あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
「変わりはないようだな……いや、フェイスアーマーが変わったか、レッドキャップ」
「あ、わかる? ちょっとぶっ壊れたから新調してね」
「体には気をつけたほうがいい。少し先に紅蓮が作った拠点がある。そこで話そう」
都市脱出後スノーホワイトと運良く連絡が取れたレッドキャップは無秩序に生えた竹林の小道で落ち合った。竹が綺麗に切られて作られた道はスノーホワイトによると紅蓮が作った拠点に通じる道らしい。
パイオニアの集合場所は今向かっている場所のように紅蓮が趣味を兼ねて各地でこさえている小さな拠点を使うことが多いらしいが、三人とも行動範囲が非常に広い為関係ない時に訪れるのは稀なようであった。
レッドキャップはといえば会いに来たついでに小脇に抱えているのは猪である。せっかくならスノーホワイトに美味しいものを食べてもらおうとお土産に生捕りにしてきたのだ。
「あれれ、お二人さん。こんな所にどうしたんだい?」
到着すると紅蓮がクワで畑を耕していた。竹藪を切り開いて作った道は竹の増殖ペースなら一雨降ってしまえば道が歩きにくくなる程度にはタケノコが生えてきていた筈で、それもなく通りやすいという事はまだ紅蓮がいて整備をしているという事であった。
「良いところに来たねえ、そろそろ酒もできる頃合いだ。一杯どうかね?」
「話が終わってからでも良い?」
「かまわんさ。あと、もう少しで耕すのも終わるから私も話に参加させてほしいね」
「わかった。中で待っている」
「じゃ、紅蓮が耕してる間にアタシは猪の解体してるかな?」
「ならあっちの井戸を使うと良い」
「ありがと」
小屋の中は簡素な作りで、土間しか無くテーブルや椅子が置かれ、壁際には謎の樽のようなものが鎮座している以外は特に何もない。椅子は紅蓮が作ったであろう竹製だが、ニケでも座れるようかなりしっかりと作られている。
スノーホワイトが座って待っていると紅蓮が先にやってきて、少ししてからレッドキャップもやってくる。
「本題に入ろう、人語を喋るラプチャー、トーカティブに接触したと聞いている」
「ああ、こんな感じのやつだが合ってるか?」
レッドキャップが念の為地面に棒を使ってトーカティブの姿を描く。
「トーカティブか。…………トーカティブか?」
確信した声が、疑問符の着いた声に変わると共にスノーホワイトは首を傾げた。曲がりくねった何か、大地を踏み締めてそうな何かが二本、触手か手なのかよくわからんのが二本、ギザギザの……口? に穴ボコみたいな書き込まれたブツブツ。喋るラプチャーという大前提でこの絵から推察できる要素は───二足歩行してそうだからトーカティブだろう。と判断した。
「連絡送った日にこいつに遭遇した。座標は△△△.✖️✖️✖️」
「ここしばらく奴が私の追跡を振り切っていたがそんな場所に逃れていたか」
「この絵残しておいたらこの一帯祟られそうだねえ……」
「なんであそこにいたか、アタシを狙ってたのか何か守ってたのかはわからない。事前にそこで作戦遂行してた指揮官がいたからそっち狙いだったのかも?」
紅蓮がレッドキャップが状況説明を始めた下でこっそり絵を消す。レッドキャップの渾身の絵は土間の土に還った。
「トーカティブは少なくともクイーンの場所に、ヘレティックの製造方法も知ってる。アタシに侵食コード打ち込んでどこかに行かせようとしてきた」
「侵食コードだと? 体は大丈夫なのか?」
「なんか大丈夫だった」
「まさかさっきの絵は……?」
「……その可能性もある。もしダメなら……私たちの手で終わらせよう」
二人が小さい声でしゃべった後レッドキャップの方に向き直った。
のんきな雰囲気を崩さないように気を付けながら紅蓮があきれたように肩をすくめた。が、少しだけ顔がこわばっている。
「なんか大丈夫ですませる問題じゃないよレッドキャップ……? お主があまり好まないのはわかっているけど面を取ってくれんか?」
レッドキャップが仮面を取って素顔を晒す。二人の様子に少し不安が混ざった顔をしていた。自分で大丈夫と思っていても周りから心配されると不安になるものである。
「質問をしていくが、答えながら鞘の先端を目で追ってくれ。名前は?」
「レッドキャップ」
「私達の名前をそれぞれ」
「スノーホワイトに紅蓮」
こんな簡単な質問から少し頭を使う質問を目で追いながら紅蓮の質問に答えていく。そうしてしばらく質問をしていて二人の表情が和らいで、質問の趣旨が変わった。
「最近あった恥ずかしい事は?」
「びっくりして滑って尻強打したこと」
「スリーサイズは?」
「それは知らないけど……この質問いるか?」
「いや、いらぬ。眼球運動と言語機能に不審なところは無いから問題はないようだ」
「ああ、私が見る限りも問題はない、が念の為アーク等で精密検査をしたほうが良いかもしれない」
という事はあの絵はレッドキャップの自前か、と二人は消されたあの絵の跡を見る。なんだったんだアレ。
