あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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ドラゴンバスター

「やる気かテメエ!」

 

 空を飛行していたニヒリスターは自身を追跡するイサベルの存在に気がついていたが、急速に接近してきた瞬間ラプチャー外装を纏い大型化した。空中での機動性はかなり落ちるが代わりにイサベルの攻撃力では突破しきれない壁を得ることもできる。ナノマシンの復旧がイサベル単機による損害を上回るのだ。

 それでもニヒリスターの気性ゆえに無視して飛び去る事はせず進路を反転させイサベルに向け火炎を吐く。

 太陽の如く輝く炎が辺りを照らす。しかし空中戦に特化したニケであるイサベルを捉えられるほど空対空ではあまり効力を発揮しない。

 推進装置や浮遊装置と思われる部位を徹底的に攻撃しているが質量差は如何ともし難い。しかし挑発行為としては上手くいっているようでニヒリスターの声に苛立ちが混ざってきている。

 

「この辺にお前らの大事なエデンが有るってことかよ? ズタズタに焼き尽くしてやるから覚悟しとけよオラァ!」

「ノア、熱線は完全防御。一片たりとも後ろへ逸らすな」

「了解指揮官!」

 

 イサベルの挑発で有る程度誘引されたニヒリスターに地上からヨハン達が攻撃を開始した。ニヒリスターは地上からでは威力が減衰する程度に距離を取ったままドラゴンヘッドが火炎を吐き出す。上空から撃ち下ろす事で半端な遮蔽物は意味をなさず全てを焼き尽くす。

 その灼熱地獄の流れを堰き止めたのはノアの防壁だ。ノアの立つ位置からまるで見えない堤防が存在するように()()()()()()押し留められる。

 

「面白え! 力比べってか!? チッ!」

 

 出力を高めようとしたニヒリスターが片方のドラゴンヘッドからの放射をやめ口を閉じた。閉じた瞬間にイサベルの銃撃が弾痕を生み出し、すぐ修復される。

 

「うざってえ!」

「隙ありと思いましたが」

 

 バルカンなどでイサベルを寄せ付けないよう弾幕を張る。イサベルの速度に追いつくには外装を取り払う必要があるがそれをしては防御力が低下する。

 そこでニヒリスターは違和感を感じ取る。三度の交戦との違いを。それを確かめる為に再度火炎を吐き出し、疑いは確信に変わった。

 先ほどと同じように火炎の全てを堰き止めるように防いだのだ。そして今まで交戦した時、ノアが火炎を逸らすように防いでいたのだ。つまり、後ろに何かがある。

 

『指揮官! 流石にコレ何回もやってたら限界くるって!』

『向こうがこれに気付かないほど阿呆ならこちらの作戦ミスだ。それまで耐えろ』

『いいえ、動くようです』

『かかったわね』

『レッドキャップ、チャージ開始』

『わかった!』

 

 空を飛ぶニヒリスターがイサベルや地上からの攻撃を無視し前進を開始する。多少の損害を無視できるとはいえインヘルトの有効射程距離にわざわざ入る危険を冒す価値を感じ取ったのだ。

 インヘルトからの攻撃が苛烈になるがそれに答えるようにニヒリスターが放つ攻撃量が爆増する。機動力ではどうにもならないほどの隙間のない対空砲火に被弾し、イサベルがバランスを崩して追撃を止める。

 

「その後ろ! 何かあるな!」

 

 インヘルト達の頭上を超え何もないように見える地上に向け、ニヒリスターが火炎を吐く溜め動作をした。

 

『アンカーミサイル発射』

 

 ヨハンの指示にセシルが応える。ノアの後ろ、地上の瓦礫に隠されていた複数の垂直ミサイルの発射台が口を開き噴射炎と煙を巻き上げながら発射。派手な軌跡を描きながら加速していく。

 

「カラス達!」

 

 ミサイルを迎撃しようとする弾幕を機械カラス達が防ぎミサイルが強行突破。加速し続ける複数発のミサイルは巨大な竜の尻のあたりに直撃した。しかし爆発はしない。

 何かしらの策が失敗したと思ったニヒリスターは更に加速し火炎を吐こうとする。

 

「テメェらが大切にしてるモンは消し炭にしてや────」

 

 ニヒリスターの言葉は続かなかった。不発弾だった訳ではない。ニヒリスターは発射直前に突如の急減速をかけられ後ろから巨人にでも掴まれたかのように空中で静止した。

 そして理解する。自身の外装に突き刺さったミサイルから大量のワイヤーが伸び、地上と繋がっていた。

 地上に引き摺り下ろす為のものではない。繋がった構造物にワイヤーを巻き取る機能は無い。ただそのワイヤーは垂直ミサイルの発射台の地下空間の基礎と接続され、ニヒリスターと地上の張力にワイヤーが破断する僅かな時間、ニヒリスターの動きが静止する。

 なりふり構わず何もないように見える()()()()()()()()()に向け火を吐く。地平線まで焼き尽くす業火は何もとらえない。大きな構造物があるなら発生する火の流れすら起きず、ニヒリスターはブラフに気付き怒りの咆哮をあげる。

 そしてそのニヒリスターをレッドキャップの目はとらえ続けていた。

 

『撃て。レッドキャップ』

 

