ハムちゃんと行く実力至上主義の教室へようこそ。   作:マチルダ鈴木

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坂柳と遊ぶ話です。


買い物

「…どういう事ですか?真嶋先生。」

 

 

「警察が予告状を鑑定したところ、指紋はうん検出されず予告状に使われた紙も全国の100円店に置かれているレターセットで、犯人の判別は難しい。そして、君を悩ませていた不審者なんだが、君がこの学校に入学してからパッタリ消えてしまったそうだ。」

 

 

不審者が消えた事は喜ばしいが、殺害予告とは随分物騒だ。

一体誰に充てられたものなのか。

 

 

「その殺害予告は誰に宛てられたものですか?」

 

 

「…」

 

 

真嶋は黙り込んでしまった。

彼が黙った理由も、宛先も予想は着くが、彼の口から聞かなければ確信は持てない。

 

 

「先生、教えてください。」

 

 

真剣な声で真嶋に訴える。

 

 

「…君に宛てられたものらしい。ケシの花が便箋にはプリントされており、君が覚えているかは分からないが、例の事件に関わっている可能性が非常に高い。」

 

 

繋がった。

あの誘拐事件にケシの花…

つまり違法薬物が関わっており、今回の予告状にその花がプリントされているのであれば、不審者は事件の関係者である可能性が高い。

 

 

「予告状に書かれている日付は8月3日だ。まだまだ先だが、要警戒という事でこの学校に警察とガードマンが派遣される。特に夜間の警備を徹底的に行い、外部の来客についても身元を明らかにしてから入校を認める事になっている。」

 

 

「そう、ですか…」

 

 

「そして、この予告が来た為先に話しておこう。君達は7月と8月の約2週間の間に豪華クルーズと特別試験を行う事になっている。しかし、君の安全が優先される為、このクルーズや特別試験への参加を拒む事も出来る。」

 

 

なるほど。

学外に出向く為、その分警備も手薄になってしまう。

外に出れば、例の不審者や予告状を送り付けてきた人間に接する機会を与えてしまう事になり、予告日もそのクルーズと被っており、危険にさらされてしまうという事だろう。

 

 

しかし、この機会を逃せば今後もわたしは危険にさらされるはずだ。

事件から何年も経って、私を殺したいという事は私が何か重要な情報を握っているからに他ならない。

であれば、ここでやり過ごしたとしても今後も狙われる可能性が高い。

なら、今回私を囮にして犯人を捕まえる方がメリットが大きい。

 

 

それに、協力的なAクラスの雰囲気をここで壊す訳にはいかない。

私が試験に欠席する事で、クラスメイトに迷惑をかけてしまう可能性もある。

ならば参加して、少しでもクラスに貢献すべきだ。

 

 

「そのクルーズにも特別試験にも参加させて頂きたいです。今のAクラスの為にも、例の事件で傷付けられた被害者や遺族の方々の為にも、私は参加したいと考えています。」

 

 

「藍宝、本当に良いのか?」

 

 

「はい、参加させて下さい。」

 

 

「分かった。ガードマンに護衛させる関係上、船上では一人部屋を与える事になる。そして、学校側でも配慮する。そして、この件については他言しないように頼む。」

 

 

可能性は低いが、どこからこの話が漏れるか分からない。

学校側の対策が漏れれば、犯人に有利になってしまう。

だから真嶋は、他言を禁止したのだろう。

 

 

「分かりました。」

 

 

そして通話を終え、私は自分が死ぬかもしれないという状況になっても、冷静に振舞っている事に気付いた。

まるで、自分が狙わているという事に興味が無いみたいだ。

 

 

「…死ぬのは怖いけど、これは現実味が無いなぁ。」

 

 

翌日、学校に向かい何事も無かったかのように授業を受けた。

 

 

「藍宝、さっき姫さんが探してたぜ。」

 

 

珍しく橋本に声を掛けられたが、どうやら坂柳が私を呼んでいるらしい。

後で彼女の元へ向かう必要がある。

 

 

「わかった。ホームルームが終わったら話してみるね。」

 

 

「ああ、そうしてくれ。」

 

 

