ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。   作:マチルダ鈴木

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5月1日(前編)

それから4月の終盤、私達はホームルーム後に成績に反映されない小テストを受ける事になった。

このテストが中間テストの元になるらしいが、今のところ欠席・遅刻・早退はゼロで、授業を真面目に受けている私にかかればこの程度の問題は雑作もない。

そしてこの日、振り込まれたポイントは10万未満であり、どの生徒も同額が振り込まれている事が分かった。

他クラスの友人や知り合いに聞くと、Aクラス未満のポイントが振り込まれ、それぞれのクラスで違う額のポイントが振り込まれている事が分かった。

 

 

「…やはり、こうなってしまいましたか。」

 

 

「うむ。どうやらこの学校は個人ではなく、クラスの評価で支給されるポイントが変動するようだな。」

 

 

葛城と坂柳は今回の結果を冷静に考察し、Aクラスの生徒達に共有した。

そして数分後、真嶋が大きなポスターと紙束を持って教室内に入ってきた。

どうやら先日のテストの返却を行うようだ。

テストが返却され全ての科目で9割を叩き出す事ができ何よりだ。

 

 

「君達Aクラスの生徒は今回優秀な成績を収めてくれた。各科目の平均点が8割を超え、各科目に複数人の満点者がいる。この調子で次の中間試験も乗り越えて欲しい。我が校では赤点は平均点の半分以下と定められており、赤点をとった者は即退学となる。だが、俺は君達が中間試験を必ず乗り越える方法があると信じている。」

 

 

そう言い真嶋はとあるポスターを貼り出した。

そこにはクラス名と3桁の数字が隣に書かれている。

 

 

Aクラス:987

Bクラス:650

Cクラス:490

Dクラス:0

 

 

「ここに書かれているものはクラスポイントだ。これは各クラスの優劣を決めるもので、これを100倍したものがこれから君達に支給されるプライベートポイントになる。そして、この学校では卒業時に最も多くのクラスポイントを持つクラスの生徒の進路のみを保証し、最も多いクラスポイントを持つクラスをAから順にクラス分けをする。君達は入学時にAクラスに組み分けされ、5月時点でAクラスの位を守った為、優秀なクラスだと誇りを持って欲しい。」

 

 

つまりアルファベットの組み分けは、クラスの優劣をつける為のもの。

私達はこれからクラス間でAクラスを賭けた戦いを強いられる事になる。

この状況であれば、クラスにはリーダーが必要だ。

葛城や坂柳の考えは合っていたという事になる。

 

 

それにしてもDクラスは0ポイントというのが気にかかる。

一体何をしたらそんなに評価が下がるのだろうか。

 

 

その後、真嶋が教室を出た後、2人の生徒が教卓の前に立つ。

その生徒は、葛城と坂柳だった。

 

 

「全員に話しておきたい事がある。」

 

 

葛城に全員が注目し、何を言うのかと次の言葉を待っている。

 

 

「今後、3年間他クラスとクラスポイントを賭けて競い合う事になる。そして、争い事には先導者が必要だ。」

 

 

葛城の発言に生徒達は驚くことなく、真剣な表情で話を聞いている。

 

 

「私も葛城君の意見に賛成致します。しかし、現状クラスは私の考えを支持する者、葛城君の考えを支持する者、どちらにも属さない者に別れており、分裂は他クラスに隙を与える事になってしまいます。」

 

 

坂柳や葛城が危惧している事態、それを予想出来ない生徒はこのクラスには居ない。

 

 

「そこで…」

 

 

葛城は一息おいてから口を開いた。

 

 

「今後、このクラスのリーダーとして俺と坂柳は協力する事にした。表向きのリーダーは俺だが、坂柳には裏の女王として君臨してもらうべき、というのが俺の出した結論だ。そしてリーダーはいるからといって、このクラスに上下関係が出来る訳では無い。皆で良いクラス作りをしたいと考えている。」

 

 

坂柳有栖は頑固な性格であり、女王様気質だ。

自身の力を盲信しており、他人との協力より他人を道具として動かす事を好む女性だ。

 

 

そんな彼女を説得した、というのか?

葛城康平の提案を彼女は受け入れたというのか?

 

 

まさかの提案にクラス内の生徒も声こそ出さないが、驚きを隠せないようだ。

特に葛城を慕っていた戸塚や側近の町田、坂柳の側近である神室や橋本は動揺が大きく、訝しげな顔で2人を見つめていた。

そんな状況で、驚きつつも町田が2人に質問を投げ掛ける。

 

 

「…お前達2人はそれぞれ考え方が真逆だ。保守的な葛城、攻撃的な坂柳。本当に2人でこのクラスを率いて行けるのか?」

 

 

『お前達は納得しているのか?』

 

 

町田は2人の意志を確認したいようだ。

 

 

「ええ、納得はしていません。協力というよりは、互いの足を引っ張らないように、Aクラスを有利に導く為の協定とでも言いましょうか?」

 

 

