ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。   作:マチルダ鈴木

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いろいろ原作とはズレた行動を取りますが、あくまで原作沿いです。
行動派主人公のお手本ともズレてるかもしれませんね。


国作りの土台を用意する

数日後、葛城やBクラスの女子生徒が生徒会入を断られたという噂が流れた。

学食で坂柳と食事をしていると、急に後ろから声を掛けられた。

 

 

「あ、あの…」

 

 

振り返ると茶髪の髪を靡かせ派手な風貌の女子生徒が立っていた。

 

 

「…失礼ですが、何方ですか?」

 

 

「…え、えっと、私は…」

 

 

彼女は何かを言いかけて、口を噤んだ。

伝えたい事があるのだろうが、はっきり言ってくれなければ分からない。

目で会話をするだなんて、一体どんなSFの世界に住んでいるのだろうか。

 

 

「…このままだと昼休みが終わってしまいそうだね。もういいかな?」

 

 

「そうですね、失礼します。」

 

 

私と坂柳が席を立ち、教室に戻る事にした。

このままここにいても時間の無駄だ。

見た目にそぐわず口下手なのか、彼女は黙って私を睨んでいた。

 

 

彼女の顔をチラリと見た時、どこかで会った事のあるような、既視感を覚えた。

まあ、この世には自分に似た人間が3人いると聞いた事がある。

なら彼女に似た人間の1人や2人、居てもおかしくは無いだろう。

そう自分を納得させる事にした。

 

 

「…今の子ってどのクラスなんだろ?」

 

 

「名前は分かりませんが、Dクラスの生徒と話している姿を見た事があります。確か、学年でも有名な優等生の平田君の彼女だという噂が流れていた生徒かもしれませんね。以前、腕を組んでいる姿を見ましたから。」

 

 

という事は彼女はDクラスの生徒の可能性が高い。

教室に着くと、私達は橋本という派手な見た目の男子生徒に声を掛けた。

 

 

「橋本君、平田君の彼女という噂の女子生徒についてご存知有りませんか?」

 

 

彼は人当たりが良く、コミュニケーション能力に優れており、他クラスにも友人が多い。

坂柳が頼りにしている男子生徒の中の1人で、彼は坂柳の考えを支持している。

 

 

「平田洋介の彼女だろ?確か…軽井沢恵って名前だった気がするな。Dクラスの中心グループのメンバーで、素行は良くないって聞くぜ。」

 

 

「素行は良くない?」

 

 

私はすぐに疑問を口にした。

平田洋介の彼女にしては不釣り合いな気がするが、どういう事だ?

 

 

「ああ。暴力的では無いが、授業をサボったり、授業中に携帯をいじったり、真面目に学校生活を送っていないらしい。」

 

 

優等生の恋人が不良生徒だなんて、まるで漫画の世界みたいだ。

 

 

「なるほどそうでしたか。有難う御座います、橋本君。」

 

 

「いえいえ、姫さんのお役に立てたのであれば光栄です。」

 

 

彼は恭しい態度でその場を去っていった。

 

 

それにしても軽井沢…か。

私の知らない記憶の中で起きたあの事件を連想させる。

不快感を拭う為、話題を変える事にした。

 

 

「この後の授業って数Aだったかな?」

 

 

「そうですね。開始時に小テストが行われるそうですよ。」

 

 

「じゃあ勉強しなきゃね。といっても、復習だし必死になるほどでもないけど。」

 

 

「私も友人に勉強を教えなければいけませんからね。」

 

 

坂柳は数人の女子生徒に慕われており、勉強を教えてあげる事が多い。

そしてこれは葛城にも当てはまり、2人はぞれぞれ仲の良い生徒を集めた勉強会を開催している。

 

 

クラス内では明確なリーダーは存在していないが、葛城の考えに賛同する派閥と坂柳の考えに賛同する派閥が出来ている。

どちらにも属さない者もいるが、今のところ敵対している訳では無いのでそこまで心配はしていない。

 

 

坂柳と別れて席に向かおうとした時、背後から聞き慣れた声がした。

振り返るとそこには葛城が立っていた。

 

 

「坂柳、藍宝、今日の放課後時間はあるだろうか?」

 

 

「私は問題ないよ。」

 

 

「私も大丈夫ですよ。」

 

 

「少し話したい事があってな。」

 

 

私達は放課後に会う約束をした。

そして放課後、私と坂柳と葛城の3人で葛城の部屋に集まっていた。

 

 

「申し訳ないが、飲み物は緑茶とオレンジジュースしかない。どちらが良い?」

 