真嶋が教室にやってきて、ホームルームが始まった。

真嶋が私の方にチラチラと視線を送って心配そうな顔をしていたが、私自身不安に思っていない為、気付かないフリをした。

殺害予告に恐怖を抱いている訳では無いが、それが気になって気になって仕方がない。

考えないようにすればするほど、殺害予告を意識してしまう。

 

 

ホームルームを終えて坂柳の元へ行くと、どうやら以前話していたモールへ今日の放課後行かないかとお誘いを頂いた。

私は気分転換も兼ねて、坂柳と買い物に行く事にした。

そして放課後、坂柳と一緒にモールに向かった。

 

 

「あはは、なんだか新鮮な気持ちだな。」

 

 

「何がですか?」

 

 

「学校帰りに寄り道をする事、かな?」

 

 

「確かに、多くの中学校では放課後の寄り道は禁止されていますからね。私も初めて寄り道をしたのはこの学校に来てからです。」

 

 

初等部は勿論、中等部も学校帰りの寄り道は禁止されており、放課後に友達と遊ぶには一度家に帰るか制服から私服に着替える必要があった。

友人の家で別の服に着替えて遊びに行く事はあったが、制服姿で学校帰りに遊びに行く事は出来なかったので今日の買物は少しドキドキしている。

 

 

「ペットショップはこちらですよね?」

 

 

「そうだね。」

 

 

私達はメインの動物を観察出来るスペースへ移動した。

そこには様々な種類の動物達がおり、犬猫、小動物、魚や甲殻類と大きく3つのジャンルに分けられていた。

私達はまず犬や猫を見る事にした。

 

 

「わあ、このトイプー可愛い。このチワワも愛らしい。ワンちゃんも可愛いけど、猫ちゃんも可愛いなぁ。マンチカンも足短くて可愛いし、スコティッシュもお耳伏せられてて可愛い!あー、みんな可愛い。」

 

 

愛らしい動物達が狭いお部屋で生きている姿に心が苦しくなるが、その可愛らしい姿には涙が出る程感激してしまう。

正直ガラスに張り付いて見ている様は不審者にしか見えないが、どうか目を瞑って欲しい。

坂柳は普段との私のギャップに驚いたのか、若干引いているように見えるが、気にしない。

その程度の事で折れたりしない。

 

 

「家族に迎える事は出来ないけど、こうして色んな子達と会えるから、ペットショップは好きなんだよね。」

 

 

「…この子」

 

 

坂柳が1匹の子猫に目を奪われていた。

そのケースの中には、ラグドールの子猫がおり、坂柳の方をじっと見つめていた。

 

 

「ラグドール…色はブルーポイントバイカラーで、性別は男の子みたいだね。わあ、43万もするんだ。税込で48万くらいかな?」

 

 

「…とても可愛らしですね。」

 

 

坂柳がガラスに指を近づけると、子猫は坂柳の方に手を伸ばしガラス越しに指と手が触れ合った。

どうやらこの子猫は坂柳に興味を示したらしい。

私も同じように指を近づけてみるが、私にはなんの反応もない。

 

 

「わあ、私の事は興味無いんだでも、有栖ちゃんの事を気に入っているみたいだね。」

 

 

そう言うと坂柳は僅かに嬉しそうな顔をしていたが、すぐに普段通りの落ち着いた表情で話し始める。

 

 

「茉莉花さん。そろそろ、他のところを見に行きませんか?」

 

 

「もう良いの?」

 

 

坂柳はずっとケースの中のラグドールを見つめている。

彼女の瞳には確かに優しさが滲んでいた。

彼女はこの子を気に入っているはずだが、どうしてこの場を去ろうとするのだろうか。

 

 

「この子を飼う…いえ、家族に迎える事は今の私には出来ません。ここに居ては、情が湧いてしまいます。」

 

 

「そっか!…うん、そうだね。他のところも見てみよう。」

 

 

彼女のさっぱりとした決断に私は敬意を評し、別の場所へ移動する事にした。

その後、魚や小動物のコーナーを見学し、私は目的の買い物を済ませた。

坂柳はペットショップが初めてなのか、売られている商品に興味津々といった様子を見せていた。

 

 

「この球体は何ですか?カプセルのようですが…」

 

 

坂柳が指差したのは小さなカプセルだ。

 

