大学とバイト始まりました。投降頻度落ちると思います。ごめんね
勉強たのしい
黒服と別れてからすでに一日くらいは歩いたと思う。けれど目的地はいまだ見えてこない。
如何せん土地勘がなさすぎる。アリウス自治区はまともに整備されてる道も少ないからただ歩くだけでもしんどい。
何よりここは敵の本拠地だ。曲がり角を曲がったら敵とエンカウント…なんてことは避けなければならない。
「はぁ…はぁ……」
体力の消耗も激しい。元から満身創痍だし、傷を治すにも体力を持っていかれるし。
そして何より、私がしてしまったある重大なミスがメンタルを削ってくる。
「ほんと…どこやっちゃったんだろ……」
私はそう言いながら、自分の側頭部を撫でた。そして『そこにあるはずのもの』がないことにため息を一つ。
そう。私はあろうことか、ミカちゃんからもらったお揃いの髪飾りを無くしてしまったのだ。
爆発の際に飛ばされてしまったのか、気を失っているときに落としてしまったのか……。
いずれにしろ、主からもらったものを無くす従者などありえない。ミカちゃんにどんな顔をして会えばいいのか分からない。まあ、もう会えないかもしれないけれど。
……そっか。もう会えないかもなんだ。
私の頭にふとそんな考えが浮かんだ。
黒服といたときは、大人の前ということもあって気を大きくして『かっこよく死ねる』なんて考えていたけれど。
そっか、死んじゃったらもうみんなに会えないよな。
「……ふぅ……」
そう思うと、周囲の暗がりがより一層孤独に感じる。
正直言って今すぐ帰りたい。書類仕事と嫌がらせが待っているとはいえ、みんなの下へ帰って温かいご飯が食べたい。
「……ごはん?」
そうだ、ご飯! 私あれから何も食べてない!
調印式の日から考えれば…もう二日近くは何も食べていないことになる。その前に食べたのだって夜食のカップラーメン一杯のみ。そんな状態でこんな極限状態に置かれればメンタルも削られるはずだ。
うぅ……そう考えると、急に視界もぐらついてきた。一刻も早く何かを口にしなければ。
何か食べ物を……
何か……
なにを……?
あれ、私何を食べれば……?
周囲の民家を探してみても、大抵はもぬけの殻か、あっても腐った物だけ。ここにはハナコ先輩もミカちゃんもいないから、手料理もロールケーキももらうことはできない。あの時の様にスケバンが食べ物くれたりもしないだろう。
まずい……いろいろありすぎて忘れてたけど、そういえば食料は死活問題だ。黒服め、食料の一つくらいくれたってよかったのに!
———ぐぅううう……
私とは対照的に胃は元気だ。おなかからの悲鳴が誰もいないアリウス自治区に虚しく響く。
そしてその音に誘われるように、私の足元へ近づいてくる一匹の動物がいた。
———チューチュー
「……ネズミ?」
ネズミ…ネズミだ……!
鹿や猪はともかく……こ、こいつなら…私でも仕留められる!
やっと見つけた手ごろなカロリー源に私の心が躍った。
けど。
……けれど。
私の中に残ったわずかな自尊心がそれを躊躇わせる。
「いくのか……? ネズミを……?」
ネズミだ。あのネズミだ。
ゴミ箱の残飯を漁り、ドブの中をほっつき歩いていたであろうあのネズミだ。どんな細菌や寄生虫を飼っているか分からない。
「チュー?」
つぶらな瞳が私を射抜く。思わず唾を飲み込む。
おなかは相変わらず元気である。今ならなんだって食える気がする。
……そうだ。いくぞ。私はやるぞ……。
ネズミを…あのネズミを……食べてやるぞ……!!
「うおおおおおお!!」
……と、私が雄たけびを上げると
「チューー!?!?」
「あっ」
当然だけど、ネズミはどこかへと逃げてしまった。
「や、やってしまった……」
やらかした。せっかく見つけたタンパク質を逃してしまった。
はぁ、仕方ない。私の左腕でも食べよう。ネズミよりは抵抗感ないし。指とか切ってしゃぶってれば食べ歩きグルメみたいでいいんじゃないか?
私の指示無く動かなくなった以上、落とし前はつけてもらおう。ほら、兄貴の好きなケジメですよ、っていうやつだ。やったろうやないか、イトが如く。
「……あれ?」
ドス(折り畳みナイフ)でまずは小指からいったろかと構え始めた、その時だった。
「……バッタ?」
またもや私のことに舞い込んだ小さな命。しかし今度はバッタである。
「バッタだ!」
きた! タンパク質! カロリー源!! しかも割と清潔!!
