あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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修理

「なかった手足が目が覚めたらくっついてるのは……変な感じだな」

「起きているまま手足を繋げでもしたら思考転換のリスクが高いですから。ここがエデンでよかったですね」

「そりゃ、起きたまま手術なんて誰だって嫌だし、文句はないけど……これ何の話?」

 

 セシルが暗にNIMPH不活性化についての探りを入れてみるが本人がわかってなさそうなので即座に諦める。現状脳内に存在しないのではなく、なぜ不活性化しているかすらわからないのだ。セシルが嫌うNIMPHの一端だった。

 

「さあ……ともかく動きは問題ないですね?」

「あーそうだな、全力全開絶好調って感じだ」

 

 ぴょんぴょん跳ねたり側転したり腕をぐるぐる回してみても違和感は全くない。

 

「ところで服ない? エデンがヌーディストビーチの天国って意味ならこのまま全裸でいるけど」

「ちゃんと用意してありますよ」

「あ〜〜〜〜、んんんんん〜〜〜」

 

 そこに置かれているのは赤いマフラーに赤いジャケット、装甲機能もある黒いボディスーツに靴とレッドフードの服である。

 

「嫌みたいですね。ドロシーの注文通りに製作したのですが」

「そりゃーねぇ? 作ってもらったのは有難いんだけど〜、そうだな? 例えばアンタ自分と瓜二つの憧れの人物がいてその人物の服着ろって言われたらなんかやだろ? その人を貶してる気がしてさ」

「何も例えになってないですがそう言うと思いまして、あなたが運ばれてきた時着ていた服も再現して製作してあります」

 

 レッドキャップがキラキラとした目を向けてセシルはどこか得意げそうな雰囲気を醸し出した。

 

「あー、悪いんだけどさ、顔につけるお面みたいなのも作れないか?」

「お面ですか?」

「この顔だとその……苦労が色々あってな」

「確かにドロシーに絡まれて苦労してますね」

 

 レッドキャップは肩を落として乾いた笑いを出した。

 

「はは……視覚補助とかもしてくれるやつだったんだけどヘレティックと戦ってる時に壊れたんだ。ここに来る時は多分つけてなかったろ?」

「ええ、つけてはいませんでした」

「良ければ作ってくれないか? あ、でもアタシ、アークに戻る可能性高いからこう、最悪ガワだけでいいから。こっちの技術力がアーク側にバレるのとか多分やだろ?」

 

 いやそれならそもそもあなたの腕直した時点で、とツッコミを入れるかセシルは悩んだ。人当たりがよく愛嬌があるがインヘルトの面々とは別ベクトルで面倒だった。問題児筆頭ドロシーがアレだけ贔屓にするのだからこっちも類友だと推察するべきだったと謎の後悔をした。

 

「…………まぁ、作ってあげます。できるまでは素顔で我慢してください」

「あ、つけたまま飯食えるように口のところ開くようにして欲しいな。あと前のやつが狼っぽいデザインしてたんだ。紙とペンある?」

「ありますが?」

 

 紙とインク式のペンは無いのでタブレットとタッチペンを渡す。

 了承してから注文をつけてくるレッドキャップに青筋を浮かべそうになりながらセシルが微笑んだ。それを描いている、ポンチョを着てフードを深く被る様の方はドロシーが用意した服より赤ずきん(レッドフード)といった見た目をしていると思った。

 

「こんな感じの狼」

「…………………………………………………………………狼?」

 

 出されたあまりにも下手くそな絵でそんなのは吹き飛んだ。それくらい下手な絵だった。10000歩譲って猫の顔だろう。譲らなければ果物が火炙りに遭いながらFU⚪︎Kしてる絵と言われても納得する酷さだった。

 

「さて、とにかく手足が治ったならドロシーを説得しないとな。いやでもう〜〜〜ん……」

 

 自分は偽物なんだと証明するなんておかしな話ではあるが、ドロシーを説得する材料がない。いくら否定をしても先日のドロシーの様子からすれば全部受け流されるのが目に見えている。その場でどうするかぐるぐるし始めたレッドキャップをここはラボなんだから早く出ていきなさいよと言いたげな目で見るセシルがため息を吐いた。

 

「何故わざわざ否定の為に動くのですか? ドロシーはあなたを信頼し切っています。利用するだけ利用すればいいのではないですか? 何かしら発覚した時の報復を恐れるにしても今否定に動く意味はありません」

「へ? 報復も何もお嬢様……じゃなかったドロシーに誤解されてるのを利用するなんて言語道断だろ。こんな世界じゃ弱肉強食、謀った者勝ち騙された奴が悪いみたいな所あるけど」

