ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。 作:マチルダ鈴木
原作と色々違いますが、心の広い皆様!
どうかお許しください。
寮に戻る帰り道、私と坂柳は葛城に話があると声を掛けられ、一緒に帰る事になった。
坂柳の側近の鬼頭も一緒に、だ。
「それで話って?」
「その前に、坂柳。堀北会長がお前に対する期待を示し、ポイントを贈って下さった。25万プライベートポイントをお前に振り込む。」
「私に、ですか。まあ、有難く受け取っておきましょう。今度お会いした時はお礼を伝えなければいけませんね。」
堀北会長が坂柳を評価しているという事に驚いたが、彼女は有名人なのでおかしい事ではない。
2人がポイントのやり取りを終え、葛城が本題について話し始めた。
「実はな、生徒会入りを認められた後、堀北会長と2人で話す機会があったんだ。」
「堀北会長と2人で、ですか。一体どのようなお話をされたのです?今後の生徒会活動についての話ではなく、2人でという点から私的なお話だとは思いますが。」
確かに生徒会に関する話であれば、他の役員がいる場で話しても問題は無いはず。
であればプライベートに関する話なのだろう。
だがその話を私達に共有するあたり、私達にも関係しているのかもしれないな。
「確かに坂柳さんの言う通りだね。」
彼女に頷き賛同を示すと、鬼頭もうんうんと頷いた。
「その通りだ。堀北会長は今回の件について、思う事があるようだ。」
葛城は話し始めた。
〜〜〜〜〜葛城の回想〜〜〜〜〜
『改めてお話があると聞きましたが、一体どのようなお話でしょうか?』
葛城が堀北会長と向かい合って座っている。
2人の他には誰もおらず、堀北の個人的な私用という事は理解できるが、彼には何の用なのかさっぱり予想がつかなかった。
『呼び止めて済まないな。まさか、生徒会に入る為だけに、こんな大掛かりな事をするとは思わなかったぞ。…で、誰が今回この企画を提案したんだ?』
堀北会長は今回の事の発端、企画立案者が葛城では無いと見抜いていたらしい。
流石は歴代最高の生徒会長、洞察力はこの学校のトップに相応しいものだ。
『…提案者が俺では無いと思った理由をお聞きしても宜しいですか?』
『良いだろう。』
堀北会長は1拍間を開けてから話し始めた。
『まず、お前が初めて生徒会室に来た時、俺はお前に対して生真面目な秀才、優等生だと。そしてその考えは合っており、葛城は天才ではなく秀才で真面目な男だという事をこの一月の間に知った。そして、今回の計画はあまりにも奇抜だ。少なくとも、堅実なお前が率先してやりたがるものでは無いだろう?』
堀北会長に心を見透かされているかのような気がする。
自分の思考を当てられており、少し不快感を感じた。
『その通りです。今回の企画立案者は俺ではありません。』
素直に答えると堀北会長は『やはり』と声を零し、また話し始めた。
『CMを作り、そのCMで人々の心を動かす。そして同窓会からの後押しもあり、俺達はお前の生徒会入りを認めた。だが、外部との連絡は一体どうやって行ったんだ?そして今回のCM作成には、それなりの知識と経験、技術が必要だ。有識者が、あるいは経験者が居たという事になるが、一体誰なんだ?坂柳有栖か?それとも町田浩二か?石田優介か?橋本正義か?』
坂柳有栖は成績優秀であり、Aクラスの中心人物の一人だ。
町田や石田優介、橋本正義もそれぞれの派閥の幹部であり、ここに名前が上がるのも理解出来る。
各クラスの情勢を理解している当たり、どこかの筋から情報を得ているのだろう。
『…俺はな、今回の企画立案者、そして同窓会に協力を求めた生徒と話してみたいと思った。その席には勿論、葛城にも参加して貰いたい。今回の件でAクラスに成功体験を与え、一つに纏めた影の功労者。それが今回の件の企画立案者だ。この学校の真実に一月経つ前に気付く者はいたが、一月経つ前にクラスを一つに纏め、一つの国家として成立させた人間はこの学校史上初だろう。』
堀北会長が言う事が事実だとすれば、藍宝は今回の件でクラスを纏め、信頼し合える関係を構築させたという事だ。
果たして、この学校について知らない新入生が入学して数日でそこまで見通す事が出来るのだろうか。
疑問は残るが今は堀北会長との会話に集中すべきだ。
『どうだ?葛城。今回の影の功労者、紹介しては貰えないか?』
堀北の言葉に俺は即答した。