「今アークに行くと面倒ごとになりそうなんだよな……ドロシーの所行くか?」
ドロシーの名前を聞いて二人が目を開いた。
「「…………大丈夫だったか(ね)?」」
「……………………………………………アタシがレッドキャップってわかってもらえなかったらやばかったかもしれない」
少し逡巡したあと、鬼メッセージや自分をレッドフードと信じて疑わなかったドロシーの姿を思い出してレッドキャップは遠い目をして、スノーホワイトと紅蓮も察した顔をした。
「ともかく、レッドキャップは検査をするんだ。私はお前からもらった情報を基にトーカティブをそちらの地域で探す」
「知り合いを介錯するのは何年生きても嫌なものだからね。そうならないよう願ってるよ」
「わかった。所で……二人も一緒に来ないか?」
レッドキャップの提案の意味をすぐに察し、二人は目を細める。寂しさと嬉しさが入り混じった目線だった。
「いや、私達は行けない」
「そうだね。レッドキャップ、私達の体や武器のことを考えてくれているんだろう?」
パイオニアの三人は100年前のアークガーディアン作戦以降まともな設備を使ったメンテナンスを受けていない。ラプンツェルやスノーホワイトの整備修理で体の動作に問題はないがあくまで現場対応であり性能の低下は免れられずにいた。
近接武器を扱う紅蓮や回復や妨害が主体のラプンツェルはまだしも、スノーホワイトは全状況対応武装セブンスドワーフは三種類が起動不能、最大火力であるセブンスドワーフⅠも威力が低下しているなど問題が積み上がっていた。
レッドキャップの吹き飛んだ手足を修復できたエデンの技術なら性能向上とは行かずとも本来の性能に戻す事は可能な筈である。
「やっぱりダメか?」
「ああ、私達は……パイオニアとして、ドロシーを待っている。ドロシーが戻ってきたなら喜んで私達はゴッデスになるし、ゴッデス隊長の命令なら、メンテナンスも受けるだろう」
「ここばかりは、意地か、後悔か、遠慮か、こちらから近寄っては、私らじゃなくあっちが耐えられなさそうと思ってるよ。あまり好ましくない言い方だが、君も見た目がレッドフードな以上遠ざけられたろう?」
「え? なんかうおおおアークに帰らせませんよ!! みたいな感じで襲われたけど……」
「んんんんん?」
紅蓮が目眩を覚えたようにふらついた。
「というかならそんな状態の相手に会いに行くのかい? 変なところで肝が据わってるね」
「多分大丈夫だけど検査しなきゃみんなが安心できないしな。そうだ別れる前にみんなで牡丹肉食べちゃおう」
「そこはレッドキャップの判断に任せるしか無いな。地上では自身の判断が全て……牡丹肉」
スッとスノーホワイトが立ち上がった。
「それは食べよう。レッドキャップの検査もトーカティブの追跡もある。飯は急げ、だ」
「涎垂れてるよ。ここで火を焚いたらラプチャーが集まって台無しになるから離れたところでやらんとね」
「じゃ、移動しよう」
小屋を出て竹や木材を抱えたスノーホワイトに捌いた猪肉を抱えたレッドキャップに紅蓮が頭のレーダーで周囲を警戒しながら移動していく。
「うーんこのまま行くとラプチャーにぶつかるね、左に避けていこう」
「紅蓮とかスノーホワイトとか見えないのによくラプチャーとか見つけたりできるよな」
「ん? 私はこの笠がレーダーの役割も兼ねてるからねぇ」
「私もレーダー機能がある」
二人がそれぞれ頭のアンテナと三度笠をつつく。
「え? アタシ無い」
「レッドフードには……確かあったな。頭についてた」
「あー、確かに頭についてた気がするね。でもレッドキャップはツルツルだね」
「なんか禿げてるみたいだからやめてくれその言い方」
レッドフードの頭にオオカミの耳のような意匠のパーツがあったのをレッドキャップは覚えているが、アレがどうやらレーダー機能を兼ねていたらしい。レッドキャップの頭には何もついていないが、そのおかげでポンチョでフード被りやすい。
「だがレッドキャップは目の機能が優れてるぞ。スコープがいらないレベルだ」
スノーホワイトがフォローを入れた。そのフォロー通り高いところに登って接近してきそうなラプチャーを片っ端から撃ち抜いて倒し、一時の周囲の安全を確保した三人は焚き火で猪肉を焼き、紅蓮の持ってきた蜂蜜酒と一緒に楽しんだ。
スノーホワイトが酒はノーセンキューだったので紅蓮とレッドキャップで乾杯して、紅蓮が速攻で酔っ払った。
酔った紅蓮が食べきれなかった分の肉は全部スノーホワイトが食べ、とても満足そうに息を吐くのを見てレッドキャップも酒に当てられ大笑いする。
そんなささやかな楽しい時間はすぐに終わる。
紅蓮は酔っ払いながらさっきの小屋へ、スノーホワイトはレッドキャップが渡した座標付近の探索へ、レッドキャップはエデンがある方面に向けまたそれぞれの道を歩み出すのだった。
レッドキャップは中に入る術は持ってないので迎えにきてくれるようイサベルにメッセージを送ったのだが、行ってみて待ってたのはドロシーであった。