 

 気恥ずかしそうにレッドキャップが頬を人差し指でかいた。

 

「アタシの憧れたレッドフードはそんな事しない。だから同じ姿になったならレッドフードに恥じない様に動きたいな〜って色々あって思うようになった」

 

 セシルは珍しく肩をすくめてレッドキャップの方へ歩み寄った。

 

「ドロシーがあなたをレッドフードであると確信しているのは科学を用いた客観的な事実を根拠にしています。それに対する反証は科学的かつ客観的でなければ無意味です。あなたの主観は役に立たない」

「そりゃわかってるけどさ」

「レッドキャップ、あなたがこうなった経緯を覚えている限りしっかりと話してください。その上で修理の為に行ったスキャンより高度な精密検査を行います」

「え、手伝ってくれんの?」

「……コチラの知的好奇心を満たすだけです」

 

 立ち話もなんですからとどこからか椅子が自動でやってくる。レッドキャップは思考転換後も残る記憶を片っ端から述べていく。その中でセシルが引っかかった部分があった。

 

「待ってください、あなたは量産型ニケなんですか?」

「そのはずだけど……あ、でもアタシの体興味深いって言われてたな。やっぱ量産型なのに見た目が変わったのとコアエネルギーだけでもやってけるのと飯食うとエネルギーにできるハイブリット化したし、フートとか見るとアタシの方が出力あるし……でもまぁレッドフードの見た目になったならそんなもんなのかなって思ってた」

「待ってください? コアエネルギーだけで食事しなくても問題ないのですか?」

「そうだけど」

「…………精密検査を行います。コア部分を特に重点的に」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 

 冷静沈着そうなセシルの何かに火がついたようでレッドキャップが思わず敬語になった。服は着たままで良いとのことでエリシオンで検査した時には見たことないような──そもそもレッドキャップは機械に詳しくないので造形が違えばもう何だかわからないのだが。検査機器に通されまくり、かと思えば服を捲ってセシル本人の手で聴診器みたいなのを胴体に当てられくすぐったさに悶えたり。

 そこから得たデータをセシルがコンピューター前でなんかやってるのを延々と見続けた。人なら自分に何か危険な病気が? と不安になる検査量である。

 

「あなたの主観に、ある程度客観的な後押しができるかもしれない結果が出ました」

「本当か?」

「検査をしておいてこのような事を言うのは卑怯だと思います。そして、あなたの為を思って警告しているわけではありませんが、ドロシーがどのように反応するか未知数です。激昂してあなたをバラバラに引き裂いて殺してしまおうとするかもしれませんし、それを我々は止めません。エデンのニケ同士が戦う事は大きな損失に繋がり、それは許容できないことです。それでも検査から推測される事を聞きますか?」

 

 レッドフードを名乗らなくなくても、レッドフードである事を完全に否定し殺される可能性を発生させる必要もないという助け舟だった。

 

「悪い、それでもアタシがレッドフードである事は否定しなきゃいけないんだ。もし殺される事になっても抵抗は……いや死ぬのは嫌だな、ドロシーにレッドフードの顔したアタシを殺させるのも絶対良くない。……逃げるからエデンの出口教えてもらえないか? あとアタシの武器どこにある?」

 

 セシルがまた微妙な顔をした。そもそもレッドキャップはずっと自分はレッドフードでないと主張している。破損した所を突然連れて来られて決めつけられ、それが違うなら殺されるかもしれない等と、そんな理不尽に怒るならまだしもドロシーの事まで気遣う様には脱帽だ。

 セシルは己に問いを投げかけた。

 アークがしてきたような理不尽を、アークに裏切られた者達が作ったエデンが似たような理不尽をレッドキャップに押し付ける事を許容するのか? と。

 

「────ええ、準備をお願いします至急にです。至・急・に、ですよ? コチラの用意は話が終わる頃には完了します。それではまず、あなたの体についてお話しします」

 

 セシルは通信でヨハンと話をしてから、レッドキャップに検査結果及びにそれから推察される[レッドフードでない]証拠の話を始めた。

 

 

 一方、ラボの外、エデンの内の日の当たる場所で。

 

「なかなか時間がかかるみたいですね……」

「セシルでも時間がかかるなら仕方ないことですが……」

「スノーホワイト達に会えばレッドフードも自分の事を思い出してくれるでしょうか……?」

 

 とブツブツ独り言を言っていた。

 その様子は微笑みをたたえる女神のようであったが、偶然通りかかったノアが前を通り過ぎずにそのまま来た道を引き返す程度には不気味だった。通信でまたそちらに向かうよう指示を受けたノアは途轍もなく嫌そうな顔をするのだった。

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