あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
「トーカティブ、ですか」
「そうそう、喋るんだぜあのラプチャー」
「殴打されたようですが、自己修復でどうにかなる範囲内におさまっていますね」
セシルが検査を終えて結果を伝えてくる。
「飛び出して一ヶ月も経たずに戻ってきたのは驚きですが、トーカティブの事を伝えるためにですか?」
「あー、まあそんな感じ。あとはドロシーからすげーメッセージ来てたから一回安心させるために検査って口実で来てみたんだ」
セシルの後ろにいるドロシーの方を見る。至って冷静そうな感じである。と
「私としては、アークに無理に帰らずエデンを利用してくれるなら引き止める理由はありませんので……それにしてもあなたの攻撃で全身をほぼ失うような大損害を与えられてなお死なないラプチャー、ですか。ヘレティックを思わせる再生能力ですね」
それでもヘレティックに比べれば劣るであろう再生能力、消し飛ばせば問題はないでしょうが。と言いたげにドロシーが笑みを浮かべている。ちょっと怖い。
「ヨハンにも話しておいてくれないか?」
「直接話せば良いのではありませんか?」
「ドロシーはアタシが話したら納得してくれたけどヨハンは納得してくれなさそうだし……」
「そんな事はありませんよ。エデンは自主性を重んじる。あなたが今回のように検査に来るのならその対価としてエデンでお仕事をしてもらえればヨハンも納得する筈です。ですが今回は私が今話つけてきますよ」
ドロシーが笑顔で出て行った。
「ヨハン、ドロシーがそっちにいったわ」
セシルがヨハンに通信で警告を出しつつレッドキャップの方に向き直る。
「ドロシーに聞かれたくなかったようだけれど、どうしたの?」
「アタシの侵食検査ってできる?」
「スキャンをすればすぐですね。トーカティブに何かされましたか?」
「……侵食コードを頭に打ち込まれた。なんの影響もないけど一応調べたほうがいいって言われてな」
「……これは前回の検査の時あなたに伝えていませんでしたし、今回のことも考えて伝えておくべきでしょう。あなたの脳内に存在するNIMPHは不活性化しています。今あなたのNIMPHは外からの命令を受けつけませんし、あなたの脳に何かを書き込むこともしない」
セシルが目を細める。今のレッドキャップは何者にも縛られない。あるのはニケや人との繋がりと、レッドキャップの意思のみ。やろうと思えばレッドキャップはセシルの首を今すぐ捻じ切ることだってできる。
「いや、よかった。されてないと思ってたけど根拠がちゃんとあるのは大事だな。ありがとうセシル」
「調子に乗ってはいけませんよ。不活性化しているだけであってNIMPHそのものは脳内に存在しています。次も同じになるとは限りません。注意することです」
「わかったありがとう」
「それと、心配をかけまいと隠すのは良くないことだと思います。今回は目を瞑りますが、次は見逃しませんし、次の時は今回のと合わせドロシーがどう出るかわからないので」
「ハイ……気をつけます」
セシルの警告を聞いてラボから出てきたレッドキャップの前をヨハンが通りかかった。歩いてきたルートからしてドロシーお気に入りの場所から来たようだ。顔がゲンナリ不快感を隠さないでいたが、レッドキャップが目に入るとスッと表情を氷のように改める。
「あ、ヨハン、今日も世話になったし前も世話になったからなんかお礼に手伝いを」
「要らん」
「指揮されたことほぼないからうまくやれるかわからんけど〜ってえ?」
「要らんと言ってるんだ。だがこれはエデンへの貸しをお前が背負ってることには変わらん。お前が地上でどこをほっつき歩いていようがアークに居ようが事情は鑑みん。呼ばれたらすぐにエデンに来てこちらの手伝いをしろ。その限りお前がエデンに頼ろうがどうしようが干渉しない。こっちは忙しいんだもう行くぞ」
「えっあうん、元気でな!」
深く深くため息を吐いたヨハンを見送って、今度はドロシーの所に行く。
「ドロシーありがとうヨハン説得してくれて」
「いいえ、私は道理を説いたまでです」
