キヴォトスに転生した俺、とりあえず逃げ回る。 作:旅する野良猫
二十三話 キッチンヘルプ一人で繁忙期を支えるのは間違っている
「さて、多少はマシになりましたか?」
「いんや、マジで良く分かんねぇままなんですけど……」
目の前で事前に用意しておいたケーキスタンドの軽食を美味しそうに食いながら、何度同じことを繰り返したか分からない問答をしていれば。
「どうしてそれで成績保ててるんですか……」
呆れた様子でスコーンと紅茶を消費していくラフなナギ先輩の姿はちょっとだらしなく思えた。
成績に関しては……うん。日頃の行いが良いから……?
──課外授業部。
目の前にいるティーパーティーの一席、高等部三年桐藤ナギサの命により生まれた第二の補習授業部。
部員は部長任命(強制)された俺のみ。
監視としてティーパーティー所属桐藤ナギサが仮入部扱いで登録されたイレギュラーな部活動。
部の主な目的は所属校の自治区外でも学びある活動を行うことらしい。
……課外活動部では駄目だったのだろうか。
シャーペンを顎に当て、カチカチしながら頭を掻いていれば。
「おぉ、やってるやってる〜!!」
教室のドアを開いて元気よくピンク髪の少女が入って来た。
「……また来たんですか」
「そりゃあ、こっちでやった方が書類とかは捗るし☆」
俺の中ではつい最近ボコボコにしてきた
「今日もルカちゃんのお菓子ある〜!!」
わ~いとまるで女児みたいな喜び方をしてて微笑ましく思える。脳裏にでもゴリラなんだよなぁとか浮かぶけどそっと消して感情を殺す。バレたら再入院(投獄)とかシャレにならない。
「お仕事早めに終わらして私もお茶しよーっと」
カバンからファイルを取り出し、バサーっと自分の机にぶち撒いたと思えば、ちゃんと見てるのか分からないペースでハンコを押してはファイルに戻していく。
「……ナギ先輩、あの人ちゃんと見てやってるんです?」
「……そんなわけないでしょう。彼女には会議で事前に可決した書類のハンコを押してはもらっています。ハンコを押すだけでも量が多ければ重労働ですから」
「あぁ……なるほど……」
流石にそこはちゃんと考えられていたらしい。
洗練された動きでハンコを押してはファイルに入れられ、残像すら見える挙動はまるで印刷機のようである。
「流石にこの距離の内緒話は聞こえてるからね?」
──ドンッ!!
と、強めに威圧感を持ったハンコ押しの音が普通に怖い。これが日常だったなら確かにナギ先輩はお腹痛かったんだろうなぁ……と同情しそうになる。
巻き込まれた側だから絶対しないけど。
……まぁ、無事に仲直り出来て良かったとは思った。
第二回謝ろうの会in独房はとにかく酷かった。
どいつもこいつも黙りこくって私が悪かったって顔しかしてないので、一人一人罪状を宣言させて謝罪を一周させた。
それでもまだ気まずい空気しか無かったので、内心をこっちで解釈して勝手にゲロった。
俺の出獄予定日が延期になった代わりに、全員顔真っ赤にしてプルプル震えて帰っていったからな。
ある種俺がした痛い思いの復讐は果たしたと言える。
……第三回も何故か独房でされて気が付けばティーパーティーの監視下でしか生活出来てねぇけども。
──そんな独房で目覚めてから大体2週間ほど。
身体の方は意識が戻ってからみるみるうちに回復して背中は殆ど治ってちょっと抉れてる傷痕があるくらい。
首筋がまだ治りかけのようで合わせ鏡をしたりあの手この手で確認したら痛そうなカサブタのラインが入ってた。ちょっとカッコいい感じだ。ティーパーティーの先輩方からは不評の嵐、はよ治せの声を貰ったけど。
……そして肝心な、イェツンレーラの副作用。
恐らく副作用なのだろう。
粉砕骨折したと言われていた腰椎から手羽先みたいなちっこい羽が生えてきてた。
……コレで名実共にトリニティ生です。
今まで制服で不良共からトリニティバレしてたけどもう隠せなくなるだろう。
ちなみに触られるとめちゃくちゃくすぐったい。
レントゲンも撮られたけど腰椎及び脊髄からしっかり赤ちゃん骨格が出来上がってるらしく、下手に切除すれば神経が駄目になるとかで、マトモに歩けなくなるって団長に脅されて泣く泣く断念しました。
……人体にこんな部位不要だと思います。
というかなんでこんなちっこいのが生えてきてんだ……
せめて完全に一対になってる翼とかならカッコいいが勝ってたかも知れないが、ろくに羽毛のないハゲ羽……というかほぼ生の手羽先が生えてるキモさよ。
背中にピコピコ動く3本指が生えた人の気持ちが分かるか?