 

「ふふふ、構いませんよ。では緑茶を頂けますか?」

 

 

坂柳は葛城の貧相な冷蔵庫の中身に微笑みながら緑茶を頼む。

 

 

「じゃあ私はオレンジジュース貰っても良いかな?」

 

 

「ああ、分かった。」

 

 

葛城から飲み物を受け取りテーブルを囲んで座った。

坂柳には配慮してベッドに腰かけるよう促すあたり、葛城は出来る男だ。

紳士的な対応に満足そうな顔をして、坂柳はベッドに腰かける。

 

 

「じゃあ、まあ単刀直入に聞いちゃうけど。葛城君、生徒会断られちゃったって本当なの?」

 

 

「不甲斐ないが、その通りだ。俺は先週生徒会室に赴いて、堀北会長に生徒会入りを希望していると伝えたんだが、時期では無いと断られてしまった。」

 

 

「時期では無い…どういう意味でしょうか?入学して間もないから、であれば入学式の新入生歓迎の挨拶で『生徒会に興味がある者はいつでも歓迎しよう』という発言はしないと思います。」

 

 

時期が何を意味するのか、それが重要だ。

 

 

「…それに、真面目で優秀な葛城君の話は他学年にも知れ渡っているはずだよ。どうして断られてしまったんだろう?」

 

 

「確か、隣のクラスの一之瀬さんも断られてしまったという噂が流れていましたね。これは事実なのでしょうか?」

 

 

「ああ。彼女は俺の次に生徒会室に入って行ったが、生徒会の一員に名を連ねていない以上、断られたと考えるのが自然だな。」

 

 

生徒会長はなぜ一年生の生徒会入りを拒んでいるのだろうか。

 

 

「生徒会に入るには、条件でもあるのでしょうか。」

 

 

「それか、成績優秀とか?」

 

 

「いや、そう言った縛りは無いだろう。」

 

 

葛城は首を横に振る。

葛城の学力は学年でも上位に位置するはずだ。

そしてそれを鼻にかける事は無く性格も穏やかなためクラス内でも信用がある。

この学校に入学して日が浅いとはいえ、それは分かりきっている事なはず。

ならば何故…。

 

 

「なら、実際に行動してみるのはどうかな?」

 

 

「行動ですか。具体的には?」

 

 

「うーん…葛城君が生徒会に入ってやりたい事をもっとアピールするの。それだけじゃなく、この学校が私達新入生に隠している何かについても言及すれば、君を思慮深い人だと好印象を与えられると思うんだよね。アピールするのであれば…CMを作ってみない?」

 

 

人間が得られる情報の8割は視覚だと言われている。

彼の本気を伝えるのであれば、目に見える形でアピールする必要がある。

その中でもわかりやすいものは、映像だ。

 

 

「…なるほど、その方法は思いつかなかったが、効果的かもしれないな。」

 

 

「CM…ですか。という事は寸劇を作り、その映像を編集するという事ですね?」

 

 

「そう!」

 

 

彼が行いたい事を深堀し、それに合わせた魅力的な映像を作る。

そしてそれをさまざまな生徒に見てもらう。

そこまですれば、彼の本気度は伝わるはずだ。

 

 

「映像編集に使うパソコンやソフト、撮影用の機材はどうするんですか?」

 

 

「私が家から持ってきたものがあるよ。私はこれでも一応中学時代は映画研究会に所属していたんだよね。主に裏方をやっていたけど、短い映像なら編集もした事があるし、撮影技術については…確かAクラスの女の子に有名なインストグラマーの子がいたよね?その子に協力を仰いでも見るのもアリ、かな?」

 

 

チラリと坂柳に視線を送れば、彼女は観念したように溜息を吐いた。

 

 

「分かりました。私が谷原さんに話を通しましょう。」

 

 

「葛城君、どうかな?私と一緒に最高のCMを作らない?」

 

 

葛城はどうすべきは迷っているようだ。

それも当然の反応だろう。

突然一緒にCMを作ろうなんて、言われる経験は滅多にない。

そんな事を言われれば困惑してしまう。ここは強引にでも話を進めたほうが良さそうだ。

私は立ち上がり、葛城の前まで歩み寄り手を差し伸べた。

それは私なりの本気さを伝えるための行動だったが……。

葛城はそんな私の手を取り立ちあがる。

 

 

「分かった。一緒にCMを作ろう。」

 

 

