キヴォトスに転生した俺、とりあえず逃げ回る。 作:旅する野良猫
「お、終わったぁァァァ…………」
「お疲れ様。賄い、食べるでしょ?」
「下さい……」
正しく地獄みたいな戦場だった。
食堂のテーブルにだらしなく突っ伏してぐったりしている俺と違ってジュリもフウカもピンピンしている。
夏休みの補習に来た生徒でこれなのだから、普段は今日の倍以上を捌いて食事を提供していると思うと人員追加してやれよと思わずにはいられない。
……いや、その結果俺が派遣されて死にかけてるんだけどもさ。
「ハイこれ。今日のAセットとBセットの小鉢使った賄い定食」
「ありがとうございます……」
ヘトヘトのぐったりした状態で、お盆を受け取ったはいいものの食べる元気すら持ってかれているのか食欲が湧かない……
「……レッドウィンターじゃデモ起きるレベルの労働だろあれ」
モソモソと行儀が悪い食べ方……あ、美味い。
……行儀の悪い食べ方を正して疲れながらも米とおかずを口に入れれば、段々涸れ果てた食欲が戻って来るのを感じる。
ちなみに今日のAセットはメインが酢豚で小鉢にもやしとキュウリにキャベツのさっぱりナムル、Bセットにはメインが白身魚のタルタルフライ、付け合わせのキャベツ、小鉢に肉じゃが。
賄い定食として渡されたお盆に乗る大皿にはサバの味噌煮が乗っていた。
つまり本日の賄い定食はサバ味噌とナムルと肉じゃがの組み合わせだ。
酢豚食べたくはあったけど売り切れたんだろうなぁ……
白身魚のフライも美味そうではあったけど、フウカのサバ味噌の味を知ってるから気持ちサバ味噌に軍配が挙がる。相変わらずですんげぇ美味い。
まぁ、売り切れなら関係無いしいいや。お米も美味い。あー……日本の味がする……
「……人手が常に足りてないからね。嘆いてもウチに入部する子が増える訳じゃないし」
「夏休み限りとは言え、ルカさんが来た分調理の分担が出来ますから……」
「残像で4本腕に見えるシェフがいるキッチンでチマチマ2本腕が調理してても助けられてる感全然無いんだよなぁ……」
「まぁそればかりは慣れもあるし……」
「それに今日はあいつらが来なかった分楽だったからね」
「あいつら?」
「……美食研究会よ。ルカがいる上で、あいつらが来ないとこんな楽になるとは思わなかったわ」
「あぁ……鰐渕共か……」
そういやゲヘナにはあいつらがいるのを忘れていた。
思わず苦い顔をしてしまう。
「あいつらいると風紀委員が間に合うかどうかの戦いになるし、間に合っても食堂の応急修理してから配膳になるから余計時間かかるし……」
よほど鬱憤が溜まっているのかこめかみに青ずじがピキッと浮いて語気も荒い。
「あー、今日は来なかったから楽だったのは理解した」
本当にいつもお疲れ様です……
『ろくに事情も知らずに給食食いに来てゴメンナサイ』そう心の中で合掌しつつ、話を合わせる。
「えぇ!! 今日は仕込みも早く終わるし、給食のクオリティもキープできるしいい事ずくめよ♪」
「なら……まぁ、良かったよ」
実際、普段より気楽にやれたと言うフウカの血色は明るく全然疲弊していないように見える。
なんか凄く満ち足りた表情だ。やる気に溢れてるというか、元気100倍というか……あれ?
でも確か美食研究会って夏休みは海に行ってるんじゃ無かったっけ……?
……助かってるならまぁいっか。
余計なことで今のフウカの心を殺すのも忍びない。
トリニティ生は人の気持ちが分かる学生なので!!
