あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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エデン

 やってきたレッドキャップを見て、ドロシーは少し悲しそうな顔をして、隣にいたセシルに冷たい目線を向けた。余計なもの作りましたね? と目線が物語っていた。

 

「レッドフード、私が用意した服は着てくれなかったのですか?」

「ああ、アレはレッドフードの服で、アタシはレッドキャップだから」

「そしてセシルは、何故隣に?」

 

 他に隠れた状態でヨハンとノアがスタンバイしている。万が一ドロシーが逆上してレッドキャップを害しにかかったとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()レッドキャップが逃げ出す時間を稼げるのはノアだけだった。

 

「私の精査不足であなたに誤解を与えたのだから、それを解消するのも私の役割ですから」

「精査不足?」

 

 わざとらしく首を傾げたドロシーに、先ほどまで行われていた検査データを統合したレッドキャップの正しい状態のデータがセシルから提示される。

 

「レッドキャップは正確にはフェアリーテールモデル05号では無いようです。本人の口から摂食無しでも行動できると聞き、コア周りを重点検査したところ、彼女のコアは現行のニケで用いられているコアを、フェアリーテールモデル旧式コアが包み込んでいます。これが初めのスキャンでフェアリーテールモデルと誤認した原因であり、彼女がレッドフードでない証明になります」

「何故ですか?」

 

 二つのコアが相乗作用で出力を高めている等副次作用はあるが今重要なのはレッドフードでないことの証明なのでドロシーに対しては説明を省いた。

 

「もしレッドフードなら旧式コアを現行コアが包み込む事はなんらかの要因で、数億分の一の確率で起き得るかもしれません。しかしその逆は全く得ないことだからです」

「では記憶は?」

「それに関してはNIMPHが未解明なことが多すぎて無理ですね。レッドキャップの言う前世はあまりにも非科学的すぎるから、NIMPHがなんらかの影響をもたらして100年前のニケの記憶を得たか……憶測しかできないわね」

「そうですか」

 

 ドロシーの声がどんどんと平坦に暗くなり、最後には俯いてしまった。セシルとヨハン、ノアに緊張が走る。ドロシーの執着の全容を把握している訳ではないが、レッドキャップの言葉が最後のひと押しになる可能性が高いからだ。

 

「ドロシー、アタシはレッドフードじゃないんだ。信じてくれ」

 

 レッドキャップの言葉に顔を上げず目線だけを向けてから、ドロシーは目を閉じて深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。

 

 

「……………を……………ますね」

「?」

 

 ドロシーが小さな声で何かを呟いた。セシルには聞こえなかったようだがレッドキャップにはその表情と合わせ、しっかりと聞こえていた。

 

「大変失礼致しました、()()()()()()()。私の早とちりで勝手に他人の事を押し付けられてしまって面倒だったでしょう?」

 

 俯いていた顔をあげればそこにはもう微笑みをたたえた優しげなドロシーの顔があった。

 セシルはあれほど固執していた事にドロシーがあっさり引き下がった事に違和感を覚えた。他の反証も用意してあり、かなり激論になると思ったからだ。

「ドロ───」

「セシル、ありがとうもう大丈夫だ。ドロシーと二人で話させて欲しい」

「……ええ」

 

 セシルがその場を離れる。ヨハンとノアはそのまま隠れて待機である。

 

「それで、私に話したい事とはなんですか?」

「ドロシー、アタシはレッドフードじゃないけど、レッドフードに恥ずかしくない自分でありたいと思ってる。意地悪したい訳じゃない、アタシにとってはドロシーも憧れの存在なんだ」

 

 レッドキャップが手を差し出した。

 

「ありがとうドロシー、ここに連れてきてくれたのも、アタシを助けるつもりだったんだろ?」

「それはあなたがレッドフードの姿をしていたからです。でなければ回収の指示なんて出しませんでした。それに、初めからあなたがレッドキャップとわかっていたら、あなたをズタズタにしてラプチャーの餌にしていたかもしれませんよ? それでも感謝するのですか?」

 

「この際過程なんてどうでもいいんだ、どうあれアタシが助けてくれてありがとうって言ってる。それでいいだろ? アタシにとってはドロシー、レッドフード、スノーホワイト、紅蓮、ラプンツェル、みんなが憧れの勝利の女神なんだ。助けてくれた女神様に感謝しないなんて罰当たりだぜ?」

 

 レッドキャップがはにかんだ。その笑顔にドロシーは腹の底にこそばゆさのような感覚を覚える。

 

「レッドキャップ、唐突かつ、不躾な質問ですが…………今のあなたを形作ったモノはなんですか?」

「そうだな………アンタ達の気高さと、それへの憧れと、自分もそうありたいって願いかな」

 

 アークガーディアンの件を知り、レッドフードを知る謎のニケ、レッドキャップ。ドロシーは自分に向けられる気遣いと、憧れと、期待の色を持つレッドキャップの視線に思わず目を逸らし、差し出された手を握った。

