あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
崩落した地面や音を立てて崩れた建物達から上がる煙を見ながらレッドキャップは都市に接近していく。
「なんか崩れたけど大丈夫?」と指揮官にメッセージを送ってみるが、崩壊の影響でエブラ粒子が濃くなって来たのかメッセージ送信が待機状態になっている。途中送信してしまったドロシーにも「送信ミスった」と送っておく。
粒子が薄いタイミングが来れば自動送信されるし自動受信もするので一旦置いておき、音で集まって来たラプチャーに邪魔されないよう片っ端から狙撃で撃破していく。
「あらかた片付いてるけど……少ないな」
地下構造の崩壊とそれに伴う地盤沈下でかなりの数のラプチャーが破損し行動不能になっている。が、それにしても少ない。指揮官達の奮戦に続々地下に入っていき巻き込まれてクラッシュ、というわけでもなさそうだ。
この発電所はアーク二ヶ月分の大電力を発電していた。ラプチャーが発電していた、という点は置いておき、その発電された電力は何に使っていたかが問題だ。
電力を吸っていたにしてはそれで養われているはずのラプチャーが少ない。この謎を解消する為に、崩落で発生した穴の一つ一つを丁寧に調べマッピングしていく。生き残りがいればそれは潰していき安全を確保。地下空間が潰れている影響か迷うほど深い穴は殆どなかった。
だがその穴の中の一つが明らかに大穴と繋がっていた。
照明はなく真っ暗闇だがレッドキャップの眼には暗視機能もあるので問題なく辺りを見渡せる。
「当たりかこれ?」
おそらくは穴を掘るタイラント級、グレイブディガーの掘った横穴だ。ラプチャーの構造体によって穴の補強が行われている。天井を伝う極太のケーブルのようなモノに目を向け、銃剣で切り落とした。
「……これもラプチャーか」
ケーブル型ラプチャーと言うべきか、おそらく発電所から得た電流をどこかへ流し伝える事に特化したラプチャーだ。大電流を流されていた影響がまだ抜けていないのか、ケーブルから変形しこちらを害そうとしてくる様子はない。
切り落とした分は踏みつけて破壊し、奥を見る。グレイブディガーが掘ったと思われる穴なだけあって戦闘が可能な程度には広いが、遮蔽がない上大火力を発揮すれば崩落のリスクがあり、地下なのに地平線の先に隠れるまで延々と真っ直ぐ続いている。タブレットで続いている方位を確認しようとするが磁場が通電や補強ラプチャー達のせいかぐちゃぐちゃになっている為どちらかよくわからない。
だが電力がこの続く先にある存在に使われていたのだという事はわかる。
「一旦地上出て方角見るか」
地平線の先まで続く坑道? 横穴? なのだ。地上に出て方角を考えれば何があるかはわかる。それで探索しても問題はない。
「「そのまま進まないのか?」」
戻ろうと振り向いたところに巨大な拳がレッドキャップの胴体を抉るように直撃した。咄嗟に防御するも殴打の勢いを殺す事はできず、坑道の中を数度バウンドしながら吹っ飛ぶ。
「「フェアリーテールモデル、レッドフード。お前は都合が良い」」
「なんだお前、拳よりも先に口を使えよ、なんで喋れるか知らねえけどそのお口は飾りか? あと喋れるのに無音で寄ってんくなストーカーか?」
「「飾りに見えるか? お前の方こそその頭は飾りか?」」
喋るラプチャーがそこにはいた。
それはスノーホワイトが追跡するクイーンへの手がかり、トーカティブだ。
ラプチャー陣営から向けられる悪意というものに真っ向から相対した事は無いが、レッドキャップは身が震えそうな感覚があった。レッドキャップが悪意を感じる前に上からぶん殴って爆発四散したヘレティック・インディビリアは除く。
「あとアタシはレッドキャップだ。覚えておいて損はないぞ」
「「知らんな。今のお前を覚えていても益は────」」
レッドキャップの発砲でトーカティブの腕が吹き飛ぶ。
「「ぐわぁあぁぁぁあ!?」」
「失礼だなお前、アタシが名乗ったんだからお前も名乗れよ」
名乗らなくても知っているが。
レッドキャップの持つウルフスベイン改、そのオリジナルの時点でスノーホワイト持つ対艦ライフル"セブンスドワーフⅠ"と連携ができる代物だ。変形しビーム照射を行わなくともトーカティブに大穴を開けるくらいは出来る。
閉所で巨体はいい的でしかない。逆にレッドキャップも機動力を活かした回避が困難だ。すぐさま腕が再生し撃ち抜かれるのも構わず突進してくるトーカティブにより横への逃げ場がない。
そのためレッドキャップはバックステップを繰り返す事でトーカティブの射撃を回避しつつ突進から逃れ続ける。
崩落のリスクを冒してでも最大火力を叩き込むか完全に逃げの一手を打てないのはここで今殺しておくべきだ、という考えとスノーホワイトが探す手がかりを生きて捕獲すべきだ、という二つの考えが頭の中にあった為だ。
あまり奥に行ってしまえば坑道が崩落を起こした時に本当に脱出が困難になる、そのラインに至る前に異変が起きた。
