ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。   作:マチルダ鈴木

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坂柳、葛城と一緒に帰る話です。


溢れる疑問

坂柳さんと寮に向かう途中、葛城君にバッタリ会った。

 

 

「あれ、葛城君も今帰り?」

 

 

「うむ。坂柳と藍宝もか?」

 

 

「ええ。良ければ寮までご一緒しませんか?葛城君。」

 

 

坂柳の提案に葛城は頷き、私に視線を移す。

 

 

「ああ。藍宝も良いか?」

 

 

「勿論だよ。」

 

 

私達は3人で話しながら寮を目指す事になった。

 

 

「そういえば葛城君と藍宝さんはこの学校に来る前からの御友人だそうですね。」

 

 

「ああ。といっても予備校が同じだったというだけだがな。」

 

 

「そうだね。予備校も毎日通うわけじゃないし、毎週会ってるだけだけど。」

 

 

「それにしては随分と親しい関係の様ですね。」

 

 

坂柳さんはそう言うと私の方をチラリと見る。

 

 

「私は予備校時代に何度か葛城君とお話しする機会があってね、それで友達になったんだよ。」

 

 

私は当たり障りのない回答をする事にした。

 

 

「実は、俺が幼い頃ハムスターを飼っていてな、彼女も動物を飼っているからと仲良くなったんだ。」

 

 

私の家は動物が好きな人が多く、我が家では母がペルシャ猫を、父はフクロモモンガを、姉はティーカッププードルを飼っている。

大福さんを飼う前は、私はシマリスの島田さんと一緒に生活していたが、残念ながら1年前にお亡くなりになってしまった。

 

 

「動物ですか。何を飼われているのですか?」

 

 

「母はペルシャ猫を、父はフクロモモンガを、姉はティーカッププードルを飼ってるよ。私は今ハムスターを飼ってるんだ。」

 

 

「かなり沢山の動物を飼われているのですね。ペルシャはお手入れが大変だと聞きましたが、お母様が全てお世話をされているのですか?」

 

 

「そうだね。基本的には母が世話をしているけど、忙しい時はペットシッターの方にお願いしたり、週二で来てくれる家政婦さんにお願いしたりしてるよ。」

 

 

「家政婦を雇っているのか。流石は名桜付属の生徒だな。」

 

 

「今は高度育成高等学校の生徒だよ。それにウチはそんな裕福な家庭じゃないよ。」

 

 

家政婦と言っても、格安の紹介所からの派遣だ。

そこまでお金はかかっていない。

 

 

「そうでしたか。しかし、ハムスターを飼っているという事は3年間会う事は出来ませんよね。寂しくはありませんか?ハムスターの寿命は2.3年だと聞いた事がありますが。」

 

 

どうやら彼女はこの学校でのペット飼育について知らないようだ。

この学校では入学前にペットを飼っている場合、申請をすればペット飼育可の寮へ入寮出来るのだ。

私はその申請をして大福さんと一緒に生活する事が出来る。

 

 

「実はね、学校に許可を貰ってるんだ。学校にいる間はペットを飼っても良いって許可を貰ってるから、私は3年間大福さんと一緒に生活出来るんだ。」

 

 

坂柳と葛城は予想外の発言だったのか、酷く驚いている。

寮でペットを飼えるという事実を知らなかったようだ。

 

 

「…それは驚いた。まさかペットを飼っても良いとはな。学内にペットショップが入っていたから、ペットを飼う事が出来る可能性はあったが、家から連れてきて良いというのは予想外だった。」

 

 

「ええ、その通りです。しかし、家族と一緒にいられるというのはは素晴らしい事ですね。宜しければ、ハムスターを見せて頂けませんか?写真でも構いません。」

 

 

私は端末を操作して、画像フォルダに入っている大福さんの写真を見せる事にした。

 

 

「これが私の家族の大福さんだよ。」

 

 

この画像は、大福さんが小さな手でチーズを持っているものだ。

 

 

「まあ、可愛らしいですね。確かに大福のような色をしています。」

 

 

「前見た時より少し大きくなっているな?」

 

 

「それはさっき撮った写真だからね。こっちは初めて出会った日に撮った写真だよ。」

 

 