今までこの16年間ひゅーまんぼでーで生きて来てんだ。それが今更羽とか……違和感で感覚がパニック起こすぞ!!?
できる子那賀波さんだったのに、今じゃ少しでも触られると集中力が簡単に削がれて神秘接続してる時みたいに集中しないと勉強出来なくなって困り果ててます。
意識が戻ってからのゴタゴタはあったものの、後はもうご存知の通り、旧校舎で俺の監視として作られた箱“課外授業部”にてティーパーティーの皆様に見られながら追試に受かる為に勉強中だ。
セイア先輩は散歩の名目で出没して、ミカ先輩はなんか知らんけど良く顔を出す。
でもしょっちゅう羽を触ろうとするから苦手だ。
「相変わらずルカちゃんのスコーンは甘いね〜。美味しいのは良いんだけど食べ過ぎで太っちゃいそう……」
「いや、だってドライフルーツとかチョコチップ入れた方が美味しくないですか?」
「……はぁ、ルカさんは分かってませんね。シンプルな伝統的レシピで作られたスコーンは、紅茶を楽しむ為にあるアクセントであって主食では無いのですよ?」
「ナギ先輩紅茶のことになるとすぐキレますよね。良いじゃないですか美味しいんだから」
「ルカ、ミカもナギサも美味しいからつい食べ過ぎてしまうことに苦情を入れているんだ。私は食事量が増えて健康的になったと褒められたがね」
「そんなコロコロ体重変わるなんてアニメじゃないんだから美味いなら食えば良いのに」
「ほんっっとうにルカちゃんってデリカシーないよね!!?」
「私としては食料品の在庫削っても良いんですよ? 我々の後輩であることを自覚してもう少し淑女らしくしてもらう為にも……!!」
「いや、本当にそれだけは勘弁して下さい……」
現在旧校舎に生息している俺にとって、メシを作るのと食べるのが唯一の娯楽なんです……
ただでさえ医療器具の密造の一件からライセンスの強制所得を義務付けられ、製品は救護に支給する契約をさせられたのだ。ちくしょうミネ団長め……何が『セリナ達に楽な思いをさせてあげたい』だ……!!
俺にモルヒネの処方箋くれないのに団員達にはシリンジポンプ支給するのは差別だろ……!!
なんなら一部薬品なんかも作る羽目になって、今や旧校舎の一部区画は俺のラボ扱いだしさぁ……
そんな製作活動が趣味から仕事にシフトしてしまった苦しみを癒してくれる唯一のオアシス。
それが食事なのに……
──それも取り上げられてはたまったものでは無い。
「ナギ先輩……もし、もしですけど。万が一にも本当にソレされたら私はトリニティを滅ぼしますからね……?」
出獄後、元の生活に戻るのかと思っていたら鳥籠の中に収められたのだ。ネームドに絡まれない自由な生活に戻れる筈だったのに、気が付いたらなんかティーパーティー秘密会合御用達ルームの管理人してるんですよ。
これ以上俺の権利を奪われるならイェツンレーラ三本投与も厭わない。その時は俺が『魔女』になってやるからな……!!!!!!!