 

「これはハムスターボール。ハムスターを中に入れて自由にお散歩させてあげられるアイテムだよ。ただこれ、プラスチック製だし、中に入ったハムスターが回転に追いつけなくてぐるんぐるん回されちゃう事もあるんだよね。だから私は使ってないよ。」

 

 

ハムスターボールを買おうとした事もあるが、危険に陥る可能性があるので辞めた。

優先されるべきは、自分の感情でも楽しさでもない。

家族の安全、それだけだ。

 

 

「…茉莉花さんは本当に大福さんを大切にされているのですね。藍宝さんは大福さんを飼っているのではなく、大福さんと一緒に生活しているのですね。」

 

 

「そう、だね。私にとって大福さんは一緒に支え合う家族だから。飼ってるって感じはしないなぁ。多分、これは私の家族も同じだと思う。種が違うから、ペットショップで買ったから、なんて理由は些細な事で、一緒に生活してるんだからそこに上下関係は無いんだよ。」

 

 

ペットと飼い主といえば、上下関係が生まれてしまう。

だけど私は家族を見下したい訳じゃない。

だから、種族が違えど私はペットという言葉はなるべく使わず、家族という言葉で表すようにしている。

坂柳が、私の細かい言い回しに気付いてくれて少し嬉しくなった。

 

 

「よし!欲しい物は全部買えたし、この後はどうしようか?」

 

 

「少しお洋服を見ても宜しいですか?」

 

 

「勿論だよ!私も新しくワンピースでも買いたいなって思ってたんだよね。」

 

 

「それは良かったです。では、3階に移動しても宜しいですか?」

 

 

「大丈夫だよ。」

 

 

その後、坂柳とブティック巡りをした。

坂柳の行きつけは、どこの店も7000〜25000ポイント程度の価格帯で、高校生が軽々手を出すのは難しい店ばかりだ。

しかし、生地の質が高く、デザインも洗練されていて美しいものばかり。

女子高生が見ればつい欲しくなってしまう為、わざわざ階事に価格帯の異なる店が入っているのだろう。

 

 

「有栖ちゃんは、普段からこういうお店を利用してるの?」

 

 

「そうですよ。家に外商を呼ぶ事が多いので、お店に出向く事は少ないかもしれませんが。」

 

 

流石は理事長の御息女、名家のお嬢様だ。

私の友人にも家に外商を呼ぶような令嬢もいるが、国立の学校にそんな方が通われるイメージは無い。

だからこそ、坂柳のお嬢様っぷりには驚いてしまう。

 

 

「茉莉花さんも、名桜大の附属に通われていたのですから、このような経験はおありでしょう?」

 

 

「流石に、外商を呼んだ事は無いかな。それにブランドにはそこまで拘らないしね。」

 

 

私はオシャレにこだわりは無いが、私の周りの友人達は違う。

だから彼女達との買い物で百貫店に行く事もあるが、買うとしても数着だ。

基本的には、母親の買い物に着いて行って、私が本屋やDVDショップを見ている内に、私の洋服もついでに買ってきて貰っている。

だから、坂柳のような経験は無い。

 

 

「…しかし、茉莉花さんの私服には皇室御用達店の物もいくつかあるようですが。」

 

 

「私、身の回りの小物は自分で買う事が多いけど、洋服は基本的に母に選んでもらっているの。だから、恐らく私の服に関しては母の趣味だね。高価な物は友人や親戚の方からの贈り物だと思う。」

 

 

「そうなのですか…名桜大の附属はかなり高額な学費がかかる上に、所得によって入学が制限されると聞いた事があります。」

 

 

「うーん、確かにそうだけど、だからって皆が皆裕福な家庭に生まれている訳じゃないしね。特待生として通っている子もいたし、色々だよ。現に、私の家は一般家庭だしね。」

 

 

「そうでしたか。それは失礼致しました。」

 

 

中には大企業の子息令嬢や皇族の方もいらっしゃるが、だからといって全員が裕福な暮らしをしている訳ではない。

世帯所得の制限はあるが、それを超えていれば入学に制限がかかる事は無いし、特待生制度もある為、学校名でを聞いただけで裕福だと判断するのは間違っている。

 

 