写真を見比べるとやはり大きさが違う。

初めて会った日は本当に小さくて、口に入れて食べられそうなくらいの大きさだった。

まさに食べたくなるほど可愛いとはこの事だ。

 

 

「とても小さいですね。」

 

 

「この子はジャンガリアンハムスターって種類で、ゴールデンハムスターよりは小さいんだよ。」

 

 

こんなに小さくてもこの子は私が尊重すべき大切な家族だ。

この子との別れの時まで、私はこの子と一緒に生活する。

一時も離れる事なく、大切に大切に慈しむ。

この子は私にとって命よりも大切な存在だ。

 

 

「私も動物を飼ってみたいとは思いますが、やはり亡くなってしまった時の悲しみを想像すると飼う気が失せてしまいますね。」

 

 

「私も家族とのお別れなんて想像もしたくないし、とっても怖いよ。だからこそ、今ある時間を大切にしようって思えるんだろうね。」

 

 

動物を飼うという事で命の大切さを知った。

それは他者や動物の命だけでなく、自分の命に対してもだ。

今ある有限の時を精一杯生きる事が如何に大切なのか、それを実感した。

だから私は軽々しく死にたい、とは思わない。

どんなに辛くても、今を生きている事を当たり前だとは思わず、日々の平穏に感謝して生きている。

 

 

「…話は変わるが、二人はこの学校の『希望する進路を保証する』という謳い文句についてどう考えている?」

 

 

進路を保証するなんて話聞いた事が無い。

進学実績の良い、セキュリティの万全な全寮制の学校だから入学したのだ。

進路を保証するなんて、国が運営しているからといって何か裏があるに違いない。

 

 

「何それ、そんな話聞いた事ないよ?そもそも、進路を保証するって推薦って事なの?いくら優秀だからって、全員の望む進路を叶えるなんて馬鹿げているよ。」

 

 

「馬鹿げているという点については同意するが、本当に聞いた事が無いのか?藍宝。」

 

 

私は彼の言葉にすぐ頷いた。

 

 

「ここの学校のセキュリティや防犯が万全だって聞いたから、ここに入学しただけなんだ。」

 

 

「確かにここのセキュリティは顔認証システムを搭載していると聞いた。外部から関係者がやって来る際には、その関係者の顔も全て登録されており、不審人物が見つかればすぐに警備会社に連絡が行く手筈となっているそうだ。」

 

 

確か葛城が話している内容は学校紹介のパンフレットにも載っていた。

細かいところまで読んでいるあたり、葛城は以前より更に生真面目な性格になっているのかもしれない。

 

 

「…まさか、進路が保証されているとは知らずに入学する方がいるなんて。しかし、私もこの学校の謳い文句については怪しいと思っています。全員の進路を保証するだなんて、そんな甘い話があるとは思えませんね。」

 

 

進路を保証するだなんて、この学校にどうしてそんな力があるのか。

それとも、この学校を卒業する事がそもそも難しいから、こんな謳い文句を用意しているのか。

一体何を隠しているのだろうか。

 

 

「…まあ、それも含め来月になれば分かるのかもしれないね。」

 

 

「どういう意味ですか?藍宝さん。」

 

 

坂柳が不思議そうな顔で尋ねる。

 

 

 

「一ヶ月後に、来月得られるポイントが判明すれば、この学校のポイントに関するなんらかのシステムについて説明があると思うの。その時に、得られるポイントがクラスに対してか個人に対してかで、話は変わるけど…私は一定以上のポイントを持っていなければ希望する進路に進めないんじゃないかって思ったの。」

 

 

ポイントは正当な評価の表れ。

であれば、そのポイントが減れば減る程評価は下がるという事だ。

実力主義を謳うこの学校において、ポイント数が評価を表している可能性がある。

 

 

「なるほど。ポイントの数で評価が決まり、学校の基準を満たしていれば進路は保証されると、そう仰りたいのですね。」

 

 

坂柳は私の思考をまとめそう言うと静かに口角を上げた。

 

 

「面白い事を考えますね、藍宝さんは。」

 

 

「だが良い着眼点だ。今日得た情報から考えられる範疇であり、俺も納得のいく部分が多い。」

 

 

葛城、坂柳は私の考えを認めているようだ。

優秀そうな2人に褒められて悪い気はしない。

 