ドロシーは微笑みを崩さない。
「以前あなたのことを考えすぎて取り乱してしまいましたが、もう大丈夫です。レッドキャップ、あなたは自由に動くべきだと思いますよ?」
「ありがとうドロシー。お礼じゃないけど、困った時アタシにできることがあれば言ってくれ」
「ふふ、ありがとうレッドキャップ。あなたにはあなたの翼があり、それは誰にも奪えません。ですが飛び疲れた時、戻ってくる場所はあるということを覚えておいてください」
話を続けながら、エデンの外縁部に二人は到達する。
「本当に、ありがとうなドロシー」
「いってらっしゃい、レッドキャップ」
ドロシーの微笑みに見送られレッドキャップはエデンを出た。
指揮官から前哨基地へ左遷となった、とメッセージが来る。
やりたいようにやる。ならばトーカティブのいる地域に向かうべきだ。未来に起きる悲劇の元を潰さねばならないのだから。
『エブラ粒子の浄化シーケンスを実行します!』
オペレーターのシフティーにより探査地域周辺のエブラ粒子が除去される。
『これよりカウンターズ、ワードレスの合同部隊によるラプチャー捕獲作戦を実行します』
「ふふ、よろしくお願いするわね」
「……」
「警戒しないでちょうだい? これはアークの研究所、つまりアーク中央政府公式の作戦よ」
そうは言われてもと言いたげなカウンターズの目線を受け流しながらミハラは指揮官に微笑んだ。指揮官は気にしないように、しかしミハラの腹部を見る。
「傷は大丈夫か?」
「ええ大丈夫よ。だから気にしないでもらえるかしら。その包帯は要らないわ」
「うん、ミハラは傷は好きだけど、他人に触られるのが嫌い」
「ええ、気持ちだけ受け取らせてもらうから」
包帯を巻こうとした指揮官の気持ちだけ受け取ったミハラが移動を開始し、ユニやカウンターズの面々もそれに従う。
「シフティー、今回の作戦はどうなっているの?」
『いえ、こちらの方で作戦の細部までは……地上で発見したラプチャーの捕獲を行うとしか……』
「その通りよ。ワードレスの任務はそういうものが多いの。見つけたラプチャーを捕まえ、持ち帰る。できれば珍しいのがいいわね」
その程度で前哨基地にミシリスのCEOがわざわざやってきて指名してくるわけはない。とカウンターズの面々は警戒を強める。しばらく進んでいるとユニが嬉しそうに駆け出した。
「あ、ミハラあったよ……ううん、変な足跡があるよミハラ」
「本当に? お手柄じゃないユニ」
「足跡って……なんでそんな原始的なもので……」
変な足跡を見つけたと騒ぐユニにアニスが肩をすくめた。しかし足跡を見るラピが怪訝な顔をした。
「確かに不審な足跡です指揮官。シフティー、周辺スキャンを」
『わかりました! ……スキャンに探知されたラプチャーはいません!』
「ならこの足跡の持ち主もかなり先にいる筈ね。追いましょう」
「フォーメーションは……」
「ワードレスはラプチャー捕獲の要なの。あなた達が先をいってくれると助かるのだけれど」
指揮官としても捕獲作戦の要なのは事実なのでカウンターズを先頭に移動を開始する。シフティーのオペレーションもあり問題なく探索を行えた。しかし地上らしくラプチャーの襲撃が発生し、指揮とカウンターズの奮闘でそれらを退ける。
「さっきのラプチャー達は捕まえないの?」
「あなた達の目的は?」
「目的も何も、わかっている事でしょう? 珍しいラプチャーを捕まえる。それがシュエンの求めていること」
「トー……」
「と?」
戦闘が終わり崩れたフォーメーションを立て直す間にラピが問いを投げかけた。答えるミハラに続け何か言おうとしたユニが自分で口を塞いだ。
「ユニ、よく我慢できたわね。移動したらご褒美をあげる」
「本当?」
ユニが嬉しそうにしている。
「ともかく、珍しいラプチャーを捕獲せずには帰れないわよ。オペレーターの作戦にもそう書いてあるでしょう?」
『ハイ! 最大三日を想定した作戦になっています!』
「だからあんなに物資持たせたのね……」
「もし帰るとしたら、私たちが全滅寸前になるとかアクシデントがあった時くらいね。指揮官もそうならないよう頑張りましょうね、
「赤い巡礼者?」