「…そうか。」

 

 

町田は黙り、思案顔で坂柳達を見つめている。

 

 

「…ひとまず、俺達がAクラスを維持していく為にも、皆にはこれまで通りの学校生活を送って欲しいと考えている。そして中間テストに関してだが、以前坂柳と話していた過去問を使おうと思っている。」

 

 

どうやら、私が知らない間に彼らの仲は深まっていたらしい。

以前はライバルとして接していた2人が、今は仲良く肩を並べている。

勿論、そこに打算が無いとは言えないが、それでも表面上協力し合う空気が出来ているのは喜ばしい事だ。

 

 

そして過去問を用いる、という案も現実的かつ効果的だ。

真嶋は最後に念押しの様に『中間試験を乗り越える方法があると信じている』と発言しており、言葉通りに受け取れば何らかの方法を用いて赤点を回避出来ると解釈出来る。

そして、不正以外で考えた場合、まず思いつくのが過去問だ。

それを中間試験について発表される前に既に思いついている2人はこの学校の中でも、群を抜いて優秀なのだろう。

 

 

「過去問については、正式に生徒会入りをした葛城君に入手をお願いする予定です。」

 

 

坂柳の発言に、彼女の側近や派閥の生徒達は驚いた顔で彼女を見つめた。

その中でも橋本は立ち上がり、坂柳に向かって口を開いた。

 

 

「…それは姫さんが葛城の実力を認めている、という事ですか?いや、違うな。信じている、という事ですか?」

 

 

坂柳は葛城のアピールが生徒会のメンバーに響くと分かっているような口ぶりだ。

この世に未来予知なんて非科学的なものは存在しない。

つまり、坂柳有栖は葛城康平の行動を、Aクラスが作りあげたCMを信じている、という事になる。

 

 

「信じている…というより確信に近いですね。そして勘違いしないで下さいね。葛城君が生徒会入りを果たせなければ、その程度の人間だという事です。その場合、私がリーダーを務めるだけですから、何も問題はありません。」

 

 

坂柳の発言はごもっともだが、入学時より幾分か人間らしくなっているような気がする。

 

 

こうして、Aクラスに2人のリーダーが誕生した。

そして放課後、当初の予定のように私達が作り上げたCMを生徒会、理事会宛に送信し、学校掲示板にも貼り付けた。

そして、我が校の同窓会に力添えをお願いし、卒業生のOBやOGの協力を得る事に成功し、今日件の卒業生である佐藤さんが葛城と共に伝統行事の復活に関する説得を行ってくれるそうだ。

 

 

生徒会メンバーのアポイントメントは予めとってあり、順調に計画は進んでいる。

ついにフィナーレを迎える。

私達は葛城が成功するかどうか、それに賭けているが心配はしていない。

 

 

一つに纏まったクラスは、今日坂柳やその側近達を集めて教室で勉強会を行った。

この勉強会は希望者のみで行うが、今回はその後の打ち上げもある為、全員が参加している。

内容は教師役の生徒が予習範囲について解説し、皆がその授業を受けるというものだ。

その後勉強会を終えて、私達は打ち上げを行う為にカラオケ店へ向かった。

予約していたパーティールームへ向かい、葛城の連絡を待ちながら適当に曲を入れ、飲み物を飲み、楽しい時間を過ごしていく。

 

 

「…連絡が来ました。」

 

 

坂柳がそう言うと、騒いでいた生徒たちが黙った。

静かになったカラオケルームで、坂柳はニコリと微笑んだ。

 

 

「葛城君は生徒会役員に選ばれました。そして、生徒会側も失われた行事を復活させる、という方針に賛同し、これから理事会や文科省、教職員の方々と協議をしていくそうです。」

 

 

「マジか!流石葛城さん!」

 

 

「ま、マジかよ。入ってすぐに改革を起こすなんて、えらく信用されてるみたいだな。」

 

 

パーティールームはお祭り騒ぎ、全員が葛城の成功を、Aクラスの作戦成功を祝い、祝福ムードに包まれた。

それから30分後、葛城がやって来て熱唱が始まった。

まさか、主役の選曲が国家だなんて、どうかしている。

だがここまで国家が似合う男も居ないだろう。

 

 

「葛城君、生徒会入りおめでとう。」

 

 

「ああ、ありがとう。今回の事はAクラスの皆が協力してくれたからだ。心から感謝する。」

 

 

葛城が頭を下げ感謝を述べる。

すると坂柳がフッと笑い、口を開いた。

 

 

「水臭いことを言いますね、葛城君。貴方が生徒会の皆さんを説得出来た事は、誇るべき事です。あの一之瀬帆波さんが出来なかった事を、堅物の貴方が成し遂げたのですから。」

 

 

「ありがとう坂柳。お前のおかげで、同窓会や卒業生の方の力を借りる事が出来た。」

 

 

「ふふふ、感謝しても何も出ませんよ。」

 

 

「同窓会とのパイプが出来たのは有難いな。」

 

 

