行きましょう!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「……ふぅ」

 

 私用のセーフハウスにて、もう何杯目かも分からない紅茶を飲み干し、ナギサは息をつく。紅茶のカフェイン故か……はたまた別の理由か。ナギサは眠れない夜を過ごしていた。

 

 ナギサの頭にあるものは一つ。

 

 

 

 

 ……ついに、エデン条約を阻止しようとする「裏切り者」との戦いが終わる。

 

 

 

 

 補習授業部を設立してから長かった。自分の持つ権利、さらにはシャーレまでをも最大限に利用し、裏切り者と戦ってきた。それで失ったものも大きいかもしれないが、ナギサにとってもはや仕方のないこととすでに切り捨てたものだ。

 

 そんな戦いの大詰め。三次試験のボーダーは大きく上げた。それに、正義実現委員会まで使って戒厳令を敷かせた。

 

 ……抜かりはない。これで間違いなく、裏切り者は追放できるはずだ。

 

 

 

 

 ———コンコンコン。

 

 

 

 

 そんな中、突如として部屋にノックの音が響いた。

 

「……紅茶でしたらもう結構です」

 

 ナギサは、そのノックが紅茶のおかわりを淹れに来た使用人のものだと考えた。

 

 しかし、その考えは間違いだとすぐに知ることになる。

 

 

 

 

 ギィイイイイ———。

 

 

 

 

 そのドアが勝手に開いた。

 

「……?」

 

 ナギサは困惑する。自分は「結構だ」と言ったのだ。主人の許可なしに入室する使用人などありえない。

 

 

 

 

「……可哀そうに、眠れないのですね」

 

「っ!?」

 

 その声に、ナギサの顔が強張る。なぜならその声はまさしく———

 

「それもそうですよね、正義実現委員会がほとんど傍にいない状態……不安にもなりますよね、ナギサさん?」

 

「う、浦和ハナコさん……!? あなたがどうして、ここに……!?」

 

 ———補習授業部のメンバー、浦和ハナコだったからだ。

 

「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか?」

 

 ハナコは告げる。ナギサの87個のセーフハウス、そのローテーションから変則的な運用まで、すべて把握していることを。

 

 ……情報戦で完全に後手に回っている。その事実がナギサを焦らせ、椅子から立とうとするも……。

 

「動くな」

 

「……!」

 

 背後より忍び寄った白洲アズサに銃口を向けられ、阻止された。

 

「白洲アズサさん、浦和ハナコさん……まさか……!」

 

 ナギサはいつまでもにやけ顔をやめないハナコを睨みつけた。

 

「『裏切り者』はひとりではなく、ふたり……!?」

 

 ナギサの言葉に、ハナコはますます笑みを深めた。

 

「……ふふっ、単純な思考回路ですねぇ♡ 私もアズサちゃんも、ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」

 

「……!!」

 

 ナギサは歯ぎしりをした。ハナコの煽りにではない。

 

 ……裏切り者による被害の、予想外の深刻さにだ。

 

「それは、誰ですか……!」

 

 ナギサは凄まじい剣幕でもって問いかける。

 

 すると、ハナコは先ほどまでのにやけ面が嘘のように真剣な面持ちに変わった。

 

「そのお話の前にナギサさん……ここまでやる必要、ありましたか?」

 

「……」

 

 ハナコの問いに、ナギサは返す言葉を持っていなかった。

 裏切り者との戦いの間、常に考えていたことだ。

 

「最初から怪しかった私や、アズサちゃんは仕方ありません。ですが……ヒフミちゃんとコハルちゃんに対しては、あんまりだと思いませんか?」

 

 ハナコの言うことは正しい。

 

「特にヒフミちゃんは……ナギサさんと、仲が良かったじゃないですか。どうしてこんなことをしてしまったのですか? ヒフミちゃんがどれだけ傷ついてしまうのか、考えなかったのですか?」

 

「……そう、ですね。ヒフミさんには悪いことをしたかもしれません……」

 

 正しいが———それはもう割り切ったものだ。

 

「ですが、後悔はしていません。全ては大義のため。確かに彼女との間柄だけは、守れればと思っていましたが……私は……」

 

 もちろん、未練などタラタラである。ヒフミのことは大切に想っているし、想われていたいとも思う。

 それでも……全ては大義のため、エデン条約のため。ナギサはそう考えていた。

 

 

 

 

「……ふふっ♡」

 

 

 

 

 先ほどまで真剣な面持ちだったハナコの顔が、またもにやけ顔に変わる。

 

「ではあらためて私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね」

 

 ナギサの脳が警鐘を鳴らす。この先を聞いてはならないと、本能で理解する。

 ……しかし無情にも言葉は紡がれた。

 

 

 

 

「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』……とのことです」

 

 ……それは、彼女の———ナギサが親愛を向ける、阿慈谷ヒフミのものだった。

 

「……っ!? ま、まさか、ということは……!?」

 

 ナギサの脳が回る。決して結びつけてはならないはずの、ヒフミと裏切り者の姿が……トリニティに仇をなし、今までナギサを散々苦しめた忌むべき存在が……繋がる。

 

 しかしそんなナギサの絶望よりも先に、アズサが向けた銃の引き金が引かれた。

 

 そして、ナギサの意識は底へ落ちる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォオオオオン!!!!

 

 

 

 

 突如響き渡る爆音、そして舞い上がる土埃。

 

 そして次第に晴れ行く土埃から、徐々に一人の人物の影が浮かび上がる。

 

「「「!?」」」

 

 それは、その場の誰も……ハナコでさえ予測していなかったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい☆ ちょーっと待った!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に見合わない明るい声、ピンク色の髪、壁を素手で破壊するほどの膂力。

 

 そんな人物は一人しかいない。

 

 ティーパーティーながら、トリニティの戦略兵器と名高い「剣先ツルギ」にも匹敵する強さを持った……。

 

「……ミカさん!!!」

 

 ナギサは突如現れた強力な助っ人に、安堵の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「あはは☆ 迎えに来たよ、ナギちゃん!」

 

 





 今回はイトちゃんの出番がありませんでした。

 もしかしたら次回もそうかも……。
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