ミハラの言葉に指揮官は疑問を口にし、ラピが補足を入れる。
「アークのニケ達の間で噂になっている存在です。地上任務中に危機に陥ると何処からともなく赤いニケが現れ助けてくれる、というシンプルなものです」
「地上は危険でいっぱいだからね、そういう噂話も出るってものよ」
「つまりは実質的に怪談って事ですね!」
「助けてくれるのに怪談じゃおかしいでしょうが」
「ともかく、アクシデントに気をつけるという点に関しては同意です。進みましょう。指揮官」
「よし行こう」
アニスとネオンの漫才が始まりそうになったのをラピが切って収めた。
ラピを除いて赤い巡礼者の正体を知るものはこの場にはいなかった。
謎の珍しいラプチャーの痕跡を辿るもその日は成果が得られなかった。
「一旦休息しよう」
「ラジャー。デコイを設置してきます」
デコイを撒いて休息を取り二日目の探索を開始する。
「あっ、足跡が途切れたよ」
「いやな地形ですね。シフティー」
『スキャン範囲を拡大させます! …‥8時方向にラプチャー反応です!』
「狙撃よ!」
シフティーの警告にアニスの叫びと指揮官に向けてビームが地形を貫通するように放たれたのは同時だった。ユニが指揮官の感覚を切り倒れた指揮官の頭ぎりぎりをビームが掠め、地面を焼き焦がす。爆ぜた石の破片が指揮官の頬を切った。
「フォーメーションHO!」
ラピが指揮官を庇うように立ち、罠を張っていたラプチャー達を撃破する。
戦闘が終わりアニスがワードレスの二人に詰め寄った。
「あなた達本当に知らないの? こんな罠を張ってくるラプチャーの捕獲が目的で?」
「……罠にかかったことは認めるわ。でも私たちも知らないことばかりなの。珍しいラプチャーなのは確かでしょう?」
その後ろではラピが手袋を取り、指揮官の頬の止血をしている。
ドォン、と聞いたことがないような爆音が響く。誰かの悲鳴もだ。
「誰かが助けを求めてる」
「ええ、行きましょう」
『ですがラプチャーの反応はありません。ニケの反応が二機です』
「警戒して進みましょう」
地形に苦戦しながら、しかし迅速に発生源に向かうと多数の戦いの痕跡が残っていた。助けを求めたであろう人の姿はない。そこに居たのは二人のニケだった。
「逃げに徹されると厳しいな。私はこのまま追いかける。レッドキャップは?」
「アタシは一旦ここで。じゃまた。………遭遇しなかったしこれで大丈夫だろかな?」
遠目に白いニケと赤いニケが話をしていて、白いニケはそのまま走り去ってしまった。そして赤いニケにカウンターズの面々は見覚えがあった。やってきた面々を見てレッドキャップが微笑む。
「よう男前。怪我してないか?」
「レッ────」
指揮官が名前を呼ぼうとした瞬間、指揮官達の背後で爆発が起きた。振り返ったカウンターズが再びの奇襲か、と指揮官を守ろうと振り向き警戒態勢を取る。だがミハラもユニも振り向くことはない。カウンターズとワードレスが指揮官を挟んで見合う。
「アンタ達何を!」
『エブラ粒子の濃度急上しょう!? つうしんともにたりんぐがとぜ』
そしてシフティーと回線が切れるのと、ミハラの瞳からレッドキャップへ向け、青い光が放たれるのは同時だった。
ドロシー「先日、私の軽率な行動でしたがレッドキャップをエデンに縛り付けるのは得策ではありませんヨハンレッドキャップは自由に行動してこそ意味がありますあの子の翼を捥いでしまっては意味がないのです代わりにレッドキャップに恩を売ることが大切ですあの子の倫理観はアークのそれと一線を画します恩を受ければ必ず報いようとするでしょう怪我を直してもらったことや前回飛び出してしまった負い目がある以上ある程度の期間はエデンに滞在してくれることでしょうがそれを超えればそもそもエデンに二度と訪れない可能性も高いですいつ必要になるかわからない戦力を今から期間限定でとどめておく無意味さをあなたなら理解できるでしょうそれならばあなたがとるべき選択は見えているはずですほらレッドキャップもそろそろ部屋から出てくるでしょう出会い頭に話すのがあなたにはお似合いなんですから私を睨んでいないでそろそろラボの方へ向かった方がいいですよ」