あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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痛み

 すぐさまミハラは自身の腹を打ち抜いた。レッドキャップが腹部を抱えながら膝をつく。痛覚共有だ。ラプチャーを捉えるためワードレスのニケに仕込まれた特殊能力の一つ。

 

「ちょっとアンタ達何やってんの!!」

「これが本当の仕事なの、一度目で赤い巡礼者と遭遇できたのはとても運がいいわね」

「ただの赤いだけのニケでしょうが! あの子はエリシオンのニケよ!」

「いいえ、赤い巡礼者よ」

 

 アニスがミハラを止めようとするが、セーフティにより攻撃を仕掛けることができない。もう一度自傷を行い動けないようさらに痛覚を共有する。

 

「ぐあ……いやまぁ……ちょっとここまで考えてなかったアタシが悪かったな」

 

 レッドキャップが痛みを堪えながら逃げようとするのをユニが足の感覚を遮断し転倒させる。

 

「逃げちゃだめだよ」

「……ってあれだけデカい音出したらこうなるか」

 

 転倒して仰向けになったレッドキャップが銃を構える。向けているのは空だ。探知能力は低いが目視能力に関してはかなりの性能を誇るレッドキャップの目が遠くから接近してくる飛行大型ラプチャーを捉えた。腹部の痛みは堪える。

 スノーホワイトの対艦ライフルにエブラ粒子を拡散させる爆弾の音は地形により遠くの地上ラプチャーには届かなかったが、空にいたラプチャーには届いてしまっていた。

 ドン、と先ほどの爆音に匹敵する音を出して放たれた弾丸が空にいた大型ラプチャーの片翼を破損させ墜落させる。

 それを見てミハラに躊躇いが浮かび出る。

 

「見てるでしょ!? こんなことされてもあの子私たちを守ろうとしたのよ!? それに対して何やってんのよ!」

「指揮官これはどうすればっ!?」

「……ミシリスはエリシオンと戦争がしたいという事?」

「本当にその子がエリシオンのニケならね。でも私達には関係ないの。今、私たちが助けてもらったのだとしても………あるのはシュエンの命令が絶対という事だけ……ごめんなさいね」

「やらないと、ミハラと一緒に居られなくなっちゃう。そんなのは嫌」

 

 ネオンは狼狽えており、ワードレスにラピの脅しも通じない。失敗すれば鉄屑として処分されるからだ。

 

「今すぐやめるんだ」

 

 指揮官が止めるように命令を出すが、ミハラとユニは従わない。一介の指揮官の命令より三大企業CEOの命令の方が優先されることを前提としていたからだ。故に指揮官を頂点にしたカウンターズとワードレスの()()()()ではなく指揮官の管轄するカウンターズとミシリスCEO配下ワードレスの()()()()なのだ。

 突発的ではなく状況を整えてシュエンが計画している事が窺えた。

 

「指揮官。止めたいのですか?」

「……止めたい」

「私達はあくまでニケです。そしてアークの利益の為に存在していますが、指揮官が命令するならどんな命令でも従います」

 

 指揮官がラピの言葉に前を向く。

 

「ワードレスを止めてくれ」

「ラジャー」

 

 レッドキャップを捕縛しようとしていたユニにラピの放ったゴム弾が直撃し昏倒する。ユニが倒れるのを見て、ミハラはレッドキャップと感覚を共有するのをやめた。

 

『通信が回復しました……! 指揮官、状況を報告してください! 緊急事態につきそちらにメティスが向かっています!』

 

 レッドキャップは痛みが治ったのを確認するとミハラと昏倒したユニの方、そしてラピや指揮官の方を見てから姿を消した。

 

『これは一体……どういう』

 

 オペレーターのシフティーからわかることはラピがユニを撃った事、一体ニケが逃げた事だ。

 

 

「はーははは! ヒーローの到着だ!」

 

 数分も経たずに輸送機が接近し、メティスの三人がその場に到着する。

 

「突然通信が途絶えたみたいだが皆無事のようだな! ヒーローは危険を未然に防ぐものなのだ!」

「はいはい。ドレイク?」

「反応あり! 近くに大型ラプチャーがいるな!」

「ヒーローに任せろ!!」

 

 墜落していた大型ラプチャーにラプラス達がトドメを刺しに向かった。

 

 あまりの早さ、かつミシリス最強部隊のお出ましとあっては、少なくともコレに似た、レッドキャップを捕獲した状況になる想定でシュエンがいたのは間違いなかった。

 安全を完全に確保したラプラス達に護衛されカウンターズとワードレスの作戦は終わりを告げ、アークに戻るなり指揮官とラピは拘束された。ワードレスを撃つよう所属ニケに命令した事が問題視されたのだ。

 

{第一、友軍ニケへの発砲許可を出したこと}

{第二、未確認ニケの確保に失敗しアークの発展を妨害したこと}

{第三、ただし、その意図は未確認ニケを友軍と誤認したこと}

{上記の事実をもとに過去の事例を調査した結果、85%一致するケースが25件存在し、該当ケースは全て同じ判決が下されたことから、次のように判決を下します}

{判決、顛末書を作成し提出する}

{以上です} 

{続いて、発砲を行ったニケに対して判決を下します}

{第一、指揮官絶対命令遵守の法則に違反し、指揮官に教唆を行ったこと}

{第二、未確認ニケの確保に失敗しアークの発展を妨害したこと}

{第三、妨害によりアークの大事な財産を浪費させたこと}

{上記の事実を元に過去の事例を調査した結果、71%一致するケースが一件存在し、該当ケースはニケが破壊され判決が下されていないことから、指揮官絶対命令遵守の法則に違反したケースを参照し、再発防止の為、次のように判決を下します}