……人の気持ちがわかるから人の嫌がること出来ちゃうんだけどもさ。
「あ、別に置いておいてくれれば私やったのに」
食器を洗って締め作業に入ればフウカがキッチン
「いや、賄い食わせてもらって食器も洗わせるのは流石にお金払ってないのに良くないだろ」
「そういう変なとこ律儀よねアンタ……普通、トリニティ生がゲヘナの給食食べになんて来ること無いのに。しかも、ちゃんとお金ピッタリ支払って行くし」
呆れた様子で流しに食器を置くので、それも一緒に洗う。なんならジュリもそろそろ食べ終わりそうだし、ゆっくり洗って待つか。
「いや、だって……あー、笑うなよ?」
「え、何急に……」
「トリニティには給食が無いのは知ってると思うが……」
「それはまぁ、昔聞いたし……」
「まともに定食とかが食べれる飯屋が全然ないんだよ」
「は?」
「後、定食が出る店でも、よほどこだわって質のいいモン仕入れてんのかバカ高い」
「……え、マジで?」
「マジマジ。オマケに変にリーズナブルな所見つけたと思ったらマズかったり、異国感満載のフシギ味だったり……」
アジアン系かと思って行ったら中南米エスニックだったり、サラダ頼んだら刻んだケールとパクチー、パセリがこれでもかと山盛りにされて出てくるし。
国とか調理法になんかズレがあるんだよなぁ……
イタリアンをフレンチとして出してくるのとか、ビーフ100%を名乗っといて合挽き肉使ってたりとかちょっと許しがたい所はあらかたテロリストの犯行予告SNSアカウントのDMに住所と店名を送り付けたりもした。
合挽きパティは肉厚ですんげぇ美味かったけど牛じゃないのが丸わかりでお嬢様にジャンクフードの誤った知識を植え付ける大罪を犯したので、泣く泣く教えた。
何度ビーフ100%表記辞めて味で勝負しようって交渉しても変わんなかったから仕方なかったんだ……
「そんでもってリーズナブルって言っても、ゲヘナの給食を最低2週間は食える金額」
「うわ、ハルナが知ったら自治区ごと破壊しかねないわね……」
「いや、流石にそこは弁えてた。その手の店がトリニティからいっとき消えた位で済んだからな」
いや~当時は焦った。
正義実現委員会がガチ出動して拘束しに来てたからな……
当時2年生のツルギ先輩達とか気楽に出てくるからラトナシステムが完成して無かったら何回牢屋にブチ込まれることになってたか。
「アンタ伝書鳩してない?」
「……してないピヨよ?」
ジッとあまりにコチラを見つめ続けるものだから、つい目を逸らす。
「嘘つけぇっ!?やってたのね!?アンタ、
肩を捕まれ、ぐわんぐわん揺らされながら怒鳴られる。
「ちょ、茶碗落とすからやめ……止めろって!?」
「茶碗位アンタの財布で買い直すから取り敢えず全部吐きなさい!!」
「わ、おい!?強い強いマジで落とす落とす!!?ゴメンて今はもうやってないから許して!!?」
「その店のオーナーさん達はどうしたの!!」
「ウチの自治区内の飲食組合で揉めたらしくて自然淘汰されたりしたけど一部は真面目に働き始めたらしいから、揺らすのもう許してぇ……!!!!」
「はー……はー……まさかアンタがそんなことしてたとはね……」
「あー……目ぇ回る……流石に一年前の黒歴史時代の話だよ……」
「あぁ……あの『双翼』とか名乗ってた……」
「恥ずかしいからヤメて!!?」
その名前とはもう縁を切ったのだ。
凄い癪な二つ名だけど今はトリニティの『歩く手榴弾』だから……!!
「えっと……あの、食器洗っても……」
おっかなびっくり、おずおずといった様子の声の主へと目をやれば、気まずそうにジュリがこちらを伺っていた。
「あ、ゴメン。食器なら私が洗うよ。代わりにバッシングお願いしていい? 洗い終わったら合流するからさ」
「ダメよ」
即座に現上司であるフウカ部長から否定が飛ぶ。
「え、なんで」
「そういう悪さしてるとは知らなかったからよ。奴らの被害者(一部)に報いる罰としてアンタがバッシングもやりなさい」
「えぇ……フウカに被害無いじゃん……」
「拉致されてる時点で被害受けてるわよ……後、前々から思ってたけど、アンタのその思考かなりゲヘナ寄りだからね……?」
「そんな……頭部に脳みそがクルミ程も入ってない暴力主義者だなんて……!?」
「そういう言い回しは凄くトリニティらしいのよねぇ……」
ミカ先輩にも言われたが、俺はゲヘナ全体を見て好き嫌いを言うなら嫌いと答えるタイプだ。
あくまでゲヘナの中に好ましく思う人達がいると言うだけで、その巣窟を好きになることは今後もきっと無い。
ほら、不良漫画の治安悪い学校でカッコよくあろうと悪いことはしない主人公とかライバルとかは好きでも、不良学校そのものを好むのはそうそういないだろう。
「まぁ、ゲヘナの生徒ってだけでフウカのご飯食べない理由にはならないし……逆にフウカと同じ学校に行ってるからって恐喝してくるゲヘナ生徒を嫌わない理由にはならないじゃん?」
「分かるような、分からないような……」
「バッシングも皆でやった方が速いからやらない理由にはならない」
「それは違うのが分かる。罰なんだから手伝いをする理由にはならないわよ、作業追加」
スカルマンの伝道師ことアズサの使う構文は、こういう時とても便利だ。矛盾っぽいことでもなんか良い感じにしてくれる。
“学生だからといって宿題を忘れてこない理由にはならない。”
これで何回クラス委員のノート回収を免れたことか。
BD使って映像学習させてるのに、課題でノートを書かせるの本当に良くない。前世の教育の悪しき風習だけ残った感がある。
……あれ、フウカさん? 今アズサ構文使ってバッシングの罰そのままやらせるって言いました?
なんなら増やすとかって……
「そういえばルカさんと先輩、仲良いですよね。調理中も息合ってましたし」
「「……言うほど合ってた?」」
眉をひそめ、互いに同じ疑問を口にする。
「どちらかってとフウカが私に指示出しして合わせてもらってたと思うけど……」
「いや、ルカが指示に合わせて動いてたからで……」
うんうんとジュリは頷きながら、楽しげだ。
……いや、なんで楽しげなんだ?
そんなことより今はバッシングの罰の行方が知りたいよ?