「んな!?」
背中にドン、と壁とぶつかる感覚。地平線の先ほどの距離を下がったわけではないのに突如壁が出現していた。オペレーターが居れば地形の変化に気づけたが、前方からトーカティブの圧力を受けていたレッドキャップには気付けなかった。
ドン、ドン、ドンと坑道内に爆音が反響するたび突っ込んでくるトーカティブに大穴が空くが構う事なく突っ込んでくる。
再びの渾身の殴打を今度は銃剣で受け止め切り裂く。
「「受け止めたな」」
「むぐっ!?」
正面から縦に切り裂かれた拳と腕が裂けたまま蠢きレッドキャップの頭を捉えた。
頭を包んだトーカティブの腕の変形部位が明滅を繰り返す。
「「これは賭けだったが、上手くいって良かった。覗き調べるという事は覗かれ調べられているということを理解していないマヌケが」」
特大の悪意と皮肉を込めて勝利を確信したトーカティブが喋り続ける。
「「お前の新たな名はクイーンが授けてくれる。お前はもう何も残らない。お前はお前を知る奴らを殺す尖兵となるのだ」」
トーカティブが手を離しレッドキャップが地面に着地する。
「「行け、新たなヘレティックとなる為に」」
おもむろにレッドキャップが弾倉を落とし、リロードした。
「「…………?」」
レッドキャップが動かない事にそしてリロードをした事にトーカティブが疑問を感じた瞬間、その体を至近距離からライフルが撃ち抜いた。胴体が弾けレッドキャップのポンチョを黒い返り血が濡らす。咄嗟に下がることも許さず足を砕き、頭を掴んで接射でトーカティブの体積を削り落とす。
「もうおしゃべりは終わりか? もっと喋ってくれると思ってたんだけどな、お喋りさん」
「「バカな」」
レッドキャップは誕生経緯からNIMPHが不活性化、機能を停止している。トーカティブが行った脳への直接的侵食コードの打ち込みも、NIMPHが沈黙していれば脳に届く道理は無い。
レッドキャップはこの事実を知らない。侵食コードを打ち込もうとして来ているのは分かったが、どういうわけか効かず目の前がピカピカ光って鬱陶しいのを我慢し、勝ち誇ったトーカティブが勝手に情報を出してくれるのを期待していたのだ。
しかしトーカティブもそこまで迂闊ではなかった。
「そのクイーンの場所はどこだ? 喋ったら楽に殺してやる。喋らなければ喋るまでお前の頭以外削ぎ落としながらスノーホワイトの所まで運んでやる。スノーホワイトがお前を探してるのは知ってるよな?」
「「や、やめ……ろ!」」
数度リロードをして撃ち抜き続け頭と胴の一部だけになったトーカティブが命乞いのような苦しそうな声色を出し、レッドキャップの手に噛みついて来た。あまりにか弱く腕に傷ひとつないが、レッドキャップは頭を蹴り付け口の牙を砕く。
そのか弱さもトーカティブの策だった。
「「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーー!!!」」
トーカティブが人語では理解できない叫びを上げた。
あたりが鳴動する。電線となっていたラプチャーが動き始め、坑道を支えていた構造体と融合し活動を開始する。
「コーリングシグナルか!?」
頭を掴んでレッドキャップが出口に向け駆け出す。この鳴動は坑道を支える役割を担っていたラプチャーが動き始めたことで天井を支えられなくなった空間が押し潰される前触れだ。
しかしトーカティブを拾い上げるワンアクションの手間が発生したことで走り出す初動が遅れた。
「「お荷物を抱えてここから逃げ切れるかな。試してみるといいお前の命で」」
「ちっ」
トーカティブを放り捨て、そのままライフルで撃ち抜こうとするが、構造体を放棄したラプチャー達が並んで盾となった。止まれば殺し切れるかもしれないと悩む間もなく天井が崩れ瓦礫の中にトーカティブやラプチャー達が消える。
ギリギリのところで崩落に巻き込まれず繋がった穴をよじ登って地上に飛び出す。他の建物が地盤沈下で倒れて来たのを避け大きな土煙が発生する。
土煙が収まりできた瓦礫の山の脇で大きく息を吐いた。慌てて出て来た為にあの坑道がどの向きに続いていたか、少なくとも海側ではないことしかわからなくなってしまった。
「くっそ、逃した」
その辺の石を蹴飛ばす。
「一旦離れるか」
トーカティブの叫び声で他のラプチャー達が集まってくる可能性が高い。この場を急いで離れてスノーホワイトにトーカティブに会った件などを話すべきだろうとレッドキャップは考えた。
「ん……? うわっ」
スノーホワイトに会いたい旨をメッセージで送り拠点に戻っているとどこかでエブラ粒子が薄まったのか送信と受信が行われ、途中送信になってたドロシーから鬼のようにメッセージが来ていてレッドキャップはビビった。
ドロシーにお詫びのメッセージを送りながら、不安にさせるようなメッセージは送らないようにしようとレッドキャップは固く誓った。
あと数日後に指揮官から前哨基地勤務になったとだけ連絡が来た。