{判決、教唆を行ったカウンターズ、リーダーのニケ、ラピに対して、記憶消去を実施する}

{以上です}

 

「ラピはこちらの命令に従っただけだ。教唆などしていない。私の判断だ」

{抗議は却下します。客観的事実に基づいた判決です}

 

 抗議を行うも聞く耳を持たれず、前哨基地に放り出された指揮官が地面を叩く。

 

「ラピ……すまない、私が命令していなければ」

「違います指揮官。私の都合もありましたが、レッドキャップはエリシオンでもトップシークレットの存在、今のままではカウンターズや指揮官はシュエンに都合の良いように使われてしまいます。どうか後ろ盾として得るのに役立ててください」

 

 指揮官とラピがコマンドセンターに入るとアニスの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「なんで……どうしてくれるのよ!?」

「知らないわよ。そっちが勝手に撃ってきたんでしょ? 地上を彷徨うニケを確保解析するのはアークの発展に必要なの、文句を言われる筋合いはないわよ」

「アレはエリシオンのニケですよ!」

「へー、エリシオンのニケ。それならあのババアが何か言ってくるはずだけど? 何もないじゃない」

「ぐうの音も出ないんですがっ!!」

「……シュエン」

 

 そこへ指揮官とラピがやってきた。シュエンは怒気を孕んだ声に一切物怖じすることはなく、小馬鹿にしたような態度を崩さない。

 

「やっと来たわね、よくもこっちの邪魔をして。殺されてないだけ感謝しなさい? アレに逃げられたならまた出て捕まえるのを手伝ってもらうから。まぁ、あの鉄屑が記憶消去されるし、こっちも修理がいるし、使い物になるまで休養させてやっても良いわよ」

「従えない」

「良いのかしら? お前がいろいろ企ててるって事にして死刑にしてもらう事もできるけど? お前自分がどうなろうが気にしなさそうだけど、そこの人間ごっこしてる鉄屑共はどうする気かしら?」

「…………」

 

 己の不甲斐なさ拳を握り締め歯を食いしばる指揮官を尻目にシュエンは前哨基地を後にした。

 

「ラピ!」

「ラピ……!」

「ごめんアニス、新しく来る私と指揮官をお願い。ネオン、新しい私とも仲良くしてほしい」

 

 ラピと指揮官は二人で外に出た。前哨基地の空気は変わらないはずなのに、重く悲しいもののように感じられた。

 

「正直に言えば少し怖いです。悔しい思いもあります。バトルデータは残っているでしょうが……アニスもネオンも、指揮官のことも覚えていないでしょう」

「……私が絶対に忘れない」

「ありがとうございます。きっと指揮官を気にいると思いますから、新しい私をどうかよろしくお願いします。……どうか笑顔で見送ってください」

「わかった」

 

 ラピは握手をして、記憶消去の為アークへと向かっていった。無理して作った笑顔の指揮官はズキリ、と心が痛んだ。

 

『失礼します、指揮官。副司令官がお呼びです』

 

 シフティーを通じてアンダーソン副司令官から呼び出しがあったのは、その少し後だった。

 話した内容といえばラピが記憶消去をされる気持ちと、レッドキャップではなく、その隣にいた白いニケに関する話。そして白いニケが出没する北部調査を持ちかけられたことだ。

 

「ニケ探しをさせるんですか?」

 

 指揮官は自分の声とは思えないほど低い声が出たことに驚いた。それを聞くアンダーソンは微笑みを崩さない。

 

「キミには必要なことだ。副司令官としての命令は三大企業のCEOですら横槍を入れることはできない。君たちが破壊した発電所のある都市でも、作戦中に追跡していた特徴的な足跡が見つかっている。そしてその場に赤いニケはいた。北部に基本いると思われる白いニケもだ。偶然と思うか? 赤いニケと白いニケ、それが追う特殊なラプチャーの存在が浮き上がってくる」

「…………」

「君は以前言った。マリアンの件の犯人は誰か、と。私にもそれはわからないだが一つ言えることは内通者がいることだ。それを私は捕まえたい。侵食コードはアークにない技術だ。罠を張り発電所制御を指示する特殊ラプチャー。これが鍵だ。これを探す事が犯人を見つける近道のはずだ」

「わかりました……ですがその前にお願いがあります」

「何かな。長く話してしまってね、会議まであと五分だ。短い質問なら答えよう」

「エリシオンのCEOに会わせていただきたい」

「……会ってどうする?」

「後ろ盾になってもらいます」

「それを私に直接言うのはナンセンスだ。連絡だけはしておこう。決めるのはエリシオンのCEOだ。では下がりたまえ」

 

 アンダーソンは指揮官が退出した後の扉から天井へ目線を移し、ゆっくりと目を閉じた。祈りを捧げるように。

 部屋を出たあと指揮官はメッセージで一言、レッドキャップに向けメッセージを一言だけ書く。ラピとレッドキャップは知り合いだったようだから伝えねばならないと思ったのだ。

 

[ラピが記憶消去される事になった]

 

 次の日、そのメッセージには既読がつき、ラピの帰ってくる日にエリシオンCEOが前哨基地にくる旨がシフティーより伝達された。

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