嫌だよ?
ゲヘナ生徒がちょっと行列作るだけで配給が行き届いて食事が出来ちゃう広さを誇るバカでけえ食堂の机拭き一人でやるの。それはもはや苦行じゃん……
皆で仲良くやろうよ……?
「それで、一年前って何があったんです?」
「……え、なんでソレ聞くの?」
わざわざどうしてそんなことを聞きたがるんですか……?
人の恥を知って楽しいか……?
「だって、先輩とルカさんの馴れ初め、聞きたいじゃないですか!!」
「馴れ初めって……そんな浮足立つもんでもないわよ?」
「そうそう! 早いところ締め作業してゲヘナ案内してもらいたいしなぁ〜!!?」
他人から見た黒歴史時代の自分語りなんて聞きたい奴いないでしょ!! 人づての武勇伝とか聞かされてもクソしょーもないじゃんね!? ほらそろそろ食器洗い終わるし給食室締める準備とかしようよ!? 俺、バッシングを罰でやれって言われたけど床掃除とかもするんでしょう!? ね? ね?
「……『双翼』」
「いっ!?」
フウカがそう口に出すもんだから、一瞬俺の心臓が止まる。お手々は洗剤で泡ついてるし食器も洗い終わってない。そんな状況で追試100点満点を叩き出してキッチンヘルプにブチ込まれた那賀波ブレインは、かつてないほどの高速演算を繰り返した後に行動へと移す。
──そう、悪しき魔女フウカの口を塞ぐべく、慌てつつも冷静に最速で残りの食器を洗うのに全意識を注ぐ。
「一年前そう自称して、他生徒にそう呼ばせてた羽無しのトリニティ生がいたのよ」
────あ、食器落とした……
まるで俺の心の様に、食器はシンクに落下し……
あぁ……終わった。
さよならブルーアーカイブ……
ありがとうブルーアーカイブ……
俺の青春はここまでの様です────。
「あ、私とジュリは、ルカがバッシングと床清掃、グリストラップ掃除、ゴミ処理が終わるまでここで駄弁ってるから」
「鬼かオマエ!!?」
「お皿割ってたらゴミ出しもやらせてたわね。なんなら今追加しても……」
「マム・ノー、マム!! 只今洗い終わったのでバッシング行ってきます!!」
俺は脱兎の如く、キッチンから濡れ布巾と乾いた布巾を持ってテーブル掃除へと向かった。
────ちなみに皿は落下してゴンッ!!って音を鳴らしただけだった。粉々に砕け散ったりとかしてない。
頑丈なやつというか、これパ◯祭り製の皿と同じじゃね……?
……俺の心と違って傷一つつかない強固なお皿である。
「今からでもゲヘナ転校して来ないかなぁ……居れば即戦力で大歓迎だし嬉しいんだけどなぁ……」
聞こえてるからなこんちくしょうっ!! 皆海行ったりバカンスしてるはずなのになんで俺だけこんな目に合うんだよぉっ!!?
「サバ味噌定食ご飯大盛りでお願いします」
──双翼。
そう呼ばれるトリニティ生から始めて聞いた言葉は、ウチの食堂で飛び交う注文の嵐でたまたま耳に入った注文だった。
角も羽も尻尾も無い種族特徴の無いヒューマンタイプの子。
それがその子の第一印象。
でも今でも覚えてるのには理由があって。
「ごちそう様でした!!また来ます!!」
お腹いっぱいになって元気そうにそう言って食堂を出ていく姿。
その日以前も、ごちそう様なんて挨拶はいっぱい聞いてた筈なのに、記憶の中で一番古いごちそう様は多分、この時の記憶。
本当に美味しく食べてくれたんだろうなって言うのが分かる声で、私のご飯が誰かをちゃんと満たせたんだって実感した。
……だってその子、サバ味噌定食の日にしか現れないんだもの。サバ味噌が好物なのかなとも思ったけど、何時だったか締め作業をしようとしてた時に現れたことがあって。その時まで姿はぼんやりとしか把握して無かったんだけど、ちゃんと姿を見て見ればトリニティのセーラー服の上から防弾パーカー着てるのよ?
そんなあからさまな隠蔽してたら『あぁ、制服に付いてる校章を隠してるんだな』って、大体のゲヘナ生が見ればトリニティって即バレするわよ。ウチの制服、セーラーじゃないんだから。なんでかバレるわけ無いって自信満々そうにしてたから教えてはしないけど。
そんな抜けた子が『双翼』って知るのはもっと後だったけれどね。
本日のOneTopic:ラフ絵に描いてたりしますが、那賀波(ゲヘナ留学)の衣装にはトリニティとゲヘナの校章を描かれたワッペンの付いた防弾パーカーを支給されています。
UA30万いったりお気に入り爆増してたりとかして滅茶苦茶ビビってます。
いつも誤字脱字報告や感想を下さる読者方、高ぇ評価をして下さる読者方、更新を楽しみに待ってくださる読者方の皆様、毎度ありがとうございます!!
作者は承認欲求モンスターな乞食なのでいつも執筆前のガソリンになってます!!