坂柳派の真田が坂柳の人脈を称賛し、それに追従して坂柳派の生徒達が彼女を称賛する。

 

 

それにしても一之瀬帆波…

名前は聞いた事はあるが詳しくは知らないな。

噂では、Bクラスの人気者で美少女だと言われているが、彼女と会った事は無いため、真相は不明だ。

 

 

「ねぇ、坂柳さん。一之瀬さんって確か生徒会入を断られているんだよね?」

 

 

「ええ。彼女は2度生徒会入りを断られており、葛城君が今回実力行使で生徒会入りをした為、入る為のハードルはかなり上がっています。ですから、当分彼女は葛城君と比べられるでしょうね。」

 

 

「2度?」

 

 

「まず1回目は葛城君と同日です。そして2回目は昨日です。生徒会入り諦め切れず、1回目同様に面接を行ったようですが、結果は断られてしまったようですね。」

 

 

彼女は2回断られたが、葛城は2回目に生徒会入を果たした。

確かにこれは2人が比べられる十分な理由になりえる。

 

 

「…一之瀬さんってどんな人なの?」

 

 

「責任感が強く、誰に対しても親切な方ですよ。コミュニケーション能力に優れており、入学して数日でクラスの中心となりました。」

 

 

「へぇ、凄いね。私とは天と地の差があるなぁ。」

 

 

私は入学してからなかなか友人を作る事が出来なかった。

入学初日に坂柳と仲良くなった事も関係しているかもしれないが、それにしても友人が出来なかった。

授業時には皆と接する事が出来たが、私は人と話す事が得意では無いので、休み時間に軽口を話すような仲に発展するのは坂柳だけだ。

だから一之瀬の様な明るく社交的な人間に強い憧れを抱いていた。

 

 

「私も一之瀬さんみたいになりたいな。」

 

 

「確かに藍宝はコミュニケーション能力が高いとは言えないが、誰に対しても親切という点では一之瀬にも勝っていると思うぞ。」

 

 

「そうですね。藍宝さんには藍宝さんの良さがあります。貴方の発想力はこの学校の中でも上位に位置しますし、誰かと比べて気を落とす必要はありませんよ。」

 

 

私の弱気な発言に、葛城や坂柳が暖かい言葉を掛けてくれた。

2人の優しさに胸が熱くなる。

 

 

「そう言って貰えると助かるよ。」

 

 

「そう言えば、葛城は何の役職に就任したんだ?」

 

 

鬼頭が珍しく葛城に質問を投げ掛ける。

派閥の違う2人が話している場面を見た事がないので、新鮮な場面だ。

 

 

「俺は第二書記だ。議事録の作成や見回り、アンケートの集計等が主な仕事らしい。慣れてきたら他の仕事も割り振られるそうだ。」

 

 

「ほう。真面目なお前にお似合いだな。」

 

 

確かに葛城の性格的に書記という役職は合っている様に思える。

 

 

「まぁ、少しずつ慣れて行くさ。」

 

 

「それにしてもDクラスは一体何をしたらポイントが0になるんだ?」

 

 

橋本の疑問に数人の生徒が同意を示した。

Dクラスがいくら素行の悪い生徒が多いからといって、0になるとは誰が予想しただろうか。

 

 

「まあ、毎日毎日懲りずに授業をボイコットし、授業中にも関わらずネイルやゲームをして、まともに授業を受けてないんだ。当然の結果だろう。」

 

 

「にしたって、限度ってものがあるだろ。」

 

 

「でもさ、クラス分けは優秀な生徒順なんでしょ?ならどうして櫛田や平田のような優等生がDクラスに割り振られのかしら?」

 

 

神室の疑問は正しい。

 

 

櫛田桔梗や平田洋介はDクラス者坂の生徒で、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗な優等生だ。

特にその容姿や性格から学年内の多くの異性にモテており、また櫛田についてはその性格の良さから同性にも好かれている。

そして平田も親切な性格からか、同性に妬まれる事もあるが、彼に危害を加えようとする生徒はほぼ一人も居ない。

人望の厚い優秀な生徒だ。

そんな彼等が何故Dクラスに配属されたのかについては全く想像が出来ない。

 

 

「バランスを考えて配属したのか、Dクラスにすべき理由があったのか。気になりますね。」

 

 

「だが、今の段階ではまだ判断出来ないな。いくら脳みそが足りていない動物園だとしても、中には優秀な人間もいる。警戒するに越したことはない。」

 

 

「真田の言う通りだ。他クラスについても情報を集めていきたいな。」

 

 

騒ぎ、歌い、踊る生徒の影で、坂柳や葛城、そして彼等の側近達は今後の話し合いをしていた。

その中に私がいるという事実に違和感を覚えるが、まあ私に言える事なんて何もない。

凡人はいつの時代も天才の後を付いて回るものだ。

だから何も問題ない、断じて友達がいないから彼等の近くで話を聞いている訳ではない。

 

その後、約2時間カラオケは続き解散となった。

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