あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
「違う、アタシはレッドフードじゃない」
「先ほどの戦いで混乱しているようですね? 安心してください、ここは安全ですよ」
ドロシー。エデンの部隊インヘルトの隊長であり、ゴッデスの元隊長であるニケだ。
レッドキャップの知る限り、本来ならレッドフードと同じ姿を疑い、攻撃的になると思っていた彼女が自分をレッドフードと信じてやまない事に猛烈な違和感と恐ろしさをレッドキャップは感じていた。
そもそもヘレティックと戦っていたのが気絶し突然のこれで理解が及ばない。
「アークはあなたの働きを無いものとして自分たちの手柄にしています。レッドフード、悔しくありませんか?」
「悔しく無い。人類の為だ。後アタシはレッドフードじゃないって言ってるだろ」
「ふふ」
レッドキャップの反論を微笑ましそうに見てきてどうしようもない事に気づいた。レッドキャップがいくら否定しようと見た目はレッドフードそのものであり、レッドフードにそぐわない言動をしても否定をしても、レッドフードと思い込んでいる相手には効かないのだ。
当然、ドロシーは根拠も迷いもなく死人が蘇った、または生きていたなどと思う程楽観的ではない。彼女の考えを支える客観的事実があった。
まずは脳スキャンで記憶読み取り、は失敗した。
その為代替として、無意識下での調査。レッドキャップは覚えていないが爆発でボロボロで汚れまみれのまま薬物を用いた半覚醒状態での尋問が行われていた。
「あなたの名前は?」
「……レッドキャップ」
「……レッドフード、スノーホワイトのことをなんと呼びますか?」
「……おチビちゃん」
「レッドフード、好きな歌は?」
「……アウア・ホームタウン」
「口ずさんでもらえますか?」
「……♪〜♪」
「レッドフードにとって古いものは?」
「……古いほどいい」
「私、ドロシーが好きなものは?」
「……日傘。あと茶飲んでた」
怒りと殺気に塗れた顔が質問のたびに喜色に変わっていく様は、同席していたセシルとヨハン曰く[恐怖映像]。
尋問が終わった後、ドロシー自ら再び意識を落としたレッドフードを介抱し体を拭き整え、それはそれとして覚醒時暴れて傷ついてはいけないと拘束する様は[ホラーサスペンス]と例えられた。
質問の答えは無意識のレッドキャップが
次に、整えられたものの破損しているレッドキャップの体がフェアリーテールモデル05号型の変形である事。これはエデンの頭脳かつ最高科学者であるセシルのお墨付きだ。レッドキャップの手足がいまだに無いのはオリジナルのフェアリーテールモデルの補修パーツの製作が難航しているからだ。
体の変化に対してもピルグリムのスノーホワイトが改修修繕を続けオリジナルの頃から三割近くがラプチャー部品に置き換わっていることや、ドロシー自身がエデン技術での改修を受けていることを考えればおかしな話ではなかった。
次にNIMPHの不活性化。初めのスキャンの通りレッドキャップ脳内のNIMPHは不活性化しており侵食状態に移行しないと推定された。レッドフードが侵食を克服したとするには十分すぎる。そして不活性化したNIMPHには思考転換の痕跡が残っている。
起きてからの軽口やドロシーの名前を言いかけたことが完全にトドメとなってドロシーはレッドキャップをレッドフードと頑なに信じて疑わない。
今のレッドキャップはドロシーからすれば[思考転換を起こし自分のことをレッドフードじゃ無いと思い込んでるが大切な事は忘れていないレッドフード]なのだ。
「アタシには前世みたいな記憶があってな? レッドフードやゴッデスのことはおおまかにそれで知ってるだけでレッドフードじゃないんだって」
「おおまかと言うなら細かいことを聞きますが紅蓮が飛行空母の部屋に何を干してたか知ってますか?」
「………………ブラジャーとか」
「嘘が下手ですね」
そんな状況に晒されて誰かー助けてくれー! と叫びたい気分だった。スノーホワイト、紅蓮、ラプンツェル今すぐ来てアタシがレッドフードじゃないと証明してくれと願うレッドキャップだが残念ながらエデンの高性能光学迷彩はピルグリムの通常の探査では見つけられない性能を持つ為エデンに来ようとする目的意識がなければ困難だ。
「安心してくださいレッドフード、あなたの居場所は存在します。私が居ますしあなたがいればいずれスノーホワイトや紅蓮やラプンツェルも来てまたゴッデスを再建できます。ヨハンも地上奪還の戦力は欲していますしセシルは言わずもがなです。ですから安心してください。
「レッドフードじゃないし、とりあえず拘束解いてくれないか?」