そう決まってから、私達の行動は早かった。

Aクラスの生徒に協力を要請し、クラスのグループチャットを作った。

そしてAクラス一丸となって葛城の生徒会入りを後押しする事が決定した。

彼の性格が良いからか、坂柳のカリスマによってかは分からないが、クラス全員が葛城に力を貸してくれるようだ。

 

 

まず、CMのコンセプトを決める為葛城のやりたい事を書き出すところから始まった。

 

 

「なるほど…10年前に廃止された合唱コンクールの復活、2年前に廃止された卒業生の進路相談会、新たに部活を作る場合の規定の緩和、長期休暇におけるインターンの紹介を積極的に行っていきたいという事ですね。」

 

 

具体的に纏まっており好印象だ。

特に伝統行事を復活するというのは良い案だと感じた。

葛城は今言った事を全て述べたのだろうか。

 

 

「葛城君、今君が言った事を全て生徒会長さんにそのまま伝えた?」

 

 

「いや、合唱コンクールや進路相談会については伝えていないな。インターンの紹介や新たな部活を作る場合の規定の緩和については伝えたが、流石にかつての行事の復活に関しては信用を得てからでなくては、活動を起こせないと思ったんだ。」

 

 

まあ、入ったばかりの新入生が消えた行事を復活させようとしても、無駄骨に終わるだろう。

その考えは分かるが、面接で知りたいのは意欲だ。

 

 

「そうだとしても、意欲を伝えるという意味では行事の復活を目指したいという思考を出すのはアリだったと思うよ。堀北会長は、伝統を重んじる性格だって事は有名だしね。」

 

 

「しかし、行事が消えたという事はそれなりの理由があるという事です。その点を理解して、それでも行事を復活させたいのですね?」

 

 

「ああ。その通りだ。」

 

 

葛城の思考はある程度理解出来た。

学校の伝統を大切にし、尚且つ新しい風を吹かして行きたい。

保守的な考えを持つ彼らしいものだった。

 

 

「…んじゃまあ、CMのコンセプトは新しい風、だね。でも伝統や過去を大切にする、そんなものにしたいな。」

 

 

「出演者については…坂柳さん、貴方のセンスにお任せしても良いかな?」

 

 

「ええ、任せてください。葛城君にも出演して頂きますが、夢や希望を抱いた生徒、伝統に理解ある生徒を選びたいと思います。それから…合唱コンクール作ったとされる卒業生、彼女とアポイントメントを取りたいですね。」

 

 

「合唱コンクールを作った卒業生?」

 

 

話を聞いてみれば、とある女子生徒は合唱部を作りたいと希望を出したが、条件が厳しく却下されてしまったらしい。

それでも諦めず、生徒の署名を集め合唱コンクールを行いたいと生徒会や教職員に訴えたそうだ。

その生徒の家は貧しい暮らしをしていたが、中学では合唱部に所属し、全国大会で入賞もしていたそうだ。

彼女の功績や訴えに心動かされた生徒会は、彼女の為に希望制の合唱コンクールを行う事にした。

各クラスの参加人数が過半数を超えた場合、一定の機関を設けて合唱コンクールを行うと。

 

 

そして全校生徒が合唱コンクールに参加する事が決まり、学校の理事会や国もこの行事を年間予定に加え、この学校に新たな伝統が出来たのである。

協力をする事の大切さ、共に高め合う事の尊さを知るためのイベントとして名を刻んだのだ。

そして彼女を称え、新たに合唱部が作られ、高度育成高等学校の合唱部は強豪として名を連ねるようになった。

 

 

「しかし、10年前とある感染症が流行し、合唱コンクールは年間予定から消され、新たに文化鑑賞会や文化祭等の行事が加えられ、合唱コンクールは消えてしまったのです。」

 

 

「なるほどね、そんな事があったんだ。ちなみに部活を作る為の規定が厳しいって言ってたけど、具体的にはどんなところが厳しいの?」

 

 

「部活動を新たに始める為には、まず部員を11人集める必要がある。同好会は6人から作る事が出来るが、部活は同好会とは違い、公式的なイベントに参加する事が可能だ。割り当てられる部費も変わってくるしな。」

 

 

確かに同好会は公式的な試合には参加出来ないという話を聞いた事がある。

お遊びと本気の部活は違うから仕方がない事なのかもしれないな。

 

 

「そして、人数を集めた後、その中に成績が下位20名に名を連ねる者がいた場合、部活として認められない。そして、その部活動の目的や目標を設定し、その部活の顧問となってくれる人間を自力で見つける必要がある。だが、ほとんどの教員は部活動の顧問、副顧問として活動しており、他の部活動の担当教員を引き抜く場合、手続きが約1ヶ月かかってしまう。そして、生徒会が承認した後、理事会の承認が必要となる。」

