あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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ウルフ

 レッドキャップは新たな名前を得てようやく安定した感覚を得た。が、鏡を見るといまだにグラグラと視界が揺れるような気がしていた。それがすぐに落ち着くものの、原因は今の自分の見た目に原因があると思った。そこで数日してから要望を出す事にした。

 

「ハサミを貸してほしい、ですか?」

「別に暴れようって訳じゃないんだ。ちょっと散髪をしたくてね」

「……わかりました」

 

 今のレッドキャップは検査と解析、情報統制と隠蔽の為この部屋に軟禁されている。三食バスルーム付きのホテルのようで不満はないし何か要望があるなら付き人のようになっている量産型ニケ、個体名はフートと言うらしい、が連絡を取り、おおよその要望は通る。

 今回のハサミを貸してくれという話も、より豪華になって返ってきた。

 

「えーと、ハサミ借りたかっただけなんだけど」

 

 頭に白い紙袋を被ったニケがハサミどころか理容道具一式を持ってやってきたからだ。

 

「お客様〜。散髪はニケの一大決心、テキトウに切っちまえば良いってもんじゃないんですよコレが」

「そうなのか?」

「不滅のニケにありがちな誤解ですねぇ。髪もまた体の一部、戦闘で引きちぎれても再生するように、適当に髪を切っても元に戻っちゃうんですよコレが。体の乗り換えでもするなら話は別ですけど、そういう時はイレギュラー化防止の為に同じ髪型にする事が重要なんです。つまり大体のニケはずーっと同じ髪型で過ごすんですよ」

「めちゃくちゃ早口」

 

 部屋にあった椅子に腰掛けたレッドキャップに散髪の準備をテキパキと進めながらそれ以上のペースで口が回っている。

 

「そこで私の出番なんですよ! ニケ専門理容師のババズが! まぁニケの髪切るのなんて数年に一度あるかですけど」

「だからなんかウキウキしてるのか……」

「そういうコトです。さっ、お客様の要望を伺いますよ! あ、テキトウなんて言ったら丸坊主かウチのCEOみたいな髪型にしても文句言わないでくださいよ。ヘアスタイルの要望が無いならどうなりたいか言ってくれればそれに沿ったヘアスタイルをこっちが選べますし!  赤裸々な秘密も記憶消去装置で万全です! ババズヘアサポートはお客様の秘密をしっかりお守りします!」

「あ、その紙袋みたいなのそういう役割が……」

 

 紙袋のようなものはどうやら記憶消去装置らしくNIMPHは便利だなとレッドキャップはつくづく思った。

 そもそも髪型を変えたい理由に自身のNIMPHに思考転換させられなかった部分を事細かに話す必要はないのでレッドキャップは話すことにした。

 

「まず誤解されたく無い事は、アタシは今の髪型が嫌な訳じゃ無い。むしろ好きなんだ」

「それはそうでしょう、ニケは量産型でなければ理想の姿に形作られます。だから私のニケ専門理容師としての仕事がほぼ無いんですけど……だからそれ以外の、変えたい理由をどんどん語ってほしいですね」

 

 シャンプーで頭を洗い始めたババズの指遣いに心地よさを覚えながらレッドキャップは思うことを口にする。

 

「アタシは狼じゃない、狼と間違えられちゃいけないんだ」

「何の比喩ですか?」

「まあえーと、この姿は大切なもので……アタシの好きなものだけど、アタシはそれそのものじゃない。なら体を変えればって思ったけど理由はないけどこの体を捨ててもきっとこの姿になるって確信がある。ならせめて髪型だけでも変えて間違えられないようにしたいと思ったんだ」

「あーありますねそういうの! 人なら双子とか、量産型ニケにも多い悩みと聞きます。ご要望はわかったのでカットしてきますね。シャンプー落としてから」

 

 レッドキャップの膝下まである髪を洗い終えたババズがやたらとハイテクそうなヘアクリップを何個もつけて、これまたハイテクそうな見た目のハサミを取り出し何かのスイッチを入れる。

 甲高い音が部屋の中に響いた。

 

「……何それ」

「高周波ハサミですね! ニケの髪を切るとなればこれくらいのものは必要ですから、うるさいと思ったら聴覚切って待っててくださいね!」

「わかったよ信じてるぞ床屋さん」

 

 耳元ですごいうるさいので言われた通り聴覚感覚を止めたところで肩の辺りから髪の毛をバッサリと切った感覚が頭に伝わってくる。大胆に行くなと他人行儀であるが、美的センスを信用して目を瞑る。

 広がる暗闇で思い返すのは検査やラピの事だった。

 

(私は今分隊に属していませんが……なぜそんな事を?)

(いや何となくな……変なこと聞いて悪かった)

 

 レッドキャップとしては今がいつなのか知りたかった。ラピがどこに属しているかでおおよそのタイミングが分かると思ったからだ。

 知る限りアークの価値観の中で自分が生きていけるとはレッドキャップは思わなかった。できる事ならあのお人好しの指揮官の庇護を受けたいと思っていた。

 そして自分の境遇として今、用済みになれば処分の可能性が高い事も。

 イングリッドの性格からすれば秘匿して切り札のように使ってもらえる可能性もあるが、そんな楽観視はできない。

 

(なら逃げるか?)

