一話で書こうとしたら長くなりすぎたので分けました
「あ、イトちゃーん!」
時刻は朝10時頃。燦燦と輝く太陽に照らされながら、私は駅前に立っていた。かなり人も多くて、デカくて聴力に優れた私のちょーゆーしゅーな耳にはまあまあな音量が響く。全く、駅前とは大変にぎやかなところで結構なことである。
「こんにちは、ミカ様」
なぜこんな場所に立っているのかというと、何を隠そうミカ様との約束のためだ。え?なんの約束かって?もちろん遊ぶ約束である。
……いや、びっくりするのもわかるが私が一番びっくりしている。だって普通に考えておかしくない?私、ちょっと前までホームレスだよ?
しかし、誘ってくれたのはミカ様の方からだ。あの一件以降、話しかけられることが多くなった。恐れ多くも一緒にお昼食べたり、お茶会に参加させてもらったりと、かなり関わらせてもらっている。
……少し前までミカ様が笑うことは少なかったけれど、最近はよく笑ってくれるようになった。私も少しくらい役に立てたならいいんだけど。
……多分、セイア様は生きているだろう。セイア様の死と同時に救護騎士団のミネ様が行方をくらませた件、無関係ではないはず。あれからしばらくたった今でさえ行方が分からないのだから、セイア様の徹底した保護がなされているのではないかと思う。……確証はないけれど。
しかしセイア様の襲撃は実際にあったわけで、ミカ様がそれに一枚噛んでいることは確かだ。その証拠に、ミカ様はあの時こう言っていた。
『セイアちゃん……ごめんね……。私のせいで……私がバカなせいで……セイアちゃん……しんじゃった……。ごめん……本当にごめんね……』
……ミカ様は利用されたんじゃないかと思う。実際にセイア様を襲撃したのはミカ様じゃないはずだし、実働部隊があったはず。そことミカ様は協力していたんだろう。そこで意見の食い違いがあったのか、はなからミカ様は利用されていたのかはわからないが。
……実働部隊の正体はまだわからない。わかることと言えば、明確にトリニティへの敵対意志があるってことくらい。真っ先に思い浮かぶのはゲヘナだけど、ミカ様はゲヘナが嫌いなはずで、協力するとは考えにくい。あとは突飛な発想だけど、トリニティ、ゲヘナに次ぐマンモス校「ミレニアム」がキヴォトスを支配しようと躍起になっているのか?
あるいは……アリウスだろうか。でもここの実態がよくわからなさ過ぎて、そんな実働部隊が用意できるのか疑わしい。
あと参考になるのはミカ様の動機だけど……それを推察するには、私はこの人を知らなさすぎる。
だから、正直言ってミカ様が私に興味を持ってくれているっぽいのはありがたくもあった。如何せん情報が足りなさすぎる。しかしそれはそれとして、もちろん普通に嬉しくもある。
……しかし、さっきからミカ様の顔がしかめっ面だ。
「……イトちゃん、その恰好なに?」
「え、制服ですが……」
「私服は?」
「多少は持ってますけど……ミカ様とお会いするのには無礼かなって……」
「……」
突如としてミカ様が黙る。ミカ様はトリニティでも有数の権力者なのだから、粗相のないように心がけるのは当然である。ちなみにミカ様は、白のタートルネックニットに、黒のVネックロングワンピースを着て、靴は底が厚い黒のブーツを履いてる。腕にはいつものシュシュをつけていて、首からはキラキラのネックレスを下げている。なんか大人っぽくてちょうかわいい。
……しかしミカ様はずっと動かない。
「えっと…ミカ様の服かわいいですね!」
「……」
ミカ様は黙ったままだ。な、なんか気まずい……?