「流石に言い過ぎでしたね……すいませんでした」
「……許します。次回の食材ストックの時に牛リブロースのブロック入れといて下さい」
「またお肉……お野菜もっと摂らないとブツブツ出来ちゃうよ……?」
「ミカ先輩には特別に伝統的スコーンとキューリサンド、ケールムースのタルトをご用意いたしますね?」
「ご、ゴメンね……? で、でも、美容には……」
「あ、スコーンにはクローテッドクリームがつきものでしたね!! ノンシュガーのアールグレイヨーグルトクリームをご用意「本当にゴメンね!? 美味しいモノいっぱい食べようねッ!!」」
半泣きで抱き着いて許しを請うので寛大な心で流石に許した。
……よし、勝った。
「……あ、セイア先輩は後でポチョバスクイズ100回です」
「私だけオマケ感が凄くないかい!!?」
「今更じゃんね?」
「ま、まぁまぁ……ゲームなのでしょう?」
「わー……すンげぇ納得いってない顔」
「当たり前だと思わない現状が可怪しい筈なんだがッ!?」
「「ワー、セイア(ちゃん・先輩)ナニイッテルカキコエナーイ」」
「凄く鬱陶しいぞその言い回し!!?」
ニキビが出来るとか気にしない!!
つか今世を生きてる中でニキビ出来たことがねぇので多分身体が適応しているのだ。ちゃんと運動(ほぼ自動化した製造系の機器点検に駆け回る)もしてるし。
後、時々寸止めだけどミカ先輩に付き合わされて徒手空拳での戦闘訓練(風圧に耐えるのとカウンター何回か狙うので精一杯)してるし。
摂取分は動いているはずである。
勉強もソコソコにここにいる、というか全員いるティーパーティーメンバーにならって、休憩がてらティータイムと言う名のサボタージュをする。
トリニティではティータイムの優遇が凄いのが売りというか、校風というか……うん、文化だ。
トリニティに出店する様々なPOPUPショップでは高確率でどこでもティーセットなるグッズが存在する。
もちろんモモフレンズも例外ではない。
スカルマンのどこでもティーセットは旧校舎に一式、自宅に二式あり、どっかしらのタイミングでアズサに譲る予定だったのだが、今は俺が旧校舎でティータイムの時に使う用になってしまっている。
どこかしらでアズサ達と話はしたくあるが、生憎俺は動けないし、アズサ達も俺の前に来ないことから嫌われているのかも知れない。
まぁ、エデン条約編でしゃしゃり出ること無く、ひっそりと
イェツンレーラもだいぶ薬効分かってきたし、旧校舎改装(改造)でティーパーティーから材料ちょっとボッタクってバージョンアップしたロックスクラッパーの試運転も良い感じだし、何とかなるだろう。
ボケ~っとお菓子の出来に満足しながら茶をすすっていれば。
「──そういえばさ、ホントにするの〜……?」
嫌そうな顔でそんなことを口にするミカ先輩。
大抵こういう時は本校舎でやってた会議の意図だったり、額面通りでしか伝わってないから懇切丁寧に教えて欲しいと言った感じだろう。
「何がですか?」
「ゲヘナにルカちゃんを出向させるって話〜」
「は?」
は?
え、ゲヘナ出向?
「あっ……え、ナギちゃんこれまだ言っちゃ駄目なやつだった……?」
「はぁ……いえ、いずれルカさんにも話すべきことでしたから」
俺だけハブられてなんか決まった話のようで、全員一瞬気まずい面をしやがった。俺のことなのになんで俺が知らないんですか……?
「すいません、ちょっと理解が追いつかないんですけど」
「追試合格後にはなりますが、そこから残りの夏休み期間中、ゲヘナの給食部へルカさんをトリニティから友好の一環として派遣させて頂きます」
「へ?」
追試合格前提なのはもうこの際いい。
でも待ってほしい。今、コイツ夏休み期間って言った?
「これもエデン条約が無事に締結する為です。協力して下さいね?」
『──我々は共犯者でしょう?』
そんな副音声が聞こえた気がする。
共犯者でも夏休みを捧げる義理は無いと思うのですが気の所為でしょうか?
