ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。   作:マチルダ鈴木

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ついに7月1日がやってきました。
物語が少し進行します。


再会と出会い

それから約1月が経過した。

7月1日、私達は端末を確認するとすぐに異変に気付いた。

しかし、想定内の範疇なので慌てる事無くいつも通り身支度を整えて学校へ向かう準備を行う。

部屋を出る前に、携帯の通知が鳴った。

確認すると、メッセージが届いており、送信者は椎名だった。

 

 

『藍宝さん、おはようございます。良ければ、期末テストの勉強を今日の放課後一緒にやりませんか?』

 

 

椎名と友人になってから、私達は好きな本の話をしたり、勉強をしたりと放課後や休日に一緒にいる事が多くなった。

そして、今月の中頃、期末テストがある為椎名の申し出は断る理由が無い。

坂柳や葛城に呼ばれなければ、一緒に過ごすような友達もいない為、椎名の誘いはとても有難い。

 

 

『勿論だよ!一緒にやろう!私の部屋でも良いかな?』

 

 

と送信すると数秒後、了承の返事が届いた。

可愛いハムスターのスタンプを送り、部屋を出る。

寮の外に出ると、ちょうど坂柳と葛城が話しており、私が来た事に気付いた2人が私を見て口を開いた。

 

 

「おはようございます、茉莉花さん、葛城君。」

 

 

「おはよう、坂柳、藍宝。」

 

 

「2人ともおはよう。ねぇ、携帯見た?」

 

 

2人に挨拶を済ませ、私が問い掛けると何の事を言っているのかすぐに理解したようで、ふたりとも頷いた。

 

 

「ポイントが振り込まれていませんでしたね。」

 

 

「ああ。他のクラスの生徒にも確認を取ったが、どのクラスもポイントが振り込まれていないようだ。」

 

 

仕事が早い葛城に、坂柳は感心したように声を零す。

 

 

「では、葛城君は今回の件が誰の仕業なのか、お分かりですね?」

 

 

「ああ。Cクラス…龍園翔の仕業だろうな。」

 

 

以前彼等と集まって話し合いを行った時、次事を起こすのはCクラスだと言っていた。

彼らの読み通りに事が進んでいるのであれば、標的はDクラスのはずだ。

 

 

「という事は、Dクラスがターゲットになってしまったのかな?2人の予想通り。」

 

 

「恐らくは。」

 

 

「そうだろうな。」

 

 

ホームルームが始まると、真嶋はCクラスとDクラスの間にトラブルが発生した為、ポイントの支給が遅れていると話した。

それらの説明を受け、坂柳と葛城がニヒルな笑を零し、何かを画策し始めたようだ。

 

 

「おーい、藍宝!」

 

 

珍しく橋本に声を掛けられ振り返る。

彼はいつも通り人のよさそうな笑みを携え、私の元へやってきた。

 

 

「どうしたの?橋本君。」

 

 

「Dクラスの森って女子生徒が外でお前を呼んでるぜ。」

 

 

そう言われ、廊下の方を見れば椎名が私に気付いてニコリと微笑んだ。

私は橋本に礼を言い、森の元へ向かう。

 

 

「お待たせ、森さん…って、森寧々ちゃんだよね?覚えてる?私が小学校の頃、同じ塾に通ってたよね?」

 

 

「覚えててくれたんだ。久しぶりだね、茉莉花ちゃん。」

 

 

森寧々は私が小学校時代に通っていた学習塾の可愛らしい友人だ。

学力レベルは可もなく不可もなく、塾の中では真ん中に位置しており、風の噂で中学受験をしたと聞いたが、この学校に入学している時点で何かあったのだと分かる。

特別親しかったわけではないが、席が隣になれば話したり、一緒に自習室で勉強をする程度には仲が良かった。

 

 

「寧々ちゃんもこの学校に入学していたんだね。確か、私立の学校に通っていたんじゃなかったっけ?」

 

 

「そう、なんだけどね…」

 

 

中学時代の事については話したくないようで、口を閉ざしてしまった。

私は話題を変える為、本題に入る事にした。

 

 

「寧々ちゃん、休み時間も短いし、本題に入ろっか。一体突然どうしたの?」

 

 

「あのね、茉莉花ちゃんにお願いがあるの。…私に勉強を教えてくれない?」

 

 

「え」

 

 

予想外の発言に私は面食らった。

彼女は別に学業成績が低い生徒では無いはずだ。

では何故、私に勉強を教えて欲しいと頼んで来たのだろうか。

 

 

「理由を聞いても良いかな?寧々ちゃんの成績が悪いなんて話聞いた事が無いし、どういうこと?」

 