「あの……ミカ様……?」
「……」
「えっと……ミカ様?私、何か失礼を……?」
「イトちゃん!」
「は、はい!」
突然のミカ様の大きな声に背筋が伸びる。
「その!呼び方!ミカ様ってやつ!やめない!?」
「ええ!?」
……わーお。
「では、何とお呼びすれば……」
「呼び捨てでも、”ちゃん”付けでも、なんでもいいよ!でも”様”はいや!」
「……ミカ殿?」
「なんでそうなるの!」
この人表情がころころ変わるな。かわいい。
「えへへ、嘘です。じゃあ、行きましょうか、ミカちゃん?」
「……!うん!」
ミカ様———改めミカちゃんがにっこりと笑う。ミカちゃんはいろんな表情を見せるけど、やっぱり笑顔が一番かわいい。
……しかし、ミカちゃんか。余裕ぶって揶揄ってみたけど、何ともこう……浮き足立つような、そんな気分だ。
「イトちゃん!早くっ、いこ!」
「わっ」
ミカちゃんが私の腕をつかんで走る……って、力つよ!?足はや!?
私は慣性に任せて足を浮かせ、電車の中まで連れていかれた。まわりの視線は痛かったけど、ミカちゃんはそんなの気にしてない様子だった。
……それにしてもミカちゃん、なんか幼くなったような?
……気のせいかな。
***
電車に揺られてたどり着いたのは、D.U.にある巨大なショッピングモール。それはもうバカでかい。洋服店、飲食店、ゲームセンターに映画館……と、若者御用達のスーパー施設である。
「まずはご飯だよね☆イトちゃんは好きな物とかあるの?」
ミカちゃんはずっと笑顔だ。かわいい。ちなみに、電車の中でもここでも私の手をずっと握っている。私は構わないのだが、大丈夫だろうか?私、手汗とか、かいてない?
「た、たこやき……」
私は顔を伏せながら答える。だって恥ずかしくない?お嬢様学校の生徒の姿か?これが……。でもこういう時に変に遠慮された方が嫌だと思うんだ。「なんでもいいが一番困る」理論である。……だとしてもたこやきはミスチョイスな気がしてきた。
「じゃあそれ食べよ!」
しかしミカちゃんは一層笑顔を深める。私は相変わらずミカちゃんに引っ張られながら、フードコートへと向かった。
「はふはふっ」
お昼時ということもあって、フードコートは大変混雑している。席に座れたのはラッキーだったかも。
「だ、大丈夫ですか!?」
ミカちゃんは、あつあつのたこやきを丸々口に含んだせいではふはふしている。いや、冷静に考えてトリニティのお姫様に食べさせるものじゃないな。好きな物を聞かれてちょっと正直に答えすぎた。ブラックマーケットにいたときに客にもらったたこやきがうますぎて、それからたこやきが好物になってしまったのだ。
しかし、私の心配にミカちゃんは手で丸を作って答えた。よかった、ひとまず火傷の心配はなさそう。ミカちゃんに火傷を負わせようものなら一大事である。
しばらく咀嚼した後にミカちゃんがたこやきを飲みこむ。そしてすぐに二つ目を取り、今度は入念にふーふーして冷まし始めた。
そして、それを口に運ぶかと思いきや、あろうことか私に向けてきた。
「イトちゃん、はい、あーん」
……これ、私がもらっていいやつなのか……?相手はトリニティのお姫様ぞ?
「あ、あーん」
しかし差し出されたからにはもらうのが礼儀である。
「おいしい?」
「おいしいです……」
ちょうどいい温度になったたこやきを咀嚼する。このたこやき、タコがデカめで非常にぐっどである。
「じゃあ、イトちゃんも」
そう言ってミカちゃんは目を閉じて口を開く。え?これ私があーんするのか?ミカちゃんに?恐れ多すぎないか??