 ヨハンの言葉に引き金を引いた瞬間、レッドキャップの姿が現れる。強力な熱源、ウルフスベインを納めた銃座の冷却装置が限界稼働した為光学迷彩のエネルギーを賄いきれなくなったのだ。それでもなお排熱が追いつかずセーフティとして作られた循環式や水の気化熱を利用する単純なモノまで全て稼働する。

 熱で気化した水蒸気が周囲の気温で結露し湯気となり、そしてその湯気をすぐさま飛ばす熱量を撒き散らしながらビームが解き放たれた。

 大気を切り裂き稲妻のようにドラゴンヘッドの側頭部に着弾。外装を焼き焦がす。

 以前インディビリアに直撃した時のように装甲が融解して爆発しなかったことにレッドキャップは眉を顰める。

 

「ぐおおおおおお!?」

 

 突然の大出力のエネルギー攻撃にニヒリスターが驚愕の表情を浮かべる。どうにか逃れようとするが、上空にいる為遮蔽物も無くビーム攻撃を逸らす手段も持ち合わせていない。

 

『このままニヒリスターを殺し切る。フォーメーションF・A』

 

 ヨハンの言葉と共にノアを先頭に置いた防御型のフォーメーションから、左右に広がり攻撃的に変化する。

 レッドキャップの砲撃との三次元的な十字砲火に移行、下からも攻撃が加えられ高度を下げることさえ許されない。仮にこの状況で下げればインヘルトの餌食になるだろう。

 だがニヒリスターにとって幸運だったことは自身が火炎を吐く都合上熱エネルギーに対する高い耐性を備えていた事。レッドキャップの攻撃自体が強力すぎる事とブレが発生する事、その誤射を防ぎつつ詰める為インヘルトの面々の配置に偏りが生じた事。

 そしてそこからニヒリスターが離脱の判断を下すのが迅速だった事だ。

 攻撃が直撃したドラゴンヘッドを機能停止させ自切する。これがあと少しでも遅ければナノマシン同士がエネルギー負荷を分散させようとして着弾点周囲へ蓄積、最終的には全体の負荷が飽和し活動不能に陥っていただろう。

 その頭を盾にしながら進路を急転換、繋がったワイヤーを引きちぎりながら推進器を全開にし、レッドキャップに向けなりふり構わない突進を敢行する。残った頭が溶け落ちかければ腕を切断しそれを盾とし、飛び散る火花が真昼の花火のように地上に降り注ぐ。

 

「ふざけやがって……テメェだけは潰してやるよ!!」

 

 溶け砕けながらも邁進するニヒリスターを正面に捉えたままレッドキャップは攻撃を続けていた。このままでは赤雷がニヒリスターを殺し切る前に確実にレッドキャップは大質量に轢き潰される可能性が高い。しかし相打ち覚悟で照射を続ければ確実にインヘルトが討ち取れる可能性もまた高いと感じていた。

 そうすればどうなるか? 以前のように手足がもげるだけで済むか、死んだレッドキャップ自身の姿が思い浮かんだ。

 それくらいでやめられるかとフェイスアーマーの内側で歯を食いしばり覚悟を決め。

 

『レッドキャップ!!』

 

 ドロシーの通信ごしの叫びが届く。レッドキャップの脳裏で、死んだ自分ではなく、怪我した自分を見て悲しむドロシーの顔が浮かんだ。

 

「っ! 強制解除!」

 

 照射をやめ銃座とウルフスベインの接続が弾ける様に強制的に切り離される。そのままタイミングを見計らって脚力による大跳躍でニヒリスターの突進を上空に躱した。

 残された銃座やそれにエネルギーを供給していた発電装置が破損し、一部が空に吹っ飛びながら爆発を起こす。

 

「厄介な兵器は潰させてもらったが……次はテメェらがそうなるんだよ! 震えて待ってやがれクソ屑共が!!」

 

 ニヒリスターは地面を抉った巨体から抜け出し、悪態を吐きながらそのまま空を飛び逃げ去ってしまった。銃座を操作していたニケには躱されたがニヒリスターもまさか銃座ではなく使ってるニケが攻撃の要であるとは思っていなかったのである。

 

『光学レーダーからもニヒリスターがロストしました』

『状況を終了する。各員損害報告』

『飛行装置の一部を破損しましたが問題ありません。レッドキャップも……問題ないようですね』

 

 風切り音と共にやってきた上空をイサベルが周回している。

 

『最強の盾は損害なし!』

『カラス達を多数損失したわね』

 

 ニヒリスターの消えていった空を見ながらレッドキャップはポンチョごしに頭を掻いた。

 

「アタシは、あー、怪我なし。一緒にあった銃座とか光学迷彩とかが全部潰れて吹っ飛んだくらい」

『レッドキャップ、引き際を見誤り掛けたな? 撤退のタイミングは自身の経験と知識、判断力がモノを言う。今回のを糧にしろ。それとアレと交換で損失していいほどお前は安上がりではない事をしっかりと自覚しろ』

「了解……アレ? ドロシーは?」

『……』『……』『……』『……』

 

 さっきの叫び以降損害報告でも無線で声を聞いていない気がしたので無線に投げかけてみるがなぜか沈黙された。

 

「私ならここにいますよ。レッドキャップ」

 

 声のする方を見ると、ふわりと着地する拡張武装を解除したドロシーの姿がそこにあった、

 

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