 

私が疑問を口にすると彼女はすぐに話し始めた。

 

 

「実は、私中学受験をした後学校の勉強に着いて行けなくなってしまったの。それで、勉強はやめて友達と沢山遊んで青春を謳歌していたんだけど、遊びすぎて高校へ上がる基準を満たせてなかったみたいでさ。外部の学校を受験して入学したんだけど、結局入学してからも似たような友達と遊んでばっかりで、勉強が疎かになっちゃって。一度タガが外れちゃったら、元に戻るのは難しいって事にようやく気付いたんだ。」

 

 

要約すると、中学の勉強に着いて行けず、似たような境遇の友人と遊び呆け、なんとか高校受験をしてそれなりの学校に入れたが、中学の二の舞になりそうなので、勉強に着いていけるように助けて欲しい…といったところだろうか。

 

 

「突然こんなお願いをしちゃって申し訳ないと思ってる。断ってくれても良いからね。」

 

 

困り顔ではにかむ事でさらに彼女の可愛らしさが引き立つ。

森寧々の小学校時代しか知らないが、彼女はとでも可愛らしい人だった。

再会してからは、少し派手な風貌に変化しているが、それでも当時のような真面目さは消えていない。

私は彼女に笑いかけた。

 

 

「寧々ちゃん、そのお願いの相手が私で良いのであれば、叶えさせて欲しいな。」

 

 

「ほ、本当に?良いの?」

 

 

「うん!私もそこまで頭が良い方では無いけど、少しでも学力を上げれたらいいなって思ってたんだよね。良かったら、今日の放課後とかどうかな?Cクラスの椎名ひよりちゃんと一緒に勉強をする約束をしているんだよね。良かったら一緒にやらない?」

 

 

「今日の放課後は…」

 

 

森が携帯を開きスケジュールを確認する。

 

 

「ごめん、友達とカフェに行く約束があるんだ。でも、夕方…だいたい6時くらいには寮に戻ると思うから、それ以降なら大丈夫だよ。」

 

 

「そっかそっか!じゃあ、6時くらいに私の部屋に来て。そしたら一緒に勉強しよう。」

 

 

「了解!じゃあ6時頃に茉莉花ちゃんのお部屋に行くね。あ、そうだ!今連絡先交換しておいても良いかな?」

 

 

「おっけーだよ!」

 

 

ポケットから携帯を取りだし、チャットアプリを開く。

お互いの連絡先を交換し、私達は別れた。

その後、椎名に勉強会に友人が参加する事を伝え、授業の準備をする。

1時間目が教室で行う英語の授業で助かった。

放課後、寮に戻り椎名が来るのを待っていた。

大福さんの巣箱やトイレを掃除したり、水を交換したり、ひんやりハウスの水を抜いて氷を入れ直したり、やる事は沢山ある為、暇する事は無かった。

 

 

「大福さん、暑くない?大丈夫?夏なのに床材の下に潜って…見ててすごい暑くなるよ。」

 

 

おがくずの中でモゾモゾと動き、時折回し車を回したり水を飲んだりする為に地上に出てくるが、何故かおがくずの中に潜っている。

エアコンの温度を2度上げて様子を見ると、数分後外に出てきてひんやりハウスの中に入った。

エアコンの温度を1度下げ、様子を見て温度調節をしていこう。

約30分後、部屋のチャイムが鳴った。

 

 

「椎名さん!入って入って。てあらいとうがいはしっかりお願いね!」

 

 

「お邪魔します、藍宝さん。では、洗面所をお借りしますね。」

 

 

可愛らしい笑みを浮かべる椎名を部屋に招き入れる。

椎名が手洗いうがいを行っている間に、ケーキとグラスを二つ用意し、テーブルの上に置く。

 

 

「大福さん、こんにちは。お邪魔しますね。」

 

 

大福が生活するゲージをチラリと見て、挨拶をする椎名はとても可愛らしい。

そして、とても優しい人間だと分かる。

大福を1匹の住人として接してくれているのだ、家族として嬉しくないはずがない。

 

 

「飲み物は紅茶を切らしてるから、ルイボスティーとレモネードしかないや。どっちが良い?」

 

 

「では、ルイボスティーでお願いします。」

 

 

グラスにルイボスティーを注ぎ、ケーキを食べながらのんびりと勉強を始めた。

勉強を始めてしまえば会話は無く、それぞれ自分のペースで自習をする。

私は数学、椎名は生物基礎の勉強をしており、苦手克服の為に努力している。

 

 

勉強から2時間が経過した頃、部屋のチャイムが鳴った。

大福がひょこりとひんやりハウスの中から顔を出す。

恐らく森がやって来たのだろう。

 