「……ふー、ふーっ。あ、あーん」
「あーん☆えへへ、おいしい」
私も入念に冷ましてからたこやきを渡す。ミカちゃんはすごくいい笑みだ。いろいろと思うところはあるけど、まあ幸せならOKです。
「イトちゃんはどんな服が好きなの?」
「う、うーん……」
次にやってきたのは洋服店。どうやらミカちゃんは服が好きみたいで、さっきから一際テンションが高い。しかし、どんな服が好みか聞かれても困ってしまう。なにせ基本的に休日はジャージで過ごす。そうじゃなくても無地のオーバーサイズパーカーを着て、布切れ一枚だったホームレス時代に戻った気分を味わうくらいしかファッションの楽しみ方を知らないのだ。
「私、あまりファッションには明るくなくて……」
「じゃあ私がコーディネートしてあげるね!」
……そこから先はすごかった。めちゃくちゃいろいろな種類の服を試着させられた。ミカちゃんは、しっかり見ないとどこが違うのかわからないような服を見比べてうんうん唸ってた。すごいなミカちゃん。私にはない感覚だ。
でも、私は普段のミカちゃんの様子から、てっきりかわいい感じを着させられるのかなと思っていたけど、実際は意外と落ち着いた系統が多かった。私としてもあんまり目立ちすぎる格好は遠慮したかったので、そこはありがたかった。
でも問題はたまに持ってくるネタ衣装だ。とくに途中で持ってきた、背中がガラ空きな服なんてひどかった。私が試着室から出てきた瞬間、
『セイアちゃんみたーい!』
と言って大爆笑していた。騒ぎすぎて店員に注意されてしまったが。そういえばセイア様こんな服着てたな。セイア様この服やばいよ……普通に考えてえっちすぎるよ……。
……でも、ミカちゃんが笑ってくれるようになって、私は本当に嬉しい。
そこそこの時間洋服屋にいたけれど、結局買ったのは黒いキャップだけだった。ミカちゃん曰く、私が元々持っているパーカーと合わせやすいらしい。確かになんかいい感じな気がする。よくわかんないけど。
あと、キャップにはお店が私の大きな耳を通す用の穴を開けてくれた。なんと無料である。無料以上にお得なことはないからね。ありがたい限りである。
洋服屋から出た後は、ショッピングモール内を二人で適当にぶらぶらしている。こうしているだけでもミカちゃんは楽しいみたい。
そんな時、ミカちゃんが妙によそよそしく話しかけてきた。
「イ、 イトちゃんさ……」
「はい、どうしました?」
「わ、私、専属の……付き人に、なってくれない……?」
「付き人、ですか?」
「うん……私と、一緒に、暮らすってこと……なんだけど」
ミカちゃんは今、トリニティ内の建物を一つ、丸々使って生活をしている。パテル分派の代表というのはそれだけ高い立場のお方ということだ。ミカちゃん専属の付き人ということはつまり、その建物でミカちゃんに給仕する、言うなればミカちゃんのメイドになるみたいなものだ。もちろんメイド服を着るわけではないが。
……私としては、これ以上ハナコ先輩に迷惑をかけなくてよくなるので願ったり叶ったりである。さすがに私もそろそろ自立せねば。普通に考えれば断る理由はない。
懸念としては……私という異分子がつくことでミカちゃんの周りからの評価が下がることと……思い上がりかもしれないが、ミカちゃんが私に依存してしまう可能性があること。それと個人的な理由だが、私が目立つことはできるだけ避けたいこと。
……まあでも、何とかなるか。ミカちゃんの傍にいられるのならばそれが一番だろう。
「はい、わかりました」
「ほ、ほんと!?」
「はい。むしろこちらの方こそ、よろしくお願いします」
「よ、よかったぁ……」
ミカちゃんは安心したようにため息をついた。そんな様子に思わず頬が緩む。寄り添うといった以上、私はとことんまで付き合うつもりである。
「あ、アクセサリー!」
その後歩いていると、ミカちゃんが特に関心を示す店があった。アクセサリー店である。なんでも、ミカちゃんはアクセサリー集めが趣味なんだとか。確かに、ミカちゃんの羽とかすごいキラキラしてるもんね。かわいい。
……しかし私には別の問題がある。実はさっきからずっと我慢していたことを口にする。
「……ごめんなさい、ミカちゃん。私、ちょっとお手洗いに……」
私が申し訳なさに声を落としてそう言うと、ミカちゃんは納得したように口を開いた。
「あ、うん!私先に行ってるね☆」
私のお花摘みの間、ミカちゃんはアクセサリー選びをしていてくれるようだ。よかった、待たせるのが一番申し訳ないからな。
そうして、結構ギリギリな私は早歩きでトイレへと駆け込んだ。
……私を付け狙う影にも気づかずに。
ミカの服装は筆者の趣味です。