すごい勢いで捲し立ててくるドロシーに少し意識が遠くなりそうに感じながら────微妙に残留した薬物の影響である。話題を変えてみようとしてみる。
「それはダメです。今のあなたでは手足がないのにそのまま何処かに行ってしまいそうですから。地上は危険ですよ?」
押しが強い。レッドフード本人なら跳ね除けられるものだがレッドキャップは違う。だからこそどうすればいいか本気で困っていた。
レッドフードのフリをするなど論外だ。言葉でわかってもらうしかない。
「……なぜそこまで頑ななのですか? あなたはアークのニケ達と行動を共にしていましたね……何かされたのですか?」
「何もされてない。むしろ良くしてもらってるくらいだ」
「…………ゴッデスがアークに裏切られた事を知らないのですね」
優しげだった姿から一転、言葉の節々から怨念が滲み出てはじめた。裏切られた事は知っている。ピルグリムのアークでの扱いも。あんな事をされては復讐に走るのが普通だ。
レッドキャップはだからこそそれでも尚人類の為であろうと行動するパイオニアの面々に尊敬を抱くし、アークに必要とされるように行動するドロシーの行動も理解できる。
レッドキャップが下手に隠そうとしたせいでスノーホワイト達は誤解をしそうになった。
だからもう嘘はつけない。誠実に自分の思いとレッドフードでないという事実を伝えるだけだ。問答が永遠に続くとして今はそうするしかない。
「アークガーディアン計画のことは知ってる」
「知ってるなら何故?」
「酷い作戦だと思う、閉じこもった人々の都合で締め出されて、ゴッデスの情報は偶像になって部隊個人の情報は抹消された。それでも復讐せず、アークを焼かずゴッデスであろうとしたんだろ? アタシはそんなみんなに憧れたんだ。だから────」
言葉を続けようとしたレッドキャップの口をドロシーが優しく抑え制した。
「やはりあなたは、人格が変わってしまったとしてもレッドフードなのですね」
理解してもらえるまでいつまででもレッドキャップは否定するつもりだった。結果として自分が解体される事になっても、命に惜しさはあるがスノーホワイトに告白した時と同じように元ゴッデスのドロシーになら仕方ない事だと受け入れられる気がした。
その精神性がドロシーとラプンツェルなどレッドフードを完全に覚えている面々にはレッドフードの精神性に通じているのだが。
「またお話ししましょう。次は治った体でお茶でもしながら。エデンはあなたを歓迎します。治ればふかふかのベッドで寝ることができますから、それまで我慢していてくださいね」
それからさらに一時間くらい押し問答を続けても、ドロシーは優しくレッドキャップの頭を撫でて退出していった。長い面会を終えてどっと疲れが出た気がするレッドキャップが深いため息を吐いた。脳が忙しく構う暇がなくなったからか手足の幻肢痛が消えていた。
動けないしやる事ないし寝ようと目を瞑っていると、しばらくしてまた誰かやってきた。
「大変でしたね、レッドキャップ」
「アンタはアタシをレッドフード扱いしないのか?」
「あなたがレッドキャップを名乗るのに違う名前扱いするのは失礼ですからね。ドロシーが問題児なのであってエデンの人やニケが皆そうだとは思わないでください」
「ああそう……治してくれるのかな技術者さん?」
「よく技術者とわかりましたね」
「前世の記憶であんたの事も知ってたからな」
「適当を言ってはいけませんよ。ドロシーから治すと聞いていたから来た私を技術者と思ったのでしょう」
「じゃ名前も言い当ててやる。セシルだろ、あとヨハンって奴もいる」
「…………」
セシルが目を数度パチパチさせて通信をしはじめた。
「アタシが本来知り得ない事を知ってるのは前世の知識があるからで、レッドフードじゃないんだ。アンタからもドロシーを説得……」
「……あなた、ドロシーから私とヨハンの名前聞いてますね」
「え?」
「記録にとってますから」
セシルが何か指差しているが拘束されているのでそっちが見えない。監視カメラでもあるのだろうか。そしてドロシーが言ってたのかよどこで言われたかと考えるがわからない。
情報の洪水の如くドロシーが喋ってたのでどこで言われたかわからない。
あれ? アタシは実は本当にレッドフード? みたいな変な思考が混ざってきたので頭を振った。
「セシル頼みがある。アタシを一発殴ってくれ」
「面倒ごとになるので不可能です。ともかく修理のため移動しますよ」
そうしてセシルに断られてレッドキャップは修理の為ラボに移動させられる事になった。手足が治ったら脱走しようか、脱走してドロシーがあなたはレッドフードじゃない! ってなってくれれば最高じゃないか? と本気で考え始めるほどこれからのエデン生活に不安しかなかった。