 

「おや、誰か来たようですね。藍宝さんの御友人でしょうか?」

 

 

椎名が首を傾げて私に尋ねる。

 

 

「多分そうだと思う。ちょっと出てくるね。」

 

 

玄関まで行き、ドアを開けると森と目が合う。

 

「やっほー?茉莉花ちゃん。お邪魔するね。」

 

 

「こんにちは!寧々ちゃん!さあ、入って入って!手洗いうがいは洗面所で済ませてね。」

 

 

「分かった。洗面所借りるね。」

 

 

森が手洗いうがいをしている内に、森の分のグラスとケーキを用意する。

時間的にキリが良いので、私と椎名も勉強を中断して休憩をとる事にした。

森が部屋に入るとある一点を見つめて、固まっていた。

 

 

「え…は、ハムスター、だよね?」

 

 

「そうだよ。ジャンガリアンハムスターのパールホワイト色の私の家族…大福さんだよ。」

 

 

「え、か、か、」

 

 

「か?」

 

 

椎名が森の真似をして首を傾げる。

 

 

「可愛いいいい!!」

 

 

森は大福さんがびっくりしない程度の大きさの声で、楽しそに話し始める。

こういう小さな配慮が森の良いところであり、真面目な性格が現れる瞬間だ。

 

 

「この学校って、ペットOKなの?」

 

 

「許可を得れば、ペットと一緒に生活しても良いんだ。ほら、敷地内のモールにもペットショップがあるでしょ?あそこで買う事も出来るんだよ。」

 

 

「へぇ、そうなんだ。とっても可愛いね、大福ちゃん、こんにちは。」

 

 

森が大福さんに向けて挨拶をするが、大福さんはチラリと見てからひんやりハウスの中へ戻って行った。

 

 

「あれまあ、まあ仲良くなるのは難しいのかな。でも凄く素敵な色だね。」

 

 

「そう言って貰えると、家族である私も嬉しいなぁ。じゃあ、そろそろ自己紹介でもしておこうか。椎名さん、お願い出来る?」

 

 

椎名と森は他クラス、性格も真反対に位置している為、初対面と考えるのが自然だ。

そして、森が部屋に入ってから今まで椎名の真似以外で会話が一切無い為、友人では無さそうである。

だから、椎名と森には簡単な自己紹介を行ってもらい、親睦を深めて欲しいと思っている。

私に促され、椎名は真っ直ぐ森を見つめて口を開いた。

 

 

「私の名前は椎名ひよりです。1年Cクラスの生徒です。趣味は読書で、藍宝さんとは読書という共通する趣味のおかげで仲良くなりました。宜しくお願いします、森さん。」

 

 

椎名の自己紹介を受け、森も話し始める。

 

 

「Cクラスって、今うちのクラスと問題が起きてるクラスだよね?…私の名前は森寧々。Dクラスの生徒だよ。茉莉花ちゃんとは、小学生の時通っていた塾が同じで、仲良くなったんだ。宜しくね、椎名さん。」

 

 

その後、CクラスとDクラスで起きているトラブルに着いて話し、椎名の好きな本や私の好きな映画、森の好きな洋服ブランドなど、趣味に関する話をした。

森は根が真面目なので、椎名や私のようなインドア系の趣味に関する話も笑う事なく、楽しそうに聞いてくれる。

こういうところが彼女の好かれる理由なのかもしれない。

そして、私達も女であり、森の好きなオシャレや美容に関する話も嫌いではない。

飽きること無く、楽しく雑談する事が出来た。

 

 

その後、雑談を辞めて各々勉強を始め、分からないところがあれば一緒に考えたり、教え合ったりと有意義な時間を過ごす事が出来た。

隣に人が居るだけで、やる気が漲り、集中力が高まる。

それを知れただけで、十分な利益になった。

普段は椎名と黙って黙々と勉強をしていたが、森が入る事で自分が教える立場に立ち、教えた内容に関する知識が深まる。

そして記憶に残りやすくなる。

インプット、アウトプットのサイクルができ、それらを循環する事で定着率が高まる。

つまり、勉強会は良い事づくめという事だ。

 

 

「ふあー、疲れたよ。」

 

 

約2時間が経過した頃、私が床の上に寝転がった。

床は固いが、ずっと正座をしていたからか足がしびれ、肩が凝ってしまった。

だから寝転がり、体を伸ばしてリラックスする。

 

 

「あはは、茉莉花ちゃん伸びてる。」

 

 

森が私を見て笑うが、2時間半の勉強といえど、習慣化されていない者にとってはかなりの苦痛だろう。

彼女の笑顔には僅かに疲れが見えた。

 