こいつなら私も簡単に捕まえられる!
……おいしい。エビみたいで。醤油とか塩とかあればもっとうまそう。
「うぅ……」
バッタをおいしく感じてしまう事実に、少しだけ頭を抱えるのであった。
***
「はぁ…はぁ…なんなのこいつ!」
瓦礫の山と化した古聖堂、私はそこへイトちゃんを探しに向かった。
瓦礫を砕いて塵にしながら隅々まで探し回った。一日くらいはそうしていたと思う。
しかし見つからない。イトちゃんの残滓すら感じることができない。探してる間も多くの負傷者が運ばれていったけれど、そこにもイトちゃんの姿はなかった。
辛かった。見つからない時間が、イトちゃんの今を明確にしていくようで。
「っ、邪魔!!」
そうして、今まで目を瞑っていた残酷な事実がじわじわと心を覆い始めた頃、こいつは現れた。
聖職者のような見た目の巨大なバケモノ。四本腕のうち二本は常に祈りを捧げており、顔はぽっかり穴が開いたような真っ暗闇でよく見えない。
とにかく、私はこんなよく分からない奴に数時間足止めを食らっていた。
基礎スペックは私の方が上だろう。パワーもスピードも負ける気はしない。
ただ、なんというか、こいつと私は
このままやり合えば多分勝てる。でもそれは何時間後になるか分からない。ひょっとすれば一日以上かかるかもしれない。
その時にはきっと…一縷の希望すら潰えてしまうだろう。
「……っ」
いやだ。そんなの、絶対に……!
「ヒナ、今だよ!!」
「……!」
瞬間、凄まじい弾幕がバケモノを覆った。声のした方に目線をやると、そこにいたのは二人。
「せん、せい……?」
先生と、
「ミカ! 話は後だよ!!」
先生が叫ぶ。先生のこんな顔を見たのはこれで二回目だ。
そして先生はその手を懐へ向かわせた。
「“大人のカード”を使う!」
そこからは早かった。
先生が使った“大人のカード”の効力は絶大で、バケモノを倒すのに時間はかからなかった。心なしかいつもより私の動きも良かった気がする。
「……で?」
戦闘を終え、身の回りの安全が確保されたけれど、むしろ私にとってはここからが本番だった。
「今更何の用?」
空崎ヒナに向き直る。
「ゲヘナなんかにウロウロされても、鬱陶しいだけなんだけど?」
空崎ヒナは相変わらず下を向いたままだ。その様子に心底腹が立つ。
イトちゃんを見殺しにしておいて今更どんな面下げて私の前に表れたの?
「……」
ウザい。鬱陶しい。
「なんか言いなよっ!!」
私は自分の思うままに、私は彼女へ拳を向けた。
「っ!」
「ヒナ!」
「いい、先生……」
みぞおちへの衝撃に蹲る彼女へ、先生が心配の声を上げた。いい加減先生もめんどくさくなってきたな。
「……へぇ、やっぱり強いんだね。私、ヘイローを壊すつもりで殴ったんだけどな」
「ミカ……!」
私の放ったそれは、普通の人が食らったら間違いなく病院送りになるものだ。私とて私の強さは自覚している。前だってイトちゃんを抱きしめたら危うく背骨折るところだった。
「大丈夫…けほっ、聖園ミカには私を殴る権利があるから……」
「あはっ☆ 何? 殺されにでも来たの? いい度胸してんじゃん!」
実際、彼女と殺し合いをしたらどっちが勝つか分からない。私も強いけど、空崎ヒナも相当なものだ。
でも今なら殺せそうな気がする。
彼女にその気がないのもそうだけど、何より今の私には迷いがない。
空崎ヒナもアリウスも
自分でもびっくりだけど、今はそのことに一切の疑いがない。
「聖園ミカ…私は、謝りに来たの……」
「……へぇ?」
「今更…何を言っても遅いのは……わかってる、けど……」
雨が降っている。それもひどく鬱陶しい。
「ごめんなさい…あなたの…大切な人を見殺しにしてしまって……」
「……」
「だけど、私にも協力させてほしい…! もちろん、それで許されるなんて思ってない」
空崎ヒナは続ける。
「イトには…助けてもらったの……。だから……」
「今の今まで逃げてたのに?」
「……っ、ええ。不甲斐なくて…ごめんなさい……。もしイトが…戻らなかったら……その時は、私を殺してくれて構わな———」
「ヒナ」
それを、先生が制止した。
「それだけは駄目だ」
「先生……?」
その時の先生の顔は、今までにないくらい真剣なものだった。
「命を落としてしまったら…そこで全て終わりだよ? どれだけ罪の意識に苛まれても、それだけは絶対に駄目なんだ」
先生は分かったような口を利き始めた。
一体何様のつもりだろう。大人ってそんなに偉いの?