 

 

つまり、部活動を作る事がそもそも難しく、運良く条件をクリアしても、理事会の承認まで得る必要がある事が問題なのだ。

 

 

「この学校はかなりのお金をかけられているし、新たに部活動を作ればまたお金がかかる。だから、理事会もそう簡単に承認出来ないって事?」

 

 

「そうでしょうね。」

 

 

理想を掲げるだけでは何も為せない。

何かを成し遂げるためには解決策が必要だ。

しかし、今回の目的はあくまで葛城の生徒会入を後押しするものだ。

解決策とは言えずとも、彼がどのような対応策を考えているのか、それを伝える必要はあるが、それは彼の仕事だ。

私達はあくまで彼を目立たせることが仕事なのだ。

 

 

「CMの台本作りはどうする?」

 

 

「私も経験はあるけど、確かクラスに演劇部で脚本を担当していた子が居なかったかな?その子に協力をお願いしようと思うんだけど、どう?」

 

 

「六角さんですね。」

 

 

そう言い坂柳が六角に連絡をすると、了承を得られたようだ。

 

 

「映像の編集については私が担当するよ。後、説得力を高める為にも、合唱コンクールと合唱部を作った卒業生の方にも出演して貰いたいなぁ。」

 

 

「…彼女が今何をしているのか、それについては私の方で調べましょう。」

 

 

「ありがとう、助かるよ。」

 

 

それから私達はCM製作のために行動を始めた。

将来の夢が具体的に決まっている生徒4名、そして卒業生の佐藤朱里さんにも出演を承諾して貰い、卒業生の同窓会へも進路相談会に関する企画を通し、葛城の行動力を示す為に皆が尽力する事になった。

 

 

私は寮で撮影された映像の編集作業を行っていた。

複数の場面を撮影しており、これらのノイズを消し、BGMやSEを入れ、綺麗に繋げる。

やる事は単純でも意外と時間がかかる作業だ。

 

 

「…ふう、ちょっと休憩しようかな。」

 

 

チラリとゲージの中を見ると、大福さんがゲージをガジガジと噛んでおり、どうやらお腹が空いたらしい。

 

 

「…ちょっと待ってね、今苺を持ってきますから。」

 

 

数時間前、編集作業をしている私の部屋に戸塚がやって来た。

どうやら葛城に頼まれて、状況確認に来たらしい。

 

 

『あ、どうしたの?戸塚君。』

 

 

『進捗を確認しに来たんだ。葛城さんは最近お前が疲れているように見えると、心配していたぞ。』

 

 

普段うるさい戸塚も、私がハムスターと一緒に生活していると知っているからか、いつもより静かな声で話し出す。

 

 

『あまり食べていないんじゃないか?顔色が悪いぞ。これでも食べて休憩した方が良いぞ。』

 

 

『え『つべこべ言わずに受け取れ!』…ええ、お礼くらい言わせてよ。』

 

 

そう言い、彼はビニール袋を私に押付けて玄関から出て行った。

お礼を言う間も無く、私はビニールの中身を確認するとそこにはパックに入ったあまおうが入っていた。

このサイズからして、7、800円はするだろう。

このお礼は次会った時、必ず言おう。

 

 

「苺を洗って、お皿に移して…ん〜美味しい!」

 

 

大福さんに、洗って切った苺を近づけると小さな手で持ちかじり始めた。

初めは警戒心からか、眺めているだけだったが、食べ始めてしまえば止まらない。

 

 

「大福さん、美味しい?」

 

 

夢中になって食べており、私まで幸せになってしまう。

 

 

「苺は高いから滅多に買えないけど、また買ってくるね。」

 

 

ちょんと大福さんの頭を撫で、私は編集作業に映った。

糖分を摂取したからか、集中力が高まる。

私は、今回のAクラスの協力を成功させる事で高まる一体感を得るため、葛城や坂柳に提案をした。

まだ関係が浅い私達が1つの纏まりとなるには、成功体験を得る事が1番の近道だ。

 

 

この経験はきっと今後プラスに働く。

この学校が実力至上主義である限り。

 

 

映像のお披露目は、来月1日の放課後だ。

学校掲示板に投稿し、この映像のデータを生徒会宛に送る。

そして卒業生の佐藤さんや同窓会の力を借りて、理事会や学校支援者宛に送る。

 

 

 

きっと彼等は葛城康平を…いや、1年Aクラスを認めるだろう。

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