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「ルカさん、そろそろ玉子焼きの卵液切れます!!」
「え、マジかよ、じゃあジュリ倉庫からストック取って来といて!!」
「ルカ!! チャーハンの追加来たからお願い!!」
「じゃあ米研ぎもやんなきゃじゃんかよぉ……!!?」
────という訳で夏休みに意識を戻した俺に残された数少ない休みは療養で身体の回復。進級を確約する為の追試。
そして、夏休みにも関わらず戦場みたいになってるゲヘナ給食室のキッチンにて死んだ目をしながらキッチンヘルプに勤しむボランティア留学で消し飛ぶことになっていた。
ファッキュートリニティ。
ファッキュー労働。
ファッキュー外交問題。
「影分身とか出来る様になりてぇよォォ!!!!」
「そんな出来ないこと言うより手を動かして!!」
「動かしてるんですよ、精一杯!!」
玉子焼きを二つのフライパンで錬成しながらチラリとフウカの方を見れば4つのフライパンを使い分け、夏休みの補習に苦しむ生徒達から出された定食のメインを残像が残ってんじゃねぇのかと思う様な速度で同時に仕上げていた。
「グルメバトル漫画の方……?」
「アホ抜かしてないでさっさと玉子仕上げてチャーハンやって!!」
「サー!!イエッサー!!」
「そこはマムでしょうが!!」
「っ痛……!? ケツ蹴るなよ!?」
──拝啓、
何故私をこのような死地に向かわせたのか甚だ疑問が尽きません。でも、ラボの権利を盾に命じられたので大人しく従います。しかし、良く覚えておいて頂きたい。
私にも堪忍袋があり、色々ブチブチになってます。
その為、覚悟しとけ。トリニティの『歩く手榴弾』を貴様らの前で炸裂してやるからな……!!
「チクショウ、ミサイルでなんかこう良い感じにちょっと後悔するくらいのダメージ喰らっちまえ桐藤ナギサァ!!!!」
冷房をつけている筈なのにまるで冷えない灼熱のキッチンで俺の嘆きは米の研ぎ汁と共に流されるようにして霧散していく。
……もし本当にそうなっても、現場にミカ先輩いるから絶対難しいだろうけど。
そんな悪態をつきながら炊飯器をセットし、大型保温ジャーからチャーハン用の米を盛って、準備万全の鍋を振るう。
涙なのか汗なのか分からない体液がシャツを濡らしながらも、悲鳴を上げながらキッチンで労働に勤しんでいた。
〜夏空の厨房〜
──開幕──
本日のOneTopic:聖園さんとの徒手空拳で行う戦闘訓練は勝てるラインまで徐々に聖園さん側がハンデをセルフで出していく方式なので、初手を生き残らないと話になりません。23話時点では左人差し指と善戦出来る様になりました。(武器・ドーピング一切無し)
なんか筆がするする止まらなくなって怖い野良猫です。
評価数がもう少しで200行きそうでビビり散らかしてます。
UAもそのうち30万いきそうだし……
いつも投稿に振り回されつつも、楽しんで待っていただいてるアンラッキーズな皆様!!
本当にありがとうございます!!
なんだかんだ更新が途絶えて半年近く経過していたにも関わらず、気長に待って頂いたり、応援の感想を頂いたりと一章完結をさせる為の支えになっておりました!!
そしてどうか出来ればこれからも本作とのお付き合いを気長にゆっくり待って頂ければ幸いです。
今回から新章vol2になります!!
「エデンは!?」「エデン条約編はどうなるんでござるか!?」とのお声が出そうなので事前にお伝えさせて頂きますが、エデン条約編はvol2が終わった後になります。
これは個人解釈になのですが、エデン編は夏イベ後にあると考えているためです。
しかし二章を謳ってはいますが、要は那賀波の夏イベです。
那賀波の水着配布イベって感じでお楽しみ頂ければ幸いです。
いつも誤字脱字報告や感想を下さる読者方、高ぇ評価をして下さる読者方、更新を楽しみに待ってくださる読者方の皆様、毎度ありがとうございます!!
作者は承認欲求モンスターな乞食なのでいつも執筆前のガソリンになってます!!