「…そういえば、茉莉花さん。例の事件に関する新聞は手に入りましたか?」

 

 

「あー、うん。処分寸前だったものを頂いて、内容を確認したよ。」

 

 

私は死体の状況や血痕が残っていた小屋、被害者遺族の証言や、キャンプ場付近の怪談話、ケシの栽培など、知った内容を坂柳に話した。

 

 

「なるほど。私が知っている情報とほぼ同じですね。事件に関する内容は把握したかと思いますが、記憶を思い出したりはしていませんか?」

 

 

「残念ながら、何も思い出せていないよ。」

 

 

「…そうですか。しかし、事件について知ったという事は、新たな刺激が加わったという事です。ですから、前向きに考えて行きましょう。しかし、キャンプ場付近の怪談話ですか。気になる事があるので、私の方で調べて見ますね。茉莉花さんも、気になる情報については詳しく調べて見ると良いですよ。」

 

 

坂柳のおかげで、私が次行うべき事が分かった。

新聞に書かれていた情報について、ネットで分かる事は詳細を調べていく。

この作業に意味があるかは分からないが、事件に関する理解度を深める上では重要な行動かもしれない。

 

 

「分かったよ。ありがとう、有栖ちゃん。」

 

 

新たな刺激といえば、殺害予告が届いた事も含まれるはず。

だが、それを坂柳に言っても良いのだろうか。

殺害予告をわざわざ私の実家に送っている時点で、犯人は現段階でこの学校に入る事が出来ないという事だ。

だから、坂柳が犯人やその関係者である可能性はほぼない。

だが、友人に殺害予告が届いたなんて話を聞けば心配させてしまうかもしれない。

それに何より、真嶋に他言してはいけないと言われている為、そう簡単には話せない。

 

 

「何か悩まれているようですね?」

 

 

「え?」

 

 

私が呆けたような声を上げると、彼女はクスリと微笑んだ。

 

 

「どうして分かったのか、とでも言いたいようですが、どうやら私には話せないような事情があるとお見受けします。ですから、無理に話せとは言いません。」

 

 

坂柳はこの数時間の私の様子で、私が何か悩んでいる事に気付いたらしい。

素晴らしい観察眼の持ち主だ。

 

 

 

「凄いね、どうして分かったの?」

 

 

「ふふふ。今日、HRの時間に真嶋先生は貴方を気にしているのか、チラチラと視線を送っていました。そして、貴方は真嶋先生を見ずにぼんやりと窓の外を眺めていましたね。2人の間に何かあった事は明白。そして、真嶋先生の方を一切見ない貴方の様子から、何か悩みがあるのだと気付けたのです。」

 

 

「…凄い、凄いよ。そんな数分間の些細な出来事で、全て見通してしまうなんて。」

 

 

「褒めても何も出ませんよ。ですが、困っている事があればいつでも力になりましょう。」

 

 

坂柳の優しい言葉に少しだけ心が軽くなった気がした。

程よい距離感が保たれているからか、この学校で自分をここまで心配してくれる人が彼女以外居ないからかは分からない。

だが自分は友達が上手く出来なくて、寂しかったのかもしれない。

こんな些細な言葉で、胸がじんわりと熱くなるのだから。

 

 

「ありがとう、有栖ちゃん。何かあったら、頼らせてもらうね。」

 

 

「ええ、そうしてください。」

 

 

その後、私の提案で2人でゲームセンターに向かい、可愛いクマのぬいぐるみをとったり、プリクラを撮ったりして青春を満喫した。

ゲームセンターを出た私達は、買い物を終えてモール内のカフェに入り、スイーツを食べてから寮へ戻った。

 

 

「今日はありがとう。良かったらまたこうやって遊びに行けたら嬉しいな。」

 

 

「ええ、こちらこそとても楽しかったですよ。また行きましょうね。」

 

 

今回の寄り道は凄く楽しかった。

今度は新たに友達になった椎名とも趣味について話しながら、スイーツでも食べられたら嬉しいな。

そんな期待を胸に、私は部屋に戻った。

大福さんにおやつをあげて、買ったばかりのひんやりハウスの設置を行う事にした。

 

 

「あ、大福さんお水減ってるね。すぐ入れ替えるよ。」

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