「それにミカも」
「……?」
「ヘイローを壊すなんて、冗談でも言っちゃ駄目だ」
……へぇ。
先生はこの期に及んでまださっきのあれを冗談だって思ってるんだね。
どこまでも楽観的で平和主義者。それが先生の美徳なんだろうけど。
……反吐が出る。
あなたがそんなだから、イトちゃんは……。
「イトを想ってのことだとしても、感情に身を任せて間違いを犯すつもりなら許さないよ」
「……」
「なにより、イトはそれを望まないはずだ」
「……は?」
先生がそこまで話して、明確に分かった。
私、この人が嫌いだ。
大人ってだけで何もかも知った気になって、まるで自分と同種じゃないみたいに私たちを扱って。
「……先生はイトちゃんの何を知ってるの?」
「……」
「大人のくせに、手の届くところにいたくせに、イトちゃんを守れなかったくせに……!」
「……」
「分かったような口きかないでよ!!」
許せなかった。なんの関係もない人にイトちゃんを語られるのが。
イトちゃんの努力も、苦しみも、私が一番知ってるんだ。それを……。
「……確かに、私はイトのことをよく知らないかもしれない」
「だったら!!」
「でも、イトが優しい子だってことは知ってる」
「……!」
そんなの、私が一番……!!
……
…………
「………………わかった」
私が一番知ってる。
そう言いかけて、やめた。
思えば、私はイトちゃんの過去を知らないままだ。思えば私はイトちゃんに頼られたことがなかった。
それを思い出してしまったから。
そんな状態のまま、イトちゃんの一番なんて言いたくなかったから。
「空崎ヒナ」
「な、なに……?」
イトちゃんに、頼ってほしかったから。
「私と一緒に、イトちゃんを助けにいってくれる?」
「……!」
空崎ヒナが顔を上げた。
「ほんとはゲヘナと…ましてあなたと協力なんて絶対に嫌。だけど…それでイトちゃんを失うことの方がもっと嫌」
「……」
「ただしイトちゃんを見つけるまで。その後のことは約束しない。……これでいい?」
「わかった。それで、いい」
虫唾が走る思いだ。空崎ヒナのうじうじした顔も、先生の理解者面も全部大嫌い。
だけどこんなことで我儘を言ってはイトちゃんに顔向けできない。だから、我慢する。
「そうと決まれば……アロナ!」
『はい、先生!』
そうして先生は唐突にタブレット端末へと話しかけた。
「アロナ……? 誰?」
空崎ヒナも知らないようだ。タブレット端末に話しかけるなんて、どこからどう見てもやばい人だけど……今の状況でふざけるはずもないだろう。
「イトの携帯の位置、調べてもらえる?」
『うーん…イトさんの携帯……今は電波の届かない場所にあるみたいです……』
「じゃあ、イトの携帯の電波が切れた場所は分かる?」
『はい、少々お待ちください! えーと……見つかりました!』
先生は独り言を続ける、けど、それは明らかに誰かと会話しているものだった。
空崎ヒナと顔を突き合わせる。お互いに疑問符を浮かべていた。
『イトさんが最後に消息を絶ったのは今からおよそ36時間前、場所は古聖堂の地下、カタコンベの入り口です!』
「36時間前…爆発後すぐ、だね。ありがとう、アロナ」
そう言って先生はタブレットを懐にしまった。どうやら何か解決したらしい。
「二人とも、イトが向かった場所が分かったよ」
「「!」」
その言葉に私の心に希望が差した。ようやくイトちゃんへの手掛かりがつかめるかもしれない。そう思うだけで居てもたってもいられなかった。
けれど。
手がかりをつかんだはずの先生の顔は、決して明るいものじゃなかった。
イトちゃんに役割を奪われたので、ミカの先生に対する好感度はかなーり低いです。