『お断りします。』
『何?』と堀北会長は鋭い眼光を俺に向けてきた。
冷たい氷のような眼光に怯んでしまいそうになるが、生徒会の一員としてここで引く訳には行かない。
『理由は2つあります。」
「ほぉ。言ってみろ。」
堀北会長に促され俺は話し始めた。
「まず、紹介するにしても彼等、彼女等の許可を得ていません。そしてもう1つの理由は、堀北会長、貴方に紹介するメリットが感じられないからです。』
我がクラスの影のリーダーと、まだ名が知られていない友人を彼に紹介すれば、数日のうちに噂が立つだろう。
せっかく、表向きのリーダーは俺という事になっているのに、敵に手の内を見せる訳にはいかない。
つまり、旨味が一切無いという事だ。
『今噂が立てば、Aクラスに有利なこの状況が崩れる可能性があります。それに、もし会長の言う通り、企画立案者が先見の明を持つような実力者であれば、この先、もしくは今も有名なのでしょう。貴方ほどの方であればすぐに分かるのではありませんか?』
堀北会長は俺がこのような返答をすると思っていなかったのか、感心したように俺の肩に手を置いた。
『葛城、良い返答だ。ならば、楽しみは取っておこう。だが気が変わればいつでも言いに来るといい。その時には、お前の望む物を…いや、お前達が望む物を与えると約束しよう。』
初めて見る堀北会長の優しい表情に驚いたが、生徒会長に相応しい人格者なのだと改めて思った。
『分かりました。…堀北会長、俺から一つお願いがあります。』
堀北は気を引き締め、低い威圧的な声で俺に問う。
『なんだ?言ってみろ。』
『中間テストの過去問をもしお持ちでしたら、譲っていただけないでしょうか?勿論、タダでとは言いません。ポイントを支払わせて頂きたいと考えています。』
『ほう?中間テストについて説明を受けた今日、過去問の為に交渉を行うとはな。それはお前の考えついた勉強法なのか?』
『その問いにはYESと答えますが、俺一人で思いついた訳ではありません。坂柳という生徒と勉強法について意見交換した際、坂柳も俺も中学時代定期試験の過去問を用いた勉強を行った事があるという事実から、この学校でも過去問を用いて勉強をしたいと考えたのです。』
赤点者は即退学となるこの学校において、過去問の価値は相当なものだろう。
勿論問題作成者によって出題形式は変わるが、様々な出題形式に対応出来れば、問題をスムーズに解く事が出来る。
そしてテストの練習にもなり、本番前に一度は解いておきたい。
『なるほど。俺が求めていた回答では無いが、その思慮深さは称賛に値する。葛城、プライベート用の連絡先を交換しよう。』
そう言い堀北会長は携帯を取り出した。
俺も慌てて携帯を取り出し、プライベート用の連絡先を交換した。
そしてピコンと音がなり、通知を確認すると50万プライベートポイントが振り込まれていた。
『か、会長!これは一体『落ち着け。』…失礼しました。』
堀北会長は取り乱しそうになった俺を制止し、この行動について話し始めた。
『これは過去問を用いるという勉強法をいち早く見つけた葛城と坂柳に対する期待だ。一人25万プライベートポイントずつ受け取って欲しい。俺は坂柳の連絡先を知らない為、葛城が渡してくれ。』
『分かりました。責任を持って彼女にポイントを渡し、堀北会長のお言葉を伝えます。』
『そして過去問だが今は手元に無い。明日の朝、生徒会室に来て欲しい。そこで過去問を渡そう。人数分コピーが必要なら、コンビニの有料コピー機では無く、生徒会室のコピー機を使うと良い。』
私的な利用をしても良いとは有難い。
『分かりました、ありがとうございます。しかし、いくら支払えば宜しいでしょうか?』
そう聞くと堀北はニヤリと笑い、こう言った。
『ポイントはいらん。だが、期待を裏切る事の無いように励め。』
優しそうで優しくない、呪いの言葉を言い笑った。
彼は生徒会室から出るよう促し、俺達はその場で別れた。
堀北会長は噂に聞いていたような冷徹な人物では無かった。
ユーモアのある素晴らしい生徒会長だ。
俺もいつか彼のように歴史に名を刻めるような生徒会長になりたいものだ。
俺には新たな目標ができた。
この学校で歴代最高の生徒会長になってみせる。
〜〜〜〜〜葛城の回想【終】〜〜〜〜〜
「という事があったんだ。」
葛城が堀北会長と話した内容を言い終え、私や坂柳に視線を向けて来る。