 

「そうだ、良かったら連絡先を交換しないか?もし来月支給されるポイントがクラスに対する評価によって変動するのであれば、他クラスとの蹴落とし合う可能性もある。その時、クラスを率いる人間が必要だ。」

 

 

「奇遇ですね、葛城君。私もクラスのリーダーが必要だと考えていました。しかし、葛城君は自らリーダーとなりクラスを引っ張っていきたいと考えているようですね?」

 

 

坂柳は友好的な表情から一転し、氷のような冷たい視線を葛城に向ける。

 

 

「ああ。その為にも生徒会に入り、信用を得られればと考えている。学校をより良いものにしたいという想いは本物だ。」

 

 

「私もリーダーに立候補しようと考えていました。ふふふ、葛城君、貴方とはとことん気が合わないようですね。」

 

 

2人の間でまたもや見えない火花が散っているように見える。

入学早々、クラスが分断するの宜しくない。

私は2人の間に割って入る。

 

 

「じゃあ、葛城君と坂柳さんが2人でAクラスを率いてくれれば問題ないね。」

 

 

2人が訝しげな表情向け、私の次の言葉を待っている。

 

 

「葛城君は生徒会に入り、Aクラスが優秀なクラスだという事をアピールする。坂柳さんはAクラス内を率いる為に、貴方の持つカリスマ性を発揮して、クラスを一つに纏める。外と内、両方に力を知らしめておけば磐石な基盤を作れるんじゃないかな?」

 

 

いくら強い選手を集めた強豪チームであっても、内部の環境や世間からのイメージによりパフォーマンス性能は下がる事もある。

だからこそ、日々の鍛錬や練習を疎かにせず、チームのイメージアップの為にSNSを活用したり、テレビや雑誌の取材を受けて知名度を上げようと努力する。

 

 

どちらか一方のみを頑張ったところで、別の箇所から綻びが生じてしまえば、修復に時間がかかり、パフォーマンスの質が落ちてしまう。

万全な基盤を作る事こそ、勝利する為の近道なのだと私は考えている。

 

 

「…つまり、貴方は私と葛城君の2人でAクラスを引っ張って行くべきだと、そう仰るのですね?」

 

 

「まあそうだね。いがみ合えばその間隙が出来る。まずは磐石な基盤を作るべきだと思うよ?」

 

 

国家だって、土地を用意し、ルールを整備し、統治する者を立て、そこに住む民がいて初めて成り立つ。

そして他国との外交能力があり、初めて世界に対等な関係だと認められる。

派閥を作るにしても、まずはクラスとしての纏まりを持つべきだ。

 

 

「…確かにその通りだ。クラスとしての基盤を作るという意味では、坂柳と争っている時間は無駄だな。」

 

 

「…納得は行きませんが、来月になれば全て明らかになるでしょう。私がリーダーで、葛城くんが補佐をしてくれると言うのであれば、私は藍宝さんの提案を受け入れましょう。」

 

 

「それは…坂柳に有利な条件だ。今すぐに即答は出来ないが、ひとまず来月までは大人しくしていよう。」

 

 

2人の間に流れる空気が少し柔らかくなった。

私達は連絡先を交換し、今後については来月になるまで動きを見せないという事になった。

 

 

「それにしてもこの学校は監視カメラの数が異常だな。」

 

 

「そう?小学校時代も中学時代も防犯の目的で監視カメラは多かったから、そこまで驚く事では無いと思うけど。」

 

 

「…確か、藍宝さんは名桜大学の附属中学でしたね。メディアの情報によれば、皇族の凛子内親王様を始めとする著名人の子息子女が多勢通学されていますし、厳重な警備が敷かれているのでしょうね。」

 

 

私が通っていた学校は、凛子内親王様や厚労大臣の御息女、有名企業の御令嬢や有名人の御息女が多く在籍している為、かなり防犯に力を入れている。

だからこの学校の異常性に気付く事が遅くなってしまったが、恐らくこのカメラで生徒の行動を監視して点数化しているのだろう。

 

 

その後、寮に戻ると大福さんがおがくずの中に埋もれてすやすやと眠っていた。

 

 