 ────暖かい。とドロシーは思った。手を重ねただけなのに、まるで草原で日光浴をしているようであった。

 

 私がやってきた事を考えれば、そんな奇跡は虫が良すぎますね。

 レッドキャップが聞いたドロシーの、全てを諦めた顔から絞り出した言葉だ。それにレッドキャップに出来ることは、慰める事でも同調する事でもなく、自分がされた事に対する感謝を伝えることだけだった。

 心地のいいはずの暖かさに、ドロシーの中でこそばゆさが増していく。

 

「…………妙な気分ですね。苛つき? 高揚? 例えに困ります」

「アタシが感謝を向けてるからこそばゆいんだろ〜?」

「確かにレッドフードにそんな殊勝なことされたら全身痒くなりそうですが───」

 

 ドロシーはレッドキャップの軽口に付き合って、思い至った。

 事情を知ってもなお尊敬を向けてくれる。その尊敬に報いたいという欲求が湧いてくる。レッドキャップの前世の記憶は、NIMPHがもたらした不可思議な現象の可能性があり、つまり基となるのは100年前のアークガーディアン計画を知っているニケ。

 

「…………ピナ?」

「へ?」

「いいえ、戯言です。気にしないでください」

 

 今のドロシーではなく、過去のドロシーを含めたゴッデスの志を受け継ぎレッドフードのようであるニケ。

 

「実質的に私達の子供……?」

「おい大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。気にしないでください。変な思考が回ってきただけです」

 

 おもむろにレッドキャップの頭をドロシーが撫でた。様子を観察していたノアがブルルッと震えヨハンが死んだ目をしている。もう警戒の必要はないのでは? ということである。

 

「体も治りましたが、これからどうするのですか? レッドキャップさえ良ければこのままエデンで───」

「そうだなぁちょっと確認したい事があるからアークに一旦帰るかな」

「……………………アークに?」

「ヘレティックも倒したし、あれから何日経ってるか知らないけど一回確認しときたいなと思って」

 

 レッドキャップの記憶では、あの()()()がそろそろデビューして、何かやっているんじゃないだろうか、という軽い気持ちだ。イングリッドに連絡して、ラピの様子を聞けばおおよそどうなっているかわかるし、それに合わせアークに帰ろうという算段だ。

 対してドロシーが想像するのはそのまま単にアークに帰ったレッドキャップの顛末だ。

 握手していた手がギリリッと握り込まれる。

 

「あなたをアークには行かせません」

「え? っていででででちょドロシー強く握りすぎだって」

「あなたがアークに行くというなら」

 

 ドロシーの服が光り輝き、拡張武装を纏ったのだ。だが拡張武装を纏ったからといって急激な性能の上昇が起きる訳ではない。覚悟を決めたのである。

 

「手足をへし折ってでも止めます」

 

 レッドキャップからしたらなんとかわかってもらえたと思ったらどういう訳か突如覚悟決められてしまったのである。

 

「なんかアタシを大切にしようとしてくれてるのはすげえ伝わる!! でも変化球すぎじゃないか!?」

「……なんでそうなった? ノア」

「はいストップストップゥ! 指揮官が止めてるんだからとま」

「退きなさい? ノア。ヨハンも、これは必要な事なんですよ?」

「ひぇぇぇぇー!?」

 

 割って入ったノアの無敵の盾をドロシーが掴んで、なんと軋む音がした。

 

「なんか予定と違うけど予定通りに行くぜ!!」

「ちょちょちょちょっとおおおおおおちついてぇぇぇ!」

「レッドキャップをエデンに留める為です」

 

 逃げるレッドキャップを追いかけようとそんなことを言ってるドロシーにヨハンがため息を吐いた。

 

「子離れできない過保護な親か? なんにしても急すぎるぞ」

「あなたは今重大な事態になっていることに気付いていません気付けばレッドキャップがアークに帰ろうとしていることを無視できないはずですレッドキャップはヘレティックにすら大損害を与える攻撃力を持っていますそれがアークで解体でもされて分析研究に回され最低でも解析に成功すれば御の字ですが高い確率で失敗しますセシルですら未知の部分が多いのですからレッドキャップのアーク帰還による喪失のリスクこれは即ち地上奪還の手札への大きなリスクだと思いませんか?」

「……」

 

 ヨハンが振り向く。後ろではレッドキャップがセシルの動かす機械から整備されたウルフスベインとあのひどい絵から作られたと思えない見事なお面を受け取っている。

 ヨハンが捕獲側に回ったと気付いたレッドキャップは一目散に逃げ出した。

 

「あっイサベル! 直接拾い上げてくれたの多分アンタだろ! ありがとうな!!」

 

 何事かと見にきたイサベル通り際に礼を言う。

 

「安心してくれ! アタシは死なねえ!」

 

 レッドキャップはそんなことを言いながらエデンから飛び出して、アークに向かうのではなくまずはヘレティックと戦う前に通信端末やケースを置きっぱなしの拠点に向かった。

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