「なるほど…私は堀北会長とお会いしても構いませんが、本当に堀北会長が話したい相手は藍宝さんのようですね。」
坂柳の言う通り、企画立案者…
つまり私に興味を持っているらしい。
まさか、堀北会長が私の意図に気付いていたなんて恐れ入った。
しかし私は目立つ事が嫌いなので、このままスルーしておこう。
「残念だけど、生徒会長さんと話したいとは思ってないかな。」
葛城は残念そうな顔で「そうか」と頷く。
「しかし、『お前達が望む物を与える』という発言は気になります。特に『お前達』という部分ですね。葛城君単体ではなく、会長さんとの会談に参加した人物を指しているのでしょうが、何故このような言い方をしたのでしょうか。」
「…もしかして、会談に参加した人では無く、私達Aクラスを指しているんじゃないかな?堀北会長は事実はともかくとして、私達Aクラスを一つの国家として纏めた可能性のある企画立案者…つまり私と話したいって事だよね?それなら、一つに纏まったAクラスはリーダーの所有物では無く、皆の国家として認識するかもしれない。その場合、誰か一人にではなく、このクラスが望む物をあげるべきだって思うんじゃないかな?」
私の考えに坂柳と葛城は少し考えるようにしてから、同意を示した。
「面白い考え方だが、その可能性は十分有り得る。もしAクラスが窮地に陥った時、堀北会長の望みを叶え、助けを求める事も出来るという事だな。」
「ええ、葛城君の意見に賛成致します。もし窮地に陥れば、その時は私達に与えられた特権を利用して、窮地を脱すれば良いのです。まあ、藍宝さんが良ければ、ですが。」
流石にクラスが危機に陥れば、私の感情で会わないという選択肢は取れない。
その時は腹を括って、堀北会長と会う事しかないだろう。
「私はそこまで冷徹じゃないよ。そうなれば、泥水だって啜るよ。」
「そうか。それは助かるな。」
しかし、備えあれば憂いなし。
まずは国庫の資金…つまりクラスが使えるポイントを集める必要がある。
今のままでは、他クラスとの交渉に使えるポイントは0だ。
私は2人に提案をする事にした。
「そうだ、今後についてなんだけど。いざと言う時の為に、Aクラスの生徒からクラスの資金を徴収しない?毎月3万ポイントくらいなら、そこまで痛くない思うんだけど…どうかな?」
「それは良い考えですね。私もクラスで使える資金は必要だと考えていました。しかし、今の支給額では3万ポイントは少々キツイと思います。」
「そうだな。運動部に所属している生徒は、食費が多くなるだろう。毎月10万近いポイントが入ってくるからといって、三分の一を削るのはリスクが大きい。2万5000ポイントでどうだ?」
「うん、それくらいで大丈夫だと思う。確かに食べる量は人それぞれだし、検定や外部模試を受ける人は、もっとお金がかかるもんね。」
「検定は分かりませんが、外部模試の費用は全て学校負担だそうですよ。」
一回の模試で約3000円から5000円の費用がかかってしまう。
それを全額負担してくれるなんて、あまりにも良心的だ。
この国の国庫は無限に溢れる湯水か何かか?
「…私この国の国庫が不安になってきた。税金上げた方が良いんじゃないかな?」
「消費税増税案が出ているとは聞いていますが、恐らく早くても1年後でしょうね。」
その後、坂柳はクラスのグループチャットにポイントの徴収と徴収理由を書き込み、クラス全員がその日の内に坂柳宛にポイントを送った。
勿論、私もポイントを送った。
このポイントは坂柳が管理する事になっており、他クラスとの外交やクラスで必要な物を買う為の資金として使われる事になる。
数分後、寮に到着し葛城と鬼頭の住む階に到着した。
「ではまた明日会おう。過去問はコピーを行ってからクラスに配布する。この過去問を用いて他クラスとポイントを使った取引を行うという話は坂柳に任せるぞ。」
「ええ、外交に関しては私にお任せ下さい。貴方はせいぜい、Aクラスのマスコットとして踊っていてください、葛城君。」
「挑発には乗らん。」
どうやら過去問を受け取る前から、既に2人の間では次の作戦が決められていたらしい。
初めはどうなる事かと思ったが、この2人意外と息が合っている。
この調子でそこそこ仲良く頑張って貰いたい。
「じゃあ、葛城君、鬼頭君、またねー!」
「ええ、お2人ともまた明日お会いしましょう。」
「ああ。」
寡黙な鬼頭が坂柳に一礼し、エレベーターから降りて葛城と共に自室へ向かって行く。
私はエレベーターの扉を閉じた。