 

 どこに逃げるか、は浮かんでこない。地上に逃げれば良いのか、アウターリムに逃げれば良いのか、そもそもどうすればその双方に行けるかもわからない。

 

(今髪を切っているババズを人質に取って案内させる……いや、そんな事しちゃいけない)

 

 レッドキャップは思考転換を起こした時に倫理観を失わなかった事を少し悔やんだ。

 ぐるぐると思考が堂々巡りを繰り返していると。ポンポンと肩を叩かれ、聴覚を戻して目を開ける。

 

「どうですかお客さん?」

 目を開けるとババズが大きめの鏡を持って前に立っていたそれを見ればだいぶ印象の変わった姿が飛び込んでくる。

 トップにボリュームを残しつつレイヤーを入れたウルフカットであった。元の癖毛を上手く制御して纏めた髪型は孤高の狼のようなワイルドさと気品を兼ねている。

 

「やだ……これがアタシ?」

「お気に召したみたいでよかったです。狼じゃないって言うから狼を断つ! って感じでこの髪型にしたんですが正解でしたね」

「そんな一発ギャグみたいなノリでこんな綺麗にできんのスゲーな」

「もっとレイヤー短い方がいいとかあります? 調整するなら今のうちですよ? ニケの需要はないと言いましたけど、実は人の需要は予約で一杯なくらい忙しいんですよ。ここを逃すともう暫く無理ですよ?」

「あー大丈夫」

「はーい、じゃあお疲れ様でした」

 

 切った髪をババズが箒で掃いているのを背伸びしながら見ていたレッドキャップにフートが耳打ちをする。

 

「レッドキャップさん。散髪が終わったのでCEOの所へ向かってください。今回は私は付いていけないので道を間違えないようにお願いします」

「おう? わかった行くよ」

 

 部屋を出て少し複雑な廊下を巡った先にあるのが二度ほどエリシオンのCEOであるイングリッドと面会する部屋だった。いつもは門番のようにニケが立っていてドアを開けてくれたが、今日は誰もいないので自分でドアを開ける。中にはイングリッドが堂々と仁王立ちで待っていた。

 

「来たかレッドキャップ。随分と印象を変えてきたな」

「いい床屋さんがきてくれたんで助かりました」

「私が無理を言って来てもらった美容師だからな」

「そりゃどうも……ところで護衛は? CEOがこんな意味わからんニケと一対一じゃ危ないでしょ」

「本当に危険人物ならそんな事は言わん。つまらん話は終わりだ。単刀直入に言おうレッドキャップ、お前をエリシオン最新型ニケとして組織に編入する」

「……は!?」

 

 ポカンと少し間を置いてからレッドフードは驚いた声を上げた。

 

「そろそろ用済みだ、消えてもらうぞイレギュラーとかじゃなくて?」

「どこの馬鹿がそんな無駄な事をする。タクティカルに考えればお前を戦力として使うのは当然だ。だがその顔は問題だ。検査と一緒にこれも用意した」

 

 そう言って部屋の隅に置かれているアタッシュケースを指す。レッドキャップが開けてみれば中に入っていたのはフェイスアーマー、言い方を変えれば仮面だった。

 

「基本的にそれを着用しろ。つけてもお前の性能を損なわないようエリシオンの技術がふんだんに盛り込まれている」

「デザインが狼風なのは?」

「ラピの案をそのまま採用した。そのウルフカットにウルフのフェイスアーマーは滑稽かもしれんが我慢しろ。私からもそれに合わせて餞別だ」

 

 フェイスアーマーを装着し、その下に置いてある服を見る。エリシオン製の戦闘服と赤いフード付きのポンチョだった。

 

「お前が変形させたあの武器に最適化した装備だ。すぐに着替えろ」

「えっ恥ずかしい……」

「後ろを向いているから早く着替えろ」

 

 仁王立のまま壁の方を見ているイングリッドを横目に検査着を脱いで戦闘服を身に纏う。服や靴の固定をベルトでしっかり行い、最後にポンチョを着てボディハーネスとつなげ、フードを被る。

 

「似合ってるようだな」

「いやんいつから見てたんですかエッチ!」

「ここ最近余裕が出て来たのかふざけ始めたなレッドキャップ? それはいい、まずお前は表向き、エリシオン第九世代型ニケFT-001RC、個体名"レッドキャップ"だ間違えるなよ」

 

 ため息を吐いてからイングリッドがそう告げる。レッドキャップは頷いた。

 

「そろそろ時間だ」

「……何の?」

 

 ドアが開かれる。

 

「失礼します。アブソルート分隊到着しました」

 

 仮面越しにレッドキャップと目が合ったのは黒髪のニケ、ウンファだった。続いてエマが笑顔で、最後にベスティーが入って来てレッドキャップを見て小さくびくりとした。

 

「よく来てくれた。では諸君、これより新型ニケレッドキャップの実地性能試験を開始する!」

 

 アブソルートが乱れる事なく敬礼する。

 三人と一人をキョロキョロと見て、レッドキャップも遅れて敬礼した。

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