起こさないように静かに食器や調理器具を片付け、寝室の扉を閉めてから調理に取り掛かる。

食材を切り、鍋で炒めてから水を加え沸騰してから20分間中火で煮込む。

食材が柔らかくなってきたら、アクを取り火を止めてカレールウを半分入れる。

ご飯も炊けたので夕食にしよう。

 

 

寝室の扉をそっと開けると、大福さんは起きて元気よく回し車の中で走っていた。

 

 

「おはよう、大福さん。相変わらず元気だね。」

 

 

大福さんから少し離れた位置でカレーを食べながら、イヤホンをつけて音楽を聴く。

食事中に音楽を聴くなんて、行儀が悪いが、ハムスターは大きな音に敏感なので、テレビは付けられない。

寮の部屋はキッチンと寝室兼リビング、シャワールームの着いた1Kなので、実家に居た時程自由には過ごせないが、支給された端末にイヤホンが着いていた事は有難い。

これで好きな映画鑑賞も出来る。

 

 

それから一週間が経過した頃、私はとある部活に入部した。

それは…テーブルゲーム部だ。

 

 

「お疲れ様です、部長さん。本日もよろしくお願いしますね。」

 

 

「ああ。今回はポーカーにしよう。1ゲーム5回を3セットだ。ゲームマスターは江藤に頼もう。」

 

 

「分かりました。ではカードを配ります。」

 

 

その後、2セットの勝者となり20万プライベートポイントを得る事が出来た。

部長との対戦後、江藤ともゲームを行い、私は彼にも勝利したのである。

 

 

「見事だ。まさか、またもや君に負けてしまうとはな。」

 

 

「たまたまですよ。ギャンブルの女神は気まぐれですからね。」

 

 

私は勝負事が弱いタイプだが、一か八かで10万プライベートポイントを賭けてしまったのだ。

負ければ多額のポイントを失うが、勝った時の利益は大きい。

ギャンブルとは勝つか負けるかのスリルを楽しむのも醍醐味だ。

 

 

「それにしても、この学校ってポイントを得る機会が少ないですね。毎月のお小遣いだけでどうしろって言うんでしょう?」

 

 

そう言うと先輩方は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「この学校は、プライベートポイントを賭けたクラス間の争いが行われる。争いと言うからには、ポイントを賭けた特別試験と呼ばれるイベントが存在するんだ。」

 

 

「へぇ、そうなんですか。どんな試験を行ったのか、お話を聞かせて貰えませんか?」

 

 

「ああ、構わないよ。まず最初に行った特別試験は無人島試験だった。無人島で一週間過ごすという者だ。次に行ったのは干支試験。他クラスの優待者と呼ばれる生徒を法則を見付けて探し出し、求める結果の為に動くというものだ。その次は体育祭。その次はペーパーシャッフル。各クラスでテスト問題を作り、他クラスを1つ指名してオリジナルのテスト問題をぶつけ合う試験だ。ここまでが1年生の二学期までの試験だ。3年生からの試験は毎年違うらしいが…まあ、この先は有料だな。」

 

 

「サブスクは申し込んでいないので遠慮しておきます。」

 

 

「そう簡単にポイントは払ってくれないか。まあ、これも全部嘘なんだけどな。」

 

 

ここまで具体的な試験内容をスラスラと話していたという事は、ほとんどの内容が真実だ。

この学校における特別試験は、学力や身体能力以外の知力や交渉力なんかも必要なのかもしれない。

そして先輩方は、この学校のシステムや疑問について何も答えてはくれない。

つまり、口封じをされているという事だ。

 

 

そして、プライベートポイントを賭けるイベントがある。

それもクラス対抗で、だ。

これも少し気にかかる。

個人でないのであれば、クラス対抗でプライベートポイントを賭ける理由が存在するはずだ。

 

 

「何か気になる事でもあるのかい?」

 

 

「いいえ。もし気になる事があったとしても、先輩方は答えてくれないんだろうなと思っています。」

 

 

「へぇ、そう。そんな風に思われているなんて心外だなぁ。」

 

 

楽しそうに笑う先輩方の反応を見て、私は自分の考えが的外れでは無いと確信した。

その後、私達は他愛もない話をしながらポイントを賭けずにゲームを楽しんだ。

 

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