 

「ですが、私も少し疲れてしまいました。」

 

 

椎名もごろんと床に寝転んで、ボーッと天井を眺める。

それを見て森はクスリと笑い、私達同様に床に寝転んだ。

 

 

ふと時計を見れば、時刻は午後9時を指している。

もう遅い時間だ。

今から料理を作るとなれば、寝る時間が遅くなってしまうかもしれない。

 

 

「ねぇ、みんな。カップラーメン食べない?」

 

 

「ふわぁ、カップラーメン?」

 

 

森が欠伸をしながら私を見る。

 

 

「うん。みんな今から帰ってご飯じゃ大変だろうし、勉強してお腹も空いてきたし、カップラーメンで済ませない?ちょうど3つあるんだよね。」

 

 

そう言って近くの棚を指さす。

そこには醤油味と塩味、シーフード味のカップラーメンが置かれている。

 

 

「本当に良いのですか?」

 

 

「うん、いいよ。」

 

 

そう言うと、ひよりは嬉しそうに笑った。

 

 

「では、カップラーメン有難く頂戴させていただきます。」

 

 

そう言うと、森も苦笑し、椎名に続いてカップラーメンを食べたいと言った。

私はお湯を沸かす。

その間に大福さんのご飯を交換し、カットしたキャベツと一緒にゲージの中に入れた。

 

 

「あ、食べてる!ちっちゃな手で持って、偉いねぇ。」

 

 

森は大福さんにメロメロなようで、ずっと可愛い可愛いと小さく呟いている。

 

 

「今日はチーズはあげないんですか?」

 

 

「チーズはおやつだからね。昨日あげてるから、今日はあげないよ。」

 

 

「なるほど。おやつという事はカロリーが高いのですね。」

 

 

椎名はハムスターの生活に興味があるのか、よく色々な事を質問してくる。

飼ってみたいようだが、飼うにしても高校を卒業してからと決めているらしく、今家族に迎える事は考えていないそうだ。

 

 

沸騰したお湯をカップに注ぎ、3分待つ。

 

 

「何味にする?」

 

 

「ここはやっぱり、家主である茉莉花ちゃんが決めて。」

 

 

「そうですよ、藍宝さんがお好きな物を選んで下さい。」

 

 

2人にそう言われてしまえば、断るのも申し訳ない。

私はシーフード味のカップラーメンを選ぶ事にした。

 

 

「シーフードにしようかな。」

 

 

「シーフードね。椎名さんはどっちが良い?私は勉強会に参加したのも一番最後だし、椎名さんが選んで。」

 

 

森の提案に椎名は余り物で良いと言っていたが、森が折れなかったので渋々カップラーメンを選ぶ事になった。

 

 

「では、醤油味をいただきます。」

 

 

「じゃあ私は塩味ね。」

 

 

ちょうど3分が経過し、カップラーメンをそれぞれの手元に置く。

 

 

「それじゃあ」

 

 

一息置いてから私達は手を合わせる。

 

 

「「「いただきます!!!」」」

 

 

全ての命に感謝し、カップラーメンをすする。

あたたかいスープ、程よい固さの麺にどんどん箸が進む。

思っていた以上にお腹が空いていたようだ。

 

 

「美味しい〜!ダイエットしてたから、ひっさびさに食べたよ。」

 

 

「え、寧々ちゃんダイエットしてるの?そんなに細いのに、それ以上細くなったらどうするの。」

 

 

「そうですよ。森さんはとてもスタイルが良いんですから。」

 

 

「ええ、そんな事言っちゃって、椎名さんと茉莉花ちゃんもとっても細いじゃない!」

 

 

ガールズトークに花が咲く。

食事中に話をするのは行儀が悪いと言われ禁止されてきたが、友人と語らいながら過ごす時間は嫌いじゃない。

せめて、この学校にいる間だけでも普通の高校生のように素敵な青春を送りたいものだ。

 

 

「じゃあ、今日はありがとう。良かったら、また勉強会に誘って欲しいな。」

 

 

「うん、また誘うね!」

 

 

「そうだ、森さん。良ければ連絡先を交換しませんか?森さんが好きな漫画なんですが、原作が小説なんです。良かったら、今度お貸ししたいのですが…」

 

 

「本当に良いの?じゃあ連絡先交換しよっか。明日学校で会った時に貸して貰えないかな?」

 

 

「分かりました。明日お渡ししますね。」

 

 

真面目な優等生と派手な陽キャ。

初めはどうなる事かと思ったが、2人は意外にも話が合うようで終始楽しそうにしていた。

これからの勉強会が楽しみだ。

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